通販新聞[転載元] 3/18 7:00

ANAグループが昨年1月末に開設した仮想モールの「ANA Mall」が1周年を迎えた。同モールの運営を手がけるANA Xによると、この2月で出店者数が100店舗を突破。マイルを起点とした顧客の囲い込み施策も実を結びつつあり、順調に事業拡大が続いているという。この1年間の振り返りとともに、今後の打ち手についてANA Xで同モールの責任者を務める三﨑経信チームリーダーに聞いた。

ANA X「ANA Mall」責任者の三﨑経信チームリーダー
ANA X「ANA Mall」責任者の三﨑経信チームリーダー

モール内出店数、100店舗達成

売れ筋は「高額デジタルデバイス」「食品関連」

――モール開設から1年が経過した。

まずは2023年度目標だった出店者数100店舗を2月で達成したというところが大きい。流通額自体もかなり伸びていて、第1四半期から第3四半期までの伸び率で見ると、340%ぐらい伸長した。直近では、10月から1月にかけて160%という伸びになった。数字がかなり堅調に伸びている。

――売れ筋商品は。

AppleさんやECカレンツさんなどの高額なデバイス関連や家電などがある。販売件数としては食品関連も多い。とりわけ、第3四半期は年末年始需要のところで、海鮮系でカニなどの販売が好調だった。やはり一度、(ページ内で)人気商品ランキングに載ると買われ続ける面はある。一時期、干し芋がずっとランキングのトップとなっていて、リピートされ続けた。

あとは、ツルハドラックさんなども出店されたりして、日用品と言われているものが動き出したイメージ。洗剤やベビー食も売れている。店舗数が増えてきたことで、モール全体の数字も上がってきた。出店者が顧客を連れて来てくれている実感があり、組み合わせ購入も含めて顧客の購買行動は変化しつつある。

顧客単価の高さに店舗からは喜びの声

――顧客の属性や購買単価は。

ANAの搭乗客の属性(ANAマイレージクラブ会員、以下「AMC会員」)とほぼほぼイコールの状況。1件当たりの購買単価としては、当初のころから今も変わらず1万円超をずっと維持できている。デジタルデバイス系の高額商品だけでなく、雑貨や日用品などもその状況で、新規出店の店舗からも購入単価が高い売り場であるとの声をもらえている。(出店者に対して)新しい顧客を提供できていることにつながっているとは思う。

――一方で課題のあった商品ジャンルは。

やはり、食品などが先行していたため、ファッションなどはまだこれから。カテゴリーの偏りは多少あると見ている。DIYや書籍、ゲームなども取り扱うことを検討している。今は6対4程度で、男性顧客の方が多いとはいえ、女性がいることも考えるとそちらの商材も充実させたい。

マイルを切り口とした施策が顧客層にマッチ

――マイルの活用については。

(開設したばかりの)昨年の3月はマイルの償還割合が高かった。しかし、そこが過ぎると(現金決済と)半々程度に落ち着いた。もともと、マイルを使ってもらいたいという思いはもちろんあったが、マイルのインセンティブキャンペーンを積極的に行うと、マイルを使うよりも現金で購入してマイルを貯めるという方向にシフトしている顧客が多くなる印象を受ける。

たとえば、通常の3倍のマイルを付与する企画でANAカードなども使うと、かなりたくさんのマイルが貯まる。ANAの場合、人気が高い「特典航空券」(AMC会員がマイルで交換できる航空券)があり、そこをめざしている顧客の目線で見ると非常に近道となるため、マイルの価値をとても大きく考えてくれる

――マイル関連の企画を行う時期は。

月末になると期限切れが近くなったマイルを償還する顧客が多くなり、逆に月初の客足を獲得する必要があった。そのため月初にマイルアップの施策を行うことが多い。新規の開拓やリピート購入の促進に向けてデータを見ながら継続的に実施しているところ。

マイルアップ施策の一例(画像は「ANA Mall」から編集部がキャプチャ)
マイルアップ施策の一例(画像は「ANA Mall」から編集部がキャプチャ)

認知度アップに課題

――新規開拓の内容は。

基本的にはAMC会員が対象なので、メルマガでコミュニケーションをとっている。新規利用者限定で、今の期間に買い物をするとこれだけインセンティブが付くということを見せている。現在、AMC会員数は4000万人程度だが、獲得し切るまでにはそれなりに時間もかかるという感覚。

我々のプロモーションやマーケティングもまたデジタル上の設定でやりきれていないことは実感している。やはりアクティブにANAを利用されている方が一番の顧客になると思うので、航空の利用導線のなかでの露出というものがまだまだ弱い。そこを補っていくことができないと厳しい。たとえば、(機内のシートモニターを使って)短い尺でのCM動画を流したりする方法もあるだろう。

