Digital Commerce 360[転載元] 2023/6/22 8:00

サブスクリプションサービスを展開する事業者にとって、継続率の向上は重要な課題です。犬用のグッズや食品をサブスクリプションで販売するBarkは、長期にわたって継続購入してもらうため、アップセルやクロスセルの施策を模索しています。顧客とのコミュニケーション、効果的なマーケティングを検証する方法などから、Barkの成功事例を解説します。

記事のポイント
  • Barkは、犬向けの歯みがきおやつ「Durable Dental Chew」の発売にあたり、2023年1月に2種類のEメールキャンペーンをテスト。それぞれ16%と30%、コンバージョンアップを実現
  • Barkは、2022年7月にSMSを開始。テキストメッセージを受信している顧客は17万5000人となっており、この人数は四半期ごとに35%ずつ増加している

アップセル、クロスセルにつながる顧客コミュニケーションに課題

Barkのエド・ワロガ氏(ライフサイクルマーケティングおよびEコマース担当副社長)は「顧客を長期的に維持する方法を試すと同時に、定期購入ボックスを注文する顧客向けには、さらに商品を追加するように促している」と話します。

これまで、「顧客1人ひとりのニーズに応えられるようなコミュニケーションを効率的に行う必要がある」という課題がありました。

Bark ライフサイクルマーケティング Eコマース担当副社長 エド・ワロガ氏
Bark ライフサイクルマーケティング Eコマース担当副社長 エド・ワロガ氏

Barkは、犬用のおもちゃとおやつをそれぞれ2個ずつ同梱して毎月届ける「Bark Box」事業を、2012年に開始しました。2020年には、犬のおもちゃとおやつ以外にデンタル商品を提供するなど、商品を年々拡大しています。

Barkのサブスクリプションサービス「Bark Box」(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)
Barkのサブスクリプションサービス「Bark Box」(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)

アップセルとクロスセルを増やすために、消費者へのマーケティングは何が最適かを検討するため、米国のソフトウェア開発事業者Simonが提供するマーケティングツール「Simon Data」を導入しました。「Simon Data」によって、比較テストを検証し、マーケティングキャンペーンの効果を確認することができるようになりました。

平均受注額向上を実現した施策とは

2022年度第4四半期(2023年1-3月期)にBarkの平均受注額は2ドル増加しました。「アップセルとクロスセルの成功がこの増加分に貢献した」とワロガ氏は言います。

アップセル、クロスセルの大きな要因は、犬用のデンタルケアグッズ「Bark Bright」のコンバージョンを向上させることができたことがあげられます。「Bark Bright」は、犬の歯のケアのための歯磨き粉やおやつといった商品です。(ワロガ氏)

Barkが展開する犬用のデンタルケアグッズ「Bark Bright」(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)
Barkが展開する犬用のデンタルケアグッズ「Bark Bright」(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)

サブスクリプション販売を展開する事業者にとって、顧客の生涯価値(LTV)を維持・構築することは重要です。Barkはどのように継続率を伸ばし、平均受注額のアップを実現したのか。具体策を見ていきましょう。

顧客グループで異なる反応、だからこそ「A/Bテスト」による検証は重要

Barkは2023年1月、「Bark Bright」がラインアップする商品の1つである犬向けの歯みがきおやつ「Durable Dental Chew」の発売に向けて、2種類のEメールキャンペーンをテストしました。

Barkのコアサービスである「Bark Box」を定期的に購入している顧客層に商品案内のメールを配信。同時に、「Super Chewers(スーパーチューワー)」と呼ばれる丈夫な犬用のおもちゃを定期的に購入している顧客にもメールを配信しました。

A/Bテストは「各グループで数十万人、 50:50の割合で均等にテストした」(ワロガ氏)と言います。

より丈夫な犬用のおもちゃを定期的に購入している顧客「Super Chewers」向けのサイトページ(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)
より丈夫な犬用のおもちゃを定期的に購入している顧客「Super Chewers」向けのサイトページ(画像は編集部がBarkのサイトからキャプチャ)

A/Bテストは別名で「スプリットテスト」とも呼ばれ、顧客の一定割合を対象に2種類のメールキャンペーンを実施し、どちらがより多くの開封やクリックを得られるかを検証することができるテストです。また、画像や文言を変えてテストし、反応が良い方を比較することもできます。

A/Bテストの結果、「Bark Box」の顧客は単体での告知に反応しやすいことがわかりました。また、単体告知のコンバージョン率は、「Super Chewers」購入客よりも「Bark Box」購買者の方が16ポイント高かったのです。

