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DX経営図鑑

この記事は、書籍『DX経営図鑑』の一部を特別にオンラインで公開しているものです。

Part 2「業界別に見るDX事例
 》 Category 1「小売
 》 「Glossier コミュニティのハピネスの上に成り立つコスメの新星」より

Glossier(グロシエ)はミレニアル世代をターゲットとしたコスメブランドとして2010年にニューヨークで設立されました。DtoCに関するマーケティングや事例紹介の記事では常連となり、今やアメリカでは爆発的な人気を誇るコスメブランドです。2018年には売上1億ドル、評価額が12億ドルを突破してユニコーン企業の仲間入りを果たしました。創業者のエミリー・ワイスは2019年に雑誌『TIME』が発表する次世代を支える100人、“TIME 100 Next”に選ばれています。

はじめはブログから

Glossierは最初からDtoCブランドだったわけではありません。創業年の2010年というのは、創業者ワイスが運営する「Into The Gloss」というブログ開始の年です。彼女はニューヨーク大学を卒業後、世界的ファッション誌『VOGUE』のアシスタントスタイリストとして働いていました。Into The Glossは彼女自身がファッション業界についての発信を通じて情報交流を行い、スタイリストとしてのキャリアに生かすために始められました。そして、ブログの「バスルーム・インタビュー」と呼ばれるシリーズが一躍有名になり、急速にファンを増やしていったのです。

「バスルーム・インタビュー」はワイスが『VOGUE』の仕事を通じて知り合った女優やモデルなどのバスルーム(洗面所)を訪問してインタビューし、セレブリティがどのようにコスメやスキンケア商品を整理して日常的に美容ケアをしているのかを紹介したものです。セレブを身近に感じられるこのコンテンツはすぐに人気に火がつき、SNSで拡散され、それによってさらにブログファンが増えていきました。

2013年、ワイスは退社してブログ制作に専念するようになります。その翌年、Into The Glossで得たセレブからのアイデアやユーザーの要望を反映する形で、オリジナル商品のGlossierシリーズをリリースしました。

コミュニティの上に立脚したユーザーのためのコスメ

Glossierは自ら製造した商品をショールームで公開し、オンラインで販売する典型的DtoC企業です。彼らの最大の特徴は、デジタルコミュニティに立脚している点です。つまり、ブログInto The Glossのファンが顧客であり、商品開発の発案者であり、宣伝担当でもあるのです。

コミュニティのユーザー(ファン)が欲しいと思うものを実際に作り、批評してもらい、認知拡散や商流開拓もファンによって行われます。このため、ブランド認知と共感のためのマーケティングはしても、販促目的のプロモーションは行いません。ドラッグストアや百貨店の化粧品フロアはもちろん、Amazonにですら販売せず、全て自前のデジタルメディアで販売します。一部の新商品や定番商品はショールームでも買えますが、基本的にはオンラインで購入し、店舗で受け取る形式です。

Glossierは大量生産することで原価を下げ、量販店で大量に販売する、という従来のビジネススタイルに意識的に対立しています。必要とされるアイテムを開発し、必要なだけ生産する。原価を下げるために店舗や販促などのマーケティングコストを下げる。サステナビリティの実践を重視し、大量生産・大量消費について強い問題意識を持つミレニアル世代の意思を具現化したブランドであり、だからこそ、ファンはGlossierがより良くなるための商品開発や販売促進に貢献するのです。GlossierのビジネススタイルはBonobosと同様に、長期的な顧客価値体験の向上を主眼とするDNVBの一角として、単純な直販型のDtoCブランドとは一線を画すポジションを取っています。

Glossierが取り除くペイン
──品質確信までの時間を最小化する

Glossierは小売店舗での販売を行わず、デジタルで決済し、配送によって商品を届けるので、店舗訪問やレジ待ちがないという点では他のeコマースやDtoCと同じペインを除去しています。

ただ、Glossierのペイン除去の本質は、化粧品の消費者がブランドへの安心や信頼を確信するために費やす「時間と労力」を最小化しているところにあります。「品質への確信」を提供しているのです。

これまでの化粧品業界は、セレブリティを起用したブランドイメージの構築と大量の広告投下によって「確からしさ」を演出してきました。また、科学的根拠やユーザーの声とされる情報を用いて、さまざまな角度からその「確からしさ」を説明することで消費者の信頼を得てきました。

