「今ならポイント○倍」はアウトに?通販・ECを狙い撃ちの消費者契約法見直しは把握すべし
近い将来、ECサイトで当たり前の「今ならポイント○倍!」といった宣伝文句に引かれて成立した売買契約は、購入者によって取り消すことができるようになるかもしれません。
消費者委員会専門調査会で現在、事業者の手間やコストが増える可能性が大きい消費者契約法(消契法)の見直しが始まっています。今回の改正は、明らかに通販やEC、広告といった業界を狙い撃ちです。
ただ、悪質なサイトがあることは事実。それらに対抗するためにとはいえ、まっとうな商売をしている通販・EC事業者の商活動を阻害する可能性がある法改正の検討が、健全な事業者の声に耳を傾けずに進められているわけです。こうしたお役所の動きを受け、通販・ECや広告などに関わる業界団体などは猛抗議を展開していますので、事業者は消契法改正問題を押さえておくことをおすすめします。
このまま進むと事業者の手間とコストが増える可能性が大
- 利益となる旨:「今ならポイント3倍!」
- 不利益事実:「ポイント行使期間は○月×日まで」
これは、公益社団法人日本通信販売協会が消費者庁などに提出した資料の一部に記載されているものです(あくまで1つの例です)。論点はさまざまありますが、「不利益事実の不告知」に関するものとして例示しました。
このポイントの場合を例に説明すると、当たり前のように使用されている「今ならポイント3倍!」という表現を見て商品を購入した場合、ポイントの行使期間など消費者にとって不利益になることも記載していなければ、消費者は自由にその売買契約を取り消すことができるようになるかもしれないのです。(8月7日午後6時に一部追記しました)
理由は、消費者にとって不利益となる「ポイント行使期間は○月×日まで」という記載がされていないため。
現行の消費者契約法において、「不当な勧誘」として取消の対象となる「不利益事実の不告知」は、「利益となる旨のみを強調し」「その裏腹となる不利益事実を故意に告げなかった」というもの。
今回の見直しでは、後述する「勧誘」の概念を不特定多数に向けたものにまで拡大し、ECサイトの広告も対象とします。「利益となる旨と不利益事実とが密接な関係にある場合」という要件をなくし、さらに、「故意に」という要件もなくそうという提案がされています。
そうなると、「(ポイント行使期間を)うっかり書かなかった」という事業者の過失は通じません。悪質とは言えないものにまで、取消権が拡大する恐れがあるのです。
このように取消権が拡大すると、これまで普通に使われていた広告表現が不当勧誘とみなされないかどうかの事前チェック、実際の返品対応など、事業者の手間やコストの増加は計り知れないでしょう。
返品リスクを恐れ、どのサイトも画一的なECサイトの表現に陥ってしまうというケースも考えられます。
「表示」や「広告」が、一律に「勧誘」と同じように扱われるのは理解不能
消費者契約法の見直し論点は多岐にわたりますが、EC事業者にとって最も影響が大きいのは、「勧誘概念の拡大」という提案でしょう。
現在の消費者契約法(第4条)に規定される取消権は、「事業者が不当な勧誘をした結果、消費者の意思形成にゆがみが生じた(消費者が誤認した)場合、消費者は購入の意思表示を取り消すことができる」というもの(※条文を要約しています)。
「消費者を誤認させる不当な勧誘」として法律に掲げられているのは、「不実告知(うそを言う)」「断定的判断の提供(「絶対儲かる!」など)「不利益事実の不告知(メリットだけ強調してデメリットを言わない)」の3類型。
ここで重要になるのが「勧誘」の定義。現在の解釈では、不特定多数に向けた「広告」は含まれないとされていますが、検討が行われている消費者契約法専門調査会では、この考え方を変更し、「勧誘」に「広く『広告』を含めよう」とされています。
つまり、上述した「ポイント行使期間は○月×日まで」を明確に記載せずに販売した商品については、「不利益事実の不告知」となってしまう可能性があるわけです。
そもそも、「広告」と「勧誘」を同一に扱おうとすること自体が問題だと指摘する声があります。
社会通念上「勧誘」とされているものは、典型的には、販売員が(場合によってはパンフレットなどを用いて)口頭で説明を行うといった行為。しかしながら、個別の消費者に対する勧誘行為と比較するとはるかに消極的な「表示」や「広告」が、一律に「勧誘」と同じように扱われることについては、感覚として理解できない。
