森川 亮[執筆] 8:00

動画配信で「投げ銭」をもらう日本のインフルエンサー。そうではなく、「モノを売る」に特化しているインフルエンサー(特に、動画配信者)がいま、世界各国で台頭しています。2025年以降は、日本にもその波が来る可能性が高いのです。その理由は、2025年は「TikTok」がついに日本でもライブコマースを開始すると言われている年だから。モノを売ることができるインフルエンサーはいま、どのように活躍しており、日本企業が近い将来にモノを売るインフルエンサーを活用するときは、どのような点に気を配れば良いかを詳しく解説します。

C Channel 代表取締役社長 森川 亮 氏
C Channel 代表取締役社長 森川 亮 氏

動画コマースで「売れる」インフルエンサーのルーツ

中国国内で徐々に浸透

「売れる」インフルエンサー、と聞いてどのようなイメージをお持ちですか。

まず最も有名なのが中国のライブコマースですね。中国のライブコマースは、2016年、アリババグループが運営するECモール「淘宝(タオバオ)」内で「Taobao Live (タオバオライブ)」をスタートしたことから始まりました。

きっかけはテレビショッピングの流れだと想像できますが、動画配信が注目を集めるようになった時代の潮流からも、必然的に始まり、世の中に広まったのだと思います。

しかし、「タオバオライブ」は当初はうまくいかなかったそうです。動画をただ観るだけではなく、そこからさらに物を買うという行為は生活習慣に影響を与えるため、消費者心理ではハードルがあったのでしょう。

中国のライブコマースはエンターテイメント性やユーザーとのコミュニケーションなどの機能面などが優れており、徐々に浸透していきました。売り上げの成果が出るようになったのは、2018年の「独身の日(ダブルイレブン)」あたりから結果が出るようになったそうです。「独身の日」は、ご存じの方が多い通り、毎年11月11日に実施される中国の大規模ECセールです。

2016年以降、インフルエンサーによるライブコマースが拡大してきた
2016年以降、インフルエンサーによるライブコマースが拡大してきた

中国EC市場の20%を占める規模に成長

ライブコマースが中国国内で一般的になると、「タオバオ」以外でもライブコマースを配信できるプラットフォームの運用を始める事業者が増えていきました。たとえば、ByteDanceが運用する「抖音(Doyin)」、快手科技が運用する「快手(Kuaishou)」など。SNSプラットフォームとECプラットフォームが融合し、現在の中国ではEC市場200兆円のうち20%がソーシャルコマースの市場と言われるまでになりました。

日本を除くアジア圏でライブコマースが急激に拡大

この動きは中国だけでなく、ByteDanceがグローバル向けに展開する「TikTok」の広がりとともに、アジア全域にライブコマースが広がっています。ただし、日本はその動きに遅れをとっています

インドネシアやベトナムでもライブコマースが急拡大しています。インドネシアのIT大手GoTo(ゴートゥー)傘下で、ECプラットフォーム「トコペディア」を運営するEC事業者Tokopedia(トコペディア)の経営権をByteDanceが獲得し、ByteDanceは勢いを増しています。

また、台湾や韓国でも既存のEC企業がライブコマース市場にどんどん参画しています。

国内ライブコマース市場の課題

2025年は「ライブコマース元年」

一方で日本はどうでしょう? 「楽天市場」「Amazon.co.jp」「Yahoo!ショッピング」など既存の大手ECプラットフォームは、出店店舗によるライブコマースの運用はあまり積極的ではありません。ライブコマースに挑戦したプラットフォーム運営事業者はいくつもありましたが、結果が出ずに撤退してしまったケースがほとんどです。

ただ、eBay Japanが運営する「Qoo10」では1日にライブコマース経由で1日に数億円売れるケースもあるため、日本でもライブコマース市場拡大の可能性はあります。特に2025年は、「TikTok」がついに日本でもライブコマースを開始すると言われている年ですから、ますます期待できると見ています。

日本市場の主流は「投げ銭」

ライブコマース市場の拡大にあたり、現在の日本で課題となっている点は、①ライブ配信に慣れているインフルエンサーが少ない ②オフライン流通が強いためセールを実施するのが難しい――という2点だと考えています。

ライブ配信については、日本でも「TikTok」、17LIVEが運営しているライブ配信アプリ「17Live」でもライブ配信をしているライバーさんはいるものの、まだまだ「投げ銭」領域が中心で、物を買ってもらうというよりは、自分のファンになってくれた異性に「投げ銭」で自分を応援してもらうケースが多いようです。

