アフィリエイター摘発の衝撃。狭まる「アフィリエイト広告」の包囲網
「アフィリエイト広告」の包囲網が狭まっている。大阪府警は3月17日、薬機法違反の疑いでアフィリエイターの男性を書類送検。アフィリエイターの立件は珍しく、過去に例がないとみられる。ただ、これは伏線の可能性がある。昨年末に行われたASPへの家宅捜索、今回の摘発など断続的に明らかになる府警の動向は、これに続く”本丸”を視野に入れたものとみられるためだ。
狭まる「アフィリエイト広告」の包囲網
アフィリエイターを書類送検
書類送検されたのは、神奈川県茅ケ崎市在住の自営業の男性(51)。アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)を通じて、健康食品の販売者である広告主と契約。自身が運営するサイトにおいて、この健食について「更年期障害、糖尿病、痛風の予防・改善に効く」などと紹介していた。
大阪府警は、健食で医薬品的効能効果を標ぼうしていたとして、この男性を薬機法違反(第68条、未承認医薬品の広告の禁止)の疑いで書類送検。男性は「認識が甘かった」と容疑を認めているという。
アフィリエイト摘発に照準
商品の供給者を規制対象とする景品表示法と異なり、薬機法の規制対象は「何人も(何人規制)」。当然、アフィリエイターも対象になる。
ただ、広告の一義的な責任は、本来、広告主である販売者に求められる。このアフィリエイターがサイトを通じて販売した商品数は、宣伝した昨年9月から11月の間にわずか3個。それだけに摘発は衝撃だ。
府警は、昨年7月の「ステラ漢方事件」でも同社従業員のほか、広告代理店、広告制作会社従業員を含め、計6人の逮捕に踏み切っている。
不適切なアフィリエイト広告の氾濫は、広告主だけでなく、代理店、ASP、アフィリエイターなど、これに絡む仲介者の責任転嫁の連鎖が生み出す。摘発は、これを一網打尽にすることで抑止力を働かせようとする府警の強いメッセージとも取れる。
残る謎は、「わずか3個」の違法行為に府警が動いたことだ。
なぜ「たった3個」で摘発されたのか
「コロナだけど、今度、東京に行かんといけんのや」。府警に近い、在坂の関係者は昨年末、ある捜査員のそんな言葉を聞いている。「ステラ漢方事件」の関係者も「府警は違法なアフィリエイト広告の捜査に相当数の人員を割いていた」と話す。
わずか3個を販売したに過ぎない男を調べるために府警がわざわざ出向いたとすれば、あまりに仰々しい。
逮捕者が一人であることも疑問だ。
一般的に、広告主は、ASPを介して複数のアフィリエイターと契約を結ぶ。アフィリエイターの質も副業目的から、法人化してこれで生計を立てる者までさまざま。自然、その結果は、販売数となって表れる。広告主から提示されたレギュレーションが同じであれば、当然、より過激に、より多く販売した者もいる可能性があるからだ。
報道に接した多くの業界関係者も「3個売っただけの人を摘発してもしょうもない」、「これで終わりでは書類送検された51歳が浮かばれない」と感想を口にする。
ASP家宅捜索とつながる線
糸口は、昨年12月、府警によるASPへの家宅捜索が行われたとみられることだ。当時、府警は「事実関係を含めノーコメント」としていたが、当のASPは「捜査当局に協力しているのは事実」と認めていた(本紙1785号既報)。
このASPは、書類送検されたアフィリエイターとの関係に、「捜査の詳細が共有・開示されることはないため確認する術がない」とする。ただ、前出「ステラ漢方事件」の関係者は、このアフィリエイターが扱っていた広告案件が、このASPを介して委託されたものだと明かす。
九州の通販企業 家宅捜索否定せず
ASPへの家宅捜索、アフィリエイターの摘発から浮かびあがるのは、ある広告主の存在だ。九州・福岡に本社を置く、この会社が扱うのは、伝承的な健食素材を使ったサプリメントや飲料。通販で展開しており、広告は更年期障害等をイメージさせる訴求もみられる。民間信用調査機関の調べによると、売上高は約10億円だ。
ある業界関係者は昨年末、この通販企業にも府警による家宅捜索が行われたと明かす。取材に代表者の男性は「家宅捜索を受けているとも、受けていないとも答えられない」とするが、否定はしなかった。