一方、「Super Chewers」の顧客は、商品のコレクション(ラインアップ)を強調したマーケティングに反応する傾向がありました。コレクション告知の場合、このコンバージョン率は「Bark Box」購入客よりも30ポイント高くなりました。

これは意外な結果でしたが、だからこそこういったテストをして顧客の反応を確かめる必要があるのです。(ワロガ氏)

「Super Chewers」は、ほかの顧客よりも特殊な商品を購入しているため、新商品と、従来購入している丈夫な犬用のおもちゃを比べているからこその結果であるとBarkは考えています。

SMSによる通知は販促だと感じにくい

ワロガ氏によると、「Bark Box」を利用する顧客は毎月200万人にのぼると言います。Barkは毎月送付する「Bark Box」に追加で同封できる商品を顧客に案内しています。案内方法には、SMSでプッシュ通知を送ることも含まれています。

プッシュ通知を積極的に行っています。SMSは、熱心な顧客とコミュニケーションできる機会だと捉えています。顧客接点にSMSを活用すれば、顧客は企業からの販促通知のように感じることはありません。(ワロガ氏)

Barkは「Simon Data」を利用して、2022年7月に顧客向けのSMSを開始しました。現在、テキストメッセージの受信をオプトインしているユーザーは17万5000人。Barkによれば、この人数は四半期ごとに平均35%ずつ増加しているそうです。

SMSを受信する人の数は堅調に増加している
SMSを受信する人の数は堅調に増加している

顧客がBarkのSMSに返信した場合はBarkの社員が対応します。カスタマーケアチームが直接やりとりをしています。(ワロガ氏)

SMSの登録者には、商品の在庫状況などのお知らせが届きます。そのなかには、発送前に「Bark Box」に追加できる限定おやつやフード用トッピング、おもちゃに関する案内も含まれています。

また、顧客はSMSを通じて、注文した商品の出荷確認やアカウントの更新なども通知で受けとることができます。また、顧客にはメキシコのお祝い「シンコ・デ・マヨ」や、毎年5月4日の「スター・ウォーズの日」など、タイムリーなメッセージも配信します。

最も顧客の反応が大きかったSMSテキストの1つは、顧客に「次の『Bark Box』に商品を追加できるのは、今から24時間以内」だと知らせた内容だったそうです。

アプリ経由の顧客エンゲージメントも

また、Barkはアプリを使って消費者とエンゲージすることに取り組んでいます。

Barkのアプリから直接、通知するというテストをしたいと思っています。顧客の大半は、スマホなどのデジタルデバイスでBarkのアプリを活用しています。(ワロガ氏)

デジタルマーケの中核はメール

ワロガ氏によると、Barkのサブスクリプションサービスを利用する顧客は通常、6か月または12か月のいずれかで購買期間を選択するそうです。Barkはデータを精査し、どの顧客が最も離脱の危険性が高いかを特定すると言います。

Barkを改めて想起させるために、離脱しそうな顧客に対してメールでのコミュニケーションを展開しています。(ワロガ氏)

このようなメールには、購入履歴やお気に入り商品も記載するそうです。また、パーソナライズしたメッセージの内容に加え、インセンティブを付けることもあります。「これにより、Barkは定期購入の更新率を好調に保つことができている」とワロガ氏は言います。

Barkのデジタルマーケティングツールの中核をなすのは、やはりEメールです。

Eメールは、顧客に向けたマーケティングテストの繰り返しを最も早く行うことができる方法の1つです。メールのため、告知するためのスペースにも少し余裕があります。しかし、販促チャネルとしてEメールだけが優れているわけではありません。(ワロガ氏)

きちんとパーソナライズされたコミュニケーションは、顧客のロイヤルティを高めます。Barkが試したテストのなかには、ロイヤルティの向上に焦点を当て、Barkのブランド価値を顧客に再認識させる狙いを持つものもありました。

「的を絞った、パーソナライズした会話を心がければ、顧客は反応を示してくれる」とワロガ氏は言います。

北米ECトップ1000社では、サブスク実施企業は減少傾向

米国のEC専門紙『Digital Commerce 360』発行の「北米EC事業 トップ1000社データベース」にランクインしている小売事業者のうち、2022年にサブスクリプションサービスを提供したのは5.6%でした。この数字は2021年の6.5%から減少しています。

ただし、この割合はカテゴリーによって異なります。トップ1000社のうち、食品・飲料小売カテゴリーの事業者は、36.1%が2022年にサブスクリプションモデルを導入。前年の27.8%から増加しています。

また、健康・美容カテゴリーの小売事業者は28%が2022年にサブスクリプションを導入。Barkのような専門小売事業者は10.1%でした。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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