高島屋のECとカタログ通販が好調 コロナ禍のコマース戦略とは
高島屋は、EC事業がコロナ禍で急伸している。今期は人員の再配置も含めてEC事業の強化を図る。
同社の前期(2020年2月期)EC事業の売上高は前年比2桁成長で、期初計画通り推移した。とくに下期は歳暮やおせちといった大型商戦でしっかり売り上げを確保した。
EC売り上げは化粧品が大幅に増加
カテゴリー別では化粧品が大幅に伸びた。消費増税前の駆け込み需要だけでなく、増税後も成長を維持した。前期は店頭でのピッキング効率化にも着手。従来、化粧品の配送は8~10日間かかっていたが、4日後に届けられる仕組みを整備したことで、新規客の獲得とリピート購入にもつながった。
今期は新型コロナの影響で一時期、実店舗が休業を余儀なくされた。「高島屋オンラインストア」の掲載商品も実店舗各店からの出荷が大部分を占めることから、オンラインでも販売できない状況になることを避けるため、例えば横浜店から出荷していたコスメなどは休業にならなかった岡山店に出荷店舗を変更したり、休業店舗でも出荷人員を確保してEC対応を継続しコロナ禍の消費者ニーズに応えた。
一方で、出荷リードタイムはコスメの4日後届けを元に戻さざるを得なかったり、カスタマーセンターでは売り上げの急拡大に伴って問い合わせも増えたが、コロナの感染防止対策もあって受付時間を短縮するなどして対応したという。
EC事業部の売上高は3~5月が前年同期比2倍以上、足もとでも同70%増程度で、当初は備蓄品などのニーズが高かったが、徐々に少し贅沢な食料品などが売れ始め、その傾向が定着している。
自家需要を見据えECを強化、EC事業に人員を寄せる人事配置も
これまで、「高島屋オンラインストア」はギフトサイトとして成長してきたが、コロナ禍では自家需要の構成比が高まった。
また、今夏の中元商戦については当初、店頭のギフトセンターの来店客数として3割減を予想。その分をオンラインで補完する計画だったが、実際には、店頭はそこまで落ちず、オンラインは外部ユーザーや、ギフトセンターではなく百貨店利用者を獲得できたという。各チャネルでギフトセンターではなく、ECや電話など来店の必要がないチャネルを前面に打ち出して送客を強化したほか、友の会や自社クレジットカード会員など組織顧客向けキャンペーンを強化したことも奏功した。
高島屋は、今後も自家需要を見据えたネットビジネスの拡大に向けて下期は体制も変える。「高島屋オンラインストア」は各店からのエントリー制だが、とくにニーズが高まった自家需要商品は管理体制が不十分だったことを反省。「各店が思い思いにエントリーするのではなく、EC事業部が品ぞろえの方向性を明確に打ち出す」(西名香織EC事業部事業部長)という。
加えて、ECの運営体制を強化するため、各店からEC事業に人員を寄せるなどリソースの再配置を行う予定で、9月からの組織に反映する。
ECの品ぞろえについては効率を重視する方針で、ギフト商材を中心に商品数を絞り込むが、自家需要を狙える商材は基本的な品ぞろえを整えていく。メインは食料品となるが、ファッション商材についても「高島屋オンラインストア」で特選ブランドのコーナーを開設し、「ロエベ」などラグジュアリーブランドの取り扱いを9月から始めるという。
上半期は物産展をオンラインで開催。下期はライブコマースに挑戦
下期はライブコマースにも挑戦する。上期はコロナの影響で北海道、東北、九州の3つの物産展をオンラインで代替開催。グループ一丸となって、企画から2週間で開催にこぎつけた。また、高島屋本体のMD・バイヤーだけでなく、グループ会社のリソースも活用して物産展のページに生産者や産地の動画をさし込んで顧客に物産展の活気を伝えることにも成功した。下期は物産展でのライブコマースといった新しい売り方に挑む。
従来、集客が見込める物産展などの催事は実店舗だけを念頭に企画されていたが、今後はオンラインでの同時開催なども視野に、全社的な意識改革をさらに進める。
なお、「高島屋オンラインストア」の売上高は上期が前年同期比約70%増、下期は同40%増、通期で50%増となり、200億円を大きく上回る売上高を確保できると見ているが、上期ももう少し上振れする可能性もありそうだ。
カタログ通販は中価格帯のファッション商材が好調