日本のインフルエンサーによる動画配信は、モノを売るコマースというよりは、インフルエンサー本人を応援する「投げ銭」が視聴者から集まることがほとんど
日本のインフルエンサーによる動画配信は、モノを売るコマースというよりは、インフルエンサー本人を応援する「投げ銭」が視聴者から集まることがほとんど

異性だけでなく同性の視聴者にも好かれ、かつ、物を買ってもらうというライバーの在り方は、日本ではまだあまり受け入れられておらず、ライバー、視聴者ともに抵抗があるようです。このことは、アフィリエイト広告の協力をしたくないと考えるインフルエンサーがいることに似ています。

モノを売るインフルエンサーの拡大が期待

ただ、世界的にはインフルエンサーがアフィリエイターに転換する事例が多いため、日本でも早晩、モノを売るインフルエンサー、ライブ配信者が増えていくでしょう。アジアで現在、ライブコマースの人気がないのは日本だけと言っても過言ではありません。日本にもようやく波が来て、ここ数年間のトレンドになると考えています。

失敗しないインフルエンサーマーケティングのコツ

事業者が実際にインフルエンサーマーケティングに取り組んだ際、失敗しないための方法をお伝えします。

よくある失敗は、フォロワー数の多さでインフルエンサーを決めてしまうケース。確認して欲しいのは、そもそもそのフォロワーがアクティブかどうか。偽フォロワーを買っているケースもあります。フォロワーの数の多さだけを見てインフルエンサーを決めるのは非常に危険です。

その上で、起用しようとしているインフルエンサーのフォロワーが自社の商品にマッチしているかに着目してください。まず、メインのフォロワー層が男性か女性か、そして日本人か外国人かで選別します。データはインフルエンサー本人、または広告代理店がデータを保有しています。データを確認できない場合はかなり慎重になったほうが良いでしょう。

インフルエンサーの投稿内容が自社に合っているかどうか、広告効果が期待できそうかどうかもポイントです。自社のブランドイメージと合わないケースもありますが、広告効果が期待できそうな場合は、売り上げにつながりやすいため、そのインフルエンサーの活用をおすすめします。

インフルエンサーごとに訴求の仕方やフォロワーの特性は異なることを理解し、特長を生かすことがポイントになる
インフルエンサーごとに訴求の仕方やフォロワーの特性は異なることを理解し、特長を生かすことがポイントになる

たとえば、動画にふんだんに文字を入れた投稿をしていて、「いいね」が多い場合は、一般的に高い広告効果が期待できます

逆に、「いいね」が少なくてもブランドイメージに合う投稿が多い場合、広告やECサイトのUGCとして活用するという手が考えられます。

インフルエンサーを自社のファンにする

大事なのは商品が売れるかどうか。過去の投稿を参考にして、過去実績を聞けるとベターです。起用後は、継続的に購入してくれる顧客を集められているか、インフルエンサー経由で獲得した顧客のLTVが長いかどうかもチェックしましょう。

中国は「モノを売れる」インフルエンサーの領域が進んでいて、たくさん売る人は1日でなんと数百億円売る人もいます。中国のインフルエンサーは、多くの人気を集めるというよりは「商品を売る」という前提で仕事をしている方も多いです。

中国でもグローバルでも、近年は、世の中のインフルエンサーを自社ブランドのファンにするというCRM的な発想が進んでいます。「いかにインフルエンサーに好かれるか」がECのマーケティングで先んじるポイントの一つになりそうです。「TikTok」が日本でライブコマースサービスを展開したら、人気のインフルエンサーは事業者間で取り合いになることが予想されます。今から「インフルエンサーをファンにする」という意識を持つことをおすすめします。

市場拡大前のいま、インフルエンサーマーケティングの準備をしよう

日本のアフィリエイト市場は約4,000億円と言われています。これに対し、インフルエンサーマーケティング市場は約1,000億円程度。今後、アフィリエイト市場の人がライブ配信でモノを売る人に少なからず移行していくことを考えると、国内でインフルエンサー市場が大きくなるのは間違いないでしょう。日本において、2025年は本格的なライブコマースの元年になると考えています。

◇◇◇

最終回となる次回は、中国の最新のECとインフルエンサーマーケティング事情について、事例を交えてさらに詳しく解説します。

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