瀧川 正実 2015/12/16 7:00

通販・ECサイトの運営に混乱を招く可能性が懸念された特定商取引法の見直し論議で、モールなどを含めた通販・ECの広告に関する規制が見送られることになりそうです。議論を進めていた内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(特商法専門調査会)は、通販・EC関連の規制について「見送り」という方向で報告書の取りまとめを進めています。特商法専門調査会が出した12月14日時点での報告書案の内容とは? 広告業界に携わる人、通販・ECに関わる人は要チェックです。

最大の懸念点だった広告への取消権付与は見送りへ

内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会で議論されていた、通販・ECに関わる主な見直しは次の通りです。

通販・EC業界、広告業界から最も注目された論点は、「虚偽・誇大広告への取消権の付与」という議論でした。

もともとは悪質な事業者を排除するために始まった「虚偽・誇大広告への取消権の付与」の議論ですが、改正によって健全な事業者が大きな影響を受けてしまう可能性が浮き彫りとなりました。

広告規制の強化は見送りへ。通販・ECの人は知っておくべき特商法改正の最新動向①
調査会が示した「通信販売の『誇大広告』に関する商品・サービス別苦情相談件数」だが……

特商法専門調査会は、「近年の市場規模の拡大に伴い、通信販売における苦情件数が増加してきており、特にインターネット通販において苦情件数の増加が著しくなっている」と指摘していましたが、虚偽・誇大広告に関する苦情相談は通販全体でも2009年から横バイないし微増というのが実情

こうした調査会の提示した資料について、公益財団法人日本通信販売協会は、「第1回の専門調査会において指摘した通り、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)データにおいて、通販の苦情相談25万件のうち7割がネット通販に関するもので、さらにその7割はアダルトサイト情報、出会い系サイトに関するものであり、いわゆる物販を中心としたネット通販は約5パーセントにすぎない。第14回、第15回と2回にわたり、PIO-NETデータに関する信頼性等について議論があったが、消費者の一方的主張の記録にとどまるものが多く、寄せられた苦情相談の内容についてはさまざまな問題、課題があることが指摘された」と説明しています。

 

たとえば、「実際に手に取った商品は通販サイトで見たものとイメージが違う」といったことで虚偽・誇大広告による取消権を求めてくるケース。企業にはそれに対処するためのコストや労力が発生し、正常な事業活動を阻害してしまう可能性があります。

消費者がある広告を“虚偽・誇大広告”と判断するには明確な要件がありません。また、広告が消費者の契約締結の意思形成に影響を与える度合いは人それぞれであり、一律に取消権を付与することは取引上、大きな混乱を招く恐れがあるという指摘があがっていました

広告規制の強化は見送りへ。通販・ECの人は知っておくべき特商法改正の最新動向② 消費者が自ら求めないのに、突然、勧誘を受けるもの 訪問販売 自宅への訪問販売、キャッチセールス、アポイントセールス(電話等で販売目的を告げずに事務所等に呼び出して販売)等 電話勧誘販売 電話で勧誘し、申込を受ける販売 事業者と対面して商品や販売条件を確認できないもの 通信販売 新聞、雑誌、インターネットなどの広告による場合など、郵便、電話等の通信手段により申込を受ける販売 長期・高額の負担を伴うもの 特定継続的役務提供 長期・継続的なサービスの提供とこれに対する高額の対価を伴う取引(エステ、語学教室、家庭教師、学習塾など) ビジネスに不慣れな個人を勧誘するもの 連鎖販売取引 個人を販売員として勧誘し、さらに次の販売員を勧誘させる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・サービスの販売 業務提供誘引販売取引 「仕事を提供するので収入が得られる」と誘い、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を追わせる取引
特定商取引法が規制対象とする取引類型(消費者庁の資料をもとに作成)

虚偽・誇大広告への取消権の付与について

全体としては意見の一致を見なかった。特定商取引法に基づく表示義務の徹底や、虚偽・誇大広告に対する厳格な執行を行いつつ、平成26年に改正が行われた不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)の執行・運用状況や消費者契約法の適用の状況等も踏まえながら、必要に応じて、検討が行われることが期待される

12月14日に行われた第17回特商法専門調査会ではこのような結論が下されました。

わかりやすい例で示すと、広告(ECサイトの商品紹介ページやネット広告、チラシやカタログなども含まれる)に記載された商品イメージや情報と、実際に手元に届いた商品が“まったく違う”と消費者が主張した場合、“虚偽・誇大広告”として注文を取り消せるようにしようと見直しが進められていました。

これは、消費者契約の中で通信販売だけ標的として問題に取り上げ、見直しが進められてきたのです。

このような法改正が実現されると、消費者は合理的な根拠を示さずに独自の主観だけで不当表示であることを主張すれば、簡単に商品の返品要求ができるようになるわけで、通販・EC事業者にとっては返品特約を表示する意味がなくなってしまう事態も考えられたのです。

