Jフロントから自社株を買い戻す千趣会。大手小売とのシナジーは難しかった?
総合通販大手の千趣会は2月26日、政府系投資ファンド「地域中核企業活性化投資事業有限責任組合」を割当先とした第三者割当増資を実施し、70億円を調達すると発表。また、筆頭株主であるJ.フロントリテイリング(JFR)から、一定の条件下で75億円を上限に自己株式を買い戻す。
千趣会とJFRは2015年4月に資本業務提携を結んだ。JFRが千趣会に約75億円を出資し、その資金を①オムニチャネル戦略推進に向けたシステム投資(30億円)、②相互販売に伴う出荷量の増加に対応するためのインフラ整備(30億円)、③新ブランド展開における都市部での旗艦店開発、新規 PB商品の共同開発・共同仕入の資金(残額)――に使うとしていた。
ただ、業務提携施策の具体化は遅れており、 現時点で資金の充当額は約8億3000万円にとどまっている。
千趣会とJFRはこれまで築き上げてきた良好な関係を今後も維持し、業務提携の継続を含めて検討していくとしている。
業務提携におけるこれまでの実施状況
- オムニチャネル販売を推進・拡大するためのベースとなるシステムの開発及びインフラ整備など(3億8500万円)
- 大丸松坂屋百貨店Webのリニューアルオープン支援、物流受託(美濃加茂商品センタ ー)体制の構築、撮影スタジオ新設(9000万円)
- 大丸松坂屋百貨店へのベルメゾンブランド店舗出店、ベルメゾン新型店舗の出店(3億5500万円)
新中期経営計画を実現するためファンドから出資受け入れ
千趣会は業績低迷を受け、事業戦略の変革や赤字体質からの脱却などを盛り込んだ「千趣会グループ中期経営計画 2018~2020」(新中期経営計画)を2017年10月に公表。
新中期経営計画を確実に実行するには、「地域中核企業活性化投資事業有限責任組合」から出資を受け、JFRの持分法適用関連会社から外れることが望ましいと判断した。
JFRは千趣会の発行済株式の22.62%を保有している。千趣会は一定の条件が整った後、75億円を上限に自社株を買い戻す。買い戻す時期や手法、取得価格、取得株式数などは現時点では未定。
千趣会の2017年12月期における通販事業の売上高は、前期比5.0%減の1012億7900万円た。カタログ発行部数を約4割減らしたことなどから売り上げが落ち込んだ。通販事業の営業利益は57億700万円の赤字(前期は2億4000万円の赤字)。
近年はEC強化を掲げ、カタログを主軸とする通販からEC主体へと事業構造の転換を図っている。前期はカタログの配布先を見直し、カタログの休刊や統合に伴い発行部数は前年同期比37.5%減の4740万部。カタログ発行部数を大幅に削減したことによる減収を、オンライン施策で補えなかった。
セブン&アイ傘下のニッセンとの共通点
千趣会がカタログ通販の構造改革に苦戦する様子は、セブン&アイホールディングス傘下で事業再建を進めているニッセンとの共通点も見えてくる。
ニッセンは2015年度にカタログの発行頻度の絞り込みや、カタログの薄型化などを実施。無料カタログやテストカタログ(受注予測を行う目的で本番カタログの3か月前に発行するテストカタログ)も縮小した。
ただ、経営資源を集中するために実施したカタログ通販の縮小は、カタログを手に取る既存顧客の購入回数や購入単価の減少、新規顧客の獲得減を招いた。「カタログを見てスマホで注文」「PCとスマホ、カタログを併用」など、オムニチャネル的な買い物、マルチデバイスで注文する消費者も多いため、カタログ縮小は売上減少につながってしまう。
ニッセンの業績不振の要因はカタログ縮小のためだけではないが、2015年度は前年度比で200億円強も売り上げが落ち込んだ。
千趣会の今後は?
千趣会は2018年12月期、ベルメゾン事業(通販事業)の売上高を減少させつつ、徹底的なコストダウンを行うことで赤字体質からの脱却をめざす。
その上で「専門性のある商品を提供すること」「専門店単位でビジネスモデルを構築すること」「専門店単位で事業管理すること」による専門店集積型事業への変革を図る。
専門店化による通販事業の再拡大、通販とブライダル事業など複数の事業間における相互送客などに取り組み、2019年12月期以降の再成長を図る。
「地域中核企業活性化投資事業有限責任組合」から調達した資金は、「ベルメゾン事業の専門店化構想を支えるECプラットフォーム構築などに係るシステム投資 」に35億円、「ブライダル事業、子育て支援事業の拡大、通信販売事業とのシナジー創出に向けた新規投資 」に35億円を充当する。