注文は取消可能に? ネット広告は規制される? 特商法・消契法の見直しは知っておくべし
通販・ECでの販売に関し、虚偽・誇大広告への取消権の付与、表示義務事項の追加、ターゲティング広告やSNSなどを通じた勧誘・広告への規制、通販・ECへのクーリングオフ類似制度の導入、ショッピングモールへの規制などが、密かに検討されているのはご存知だろうか――。この規制は一部の悪質な事業者が引き起こした問題に対処しようとするものだが、それが健全な事業を行う多くの企業に影響。健全な消費活動が阻害される可能性がある見直し論議が進んでいる。
法改正で“行き過ぎた消費者保護”が加速?
「広告規定」「特商法上の表示」「返品規定」などに問題があっても、誤認による取消などの規定がない、民事ルールの強化が必要。(通信販売の虚偽・誇大広告により誤認した契約の取消規定の追加、有山委員)
ターゲティング広告手法の発展、ステルスマーケティングによる問題発生、SNSの普及といった環境変化によって広告の誘引性が強くなっており、誇大広告によって誤認して締結した契約について取消権を付与するなど民事効を規定することについて検討してはどうか。(通信販売の虚偽・誇大広告により誤認した契約の取消規定の追加、河野委員)
SNSメッセージやチャット、電子メールなどの勧誘や広告について規制を強化すべきである。(デジタルの勧誘・広告について規制強化、有山委員)
インターネットのターゲティング広告、ポップアップ広告、SNSによる広告などについても、せめてオプトアウトの規制が必要。(広告に関する規制の見直し、村委員)
現行の返品制度(15条の2)は物品に限定されている。通信販売の場合でも、テレビショッピングやインターネットショッピングでは訪問勧誘に近いものもあり、クーリングオフ制度類似の制度導入を図る必要はないか。(インターネットなどの取引についてもクーリングオフ類似制度の導入、村委員)
SNSの発展やターゲティング広告の展開等により個別性の強い働きかけができる手法が普及しており、これらについても政令指定することを検討すべきである。(電話勧誘販売、河野委員)
インターネット通信販売業者の発信者情報は法的な表示義務者であるから、記載が無いことや不正確であることをもってプロバイダーやモール運営者等が発信者情報を開示することが適法とされるよう規定を設けるべきである。(インターネット取引業者の発信者情報開示義務規定の追加、池本委員)
これらは、3月に行われた内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会であがった委員の一部意見(詳しくはこちら)。実はいま、特定商取引法(上記は特商法の委員会であがった意見)、消費者契約法(略称は消契法、上記であがった意見には一部、消費者契約法に関係する部分もある)の改正に向けてそれぞれ検討が進められている。
両専門調査会は、8月にも特定商法取引法、消費者契約法の改正に向けた意見の取りまとめを行う見通し。こうした規制は“行き過ぎた消費者保護”となる恐れがあり、企業の健全な商いを阻害しかねない。いまここで、通販・EC事業者が声をあげなければ、規制強化の動きが加速する可能性がある。
「特定商取引法」「消費者契約法」の“改悪”、ビジネスの道を閉ざしてしまう
安倍政権は、経済政策、アベノミクスで経済再生とか地方創生、雇用拡大、女性重視、中小・ベンチャー企業の育成を大きな柱に掲げて推進している。ところが、このオプトアウト型の不招請勧誘禁止(個客の同意や依頼などを受けていない状況で行われる勧誘全般、今回の特商法改正の動きで「勧誘」を規制する動きがある)は、多くの健全事業者の営業に悪影響を与えて経済が萎縮してしまう。
ベンチャー企業の育成を図ろうという旗印を掲げている一方で、新規事業を立ち上げたベンチャー企業が訪問販売もできなければ電話もかけられない。それでは、BtoCビジネスの道を閉ざされてしまう、断ち切られてしまうのではないかと懸念している。政府一丸となって取り組んでいる成長戦略、雇用拡大あるいはベンチャー育成といった政策に対して、消費者庁は正反対、矛盾する政策を目指すのでしょうか。
第4回 特定商取引法専門調査会。調査会の委員である野坂雅一委員(読売新聞社論説委員)はこう規制強化に向けて動く消費者庁を批判した。傍聴した業界関係者によると、「消費者庁はぐうの音も出なかった」という。
いま法改正の検討が進んでいる法律「特定商取引法」「消費者契約法」の見直しは、通販・EC事業者の健全な消費活動を阻害する可能性がある。たとえば、手間やコストの増加などが予測される。
