「ボタニスト」のI-neが明かす人材育成ノウハウ。教育を受けたスタッフ2人が話す“マーケター思考”が身に付く仕組みとは?
「BOTANIST」「SALONIA」などで広く知られるI-ne。成長の源泉の1つにあげられるのが人材育成。執行役員の伊藤翔哉氏(ダイレクトマーケティング本部本部長)が旗振り役となり、ダイレクトマーケターの育成を完全内製化、“日本一優秀”なデジタルマーケターの育成に取り組んでいる。今回、ダイレクトマーケティング本部で人材育成のカリキュラムを受講している新進気鋭の若手社員2人と伊藤氏にインタビュー。入社後からの育成スキームや現在までの成長を振り返ってもらう。
なぜI-neに入社を決めたのか? 中途入社+新入社員が語る、I-neならではの魅力
――I-neに入社した理由を教えてください。
木野氏:新卒でI-neを選んだ理由は2つあります。1つ目は、ブランドの立ち上げに関わりたかったということ。2つ目は、大企業とスタートアップ企業の良いところ取りができている、企業としてのバランスの良さを感じたからです。大企業に匹敵する事業規模の大きさがありながら、個々の裁量権や、社内で物事を決めるときのスピード感は早い。気持ちよく働けそうだなと思いました。
入社前に、I-neの社員との雑談ベースの食事会を何度か設けてもらい、社内のさまざまなポジションの人と個別に話す機会がありました。こうした機会を通じて、社内の実態が想像できるようになってきた。入社したいと思うようになりました。
杉山氏:私は中途入社です。I-neに入社したのは、商品を使うエンドユーザーのお客さまに直接向き合って何かをしたいと思うようになったから。入社前から、I-neはお客さま目線の物作りを何よりも大切にしていることを認知していました。この姿勢に共感し、入社を決めました。自分にとってはそこが一番大きな魅力です。入社後も、入社前とのイメージとのギャップはありません。
前職では、ヘアケアサロンで働く美容師向けメディアの運営業務に従事していました。美容師さんとのつながりを生かしたプライベートブランドの立ち上げにも携わった経験があります。
――現在担当している業務は。
杉山氏:ミニマル美容家電ブランド「SALONIA」のEC事業の運営と、2023年6月に立ち上げたメンズスキンケアのD2Cブランド「murphy(マーフィー)」のブランドマネージャーを担っています。
木野氏:ブランド軸では、ミニマル美容家電ブランド「SALONIA」のEC事業、販路では「Amazon」での全ブランドの売上拡大に責任を持ち、モール内での売上最大化を担っています。
キャリアアップの道筋と現在位置がわかる育成プログラム
――D2Cブランドを経営できるダイレクトマーケターを育成するための社内プログラム「Master of Direct Marketing(M.D.M)」を開発し、受講者に自主的な学習を促しながら人材育成を図っています。ダイレクトマーケティング本部に配属後、普段行っていることは。
杉山氏:ダイレクトマーケティングの基礎知識を網羅的に習得できる学習アプリ「グロースX」を日常的に使っています。自分の場合は通勤時間が長めなので、その間にアプリを起動することもあります。膨大なマーケティング知識のなかから、アプリでは自分の弱いところを復習できるので助かっています。
杉山氏:このほか、「M.D.M」の一環で「スキルクエスト」を定期的に受講しています。「スキルクエスト」とは、自分のスキルや知識のレベルを点数形式でチェックできるオンラインテストです。簡単に言うと、「この点数の人の市場価値はこれくらい」ということが一目でわかる仕組み。この結果は上席にも共有され、キャリアアップをめざすための面談のテーブルにも上がる。これを踏まえて、弱点や強みを引き上げていくための学習や経験を積み上げています。
入社前は、自分が身につけるべき知識やノウハウのうち、現在どの段階にいるのか、どの分野を伸ばせば良いのかがわからなかった。「M.D.M」を基盤とした育成を受けているいまでは、思い描くキャリアアップのために何をすれば良いのかがわかるようになりました。
木野氏:杉山と同じく、通勤時間を利用してスマホアプリで学習機会を作ったり、「スキルクエスト」を受講しています。「M.D.M」の受講は楽しいです。自分の市場価値を上げていく、ひいては年収を上げていく時間になっていると感じており、意欲的に取り組めています。通常業務だけでは、ただただ自分の業務に詳しくなるだけ。学習機会がないと、他部署の業務までは理解が深まりにくいと思います。