また、(移動することでマイルが貯まる“ポイ活”アプリの)「ANAPocket」に関してはリリース2周年を迎え利用者数が伸びており、このなかですでに広告を出すことはある。ほかにも、スマホ決済の「ANAPay」などもあるので、そうしたものとうまく連携して認知拡大していくことは今後の課題だ。

広告メニューの充実にアクセル

――2月に出店者数100店舗を達成したが、フォロー体制の強化などは。

出店者のサポートデスクの人員を増やしただけでなく、対応範囲も拡大したことでより迅速に対応できるようにした。以前はシステムに関する問い合わせについて、社内の別デスクと連携して対応に当たっていたが、今はその機能も取り込んで一括対応できるように組織を集約した。

――モール内で提供する広告枠については。

今は広告という立て付けで行っているものは何もなく、売れている商品がランキングで上位に表示されるという仕組みの露出だけ。しかし、出店者からのモール内広告へのニーズは結構高い。であれば、広告メニューとして作っていかなくてはと考えている。

バナーで出せたり、商品検索結果で上位に出せるようにするなど。予約型の枠も含めて、施策としてタイアップ的なことができるかなど、時間はかかるがテストマーケティングから始まるような形になると思う。

グループの強みを生かした認知度アップ施策

「客室乗務員お勧め」はANAならでは

――ANAならではの露出の仕方としては。

最近では客室乗務員がお勧めする商品特集のページなども作ったりはしているが、まだまだ限られている。たとえば、人気の機内食であったり、整備士の作業着から作ったトートバッグなどANA関連グッズはたくさんあるので、もっとそうしたページを整理して、レコメンドも工夫しながらやっていきたい。

そういったところが後発のモールである我々としては一番の差別化になるはず。これらのコンテンツはモールをPRできる要素となるので、自分たちの強みとなる部分をきちんと理解しながら定期的に増やしていく

グループの子会社やメディアをフル活用

――関連してANAグループ内での連携については。

もともと、各グループ会社がそれぞれやっていたこと(小売りなど)を、ANAモールであればもっと販売ボリュームを上げられるのではという形に早く持っていきたい。そこは販売やPRの仕方であったり、タイミングも含めてきちんとコントロールできてこそだと思うので、グループ内で歩調を合わせてやっていければ。

また、今はANAあきんどがグループ内で地域商社という位置付けとなっているが、そちらに各地域での出店者の開拓を手伝ってもらっている。

――SNSなどの活用に関してANAグループで連携しているところは。

現在、ANAグループでは2つの「X(旧ツイッター)」があり、いわゆる旅のつぶやきのようなアカウントと、広報PRのアカウントがある。広報PRのXでは、出店者の情報を任意に出せるのでうまく活用している。(フォロワー数の多い)ANAグループのメディアを使っていくことで効率的にユーザーを獲得できると考えている。

モールの「差別化」「一般化」を計画

――今後の目標や計画について。

やはり、大手ECの出店者をしっかりと取りそろえていくことをまずはめざしたい。先ほど申し上げたような、家電やDIY系など主要顧客であるアクティブに航空利用しているビジネスパーソンを意識したようなところ。いくつかの大手ECとは商談も進んでいる。

また、2024年~2026年(編注:2026年3月期まで)の3か年の中期計画としては、「差別化」と「一般化」ということがキーワードになっていて、他のモールとの差別化をするに当たっては、ここにしかない店舗みたいなものは当然欲しいし、ANAグループだからこそというものもしっかりと充実させていかなければいけない

中期経営戦略ではグループならではの強みを活用して増収をめざす(画像はANAホールディングスの中期経営戦略発表資料から編集部がキャプチャ)
中期経営戦略ではグループならではの強みを活用して増収をめざす(画像はANAホールディングスの中期経営戦略発表資料から編集部がキャプチャ)

その差別化がないと、立ち位置を明確にできないと思っているので、しっかり整えていく。とは言え、日常的にも使ってもらえないと、流通額は増えていかないので、そういった意味では一般的な商品がしっかりと整っている状態、つまり一般化ということもめざしていきたい。

この中計3か年のなかで、いかにプラットフォームを発展させていくためのコア事業になっていくかということを、我々としては目標に置いている。単なるEC物販のモール事業にとどまらず、そこをプラットフォームにして事業拡大させていくというところがあるので、そこの基盤作りをこの3年間でやることが大きく掲げているものだ。

中計ではプラットフォーム戦略がコアになっている(画像はANAホールディングスの中期経営戦略発表資料から編集部がキャプチャ)
中計ではプラットフォーム戦略がコアになっている(画像はANAホールディングスの中期経営戦略発表資料から編集部がキャプチャ)
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