鳥栖 剛[執筆] 6/5 6:30

東京商工リサーチ(TSR)は5月28日、2024年度の「本社機能移転状況」調査の結果を公表した。それによると2024年度に他都道府県に本社・本社機能を移転した企業は前年度比18.7%増の1万6271社と大きく増加した。

移転企業は2年連続で増加した

企業規模別の移転動向

規模別では、資本金1000万円以上が前年度比17.4%増の2809社で3年ぶりに増加。資本金1000万円未満は同19.0%増の1万3462社と3年連続で増えた。前年度は小・零細企業の本社移転が件数を押し上げたが、2024年度は中堅規模以上の本社移転も増加した。

地区別の転入超過状況

地区別で転入超過数(転入-転出)が多かったのは九州でプラス148社だった。台湾の半導体受託製造企業・TSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出で、製造業を中心に活況が続き、設備・IT投資も活発に。製造業と情報通信業の2産業は、九州エリアの8県すべてで転入超過だった。半導体に加え、自動車の主力工場の進出が、関連企業や取引先の吸引力を強めたと見ている。

九州・中部で大きく転入超過に

中部がプラス147社で続いた。中部はトヨタ自動車やスズキなどの大手メーカーが本社を置き、工業が盛んな地区。関東、近畿どちらへも商圏を広げやすく、特に関東からの転入が目立った。中部5県のうち、愛知県(マイナス20社)を除く4県で転入超過となった。

転出超過だったのは、関東、近畿、四国の3地区。関東がマイナス284社と圧倒的に多かった。関東から地方への転出に歯止めが掛からず、4年連続で転出超過となった。

県別の転入超過状況

県別の転出入は、転入超過のトップが埼玉県。転入が1507社に対し、転出は1257社で、差し引きプラス250社の転入超過となった。主に東京都からの転入が多く、2年連続で転入超過数が大幅に増加している。産業別では、「サービス業他」がプラス100社で転入超過数が最も多い。農・林・漁・鉱業(超過数ゼロ)を除く、9産業で転入超過となった。

埼玉県が転入超過のトップに

転入超過2位は千葉県でプラス192社だった。ただ、前年度1位から2位にランクダウン。埼玉県と同様に東京都からの転入超過が中心で、産業別では、「卸売業」が56社増で転入超過数が最多。「金融・保険業」と「運輸業」を除く8産業で転入超過だった。

転出超過数は、1位が東京都でマイナス1158社。産業別では、10産業すべてで転出超過となった。転入数は2022年度3723件、2023年度3983件、2024年度4584件と増加が続いている。だが、2023年度に減少した転出数が再び2024年度に増加に転じ、東京都から隣接する埼玉県、千葉県、神奈川県への流出が強まった結果、転出超過数が再び増加した。

このほか、大阪府はマイナス264社、愛知県がマイナス20社と、大都市圏の中心都市から周辺都市に転出する傾向が目立った。

産業別の移転動向

産業別の本社移転は、小規模事業者が多い「サービス業他」が前年度比18.22%増の6211社で最も多かった。次いで、「情報通信業」が同21.4%増の2031社、「小売業」が同23.4%増の1757社と続き、上位3産業で全体の約6割(同61.4%)を占めた。この3産業は、比較的規模の小さい事業者が多く、移転などの意思決定がしやすいことで本社を移転した企業が多いと見ている。

情報通信業は、リモートワークが定着した業種で、人材確保やコスト抑制などで都心から地方への移転が加速したとみられる。特に、九州への転入が目立ち、福岡県を筆頭に九州全県で転入超過となった。

産業別では「サービス業他」の移転が最多

前年度との比較では10産業中、9産業で移転企業が増加した。唯一減少したのは運輸業で255社(前年度比1.9%減)だった。県別の転入超過数は、千葉県が4産業、埼玉県が3産業で転入超過数でトップになり、首都圏内の移転が活発であることがわかった。産業を細分化した業種(中分類)別では、移転企業数の最多が「専門サービス業」で2027社だった。次いで、「情報サービス業」が1434社、「飲食店」が776社と続いた。

損益区分別の移転動向

TSRでは他の都道府県に本社・本社機能を移転した企業のうち、移転年度から遡って2年以内の最終利益が判明した企業を抽出し、黒字と赤字企業の構成比を算出した。2024年度の移転企業では、黒字企業が構成比67.1%(1805社)と、約7割を占めた。前年度まで2年連続で赤字企業の割合が拡大していたが、2024年度は一転し黒字企業の割合が増加した。赤字を解消するためのコスト削減をめざした本社移転より、商圏拡大や需要、人材獲得を狙った「攻め」の移転が増えた可能性があるとしている。

黒字企業の移転割合が増加

人材獲得や従業員の働き方改革を狙った移転もトレンドに

コロナ禍が落ち着き、リモートワークからオフィス出社に戻す企業が増えている。コロナ禍で都心回避で企業移転が進んだが、コロナ禍が落ち着くと再び都心への回帰が見込まれていた。ただ、今回の調査では、中小・零細企業を中心に、上昇が続くオフィス賃料などのコスト抑制や、都心を離れて地方マーケットを開拓する動きが強まったことがわかった。また、深刻な人手不足が加速しており、人材獲得や従業員の働き方改革を狙った移転もトレンドになっていると東京商工リサーチは指摘している。

地区別で、転入超過数が上位の九州と中部は、製造業の転入が際立った。製造業が転入超過だったのは、九州・中部以外では東北(プラス5社)だけだった。製造業は、投資規模が大きく、雇用創出力も強いことから周辺都市や関連産業への波及が期待できる。TSRでは製造業の誘致は、地域経済の活性化への起爆剤として、隣接する地域や地場産業の構造転換を促す契機になる可能性があると分析した。

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