フェリシモ、ZOZO、オイシックスが取り組む「インクルーシブ」な商品開発とは? 障害や病気のある人向けの製品展開広がる
「すべてを包み込む」「包括的」などの意味を持つインクルーシブ。障害の有無や性別、国籍、人種などの違いを認め合い尊重しあう社会をめざす考え方で、これまで公園などの街づくりや企業組織、教育などに多く用いられてきた。昨今は企業組織の観点から広がり、商品やサービスにもその考え方を用いられている。通販各社では社内プロジェクトや他社との協業を通じて商品化をすすめる。社会貢献や企業ブランドの向上につながっているようだ。
フェリシモはデザイン性と機能性を両立
裏表、前後に関係なく着られるトップスなどを開発
フェリシモは半身不随などの障がいを持つ人の意見を参考にインクルーシブウェアを開発している。
同社内のプロジェクト「オールライト研究所」は、障がい者の人々にとって「弱さや苦手、コンプレックスはそのままでいい」と思えるような商品開発を行っている。第1弾テーマ「裏表のない世界」では、裏表前後なく着られるトップス、パンツ、靴下の3商品を開発した。
第2弾は片手で着られることにこだわった商品開発
「学生でも履きやすいように白い靴下を販売してほしい」というような要望が出るなど、第1弾の反響・ニーズは大きかったという。「合格点を出せる」(中島健太郎広報部部長代理)売れ行きだったこともあり、第2弾テーマとして「onehand magic」を発表した。
「オールライト研究所」内のアンケートで、障がいを持つ人から寄せられた「服の脱ぎ着に苦労している」「きれいめの洋服が見つけづらい」などの悩みに応える商品を開発した。商品開発には障がいを持つ当事者や、子育て中の母親ユーザーも参加し、彼らの声を参考に改良を重ねた。
商品は、シャツ、シューズ、ショルダーバッグ、コート、ネックカフ、イヤカフ、パンツの全7点。いずれも「片手で着用する」ことにこだわった商品で、デザインの良さと機能性を両立している。10月4日から「オールライト研究所」のサイトで販売を行っている。
育児中の母親や高齢者もターゲット
商品のターゲットとなる層は、2層に分けて設計した。コアとなるのは障がいを持つ当事者となる人。さらに、日常生活で衣服の着脱などに不満を抱えている、障がいを持っていないユーザーをサブターゲットに据えることで拡販を狙う。
「忙しくておしゃれを諦めていた方や、育児や高齢により服の着脱が難しい方にも試してほしい」(同社社員で『オールライト研究所』研究員の筧麻子氏)とした。
「片手で着られるスナップボタンシャツ」(税込5390円)は、ボタンの掛け違いによるずれを解消するため、上から3番目のボタンの位置に刺しゅうのラインを入れた。同商品は子育て中の母親の意見も取り入れ開発。「帰ってすぐ洗い物がしたい」という要望に応えて、袖口にゴムを通し、家事のときにまくり上げやすいようにした。
障がい者向けの服を作品ではなく「製品」として提供
同社は11月8日と9日の2日間、「onehand magic」のアイテム体験・試着会「オールライトDAY」を都内で開催。8日には、「オールライト研究所」の研究員である澤田智洋さん、同じく研究員で左半身麻痺を抱える百武桃香さん、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの木戸奏江さんを迎え、筧氏とともにトークセッションを行った。
木戸さんらは当事者として商品開発に参加。「従来、障がい者向けの服はあくまでも少数の人に向けられた『作品』のようなもの。価格も高くて買いづらかった。『製品』として、我々をターゲットに含んでくれたのは、今までにないこと」(木戸さん)、「フェリシモの洋服を着てインスタライブなどに登場すると、障がいを持っていない人からも『商品買ったよ』と声が届くのが嬉しい」(百武さん)と手ごたえを口にする。
第3弾以降の商品展開も計画
企画は第3弾以降も継続予定。今後の商品展開について、木戸さんは自身の子どもの七五三でスーツを着るのが大変だった経験から、「楽に着られるフォーマルなアイテムが欲しい」と要望を話した。
同プロジェクトのnoteやフェリシモのSNSなどを通じて認知を高める。障がいを持っていない人の「日常生活の悩みが解消された」「当事者でないとわからないことが知れた」などの声を交えながら紹介し、当事者以外にも親近感を持ってもらう。
同社は、障がい者を支援する「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」などの事業を行っている。「今後もこうした支援事業や、障がい者向けの商品開発を行っていきたい」(中島部長代理)とした。
ZOZOはインクルーシブウェアの受注販売を展開
ZOZOは、服のお直しサービス「キヤスク」を手がけるコワードローブと連携し、生産支援プラットフォーム「Made byZOZO(メイドバイゾゾ)」を通じてファッションブランドが通販サイト「ゾゾタウン」上でインクルーシブウェアを受注販売できるサービス「キヤスク with ZOZO」を、8月から開始している。
在庫リスクゼロで多様な商品を提供
インクルーシブウェアは、障害の有無や体型の違い、性別などに関係なく誰もが便利に使える“インクルーシブデザイン”の考え方を取り入れた服だが、障害の種類や程度によって1人ひとり異なるファッションの悩みを抱えており、服を選ぶときは“着やすさ”を優先せざるを得ず、服の選択肢が限られる。
