【通販企業のメタバース進出まとめ】新たな接客スタイルの模索&自社商圏を広げるKDDI、大丸松坂屋、QVCの施策とは
ユーザーが「アバター」で社会生活を送れるインターネット上の仮想世界・仮想空間「メタバース」の注目度が上がっている。ゲームを楽しむ利用者だけではなく、バーチャルオフィスとして活用する事例もあるなど、ビジネスでの利用も目立ってきた。そして、ネット販売に活用するため通販実施事業者らもさまざまな仕掛けを展開し、その効果的な活用方法を模索している。通販関連各社のメタバース活用方法を追った。
【KDDI】店舗や店員を写実的に再現
KDDIは3月7日、メタバースやライブ配信、バーチャルショッピングなどを展開する、Web3時代の新サービスとして「αU(アルファユー)」を開始すると発表した。
同社では、メタバースでエンターテインメント体験や友人との会話を楽しめる「αUmetaverse」、360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめる「αUlive」、デジタルアート作品などの購入ができる「αUmarket」、暗号資産を管理できる「αUwallet」、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αUplace」を展開していく。
このうち「αUplace」は、バーチャル空間上にある店舗でリアルな接客や買い物が体験できるサービス。写実的な店舗・店員を再現し、今までにない買い物体験ができるというコンセプト。今夏に提供予定の「αUplace」アプリで利用できる。
バーチャル店舗でリアルな接客体験
ユーザーは現実のショッピングと同様に、バーチャル空間内で街を散策したり、店舗を見つけて入店したりすることができる。アプリ上で決済し、商品を購入することができる。
アパレルや百貨店、家電量販店などに出店を持ちかけているという。都市圏を中心に、約100店舗の出店を見込む。今後は、同社が運営する仮想モール「auPAYマーケット」との連携も検討する。
ユーザーは、店舗スタッフから商品説明やアドバイスが受けられる。バーチャル空間内にスタッフのアバターが表示されており、画面内の呼び出しボタンをタップすると、テキスト・音声・ビデオで会話ができる。
ビデオ通話であれば、実際の商品を確認することも可能となる。一方、スタッフは店内でスマホをかざすことで、バーチャル店舗に来店したユーザーが確認できる。
出店店舗は、店舗の外観デザインと店内展示をスマートフォンの「ライダーセンサー」でスキャンすると、展示している商品までが立体化されてバーチャル空間に再現される。これまでのバーチャル店舗は、商品ごとに3Dモデルを作成する必要があったが、そうした手間やコストが省けるのが特徴。
アパレル店舗の場合、シーズンごとに商品の陳列が変わるが、いちいち3Dモデルを作成するのは手間がかかる。「αUplace」の場合、店舗内でスタッフがスキャンするだけでバーチャル空間がアップデートされる。(KDDI広報)
ユーザーは、スマートフォンの画面上に表示された商品をタップすると商品の詳細情報が確認できる。また、実店舗でスマートフォンをかざすとARで商品情報を表示するなど、リアルとバーチャルの連動機能も提供する予定。
バーチャル空間での買い物の流れについては「正式提供時に案内する予定で、検討を進めている段階」(同)という。ただ、アプリ内で購入が完結する形になるという。
スタッフに直接相談できるのが、通常のECにはない大きな特徴。アパレルであればコーディネートやトレンドを聞くことができる。単に購入するだけではなく、“接客”という体験が重要になってくる。(同)
【大丸松坂屋】大型VRイベントに参加
大丸松坂屋百貨店は、HIKKYが開催する大型のVRイベント「バーチャルマーケット」に参加することで、メタバース上での顧客接点のあり方などを模索している。直近では、昨年12月3日~18日、「バーチャルマーケット2022ウィンター」に仮想店舗「バーチャル大丸・松坂屋」を出展した。
大丸松坂屋百貨店として5回目の出展で、年末年始の食卓を彩るグルメに加え、初のアート作品や寝具の販売にも挑戦した。アートは成長分野と位置付けてデジタルとの融合も試行しており、メタバースとアートの親和性を知見として得る目的があったという。
展示はメタバースならではの“体験型”
メタバース空間ではユーザーが自由に店内をまわり、食品3Dモデルを手に取って商品の形状を確認したり、バーチャルカタログで詳細を見ることができたりするのに加え、各商品の「BUY」ボタンをクリックすると自社通販サイト「大丸松坂屋オンラインストア」の商品詳細ページに遷移して当該商品を購入することができる仕組み。
食品フロアではグルメ約2900点を販売したほか、複数の3Dモデルも展開。仮想空間に慣れた“メタバース民”がバーチャル飲み会を行う際などに使ってもらう狙いだ。