虚偽・誇大広告に関するトラブルが格別多いわけでもないのに、通販・ECだけが標的にされた格好であり、業界内からは「民法(詐欺、債務不履行、不法行為)で対応すべきであり、特商法の通信販売にそのような規定を導入することには反対」という声があがっていました。

さて、今回の取りまとめでは「必要に応じて検討が行われることが期待される」と言及されています。

「次の改正」があるかどうかは不明ですが、特にネット通販は右肩上がりの産業ですので何かトラブルが発生すれば、消費者団体などから「やっぱり規制強化すべき!」という声があがってくるでしょう。消費者契約法の「勧誘」概念の拡大に関する議論も主にネット通販を念頭に置いたものと思われますので、引き続き注視する必要があります。

この問題を追い続けている一般社団法人ECネットワークの沢田登志子理事は次のような言葉を、広告や通販・ECに関わる事業者に投げかけています。

事業者の皆さん今までも十分気を付けていると思いますが、今後は、ターゲティング広告なども含めて、広告全般の記載や広告そのものの振る舞いに一層気を付けて欲しいです。規制強化のきっかけは“悪質な事業者”ですが、「自分たちは真面目にやっているから関係ない(こんな議論は迷惑なだけ)」ではなく、業界全体の努力で悪質な業者を市場から排除する、といったことも考えて、声を上げて欲しいです。

広告規制の強化は見送りへ。通販・ECの人は知っておくべき特商法改正の最新動向③
第1回 特商法専門調査会の様子

通信販売事業者への表示義務事項の追加

経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会が取りまとめた割賦販売法の見直しで、加盟店契約を行うカード会社(アクワイヤラー)と決済代行会社に登録義務が課されることになりました。

これを受けて、特商法表示義務事項に、ECサイトが加盟店契約を締結している「アクワイヤラー・決済代行会社に関する情報」を追加する、といったことが論点になっていましたが、今回はこれも見送られました

ショッピングモールへの規制

直ちにインターネットモール事業者に対して特定商取引法上の特別な義務を課す必要はないと思われる。今後、自主的な取組の成果やトラブルの推移等を見ながら、必要に応じて、別途検討を行うことが期待される

特商法専門調査会が出したインターネットモール事業者の取り扱いに関する結論です。

第1回特定商取引法専門調査会では、モール事業者の取り扱いについて、次のようなことなどが課題としてあげられていました。

  • モールショッピングなどインターネット取引の場の提供者は、加盟店である販売業者の実在性確認義務や苦情発生時の適切処理義務などの加盟店調査義務を定めるべきである。
  • インターネットモールの運営事業者に対して、加盟店管理などの責任があることを法定できないか。

EC事業者全体で健全な市場を形成していきませんか

今回の特商法専門調査会報告書(案)に対して、JADMAは次のようなメッセージを発しました。

報告書案では自主規制団体としての当協会に対して、勧誘に関する自主規制の徹底を求められているが、業界団体だけではなく、関係する団体すべてが一体となり連携し努力することが求められるのではないか。そのことによって、非会員企業に対しても法令遵守を徹底させることができるのではないか。

また、行政機関等とそれらの取り組みの効果を検証する制度設計を行うことが期待されるとあるが、自主規制の効果のためにいわば公的機関の監視のもとにおくという体制を設計することは本末転倒である。むしろ関係団体が連携し情報交換等を通じて、悪質業者を排除していくことが重要ではないか。

これは、報告書案に記載された訪問販売および電話勧誘販売の勧誘に関する自主規制に対して、JADMAが公表した意見ですが、広告や通販・ECに携わる事業者は留意しておきたいことです。

広告規制の強化は見送りへ。通販・ECの人は知っておくべき特商法改正の最新動向④
JADMAの佐々木迅会長は新年賀詞交歓会で特商法の改正に触れ、「通販業界にとっては重要な年になる」と述べていた

たとえば、「虚偽・誇大広告への取消権の付与」に関する議論。もともと法改正の意図は悪質な事業者を排除するためのものなのですが、その一部の悪質業者を規制する法律により、健全な事業を手がける多くの事業者がダメージを受けてしまう可能性が出てきます。

健全な事業者は取消権など導入せずに、帰責性がなくても返品に応じるケースがあります。体力のある大手企業などでは十分な対応ができると思われますが、取消権が付与された場合に体力の乏しい企業はどうすればいいのでしょうか。

JADMAでは、次のように説明しています。

中小事業者に対して法律によって大手と同じ対応を強いる結果となれば、通販市場を支えている数多くの事業者が市場からの撤退を余儀なくされる。流通において通販業界は一貫して市場を拡大してきており、ネットの出現により更なる飛躍を遂げようとしている。しかるに、立法事実のないままこのような法規制が強化されることは、今後の経済の活性化、産業振興の観点から強く反対するものである。

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