通販新聞[転載元] 2023/3/28 7:00

東日本旅客鉄道(=JR東日本)では、運営している仮想モールの「JRE MALL」が、開設から間もなく5年を迎える。鉄道サービスだけにとどまらず、より幅広いシーンで人々のライフスタイルを支えるサービスとして展開。出店者数や利用者数は年々右肩上がりで拡大している。

コロナ禍で鉄道事業を巡る環境が変化を見せる中、鉄道会社ならではのEC戦略や今後の目標について、運営担当の寺迫浩司氏、百瀬祐二氏の両マネージャーに聞いた。

東日本旅客鉄道(JR東日本)運営担当の寺迫浩司氏(左)、百瀬祐二氏
東日本旅客鉄道(JR東日本)運営担当の寺迫浩司氏(左)、百瀬祐二氏

ふるさと納税や独自体験イベントが反響

――取扱商品数や出店数について。

寺迫:公表している2022年9月時点の数字で、会員数は64万人で対前年比145%、出店店舗数は450店で同167%。ここにはふるさと納税の出店自治体も含まれていて、それが大幅に伸びており、22年3月時点では約150自治体だったのが、同9月で約250自治体まで増えた。

JR東日本が運営する「JRE MALL」(画像は「JRE MALL」トップページから編集部がキャプチャ)
JR東日本が運営する「JRE MALL」(画像は「JRE MALL」トップページから編集部がキャプチャ)

寺迫取扱商品数は122万点。以前からビックカメラさんに出店していただいていて、同9月からデータ連携を本格化したことで、そこで100万点以上増えたということがある。ビックカメラさんでは家電だけでなく、雑貨関係など幅広く取り扱っていてそちらの商品も入ってきている。

――出店開拓を強化している印象、その方法や基準とは。

寺迫:基本的にはこちらから営業の声がけをさせていただくケースが多い。モールという業態なので、デイリーな商材を強化したい面があり、まだまだ欠落している部分や十分に賄えていないカテゴリーがあるので、そこを考えながら取り組んでいる。

――利用者数の推移や特に好調だった商品は。

寺迫セッション数や注文数で見ると、前年の1.5倍程度になった。また、22年度は鉄道開業150周年という記念イヤーでもあったので、そこでの関連グッズは独自企画の商品として好評だった。鉄道150周年の記念Suicaをモール限定で販売したり、非常に高額な商品では1500万円の純金製モデルの機関車なども発売した。

寺迫:特徴的なところでは、体験イベントの販売に力を入れた。JRで言うと、以前から行っていた車両基地の公開などをチケット制にしたもの。撮影会や体験ツアーなどを商品として販売し、非常に好評だった。そういった商品の一部はふるさと納税の返礼品としても取り扱われていた。駅長体験など独自性を高めたものもある。

「JRE MALL」内に設けている、鉄道開業150周年を記念したサイト(画像は「JRE MALL」トップページから編集部がキャプチャ)
「JRE MALL」内に設けている、鉄道開業150周年を記念したサイト(画像は「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)​​

ファミリー向けとマニア向け、2軸をターゲット

――体験イベント商品などのターゲット層や狙いとは。

寺迫:年齢などを絞ったわけではないが、ファミリー向けと、いわゆる(鉄道)マニア向けというケースでプランをそれぞれで変えて展開している。鉄道ファンは大きく分けるとこの2つになるので、今後はもっと細かく、たとえば女性向けなども含めてアプローチできれば。

もともとは無料でイベントを公開していたが、コロナでそれらの機会が無くなってしまった。イベント再開に当たって、(コロナ禍で)鉄道事業が落ち込んでいたこともあり、しっかりと収入を作るという意図がある。

また、イベントを行う上で、参加者の人数を絞って(情報を)把握したいことからもチケット制とした。今回、150周年ということで、各現場の社員の方たちも熱を入れてイベント企画に取り組んでいるので実績としてあがっている。

――販売元は。

寺迫モール内ではJR東日本が直接販売をしている。当社にあるそれぞれの支社が「支社ショップ」として出店していて、たとえば高崎であれば高崎支社が(その現場に関する)商品を販売しているという形。イベント商品は好評の企画となり、リピーターも見られている。だいたいボリュームゾーンの価格帯は1万5000円くらいで、ライトな内容のものでは撮影会が人気だ。

――地産品のような食品の人気は。

寺迫特産品も含めて継続的に伸びているカテゴリー。一般的にモールでは水や米などが売れやすく、こちらも売れ筋となる。

地産品の食品も堅調な人気を得ている(画像は一例。「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)
地産品の食品も堅調な人気を得ている(画像は一例。「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)

会員外からの集客も強化へ

――22年のEC市場は全体的にコロナ特需の反動減があったが、こちらでは伸びている。

寺迫:まだまだ成長段階のモールであり、出店者数やふるさと納税が拡大していることでセッション数や注文数が伸びている面もある。

――モールへの集客施策について。

百瀬:前年までは(グループの共通ポイントサービスである)「JRE POINT」を利用促進するためのモールだった(22年10月末時点でのポイント会員数は1319万人)。今期は外部向けのモールとしても展開していこうとする部分が大きい。そこでJR東日本が持つアセットを最大限に活かしていくということになる。リアルでのわかりやすいところでは、駅や電車内の広告をしっかりと活用することがある。