一方で、常に類似した商品がしのぎを削り、画像加工による誇大広告も多く、時には成分偽装による被害もあったりするので、現代の消費者は化粧品ブランドのプロモーションを斜めに見るようになっています。何より、デジタルメディアの隆盛によって、埋もれていた良い商品を見つけ出すこともできる時代です。特にミレニアル世代の消費者は、ブランドのプロモーションを真に受けず、ソーシャルメディアで商品レビューを確認したり、購入する前に比較吟味したりします。本当に良いものを探し出すというモチベーションそのものが、「探求負荷という新たなペイン」を作り出しているともいえるのです。

Glossierの前身であるInto The Glossはそのような商品レビューも含めて人気を博し、メイクアップのプロの視点から「あるべき化粧品の姿」をコミュニティと一緒に作ってきたという歴史がブランドの核心になっています。伝統的ブランドのマーケティング情報を疑うようになった消費者にとって、Glossierの商品は最初から「確からしい」商品であることが担保されており、安心して熱狂できる土台があるのです。

Glossierが作り出すゲイン
──愛するブランドに貢献するハピネス

Glossierが新たに作り出す価値は、ファンによる「自分たちがこのブランドを支えている」という自負でしょう。

これまでの化粧品業界は、ユーザーインタビューを注意深く行い、その意見を生かして商品を開発してきました。しかし、そこに参加できるのは商品を所持しているわずかな人たちだけでした。

GlossierはInto The Glossというブログが形成したコミュニティが全ての基盤です。Glossierの良さを伝えたい純粋なファン心理と、紹介した相手がGlossierを気に入ってくれる喜びを原動力に、コミュニティメンバーがGlossierの当事者として活動しているのです。

事実、Glossierは新規顧客の約8割がコミュニティからの紹介であると発表していて、コミュニティメンバーが自発的に開設したGlossier応援のためのInstagramアカウントは大きな流入元になっています。

コミュニティはGlossierという誠実なブランドを人に伝え、それによって得られる幸せ──ハピネスをゲインとして受け取っています。

  • 著者: 金澤 一央、DX Navigator 編集部
  • 発行: 株式会社アルク
  • ISBN: 978-4757436787
  • 価格: 2,310円(税込)

勝てるDXの本質
~次に生き残るのは、誰か?~

世界の伝統的企業やスタートアップがいち早く取り組んできたDXの数々。各事例をつぶさにレポートしてきた「DX Navigator」編集部の知見をまとめ、事例分析と価値提供のプロセスを可視化した一冊です。

本書は世界全32社のDX事例を収録。いずれも、顧客/ユーザー視点での「ペイン(苦痛)」と「ゲイン(利得)」を切り口に、顧客/ユーザーが最終的に得た「価値」について解き明かします。

Part 1では、従来の商習慣や価値提供の概念を新しい基準に転換させた「ゲームチェンジャー」である9社―Netflix、Walmart、Sephora、Macy’s、Freshippo、NIKE、Tesla、Uber、Starbucks―を取り上げます。

Part 2では、海外のスタートアップを中心に日本企業も加えた23社の事例を、業界別に紹介。多くの顧客/ユーザーから支持を得た、各社のエッジが効いた斬新なアイデアとその背景に鋭く迫ります。

日本の「DXブーム」には問題も潜んでいます。DXとは単なる技術導入やカイゼンを言い換えた言葉ではなく、「ユーザーが最終的に得る価値」を見つめ、新しい価値提供の仕組みを創り出すということ。これからも続く企業の変革、世の中の変革のなかで、次に生き残るのは誰か?

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金澤一央+DX Navigator 編集部

金澤 一央

アジアクエスト株式会社 執行役員CMO/DX戦略室長

兼 DX Navigator編集長

大手GMS、インテグレータを経て、ネットイヤーグループ株式会社参画。同社戦略プランナー、プロデューサーを経てアナリシス&オプティマイゼーション事業部長 に就任。通算1,000件以上 のデジタル・マーケティング・プロジェクト(コンサルティング、制作開発、データ分析など)を牽引。2016年留学渡米に伴い同社フェローに就任。2019年よりアジアクエスト株式会社DXフェロー兼DX Navigator編集長。

2012年よりデータ分析国際カンファレンスi-comのData Creative Awards審査員。

ニューヨーク大学大学院プロフェッショナル学部在学中(M.S.Integrated Marketing)

東京工業大学大学院エッセンシャルMOT修了

高崎経済大学経済学部卒

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