そこで、「メイドバイゾゾ」と、障害や病気のある人に向けたオンラインお直しサービス「キヤスク」が協業して「キヤスク with ZOZO」を立ち上げた。
「メイドバイゾゾ」は「ゾゾタウン」での受注後に最低1枚から生産し、最短10日で発送できるのが特徴。デジタルでサプライチェーンを一気通貫し、異なるデザインの商品を同時に生産することも可能で、ファッションブランドは在庫リスクゼロで多様な商品を提供できるのが利点だ。
最大56サイズに対応
従来、ファッションブランドは障がい者1人ひとりのニーズに応えるにはサイズや仕様などさまざまな種類の在庫を持つ必要があったが、「キヤスク with ZOZO」を活用し、あらかじめ複数のインクルーシブウェアのデザインを用意することで、在庫を持たずに販売できる。
ゾゾは顧客が「ゾゾタウン」上で身長と体重を選択するだけで豊富なサイズ展開の中から体型に合ったサイズのアイテムを購入できる「マルチサイズ」対応商品を展開。最大56サイズに対応できるため、障がい者など1人ひとりが着やすいサイズの商品を提供することができる。
今回の協業について、コワードローブの前田哲平社長は「ゾゾの仕組みを活用し、既製品として服を提供することで、より多くの人にとって服の選択肢が広がる」期待を寄せる。
当事者だけでなく、介護者の意見も反映
ゾゾも、インクルーシブウェアはニッチ市場ではあるものの競合が少なく、海外も含めてビジネスチャンスがあると見ている。
新サービスで提供するアイテムは、「キヤスク」の知見を活かし、障がい者を含めたすべての人が着やすいデザインが特徴で、第1弾として車椅子ユーザーの悩みに応えるチェアーパンツを開発し、「ゾゾタウン」で販売している。
当該商品は、足に障害があっても着脱しやすくするために、腰から裾と、腰から膝まで開閉できるファスナーをパンツの両脇に取り付けたほか、指がかけられるファスナーや、取り外しできる肩掛けベルトなど、さまざまな機能を盛り込んでいる。
また、体重によって圧迫される部分の皮膚が傷つくのを防ぐために、臀部には縫い目を作らない設計だ。
介助者の意見もヒアリング
商品化に当たっては、特別支援学校に協力してもらい、困りごとなどのヒアリングをして作ったサンプルを試してもらった。その際、当事者だけでなく介助者の意見も聞くなど、細かい部分まで検証しながら仕様を決めたという。
オイシックス・ラ・大地は「外食」の代わりになるハレの日を演出
オイシックス・ラ・大地は10月31日、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みの一環で、ミールキットを発売した。さまざまな形の家族やカップルでもハレの日の食事を楽しめるように支援する。商品企画は社内プロジェクトの一環で発足したDE&I委員会が行った。
発売したのはミールキット「KitOisix寺井幸也監修!幸せ溢れるカラフルいなり」(2~3人前税込2015円)。ビーツやクレソン、茄子の黒酢炒め、かぼちゃのカレーマヨ、さばほぐしを使用した4種のいなりずしを調理できる。
いなりずしよりも簡単に調理できる丼ぶりのレシピを同封。調理工程を簡易化することで、細かな料理が難しい人なども楽しめるようにした。
外食を楽しめない人に着目した商品開発
DE&I委員会による取り組み「#みんなにうれしいプロジェクト」で企画した第1弾商品。「いろいろな声を聞くなかで、さまざまな理由で外食を楽しめないという問題があることに着目した」(同社)という。必要な材料やレシピがセットになったミールキットの強みを生かすことで、さまざまな形の家族やカップルのハレの日の食事をサポートできると考えた。
いなりずしは監修した寺井幸也氏が展開するケータリング事業「YUKIYAMESHI」で人気メニューとなっている。見た目の華やかさに加え、味や野菜の食感、香りも楽しめることから、ハレの日のメニューにも最適と判断した。
なお、寺井氏はこれまでにオイシックス・ラ・大地で発売したLGBTQ+を応援するミールキットの監修も手掛けた。DE&Iへの共感や賛同を得て、今回のコラボにつながったという。
第2段は商品だけでなくサービスの提供も検討
今後、プロジェクトの第2弾も視野に入れる。牛乳が飲めない乳糖不対症の人でも飲めるA2ミルクの普及やヨーグルト、生クリームの展開についても計画する。商品だけでなくサービスまで包括的に検討していく。
DE&I委員会で「LGBTQ+部会」「障がい者部会」を展開。メンバーは社会貢献プロジェクトに参画
DE&I委員会は2023年に発足し、社員研修や規定改定の取り組みを推進してきた。発足時から社内に向け取り組みだけでなく、商品やサービスを通じて社内外に広げることを視野に入れる。
委員会はキャリア支援制度の1つ「ダブルミッション制度」を活用して運営。業務時間の20%を上限に、部署に所属しながら社会貢献プロジェクトに参画してスキルアップができる仕組み。
メンバーは21人(11月12日現在)。委員会の傘下に部会「LGBTQ+部会」と「障がい者部会」を設けて活動する。委員会は7人で構成し、隔週1時間のミーティングを行って、各部会の進捗報告やKPI達成のための施策について議論する。部会は手を挙げたメンバーが参加する。それぞれ毎週ミーティングを実施し、主催イベントやKPIの進捗を報告する。「組織に部会を設ける委員会はDE&Iのみ」(同社)とした。
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