百瀬:私自身、千趣会から来たが、今回、効果があったと感じたものでは、駅の改札口の放送でモールのキャンペーン内容を告知するというもの。直営でないとできない取り組みであり、その放送した内容がさらに(駅構内などの)デジタルサイネージでも掲載されていて、認知拡大につながっている。

デジタルメディアチームを発足、千趣会のノウハウも活用

――販促について。

百瀬:ウェブでの販促設計に関しては、以前はリターゲティング広告などが上手く回っていなかった面もあり、2022年8月に千趣会からのノウハウも提供できる専任部隊として「デジタルメディアチーム」を作って本格的に取り組み始めた

ちょうど、ふるさと納税のピークが10月~12月だったので、ここでリターゲティング広告が効率的に運用できたことで、前年よりも獲得セッション・コンバージョンが取れた。広告内容のクリエイティブや出すタイミングなども含めて、自社で運用・管理を徹底できるようになったことは大きいと思う。

寺迫:関連して22年6月には組織改正も行った。駅ビルやECなどを行うチームの「事業創造本部」に、旅行業や商品企画、ITなどのチームがすべて一緒になって「マーケティング本部」という1つの組織になった。

先ほどのウェブ広告の話もそうだが、電車内での広告の出し方などについても、同じ1つのチームの中でコミュニケーションを図って行えるようになったことが好影響している。

――ポイント会員外からの新規顧客は増えているか。

百瀬最終的にはポイント会員になっていただくのがグループの目標であり、モールを利用するために会員になろうという人は徐々に増えている。まだまだ、スピードは足りないとは思うが、それでも10万人単位で伸びている。

25年に取扱額を1300億円へ

――今後の施策や目標について。

寺迫25年にモールの取扱額として1300億円をめざしていることに変わりはない。まだ、モールとしてはカテゴリーが完全に充足できているわけではないため、たとえば、スポーツ・アウトドア系、Bookなどのカテゴリーを充実させていくことがある。

スポーツやアウトドア系のカテゴリーは今後さらなる充実を図る(画像は「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)
スポーツやアウトドア系のカテゴリーは今後さらなる充実を図る(画像は「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)

寺迫:あとはふるさと納税も、今大きく伸ばしていきたいところ。従来だと肉や魚のような商品があるが、当社らしく鉄道を利用した独自の返礼品も提供したいと思う。例えば、新幹線と宿泊のセットであったり、観光列車を絡めた返礼品などは研究していきたいところ。

ふるさと納税のさらなる引き合い増加も期待される(画像は「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)
ふるさと納税のさらなる引き合い増加も期待される(画像は「JRE MALL」から編集部がキャプチャ)

――ライブコマースなど、新しいEC関連ツールへの興味は。

寺迫:興味はなくもないが、現行のシステム的な限界も色々あるため、今後システムをどう見直していくのかを含めて考えていくところかなとは思う。

――金融サービスへの参入など、鉄道事業以外での動きも活発化しているが、その中でEC事業の位置付けとは。

寺迫:1つはJREポイント経済圏をしっかり確立していきたいということ。その中で、ポイントを使うこともできて貯めることもできることがモールの大きな特徴になる。鉄道に乗って貯められるようにもなっているので、そうしたものの魅力を高めていく1つのツールとして機能させていくことが大事。

また、提供するカテゴリーが広がっていけばさまざまなライフスタイルのシーンで使ってもらえることになるので、比較的若い層から年配の顧客まで幅広い層にリーチできる。そうしたところを強化していくことでグループ内のECとして確立していきたい

「リアルの強みをECにも生かしたい」

――23年のEC市場の展望について。

寺迫:我々は鉄道の会社であり、鉄道利用自体はやはりコロナ禍において回復途上にある。リアルでの移動やショッピングなどは回復しつつあるが、とは言え、コロナ前にすべて戻るかというとそうではない。

たとえば、在宅勤務が増えたりするなど人々の働き方やライフスタイルも変わっていっている。その中でECや通販はしっかりと伸びているカテゴリーだと思うので、そこの部分は我々はまだまだチャレンジャーの立ち位置であり、拡大できる余地があるので、積極的に成長させていきたいと考えている。

鉄道というメインの事業がありながらも、駅ビルやエキナカ、ホテルなども含めた大きな企業グループであり、そのリアルの強みをどうやってネットでも生かしていくかが我々のチャレンジになるかと思う。

その中で利用してもらうためにはどういった形で価値を届けられるかが重要になるだろう。独自性やオリジナリティのある商品をしっかりと企画していけるか、また、UI・UXも含めた使い勝手の良さなどは継続的に改善していく必要がある。

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
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