サザビーリーグ、小柄女性向けのアパレルD2Cを買収+D2Cブランド特化の子会社新設。子会社社長に狙いを聞く
サザビーリーグは9月2日付で、D2Cブランドを手がけるnewn(ニューン)から身長150センチ前後の小柄女性向けアパレルブランド「COHINA」(コヒナ)の事業を譲受し、新設した100%子会社のEGBA(イー・ジー・ビー・エー)で同事業の運営をスタートした。「サザビーリーグのD2Cブランドをオフライン展開も含めて束ねていければいい」と語るEGBAの帰山元成社長に、コヒナ買収の狙いなどを聞いた。
「コヒナ」を新たなアパレル事業の核へ
オフラインを組み合わせて魅力アップ
――事業譲受の経緯は。
3月まではサザビーリーグ全体の営業統括として新規事業の窓口をしていて、100件以上のM&A候補があるなかから選りすぐったのが「コヒナ」だ。
2018年に「コヒナ」がローンチした当初からD2Cブランドとしての切り口やマーケティング手法に興味を持っていて、EC担当者とも「面白いよね」と話していた。話を頂いたときに事業形態は異なるが、サザビーリーグのリソースを加えることで事業として成長できると感じた。
もう一つは、サザビーリーグの事業ポートフォリオを考えたときに、D2Cブランドにオフラインを加えていくことで、新しいアパレル事業の核として展開できるブランドビジネスになることを期待してご一緒させて頂くことになった。
――サザビーリーグはEC化率が低い。
サザビーリーグはリアル店舗が軸だが、コロナ禍も経験して過度にリアル頼みのビジネスは早晩行き詰ると感じている。消費者のデジタルリテラシーが高まったのはもちろん、全国に50店舗~100店舗を構えて売り上げを作るという従来型アパレルブランドのあり方は、労働力確保の観点からも難しくなる。
一方で、デジタルだけで事業を展開すると体感の場の提供が希薄になるので、リアルの良い面を組み合わせることで、「コヒナ」の魅力をより多くの人に理解してもらえる。
ゆくゆくはブランドリテール事業の創生を視野
――サザビーリーグもD2Cブランドを展開している。
人口減少からくる労働力不足問題があるなかで、サザビーリーグにも「アルティーダウード」というジュエリー主体のD2Cブランドなどがあるので、「コヒナ」を含めたいくつかの塊で、未来のブランドリテール事業を作っていきたい。
リアルとデジタルのどちらが良いとかではなく、時代に応じたリテールブランドのあり方をずっと模索していて、メガネのD2Cブランド「ワービーパーカー」がニューヨークに店舗を出したときに視察に行き、顧客接点の作り方を学んだこともあった。
お店もメディアの一つと考えると、お客さまに多方面のメディアを活用して接点を持った方が力強いし、長く愛される。
「コヒナ」のブランドの切り口、メンバーの熱量を評価
――「コヒナ」の強みをどう見ている。
一つは切り口の部分で、サザビーリーグにはなかった、ソリューションを含めたエモーション事業だと感じる。サザビーリーグ全体ではどちらかというとエモーションでモノを売っている部分が多い。「コヒナ」は小柄な女性にフィットする洋服で幸せにするというソリューションがあり、切り口として面白い。
もう一つが、「コヒナ」の田中絢子ディレクターを筆頭にブランドに対するメンバーの熱量が高い。大手のような仕組みを持たないながらも成長しているのに、今後、いくつかの壁にぶつかって従来のような成長ができないのはもったいないので、さまざまな形でサポートすれば、もっと大きな成長が見込める。
――コスメなどのD2Cブランドは成長を加速するためにドラッグストアなどに販路拡大を求めるケースも見られる。
長く愛されるアパレルブランドをめざすときに、どうやって顧客接点を持つかを考えると、オフラインの店舗が重要になる。
――ポップアップストアだけでなく常設店も必要になりそうだ。
サザビーリーグの「アルティーダウード」が今年3月、ニュウマン新宿にリアルショップを出店した。それまでは渋谷・松濤のショールーム兼路面店にオフラインの売り場を構え、それ以外はポップアップを何度か開催していた。
リアルショップでの売り上げだけでなく、お客さまのクロスユースの状況から判断すると、やはり実物を見たいということがわかったし、トラフィックの多い店舗で商品を見た後にネットで購入してもらうことで新規ユーザーの流入や、以前購入頂いたお客さまがまたファンになってくれるといった動きが出てきていて、これは「コヒナ」にも応用できる。
サザビーリーグのグループとして展開する方が多少資金力もあるし、実店舗の開発力もある。スタートアップ企業が取り組むよりも好立地に店舗を構えられると思う。
あえて分社化するワケとは?
