通販新聞[転載元] 2023/3/23 7:00

楽天グループが運営する仮想モール「楽天市場」が成長を続けている。2022年12月期における国内EC流通総額は、前期比12.3%増の5兆6300億円に。競合他社と比較しても高い成長率を維持している。

2030年までに国内EC流通総額10兆円をめざす同社では、「楽天モバイル」の契約者増をテコに、「楽天市場」をさらに成長させていきたい考えだ。

松村亮常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーヴァイスプレジデントに昨年の「楽天市場」を振り返ってもらうとともに、今年の戦略を聞いた。

松村亮 常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーヴァイスプレジデント
松村亮 常務執行役員コマース マーケティングカンパニーヴァイスプレジデント

楽天が成長した3つの理由とは?

エコシステム(=楽天経済圏)が成長エンジンに

――2022年を振り返って。

コロナ禍が一巡、二巡した環境化ではあったが、引き続き非常に強い成長力が維持できた。国内EC流通総額は5兆6000円となり、2桁成長を遂げたということで、非常に良い1年だった。

「楽天市場」に関しても、顧客が増加しているほか、購入額も堅調に成長しているので、流通額が増えただけではなく、成長の仕方という意味でも良かったのではないか。

――世界的に見ても、コロナ禍が落ち着いて苦戦するEC企業が多かった。楽天市場が好調だった理由は。

3つあると思う。1つは、楽天がエコシステムを築いており、引き続き強化されているという点だ。ポイントアッププログラム(SPU)を中心に、楽天のサービスを使えば使うほど、「楽天市場」での買い物が得になるという仕組みになっているので、そこが非常に機能しているということ。

その中でも「楽天市場」と楽天カードの親和性は非常に高く、お互いに成長を続けてきた

現在でも楽天カード所有者の方が非所有者よりも購入額が明らかに高い。そして、昨今は楽天モバイルも貢献している。昨年はSPUを改定し、楽天モバイルユーザーのポイント倍率が最大でプラス3倍となった。こちらも楽天モバイル加入者の購入額が非加入者よりもかなり高くなっており、成長エンジンとなった。

つまり、楽天エコシステムとの掛け算が強化されており、さらにはエンジンとして非常に強力なので、マーケットの強弱にあまり左右されないということだ。

ポイントを「ためて使う」良い循環

2つ目は、「楽天市場」自身のサービス改善と品質改善。「楽天市場」自身も「使えば使うほどお得になる」という仕掛けであり、これは「楽天スーパーセール」や「お買い物マラソン」の「買い回り」という仕組みにもあらわれているが、最近はブラックフライデーなど季節のイベントも増やしている。

消費者にとっては、「楽天市場」で買い物する機会が増えてポイントがたまり、そのポイントを買い物で使うという循環がきちんと作れている。これもマーケットの強弱とは関係なく、「楽天市場」で買い物をし続けてもらえるポイントだろう。

エコシステムでのポイント循環が多くのエンドユーザーに定着している(画像は「楽天市場」から編集部がキャプチャ)
エコシステムでのポイント循環が多くのエンドユーザーに定着している(画像は「楽天市場」から編集部がキャプチャ)

長年の課題だった配送のスコアが上向き傾向

3つ目は配送回りの強化。「送料込みライン」に参加する「39ショップ」の参加店舗が昨年末に95%を超えた

消費者にとっては大半の店舗が対応している感覚になっているようで、顧客推奨度を示すネットプロモータースコア(NPS)に関して、配送関連のスコアの低さは長年の課題だったが、ここ数年大幅に拡大している。これも成長の要因だろう。

レコメンドのAI活用に投資

――人工知能(AI)やビッグデータを使ったサービス改善については。

商品ページにおいては、さらなるパーソナライズ化を進めている。たとえば、個別なイベントやキャンペーンに関して、喜んでくれそうな顧客にだけ参加してもらうようにする、などというものだ。