アートエリアでは、アーティスト野原邦彦氏の作品4点を展示。体験ボタンを押すとユーザーの身体が浮かび上がり、アート作品の世界に360度包み込まれながら、ゆっくり空間を上昇するなど、メタバースならではの演出で楽しむことができるようにした。
寝具エリアでは、大丸東京店で展開するショールーミングストア「明日見世」で取り扱った寝具ブランド「ブレインスリープ」の商品を紹介した。
同社によると、メタバース民が装着するヘッドセットは重たく、首などに負担がかかることから、枕やマットレス、サプリメントなどを提案したという。
アンバサダーによるメタバース接客の魅力とは
「バーチャル大丸・松坂屋」の店頭には商品知識が豊富な同社の本社ギフト企画運営担当の田中直毅氏がアバター姿でユーザーを出迎えたほか、メタバース接客の経験がある人を“アンバサダー”として15人採用し、商品の魅力を伝えてもらった。
同社によると、メタバースイベントに出展を重ねる中、来場者とのコミュニケーションを欠いていたことを反省していたものの、社内に組織だったメタバースのタスクがないため、社内動員は難しかった。
自分たちでできないのであれば素直にできる人の力を借りようということで、アンバサダーを採用することになった。(大丸松坂屋 田中氏)
アンバサダーは装着するデバイスの面でも、空間内の事象についても見識が高く、また、同社の主力商材である食品にも興味を持っていたこともあり、来場者とのコミュニケーションは成功したと見ている。
同社はこれまでのVRイベントを通じて、百貨店の主要顧客層とは異なる20~30代の男性を中心としたユーザーとの接点づくりに成功。
一方で、「EC送客による実売だけを求めない」(田中氏)としており、「バーチャル大丸・松坂屋」への訪問者数や3Dモデルへのタッチ数もKPIとして重視する。
5回目のイベントについては、食品以外にもコンテンツを増やしたことによる分散の影響もあり、食品の売り上げは想定を若干下回ったが、とくに来場者数やタッチ数は想定および前回実績を上回り、定量的には良好な結果が得られたようだ。
また、コンテンツを増やしたことで、「バーチャル大丸・松坂屋」の寝具エリアに来場したことを、リアル店舗の大丸東京店の「明日見世」でスタッフに伝えるとノベルティをプレゼントするなど、リアル店舗との連携も限定的ではあるものの実現した。
今後は、メタバース空間で得た知見の生かし方や人材育成などが課題になるという。
【QVCジャパン】期間限定で独自空間 ネットの売り場へ誘導
通販専門放送を行うQVCジャパンは、期間限定で独自メタバース空間「未来空間QVCプラネット」を公開し、通販サイトと連携させて商品を促す仕掛けなどを実施した。話題作りや顧客同士のコミュニケーション促進、同空間を入口としたネット販売への誘導などが目的のようだ。
「未来空間QVCプラネット」は昨年12月16日~22日までの7日間限定で公開。利用者は同メタバース上でアバターを操作する。
利用者のアバター同士でチャットや絵文字機能によるコミュニケーションができたり、大型スクリーンで同社の通販番組や同社番組に出演する人気ブランドの担当者の特別インタビュー映像などを視聴できたりする。
各ブランドに合わせたアバター着せ替え機能
また、同社のテレビ通販番組で販売する「Give Re―Collection」や「Anne Coquine」「麻布プロバドール」「&LOVE」といった売れ筋のアパレルブランドなどのブースが並ぶブランドエリアでは利用者のアバターが気になるブランドの洋服や衣装を試着できたり、髪の色や髪型なども各ブランドのテイストに合わせて変えることができたりする。
さらに、各ブースには商品のモデル着用画像がモニターに表示され、全方位から確認でき、商品の色やコーディネイトを選ぶと、ブランドプロデューサーの顔写真とお勧めコメントが表示される360度ビューアーのイメージビジュアルを設置。利用者がタッチすると同社の通販サイト「QVC=jp」内の当該商品の商品詳細ページへ遷移する。
メタバース空間を交流の場に
なお、利用者がダウンロードしなくても利用できるよう専用アプリではなく、ウェブブラウザで展開し、パソコンやスマートフォンで操作できるようにした。メタバース空間の制作・運営はIMAGICA EEXが行っている。
QVCジャパンではメタバース空間の公開の狙いについて「お客さまがQVCプラネット内でアバターとして自由に移動し、ほかのお客さまたちやQVC出演者たちと交流ができる場を、また、商品と共に新たな価値やつながりをより感じて頂くユニークな顧客体験を提供いたします。ぜひ『見つかる嬉しさ』と共に新しいショッピング体験を楽しんでいたければ幸いです」(同社)としている。
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