杉山氏:入社当時、通常業務に加えて「M.D.M」の育成プログラムにも対応するのは負荷がないわけではありませんでした。しかし、学習を深めるにつれて、知識インプットとアウトプットの質が上がっていくのを実感。実務に生かせていると感じるようになりました。
学習アプリは12か月間で完了するプログラムですが、プログラムの終了後も、理解をさらに深めたい分野に関してはもう一度復習できます。実際の業務で直面している課題の解決につながるヒントを得ることもあり、日常業務の役に立っています。
――伊藤氏が考える、I-neによるマーケティング人材の育成とは。
伊藤氏:「M.D.M」の受講者はもちろんですが、I-neでは、全社員にマーケティング目線のロジカルな思考を養ってもらいたいと思っています。商品開発の担当者も、営業も、新たな人材を引き入れる人事も、全ての人が自社の事業成長……すなわちマーケティングの考え方を持っていなければ良い結果は出せないからです。
知識だけでなく、ロジカルな思考を磨く
――「M.D.M」のプログラム受講を通じて、「身についた」と実感できていることは。
杉山氏:マーケティング観点のロジカルな思考が磨かれてきたと感じています。ブランドの運営にあたって、たとえば「物流の観点からはこのオペレーションは良くないのでは」など、以前の自分では見過ごしていたところに気が付くことができるようになりました。
さまざまな場面で判断を迫られる、物事の良し悪しがわかるようになってきました。これにより、他部署の方ともコミュニケーションがとりやすくなったと感じています。部署をまたいだ、事業全体の理解が深まるにつれて、他部署の方にも一層のリスペクトを持って仕事ができるようになりました。
――連載の第3回で伊藤さんがお話していた、「他部署の仕事にリスペクトを持たないスタッフはいない」という話につながりますね。
伊藤氏:リスペクトがあると、個々の仕事をさらに円滑に進められるようになる。良い循環ができていると感じています。杉山や木野をはじめ、「M.D.M」の受講メンバーは社内の経営メンバーとも徐々にディスカッションできるようになってきました。経営側の我々からすると、彼らがマーケティング目線のロジックを彼らが理解しており、ディスカッションのテーブルでどんどん新しい提案してくれるのはとてもうれしいことです。
――木野氏は自身の成長をどのように感じているか。
木野氏:杉山と同様に、知識やスキルの向上はもちろん、マーケティング目線の考え方もできるようになってきました。
生活者としても、買い物をするときに他社のブランドや広告表示を見て「どのようなターゲット層にどのような点を訴求して売ろうとしているのか」「どのような利益構造を構築しているのか」ということを考えるようになりました。ダイレクトマーケターになるための脳のトレーニングを常にしているような状態です。
少なくとも赤字になってしまわないよう、携わるブランドに対してきちんと責任を負うということがどういうことなのかがわかってきたと感じています。
めざすのは「広く深い」理解
――杉山氏と木野氏が今後チャレンジしたいこと、課題感、スキルアップしたいことは。
杉山氏:「広く浅く」ではなく、「広く深い」マーケティング知識の習得をめざしています。専門用語の理解はもちろん、広告運用、ブランディングの観点で何をKPIとするべきかなど、「何をクリアできたら次はどのステップに進めば良いのか」を実際の業務に落とし込んで進行するとなると、まだ補いきれない部分があると感じています。
伊藤氏:教科書的に「こういうときはこう」だけでは足りなくて、実務は常にケースバイケース。プロジェクトごとの方向性や、どのような消費者をターゲット層とするかによって、適切な施策は違ってくる。このとき、大切なのはやはり知見が深い担当者とのディスカッションや話し合いです。
担当者との話し合いにおいて、「適切なコミュニケーションができる最低限の知識を持っているか」は一つのポイントです。杉山や木野のような新進気鋭の人材は、事前に「M.D.M」を通じて理解を深めておくことが重要になる。たとえば、新たなBtoCブランドをオフラインで展開したいと考えたときに、杉山や木野は社内の担当者に相談する前に、オフライン市場の状況をある程度まで理解できていると、担当者な協力的な姿勢をとりやすくなるでしょう。
木野氏:自分は「M.D.M」を通じてさらにマーケティングの学びを深めたいと考えています。既存商品の売上アップだけでなく、今後は自らが「売れる」ブランドをゼロから開発することにも関わってみたい。ものづくりの上流の部分に関心があります。そのためには、まだまだ知識が十分ではないと認識しています。「作る」から「売る」までのバリューチェーンをもっと勉強し、網羅的に理解できている人材になることを意識してめざしています。