レコメンドについても中身が改善を続けている。データに関していえば、ここ数年カタログデータに投資を進めている。「楽天市場」では、同じ商品を複数店舗が販売している場合、商品検索画面では違うものとして表示されるという問題点がある。

カタログデータを活用することで同じ商品と認識し、その商品を扱っている店舗の一覧ページに遷移し、価格を比較できるようにしているわけだが、その精度をどんどん上げている。

「この商品とあの商品は同じである」と自動で見分けるのは結構大変で、もちろん人力ならわかるが、「楽天市場」には何億という商品があるので物理的に無理。データを整理するためにAIを活用しているわけだ。

また、楽天社内では「タブロー」という分析プラットフォームを使っているが、ECコンサルタントが店舗にコンサルティングをする際、「タブロー」を活用しながらデータを分析し、提案できるようにしている。

広告関連でもデータ活用は進んでおり、ここ最近伸びているRPP広告(検索結果表示広告)にも生かされている。

レコメンドのAI活用に力を入れている(画像はレコメンドの一例。「楽天市場」から編集部がキャプチャ)
レコメンドのAI活用に力を入れている(画像はレコメンドの一例。「楽天市場」から編集部がキャプチャ)

配送品質基準のラベル化で配送品質を向上

ラベル付与は“2023年の年内に発表”

――配送品質が高い商品を優遇する仕組みとして、基準を満たした商品にラベルを付与する仕組みを導入する。配送品質の基準に関しては「納期順守率96%以上」「6日以内の配送件数比率80%以上」「出荷件数が月に100件以上」「送料込みライン導入」「午前の注文については常に翌日届けを、午後の注文については常に翌々日届けを指定できるようにすること(『あす楽』に対応)」といったものを検討しているとのことだが、具体的にはいつ頃決まるのか。

仕組みの導入は来年なので、これから店舗とコミュニケーションを取りながら、年内にも発表したい。

――ラベルは店舗ではなく商品に付与されるのか。

店舗基準と商品基準の2つを考えている。実績として店舗が基準を満たしていれば、「あす楽」対象の全商品にラベルが付与される。新たに商品が追加された場合でも、「あす楽」対象ならラベルが付与されるわけだ。

――ラベルが貼付された商品は、「楽天市場」内検索で優遇されるのか。

ユーザーから見て品質が良い商品を上に表示するというのが、モール内検索の基本的な考え方だ。配送品質が良い商品に関しても、ユーザーが目にしやすい場所に表示されるということになるだろう。

――ラベルが貼付された商品を絞り込んで検索できるようにするのか。

これから議論していくが、機能として検討する。

――どの程度の店舗にラベルが与えられるのか。

それなりの時間をかけて増やしていかなければいけないと思っているので、制度を導入していきなり90%が対応ということにはならないだろう。

ただ、ユーザーにとっては配送品質が高い方が良いことは店舗にも納得してもらえると思うので、きちんとオペレーションが回るよう、我々がサポートしていく。

「楽天スーパーロジスティクス」導入店舗は10%超

――「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」の導入を求めていくのか。

RSLは基準を満たしているので、店舗の選択肢の1つにはなるはずだ。ただ、店舗自身で基準を満たせるのであればラベルは付与される。

――RSLの導入店舗が6000店超になったとのことだが、数年後の目標店舗数などはあるのか。

具体的に目標をイメージするのは難しいが、全店舗の10%を超えたというのは、ようやく1合目に到達したという感じだ。そのため、次のステップとして20%、30%をめざしていきたい

「楽天スーパーロジスティクス」の導入は堅調に進んでいる(画像は「楽天スーパーロジスティクス」サービス紹介ページから編集部がキャプチャ)
「楽天スーパーロジスティクス」の導入は堅調に進んでいる(画像は「楽天スーパーロジスティクス」サービス紹介ページから編集部がキャプチャ)