――100%子会社のEGBAを新設して「コヒナ」を運営する理由は。
サザビーリーグ全体の経営方針として分社化していく流れがあり、「コヒナ」の事業も同様なことと、田中のキャラクターや意向などを踏まえたときに、本体に組み込まずに別会社で自由に力を発揮してもらった方がいいと思った。
また、サザビーリーグ自体がブランドを立たせることを重要視しているし、EGBAがサザビーリーグのD2Cブランドをオフライン展開も含めて束ねていけるような会社になればいい。
――事業譲受の場合、経営者よりブランドのディレクターとの相性が大事になりそうだ。
もちろんnewnの中川綾太郎CEOともお会いしたが、引き受けるメンバーとの話し込みの方が多い。田中(編注:「COHINA」創業者の田中絢子氏)や物作りの中心メンバーとは何度か会わせてもらい、ケミストリーが合うと感じた。
田中としても他社さんからのラブコールがあったと思うので、われわれとの相性や互いにリスペクトできるかなどを考えたと思う。
「コヒナ」の顔は引き続き田中絢子氏
――田中さんは引き続き「コヒナ」のディレクターを務める。
その通りで、「コヒナ」の事業については、田中がフロントに立って販売の部分を担ってもらい、私は黒子に徹する。
――ブランド譲受では創業者が離れてしまうケースもある。
「コヒナ」事業を譲受するのに当たっては、田中が「コヒナ」の顔でもあるので、少なくとも何年かは頑張ってほしいということは伝えたし、彼女からも引き続き頑張りたいと言われている。
オフラインのタッチポイントなど顧客満足度アップへ
――新会社としては、まずは「コヒナ」の事業成長に注力する。
新会社として運営を始めたばかりだが、来年くらいにはオフラインの店舗を開設するとか、物作りのあり方を見直すことに取り組みたい。親会社のサザビーリーグは非上場企業なので、数字だけに踊らされることなく、しっかりと中身を作っていく。
――新会社にはサザビーリーグからも何人かジョインするのか。
私が兼務で社長を務めるのと、「コヒナ」に足りない部分はサザビーリーグのバックアップを受ける。主に管理系の部門だ。今回の事業譲受では商品、販売、宣伝のフロント部隊を中心に引き受けているので、管理部門のメンバーはほとんどいない。
――大部分のメンバーが「コヒナ」に残る。
その通りで、newnのなかで「コヒナ」を専任で見ていたメンバーはほぼ全員が残る。もちろん、インスタライブに出演していたインフルエンサースタッフも同様だ。
――消費者から見た「コヒナ」はそこまで変わらない。
そうだと思う。むしろ、ブランドを体験、体感できる場所を増やして、顧客満足度を高めていく。
――ポップアップストアも展開する。
引き続き、ポップアップを実施するし、9月18日~来年2月28日までは、「コヒナ」として初めて約半年にわたるポップアップストアを渋谷ヒカリエShinQsで開催する。
「コヒナ」のマーケティングをサザビーリーグにも活用
――「コヒナ」を運営することでサザビーリーグのほかの事業にプラスになることは。
互いにプラスになることがあると思う。直近で言うと、「コヒナ」のデジタルマーケティング、ファンの作り方に学びがあるので、サザビーリーグのブランドでもノウハウを共有できればいい。
「コヒナ」にとっては、リテールを本格的にやったことがないし、一般的なアパレルとしてスタートしたわけではないので、マーチャンダイズの開発だとか、アパレルの物作りのやり方の整備などをエッセンスとして入れていければと思う。
小柄女性のマーケットのシェア拡大めざす
――「コヒナ」の成長をどう予測するか。
小柄女性のマーケットを開拓する余地はまだまだある。売上高がすべてではないが、身長155センチ以下の成人女性は30%程度を占めるとも言われているので、足もとの倍以上の規模にすることも可能だと見ている。
ただ、倍にする方法、中身の方が重要だ。小柄女性に長く愛してもらえるブランドにしたいので、商品や顧客接点の持ち方に注力して10年、20年、30年と続いていくブランドにしたい。
――海外進出についての方向性は。
可能性はあるし、田中は海外展開にも関心があるので、一緒に取り組めたらと思う。日本のアパレルを海外に出していく難しさはあるが、小柄女性という切り口である一定のマーケット、とくに東南アジアなどは獲得できる可能性があると思う。
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