I-neが日本一優秀なマーケターの育成に挑む! 育成メカニズムを責任者が全解剖【連載第2回】
「ボタニスト」「サロニア」などのブランドを手がけるI-neの執行役員・ダイレクトマーケティング本部本部長の伊藤翔哉氏と、I-neのマーケティング人材育成をサポートするグロースXの津下本耕太郎社長が対談。I-neがめざす「日本一優秀なダイレクトマーケティング人材を育てる仕組み」のメカニズムを語り合った。
※本連載の第2回・第3回では、伊藤氏とグロースXの担当者の対談を配信。次回の第3回は、I-neならでのマーケティングの強みや、組織内の人材育成において企業が陥りやすい“落とし穴”などを2人が語り尽くします。
人材アセスメントをベースとした育成プログラム
――I-ne・ダイレクトマーケティング本部の人材育成プログラムは、グロースXが提供する人材育成プログラム「マーケティングスキルトラッカー」をベースとしています。「マーケティングスキルトラッカー」の詳細や特徴を教えてください。
津下本氏:マーケターに必要な50以上の重要スキルや、独自の方法による測定の仕組みを用いて、受講者がもつスキルや実力を可視化するプログラムです。データを基に、効果的な活用方法のアドバイスも提供します。
津下本氏:たとえばCRMなど「いま学んでいない領域の力量を図る」ということや、スキルや実力を“見える化”して、本質的な「人材アセスメント(個人の能力や性格に合った役割を与えるために前もって人材を評価すること)」の枠組みを作ることに力を注いでいます。そのようにして作り上げたものが「マーケティングスキルトラッカー」です。
伊藤氏:上席は、現在アサインしている部下の業務については実力を把握できています。しかし、「現在の業務とは直接関係がないが、実はダイレクトマーケティング運営の経験がある」「実は、デザイナーとしての知識や経験を持っている」といった、現在の業務からは見えづらい部下のスキルは把握することが難しいことがほとんどです。
人材育成もできるし、1人ひとりの適正を生かした業務のアサインメントにも役立つ「マーケティングスキルトラッカー」は、「D2Cブランドの経営人材を育成する」という目的以上の成果が期待できています。
津下本氏:人材育成をする側ではなく、「される側」の視点に立つと、実力を「見える化」されるだけでは不安が残ってしまいます。その先のアセットを伸ばし、実務につなげるまでが導入企業に対する支援だと思っています。
――「マーケティングスキルトラッカー」をベースにI-neが自社開発した人材育成プログラム「M.D.M」では、どのような手法で教育を進めているのですか。
伊藤氏:「M.D.M」受講者には日々、自主的な学習を促しています。グロースXのマーケティング学習アプリ「グロースX」を取り入れ、マーケティングの基礎知識を習得するようにしています。これに加え、定期的な実力の可視化および、上席との1on1の機会を設けています。
1人ひとりに“明るいキャリアプラン”を描き、一緒に見せてあげる
――1on1ではどのようなことを受講者と話し合っているのですか。
伊藤氏:受講者にとっての現在の得意、不得意を認識してもらう場とするほか、キャリアプランの設計を話し合う機会も多く設けています。
津下本氏:「上席がきちんと自分のことを考えてくれている」という意識が生まれることはとても大切です。モチベーションのアップにつながりますし、何よりも、自分のキャリアが明るく見えるようになります。
多くの企業において、業務の主力メンバーが突如として辞職してしまう場合の動機は「いまの環境ではこれ以上成長できない気がする」「この先の自分のキャリアが想像できない」といったものです。
定性的な領域は“I-neにおけるベストの形”を構築
――D2Cブランドのブランディングや顧客とのコミュニケーション設計のアイデアなど、教育が難しいマーケティング領域もあります。I-neのダイレクトマーケティング本部ではどのように育成しているのですか。
伊藤氏:ダイレクトマーケティング本部におけるブランディング、デザイン、お客さまとのコミュニケーション設計は、各部署と話し合って“I-neにおけるベストの形”を構築しました。これを「M.D.M」受講者に伝えています。デザインの解釈やコミュニケーションは、何が正解かを数字で表しにくい領域です。そこで、“I-neとしてはどのようなことに重きをおくか”を言語化しました。
津下本氏:D2Cでモノを売る企業は、数字をもとに理論的に仮説検証を繰り返すようなサイエンス的なサイドと、世界感やクリエイティブなど定性的な部分を追求していく、アート的なサイドに2極化しがちです。このとき、両サイドがそれぞれの考え方や主張を理解しきれず、または尊重しきれないままでは、事業はなかなかうまくいかないことが多いです。
I-neは各部署の横断的な連携や理解が十分にとれており、それぞれの信頼関係が構築できているように見えます。だからこそ“I-neにおけるベストの形”が構築できたのだと。
伊藤氏:アイデアがどんなに優れていたとしても、たとえば「発案者が嫌いだからその人のアイデアは採用したくない」という考え方をする人が生まれてしまっては、せっかくの良いアイデアが生かせません。
I-neは創業当時から、創業メンバーが連日ディスカッションを重ねて、業務に落とし込んでいくスタイルでした。組織の規模感が大きくなるにつれて、密なディスカッションや意思疎通は難しくなる場面も増えましたが、いまでは各部署のリーダーを筆頭に組織横断的なコミュニケーションができています。
数値データから顧客心理を想像できるマーケターを育てるために
――マーケティングに強い会社が大切にしている考え方とはどのようなものでしょうか。
津下本氏:顧客起点の考え方に尽きるでしょう。事業規模が大きくなればなるほど、顧客に商品が届くまでのフローが長くなるため、顧客との心理的な距離が開いてしまいやすいという課題があります。これが悪化すると、リピーターの離脱や獲得困難、ニーズに合った商品開発が難しくなるなど、どうなってしまうかはご想像の通りです。
近年、D2C市場に参入する企業が顕著に増加しているのは、この課題を解消しやすいという利点があるからでないでしょうか。商品の作り手たるメーカーが顧客との距離感を縮めることができるからです。
伊藤氏:I-neでも、お客さまを“見失わない”ことは第一です。お客さまの増減率や売り上げ推移など、業務上で目にするのはデータ上の数値です。しかし、数値を単なる数値のままで捉えるのではなく、数値にお客さまの心が映し出されていると捉えています。マーケターの仕事は、数値を人の心で解釈することをやり続けることだと考えています
――“数値を人の心で読み解く”といったメソッドは、どのように後進に教育しているのですか。
伊藤氏:受講者にユニット・エコノミクス(事業の経済性を測定する経営手法の1つ。ユニット・エコノミクスが適正であれば事業は健全な状態とされる)を見せながら、「なぜこうなるのか」というように数字の背景を振り返ったり、他社のIR情報を読み解くといった機会を設けています。数値を読み解くメソッドは、何がベストな手法なのかはわからない。だからこそ、さまざまな方法を模索し続けています。
※第3回につづく