ベースのサービスはできているのだが、もっと店舗を取り込むために細かいサービスにも対応していきたい。店舗と話をすると、大筋は良くても物理加工をしていたり、特殊な処理をしていたりという場合があって、その部分が解決できないと移行できないということがある。

もちろん、細かくカスタマイズするのは難しいが、良くある要望についてはメニューとして用意していく。

たとえば、180サイズ以上の大型商品の取り扱いを開始するほか、メール便の翌日配送や熨斗(のし)シール貼付への対応を決めた。こうした取り組みを進めていけば、今よりもっと多くの店舗に活用してもらえると思う。

ファッション分野のプレゼンス向上を計画

――販促施策としては、近年ライブコマースを強化している。

売り方をもっと多様化しないといけない。モール内検索や広告を導線とした従来の手法以外にも、ユーザーに店舗の商品を紹介する手法を増やす必要がある。その1つがライブコマースということだ。

さまざまなジャンルの店舗と取り組んできたことで、どういった企画ならユーザーに訴求しやすいか、というノウハウはだいぶたまってきた。成功事例は作れてきたので、次のステージとしては成功事例をパッケージ化し、もっとサービスを使ってもらうようにしないといけない。

――中国などに比べると、日本の場合は配信での販売だけでペイするのは難しいという声もあるが。

中国はライブコマースの使い方がやや特殊なので、ああいった形での普及は難しいと思う。ただ、ライブならではの双方向感や臨場感があるし、店舗の熱量もテキストよりもリッチに伝えられるというメリットがある

そういったものが大事なカテゴリーの商品についてはライブコマースとの親和性が高いので、もっとシャープにしていけば、それなりに有用な販売手法となるのではないか。

――東京ファッションウィークのスポンサーとなって3年経過したが、どんな影響があったか。

業界内での楽天のプレゼンスを作ってくれた。ファッションブランドとの関係性を作るには、文化的な側面への理解やリスペクトを示すことが大事。ファッションウィークのスポンサーになったことで、そういった面がダイレクトに伝わったのではないか。

これから先は、コンシューマー向けにファッションウィークについてもっと発信していきたい。そして、エンドユーザーに対して楽天のファッションに関するプレゼンスを構築する、というのが次のステップだ。

楽天は今後、ファッション領域のプレゼンス向上に乗り出す(画像は「楽天市場」から編集部がキャプチャ)
楽天は今後、ファッション領域のプレゼンス向上に乗り出す(画像は「楽天市場」から編集部がキャプチャ)

OMOは実装段階へ

――OMO戦略に積極的に取り組んでいるが、どんな成果が出ているか。

さまざまなトライアルをやっている中で、成功事例が少しずつ積み上がってきている。O2O・OMOと相性が良いカテゴリーとジャンルの特徴に関しては見えてきた部分がある。実験フェーズは終わり、実装の仕方に関して思考するフェーズだ。

――ショールーミング店舗で重要なことは何か。

たとえば同じ化粧品のブランドでも、ドラッグストアで説明なく売っていくような商品もあれば、こだわりや特徴を伝えるために販売員とコミュニケーションした方が良い商品もある。

十把(じっぱ)ひとからげで考えず、商品やブランドごとに、売り方とサービスをきちんと考えて組み立てないといけない。

――仮想モールの競合に勝るために必要なことは。

楽天の特徴はエコシステム。EC単体というよりは、グループのさまざまなサービスと連携できることが最大のメリットなので、もっと強くしていく。

次に、「楽天市場」そのものの品質を上げていかないといけない

3つ目は、国内EC流通総額10兆円を達成するためには、ECそのものの幅を広げていく必要がある。従来型のECだけではなく、オフラインと関わりを持ったECも構築していきたい。

「楽天市場」に出店する店舗やブランドの多くはリアルの世界でも活動しているので、楽天としても今の領域から踏み出すことで、リアルの世界での付加価値も高めていく

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