高島屋のクロスメディア事業部は、主力販路のカタログ通販が好調を維持しているが、コロナ禍で配送費比率の高い食料品の売り上げ構成比が高まっていることから利益面の圧迫が懸念材料という。
同社の前期(2020年2月期)カタログ通販の売上高は前年比約6.5%増の141億円に拡大。営業利益も黒字を維持し前年から伸ばした。経費コントロールの徹底や競合の撤退もあり、年間を通じてトップラインを伸ばし、カテゴリー別では食料品やリビングも良かったが、利益率の高いファッション商材が好調を維持した。
ファッション商材では、通販顧客との相性がいい中価格帯商品の企画「スタイル・プリュ」が媒体の発刊回数を増やしたこともあって前年比65%増となった。また、百貨店店頭では大規模な売り場を展開していない大きいサイズのファッションについてもカタログでは20%程度伸びるなど、百貨店の信用力が発揮でき、かつ通販ならではの品ぞろえが売り上げ拡大に寄与した。
同社によると、百貨店店頭は17年以降、婦人服の売り上げが減少傾向にあるが、カタログの婦人衣料はこの数年、順調に拡大していることから、「百貨店店頭で取り扱っている価格帯の婦人服が苦戦しているだけで、中価格帯や大きいサイズなどを充実させればまだ伸ばせる」(郡一哉クロスメディア事業部長)としている。
「スタイル・プリュ」は婦人服でスタートしたが、前期はメンズを始動し、婦人服もチラシからボリュームアップして冊子化した。また、「スタイル・プリュ」はファッションカタログのコーナー名だったが、一部商品をプライベートブランドとしてブランドタグをつけて展開を始めている。
今期、コロナ禍のカタログ通販については、多摩の倉庫からの出荷と産直での配送となるため、「高島屋オンラインストア」のような影響はなかったが、生産・仕入れ面で一時期、中国からの輸入がストップし、商品展開時期が遅れるなどの影響が多少あった。
食品需要で新規顧客の開拓を強化
コロナ禍では食料品の売上高が急激に伸び、とくに缶詰などの保存食、カレーや牛丼の具といったレトルト食材、カップ麺などが売れ、在庫が底をついた時期もあったという。
クロスメディア事業部の顧客開拓については、引き続き新聞広告を活用して休眠顧客の掘り起こしと新規開拓を強化している。
また、同社は16年からカタログ事業の再生計画に着手し、足もとでは当該事業の売上高が構造改革前の水準に戻っているものの、規模適正化を図った歪みがコールセンターの応答率低下という形で顕在化。これにコロナ禍での通販需要拡大もあり、通常はウェブと電話、FAXで注文を受けるが、新聞広告は原則、ウェブだけで注文を受け付け、電話は問い合わせ窓口として記載した結果、利用者の7割がウェブで注文するなど、初めてEC利用に挑戦する顧客が増えるといった副産物もあったようだ。
コロナ特需で経費構造の変化を受けるカタログ事業
カタログは今年が70周年のため、顧客との絆を深める1年とし、上位顧客については“ご用聞き”のような形でほかの顧客に先行してカタログを届け、担当のオペレーターが電話をして注文を受ける取り組みも始めた。
従来から定期購入品やおせちの購入者などに対するアウトバウンドを行っていたが、今回はロイヤルカスタマーとのコミュニケーションをより深めることが主目的で、商売よりも意見を聞くことを重視しているという。
一方、カタログ事業はコロナ特需もあって売り上げ構成比が大きく変化している。この数年は利益率の高いファッションが引っ張ってきたが、今期はファッションの売上高がほぼ横ばいで推移しており、リビング商材は生活必需品もあって前年比約20%増、食料品は55%以上の成長率で推移しているという。
他のカテゴリーに比べて食料品の需要が急増していることから経費構造も変化。構造改革に着手した当時のビジネスモデルが通用しなくなってきているのが不安材料だ。実際に受注経費や配送費、紙代などが数年前と比べて上昇しており、売上高は引き続き拡大しても利益率を大きく下げそうだ。
なお、今期のカタログ通販の売上高は、上期が約15%増、下期は5%強の伸びを見込んでおり、通期は160億円程度での着地を見込む。
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