通販新聞 2018/5/14 6:00

この10年、売上高の減少傾向が続いているフェリシモ。地方自治体向けの支援事業など、これまでとは毛色の違う取り組みも始めているが、中核となるのは色・柄・デザインの違う商品が毎月1回届くコレクション(定期便)事業。しかし、近年は消費者がデザインを選べる商品の数を増やすなど、試行錯誤が続いている。売り上げ減に歯止めをかけるべく、新たに打ち出したのが「クラスター戦略」。じり貧脱却に向けた次の一手とは。

フェリシモの2018年2月期連結業績は、売上高が前期比5.2%減の292億8500万円、営業損益は8億5900万円の黒字(前年同期は4億9900万円の赤字)、経常損益は9億1500万円の黒字(同4億9300万円の赤字)、当期損益は9億9600万円の黒字(同75億4800万円の赤字)だった。17年2月期は物流センターの減損損失を計上していたため、減価償却費が減少したほか、広告費などの経費見直しにより、販管費が前年同期比12.5%減少したことで、黒字に転換した。

フェリシモの業績

ただ、売上高は前期も減収。顧客数は、商品CMとタイアップしたキャンペーン施策やウェブに注力した販売活動が奏功し、新規顧客は前期を若干上回る獲得実績に。ただ、継続顧客が減少したことで、コレクション事業全体の売り上げが減少した。19年2月期の業績予想は、売上高が前期比3.2%増の302億1500万円、営業利益は同39.8%減の5億1700万円。配送関連コスト上昇が響き減益となる見通し。

同社では近年、売り上げを大きく減らしており、5年前と比較すると約3分の2まで落ち込んでいる。10年前の08年2月期には、売上高が549億円あったことを考えると深刻だ。主力のコレクション事業において、顧客減が止まらない状況が続いていた。

これを受けて、同社では17年2月期、ファッションアイテムを中心として、消費者がデザインを選べるジャストワン(指定買い)で購入できる商品の数を増やす方針に切り替えた。しかし、「やってはみたものの、当社の強みとはリンクしないという感覚があった」(宮本孝一執行役員)。コレクションの弱点である返品率は下がったものの、継続購入率が低下したことで売り上げが落ち込み、17年2月期は二桁減収となってしまった。

そこで、同社では前期途中から方針を再転換。「顧客と継続的に毎月つながるコレクション事業において、独自の価値を提案していくのが強みと痛感し、一旦切った舵を元に戻した」(宮本執行役員)。そして、新しい方針として打ち出すのが「クラスター戦略」だ。

これは「ニッチではあるが確実にファンがいる商品やサービスを立ち上げる」というもの。ニッチなだけではなく、新しい切り口からの価値提案を行うという。例えば「フェリシモ猫部」は猫好きを対象とした事業だが、他社にはない、ユニークな切り口といえる。宮本執行役員は「こうした個人の喜びの源になるニーズをしっかりと切り取って、そこからマーケティングを展開していきたい」と話す。さらには、物販だけではなくサービス提供による収入も増やしていく。「猫部」であれば、猫のための保険を提供するなどといったものだ。

とはいえ、ネット販売の世界では、ニッチな需要にマッチした通販サイトが無数にある。こうした競合に打ち勝ち、存在感を示すにはどうすればいいのか。宮本執行役員は「クラスターを設計する上で重視しているのは『フラッグ』を立てること。『こんな社会を作りたい』というフラッグを立てた上で、クラスターを築いていく。顧客に対して、一緒になって未来づくりに参加する機会を提案していきたい」と話す。

例えば「猫部」は「殺処分される猫を1匹でも救いたい」という理念があり、「猫と人間が共に幸せに生きることができる社会を作りたい」という理想につながる。そのため、販売する商品には基金がついており、さらには、猫の譲渡会などのイベントも定期的に開催している。

こうした接点を活用し、「顧客と販売者という関係性を超えた関係を構築することで他社との差別化を進めたい」(宮本執行役員)。神戸市内にある「デザイン・クリエイティブセンター神戸」内に同社のスペースを展開しており、イベント開催などを実験的に行っている。今後は、積極的に顧客との交流会やセミナーといったイベントを開催していくという。

衣料品事業についてはこれまでとは立ち位置を変える。具体的には「衣料品だけを販売するようなブランドから脱却し、『フェリシモ的な価値観』を世の中に訴えるにはどうあるべきかという原点に立ち返る」(同)。例えば主力ブランドの「イディット」であれば、「AかBを選びなさい」と言われてきた女性たちに対して「AとBを両方選ぶ生き方もある」と提案していくのだという。「イディット的な服」を販売するだけではなく、「イディット的な旅行」や「イディット的なオフの楽しみ方」など、ファッションアイテム販売以外のサービスを展開しながら、「イディット的な価値」が楽しめるクラスターに育てる狙いだ。

フェリシモの主力アパレルブランド「EDIT(イディット)」
主力ブランド「EDIT(イディット)」

事業整理はしない

近年、大規模な事業整理を進める総合通販が出てきているが、宮本執行役員は「そうした考えはない」と断言する。すでにこの数カ月、離脱顧客が想定より少ないトレンドが続いており、これは「クラスター戦略が部分的に機能してきた成果ではないか」(宮本執行役員)。ようやく売り上げの下げ止まりがみえてきたようだ。