検討が進められている改正案がこのまま進むと、この図で記されているすべての「表示」「広告」が、「勧誘」に含まれる可能性があるのです。
検討委員も事業者ヒアリングをするべきと指摘する性急さ
消費者契約法専門調査会は8月中に「中間とりまとめ」を公表する予定ですが、業界団体などからは「まだ議論が十分されていない」といった声があがっています。
これについては、専門調査会のメンバーである柳川範之氏(東京大学大学院経済学研究科教授)も指摘しています。
今回の「中間取りまとめ」である程度合意が得られたと考えられる点についても、それで一定の方向性が定まったと考えるべきものではなく、今後、事業者ヒアリングを行い、どのような法改正であれば、真っ当な事業を阻害しないかを詳細に検討するための、たたき台と位置づけるのが適当である。
つまり、事業者のヒアリングもせずに、こうした議論が進んでいるのです。こうした意見が委員からあがっていることもあり、事業者の意見をヒアリングする機会が設けられるでしょう。
通販・EC事業者はまっとうな商活動を維持するためにも、この問題について意見を述べていくことが重要です。
業界の4団体が消費者契約法に関する意見書を提出
ちなみにこの消費者契約法の改正問題について、通販や広告業界など、さまざまな事業者団体が意見を申し入れています。
共通しているのは「健全な商活動を阻害する可能性がある」ということ。通販・EC事業者の商活動を守ろうと業界団体が前面でサポートしていますので、まとめてみました(意見書を公表している一部の団体を列挙しています)。
公益社団法人日本通信販売協会、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム
今回の検討においては、あらゆる論点が見直しの対象となっており、改正が実現した場合の実務への影響は計りしれないほど大きなものとなっています。消費者契約法の見直しは、個別法の下で規律されている事業分野を含め、問題なく行われている取引に大きな影響を与えるものであるにも関わらず、これまで事業者へのヒアリングや個別法との関係整理がほとんど行われていないことは、憂慮すべき重大な事態です。
「消費者契約法見直しに関する意見(その2)」―(公益社団法人日本通信販売協会、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム)
企業として、ニフティ、楽天、ヤフー、個人は藤猪純子氏(パナソニック株式会社)、沢田登志子氏(一般社団法人 EC ネットワーク、※文責)が連名で提出。これまで2回の意見書を出している。
公益社団法人全日本広告連盟、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会、一般社団法人日本広告業協会、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会
悪質な事業者とは明確に一線を画す多くの事業者による消費者への有益な情報伝達たる「正当な広告活動」についてまで、大きく制限することになりかねない規制内容が含まれていることに、強く反対いたします。
「消費者契約法の見直しに関する意見」―(公益社団法人全日本広告連盟、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会、一般社団法人日本広告業協会、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)
一般社団法人新経済連盟
一部の事例ばかりに焦点を当ててしまうことで、日常的に行われている膨大な量の通常の取引には目が向けられておらず、このまま改正となれば日本経済に与える負の影響 は計り知れないものになると危惧している。
「消費者契約法の見直しに関する意見」―(一般社団法人新経済連盟)
経営法友会
消費者契約とはいっても、消費者が利益を得るのみならず、他方当事者である企業もその企業活動を維持できるだけの利益を得る構造になっていなければ、経済活動が休止してしまう。したがって、法改正が行われた場合に、企業活動がどうなるのか、企業の声を聞くことなしに、法改正を進めることは、あってはならないと思われる。
「消費者契約法専門調査会における消費者契約法改正検討に関する意見提出にあたって」―(経営法友会)