捜査の行方について、ある警察OBは、「いずれ本丸にいくのでは」と話す。「違法な広告による販売も当然、3個と100個では重みが異なる。ただ、いきなり本丸を挙げて証拠がなかったらアウト。軽いのから手をつけて聞き出して、証拠があればその時点で立件。はじめから重いのはやらない。今回、書類送致したということは、(広告主やASPとの)関係を色々しゃべっているということ。自分が指揮官でもそうする」。
「ステラ漢方事件」を踏まえた府警の対応
府警は昨年7月、「ステラ漢方事件」で、同社の責任者である社長の逮捕に至っていない。これに疑問の声もあった。
関係者によると、ステラ漢方と代理店は、チャットのグループで広告内容の確認や変更の承認を行っていたという。家宅捜索の段階で、このチャットの存在が判明し、登録のあった関係者に逮捕容疑が絞られたようだ。だが、代表者は含まれておらず、「証拠にならず、知らなかったという言い逃れができた」(事件関係者)。
その反省からくるものか定かでないが、今回、ASP、アフィリエイターなど慎重に外堀を固めつつ、本丸に迫ろうとしているのかもしれない。府警の狙いはどこにあるのか、動向を注視する必要がある。
不適切広告がアドネットで氾濫。「単品コスメ配信NG」方針転換も
相次ぐ摘発の背景にある「不適切広告の氾濫」
アフィリエイト広告に対する規制当局の圧力が強まっている。運用に注意が必要なのが、ウェブメディアへの広告配信プラットフォームであるアドネットワークや、リスティング広告で集客される「アドアフィリエイト」と呼ばれるものだ。新たな新規獲得手法と注目されるが、不適切な広告も氾濫する。
「有名人が入った高単価ダイエット案件なのでぜひご実施のご検討よろしくお願いいたします! NG媒体なし」。ASPを利用する代理店のもとには連日、こうした広告案件の依頼が寄せられる。
広告運用のイニシアチブは本来、販売者である広告主が握っている。広告枠を自ら精査し、代理店はその手数料収入を得てきた。テレビや新聞など、旧来の広告手法は、取引額も大きく、媒体社も自らの媒体価値に配慮し、広告考査など慎重に運用してきた。
一方、近年、成長を遂げるEC市場を下支えするのがアド運用型と呼ばれる新興代理店の存在だ。これら代理店は、広告主と成果目標を共有しつつ、一定の予算枠を預かり広告を運用する。成果に対するリスクを負う反面、自ら広告運用のイニシアチブを持ち、効率的な獲得が行えれば、より多くの収益を上げることができる。成果報酬型のビジネスモデルだ。
有効な手段の一つが自ら広告主となり、アフィリエイトサイトへの誘導を目的にアドネットを活用して広告出稿を行う「アドアフィリエイト」になる。
ただ、運用はブラックボックスで、販売者は実態を把握しにくい。成果は「数値」による報告のみで評価せざるを得ない。コントロールが効かず、不適切なサイトへの広告掲載や、獲得件数を優先した運用も目立つ。
それでも、景品表示法の表示責任は、「商品の供給者」である販売者が負うことになる。「ステラ漢方事件」、これに続くアフィリエイターの摘発など、薬機法の「何人規制」発動も相次いでいる。代理店をはじめ、仲介者の責任も重くなっている。
審査基準を厳しくする企業も
「事業方針変更により、EC単品コスメ案件を配信NGとさせていただきます」。今年3月、媒体社にアドネットを提供するZucksは、広告案件の提案先にこう通知した。4月末をもってEC単品通販案件の取り扱いをすべて停止するという。同業のpopInも「警察当局等の一連の動きを受けて、審査基準を厳しくすると聞いた」(業界関係者)という。
Zucksは、電通が出資するCARTAHOLDINGSのグループ。popInは「ステラ漢方事件」で摘発対象になった広告を配信していた1社(本紙1785号既報)。不適切な広告配信の背景には、これら仲介者の存在が指摘されている。
ある代理店はアドネットのこうした対応に、「これまで何度も厳しくすると言ってきたが、収益が上がらず、ほとぼりが冷めると、結局元に戻してきた」と冷やか。ただ、規制当局が取締りに本腰を入れる中、ウェブ広告業界にも変化の兆しが現れている。
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