※一般法である民法・商法に対し、消費者契約に関する特別法として消費者契約法があり、更に特殊な取引類型についての特別法が特定商取引法。
前述した委員の意見を踏まえ、現在検討されている法改正が実現した場合どうなるのか。簡潔にまとめると、広告(通販サイトやカタログなど含む)に問題があった場合に、契約を取り消されたり、損害賠償を請求されたりするリスクが高まることになる。
まずは簡単にそれぞれの法律改正で何が論点になっているのか確認してみよう。
消費者契約法
不特定多数向けのものなど客観的に見て特定の消費者に働きかけ、個別の意思の形成に直接影響を与えているとは考えられない場合(広告、チラシ配布、パンフレットなど)は「勧誘」に含まれないとされていた。今回、この解釈を修正し、「広告」も「勧誘」に含めるという議論が交わされている。
現在、内閣府消費者委員会消費者契約法専門委員会には、消費者契約法の不当勧誘に関する規律を適用することができるという考え方をもとに、3案が提案されている。今回はこの3案の詳細な説明は省くが、広告も「勧誘」に含まれるとされた場合、最悪のケースでは上記表の1~3が該当(消費者契約法でいう「不当勧誘」に該当)すると、消費者が契約を取り消せるようになる。
たとえば、次のようなケースなどが考えられる。
ある掃除機を通販サイトで機能を詳細に説明して販売したが、購入者は「思ったよりも音がうるさい」と取り消しを求めたケース。この場合、通販・販売事業者に過失はないと思われるが、「音がうるさい」というのは消費者にとって「不利益事実の不告知」にあたってしまう可能性がある。つまり、通販・EC事業者は「どれだけの音が発せられるのか」ということを、通販サイトで表示しなければならなくなる可能性がある。
資格グッズを販売しているケース。消費者は「これを購入して学べば合格できる」と思って購入したが、合格できなかったため、取り消しを求めてきた場合。通販・EC事業者は「そのグッズで学んでも合格できない可能性もある」ということを表示する必要が出てくる可能性がある。
消費者契約全般に適用される消費者契約法によって広告一般を対象に取消権を付与するとなると、消費者個々人の広告の違法判断のバラツキがあり、事業者は正常な事業活動を続けることが難しくなる。
また、景品表示法の改正で不当表示に対する課徴金が課されるペナルティが強化されたことも踏まえ、さらに広告一般に取消権を付与することに、業界団体などは猛反発の声をあげている。
特定商取引法
特商法の改正に関する検討会では、誇大広告に取消権を付与、消費者契約法に関連したもの(重要不利益事項についての表示義務、表示義務違反に対する民事ルール)もある。
4月28日の第4回特定商取引法専門委員会で「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」が行われた。そこでは「勧誘の方法」についてさらなる見直しの必要性が言及されている。
6月24日には通販に関する検討が行われる予定だが、主に「不当表示への取消権」「表示義務事項に関する検討」が議題に上がるもようだ。
特商法に関して業界から最も注目される論点は、誇大広告に取消権を付与するという議論だろう。広告に関わる問題だが、誇大広告と消費者が判断するには明確な要件がないのが現状だ。また、広告が消費者の契約締結に影響を与える度合いは人それぞれであり、一律に取消権を付与することは取引上、大きな混乱を招く恐れがある。
たとえば、「実際に手に取った商品は通販サイトで見たものとイメージが違う」といったことで誇大広告による取消権を求めてくるケースが考えられる。企業にはそれに対処するためのコストや労力が発生し、正常な事業活動を阻害してしまう可能性がある。
法改正は健全な商活動を阻害する可能性も
今回取り上げたのは法改正に関する動向の一部。次回以降、さまざまな観点から法改正問題を取り上げていきたい。
ちなみに今回の法律改正は、一部の悪質業者や出会い系サイトなどによる被害が増えていることに端を発している。いわゆる、問題を起こしている悪質業者や出会い系サイトによる被害を減少させるためには他の方法論があるはずなのだが、今回の改正議論では健全な事業を行う通販・ECもひとくくりにされ、見直しが進んでしまっている。
こうした一部の悪質業者による行為のしわ寄せが、健全な商いを行う通販・EC事業者の事業活動に影響が出てしまう可能性があるわけだ。健全な商活動を阻害するような法改正を進める消費者庁に対し、通販・EC事業者は声をあげなければ、“行き過ぎた消費者保護”に向けた法改正がなし崩し的に進んでしまう恐れがある。