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バズワードに踊らされないEC戦略。急成長D2Cブランドがオムニチャネル投資を見送った決断の裏側

Cotopaxiは長年にわたり、さまざまなオムニチャネル施策を試験的に導入してきました。しかし最終的には、必要となるシステム刷新やオペレーション変更に対して、本格的な投資を行わない決断を下しました。

Digital Commerce 360[転載元]

8:30

アウトドアブランド「Cotopaxi」は、店舗出荷やBOPIS(店舗受け取り)といったオムニチャネル施策を試験導入したものの、本格的な投資を見送りました。共同創業者が明かした「オペレーションの複雑化」というリアルな課題と、流行のバズワードに左右されない最適なEC・店舗戦略の引き際について解説します。

Cotopaxiの共同創業者が語る決断の裏側

実店舗を持つことはオムニチャネル戦略の本質を引き出す重要な要素ですが、すべての施策が投資に見合うわけではありません。アパレル・アウトドアギアブランド「Cotopaxi」の共同創業者は、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』の取材に対し、そのリアルな経験を明かしました。

バズワードに踊らされないEC戦略。急成長D2Cブランドがオムニチャネル投資を見送った決断の裏側
「Cotopaxi」のWebサイト

デジタルネイティブ(D2C)ブランドとして約12年前に誕生したCotopaxiはその後、実店舗へと進出し、現在は20以上の拠点を運営しています。長年、多様なオムニチャネル機能を試験的に運用してきましたが、最終的にはシステムや現場のオペレーションを大規模に変えてまで、それらの施策へ本格投資することは見送りました

Cotopaxiのチーフ・グローバル・オフィサーであり共同創業者のステファン・ジェイコブ氏は、かつてオンライン注文された商品を実店舗から発送する「店舗出荷」を試みた時のことをこう振り返ります。

Cotopaxiの店舗は平均1200平方フィート(約33坪)と比較的小さいサイズです。そのため、店内でフルフィルメント(配送業務)を回すための物理的なスペースがほとんどありませんでした。

物理的スペースとオペレーションの壁

店舗の在庫をオンラインの需要と結びつければ、商品の消化スピード(セルスルー率)が上がるというメリットはあります。しかし、それだけでは継続する理由にはならなかったとジェイコブ氏は言います

スペースの確保、スタッフの教育、システムの統合、そして在庫管理。これらがもたらす現場の複雑さを天秤にかけた結果、「少なくとも現時点では、運用負荷に見合う価値はない」と判断したのです。

現在、Cotopaxiはすべての発送業務を物流センター(ディストリビューションセンター)に集約しています。

Cotopaxiのオムニチャネル販売戦略

ジェイコブ氏によると、創業当初のCotopaxiは100%D2C(直販)モデルでした。そこから5~6年が経過した頃、卸売ビジネスへと舵を切ります。

卸売は急速に成長し、一時は総売上高の50%以上を占めるまでになりました。しかし現在は、より健全なバランスである25%~30%程度に抑えています。大半はD2Cが占めており、その他に法人向けビジネスや、急成長中の海外チャネルがあるという構成です。

また、モバイルアプリも運用しており、アウトドアのアドベンチャーイベントと連動。このデジタル体験を実店舗と結びつけることで、ユーザーのオムニチャネル体験を高めてきました。

これにより、何万人もの人々に自然な形でブランドを知ってもらい、熱狂的なファンになってもらう素晴らしい動線を作ることができました。店舗やイベントを通じたリアルな接点は、Cotopaxiの戦略の大きな柱です。もちろん、主要プラットフォームでの従来型のパフォーマンスマーケティング(運用型広告)も実施しており、アトリビューション(貢献度)計測の難しさはありつつも、投資対効果を慎重に見極めています。

Cotopaxiは長年、ソーシャルメディアやSEOなど、「投資対効果の高い領域へのスポット的な投資」を試みるなかで、コストの肥大化にも直面してきました。

数年間、私たちは売り上げを伸ばすための資金投入と成長の追求に追われ、少し視野が狭くなっていた部分がありました。現在はそこから舵を切り直し、長期的な利益につながるかを厳しく見極めながら、より慎重に予算を配分する体制へと移行しています。

こうした数々の実験を通じて、Cotopaxiは「どのオムニチャネル連携から撤退すべきか」の引き際も学んだと言います。

オムニチャネルの「バズワード」に踊らされない引き際

Cotopaxiは一時期、実店舗の在庫状況をオンライン上に表示。また、Webサイトの店舗検索機能や、製品を扱う小売パートナーの情報を掲載し、消費者がどこでブランドと物理的に接点を持てるかを可視化していました。

「この施策については、何度も導入と撤退を繰り返してきました」とジェイコブ氏は明かします。

数年前には、BOPIS(Buy Online, Pick Up In Store:オンライン購入・店舗受け取り)や、エンドレスアイル(店舗でEC在庫を注文できる仕組み)などにも投資しました。一定の成果は出たものの、現場のオペレーションは確実に複雑になります。私たちは今でも、何が本当にユーザーに価値をもたらし売り上げを牽引するのかと、業界でその時々に流行している「バズワード」とのバランスを測っているところです。店舗向けテクノロジーに関しては一通り実験しましたが、最終的には、ユーザーがどのようなルートでCotopaxiと関わりたいかに対して、システム側を特定の手段に固執させないという結論に達しました。

Cotopaxiの実店舗のほとんどは米国西海岸に集中しており、北東部には数店舗しかありません。海外では日本と韓国に数拠点を持っています。年末年始などの主要なセールス期間には、配送締切日が近づくにつれて、これらの店舗をフックにして顧客を呼び込む戦略を取っています。

しかし、Home Depotのように全米を網羅するネットワークがあるわけではありません。オンラインでCotopaxiを利用する消費者の大多数は、近所に店舗がない環境にいます。その観点から見ると、オンラインとオフラインの融合という「真のオムニチャネル」の恩恵を受けられるのは、現在の店舗網ではごく一部のユーザーに限られます。だからこそ、本格的なインフラ投資を急がず、まずは実験的な運用に留めてきたのです。

コロナ禍での検証と、撤退のリアル

Cotopaxiがオムニチャネル施策を集中的にテストした背景には、コロナ禍の存在がありました。当時は「北米EC事業トップ1000社」に名を連ねる小売事業者が、BOPISやカーブサイド・ピックアップ(店外受け取り)、店舗在庫の可視化といった機能をこぞって導入した時期です。

『Digital Commerce 360』の「2026年版オムニチャネルレポート」のデータによると、2021年から2025年にかけて、これらのサービスを提供している大手小売チェーンは、提供していない企業に比べて平均して高いコンバージョン率(CVR)を維持し続けていました。

「確かに、サービスを提供した店舗では一定の利用がありました」とジェイコブ氏は話します。

しかし、BOPISを導入したからといって、その店舗単体の収益構造が劇的に好転するわけではありませんでした。それどころか、準備が整っていない個別の店舗にECの需要が一気に流れ込めば、店内の在庫補充や人員配置の計画など、裏側の複雑さは増すばかりです。

このオペレーションの負荷は、リスクに見合うものではなかったというのが結論です。「要するに、労力に見合うだけの成果が得られなかったのです」。ジェイコブ氏はこう語ります。

そのため、いくつかの施策からは撤退しました。これらのオムニチャネル戦略自体を否定するつもりはありません。企業の規模や地理的なカバー率によって正解は変わりますが、当時の私たちの規模においては、これがリアルな経験値だったということです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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