自前主義で事業を進めてきた同社だが、今後はM&Aや他社との提携も積極的に行う。宮本執行役員は「新しいクラスターの種になりそうな事業を手掛ける企業、サブスクリプション(定期)型のビジネスモデルを手掛ける企業、特定のテーマで一定の顧客を抱えるメディアやコミュニティーサービスを手掛ける企業、海外販路の開拓に役立つ企業という4つの切り口から検討したい」と話す。

同社では、クラスターを500個作ることを目標としているが、現段階でのクラスターは約20個。自社だけで500のクラスターを作るのは困難なため、外部との連携に活路を見出す。同社では、培ってきたノウハウやインフラなどを活用した支援事業を新規事業として立ち上げており、最初は同社の機能を外部企業に開放して使ってもらい、その後は一緒にクラスターを作っていく、と段階を踏んで協業を進めていくという。

また、現在のターゲットである30~50代女性向けだけでは限界があることから、新たな顧客層開拓も進める。すでに、若者向けのファッションブランドとして「MEDE 19F」を立ち上げているほか、シニア層向けファッションも強化する方針。加えて、マタニティーの領域も重要視しており、幅広い年齢層をカバーすることでライフタイムバリューの向上を図る。また、海外向け事業についてはパートナーを探している段階だが、それ以外でも越境ECを強化する。

クラスター1個あたりの売上高は10億円程度を想定している。クラスターの数を増やすことで、売り上げを積み重ねていく状況を作るのが目標で、宮本執行役員は「そうなれば結果として業績も成長軌道に乗るのではないか」と語る。

紆余曲折を経て、「ニッチ分野」における顧客との関係性強化に活路を見出すフェリシモ。独自の世界観に基づく商品にはかねてより定評があるが、継続率低下に悩んできた経緯があるだけにMD改革をどれだけスピード感を持って進められるかがカギになりそうだ。

【宮本執行役員に聞く今後の戦略】「得意な領域に時代がシフト」“2次拡散”で新規獲得

今後のクラスター戦略などを宮本孝一執行役員に聞いた。

フェリシモの宮本孝一執行役員
宮本孝一執行役員

――今後の方向性について。

規模を追い求める経済は終わったと思う。今後重要になってくるのは関係性を重んじた経済であり、顧客とどれだけ継続的に付き合えるかが生命線になる。現に、ネット動画サービスなどを中心に、サブスクリプション型のビジネスモデルがどんどん出てきている。当社はコレクションというスタイルで、こうしたビジネスを昔から手掛けてきた特殊な通販会社だ。当社が得意な領域に時代がシフトしてきているという感覚を持っている

――コレクションを重視する戦略に戻す。

「当社の売上高がこの10年、シュリンクしていた理由の一つとして挙げられるのが、カバーしている領域が狭くなっていったことだ。例えば、売上高が大きかった頃は子供服の分野が非常に強かったし、フェアトレード商品を扱う事業をやっていたり、左利きの人向け事業があったり、さまざまな領域をカバーしていた」

「現状の当社はカバーしている領域が以前に比べるとかなり狭くなっている。それを、これから新しいクラスターをどんどん作っていくことで、もう一度『面』を広げていきたい

――新規顧客の獲得策は。

「これまで通りカタログとインターネットが中心となるが、加えて考えていきたいのが2次拡散、つまり顧客から発信してもらうことだ。顧客に参画してもらい、その後に発信したくなるようなコンテンツが必要になるだろう。最近は従来型の広告メディアの反応が悪くなっており、届かない領域が増えている。そこを個人のSNSなどを使った2次拡散で埋めていく。猫部の商品などはSNSでも非常に人気があるが、まずは認知してもらうことが重要で、そこから長期的につながることができる関係性を育んでいきたい」

――衣料品の主力ブランド「イディット」について。

「『家庭か仕事か』など、いちいち選ぶ必要はない。『本当は両方選びたい』と思っている女性が生きやすい社会を作ろう、というのがイディットのフラッグだ。ファッションアイテム販売以外のサービスも展開したい」

「一貫した価値の中で事業の収益モデルを広げていく。フラッグが不透明だと価格競争だけになり、当社に勝機はない。フラッグを確立するのはもちろんのこと、ユニークであること、顧客から見て本気であると分かってもらえることも重要だ。クラウドファンディングなども活用しながら、顧客に参画してもらい、ブランドから生まれる価値観に基づいた社会を作っていきたい

――今後のクラスター戦略は。

「クラスターの数を増やすことで売り上げを積み重ねていく状況を作るのが目標で、結果として業績も成長軌道に乗るはずだ。ただ、あまり無理にクラスターを拡大するのは良いことだとは思っておらず、ビジネスのことだけを考えて投資していくのは、すでにあるコミュニティーを破壊することにつながる可能性がある。クラスターに属する顧客のことを考えて、そのスペースを守るためのマネージをすることが大切だと思う」

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