楽天の「配送品質向上制度」とは? 店舗の土日出荷対策、認定ラベル付与商品の検索優遇は?【概要+責任者インタビューで解説】
楽天グループでは来年6月、配送品質が高い商品を優遇する仕組みとして、基準を満たした商品にラベルを付与する仕組み「配送品質向上制度」を導入する。ラベルの貼付がモール内検索における順位決定の要素に含まれることから、出店店舗は対応に追われている。基準を満たす上でネックになるのは土日出荷。楽天が新制度を導入する狙いはどこにあるのか。
新制度「配送品質向上制度」とは?
今年1月の「新春カンファレンス」で制度導入が発表されてすぐ、売上高がそれなりに大きい会社も含め、EC企業から新規の相談がかなり来た。制度に対して何かしらアクションを起こさないとまずいという危機感の表れではないか。
こう語るのは、スクロール360ソリューション戦略部EC―BPO課の山本雄一課長代行。「ラベルを取得するには土日祝日を含めて365日出荷対応が必要」とアナウンスされたものの、対応していないEC企業が大半だからだ。
「店舗基準」と「商品基準」
楽天が導入する新制度とはどういったものか。まず、基準は店舗基準と商品基準がある。店舗基準については「納期順守率96%以上」「6日以内お届け件数比率80%以上」「出荷件数が月に100件以上」「共通の送料込みラインの導入」の4つ。これに準ずることを前提として、商品基準を満たしている商品にラベルが付与される。
商品基準は「365日出荷可能」「午前の注文は翌日届け可、午後の注文は翌々日届け可」「日付指定可能」となる。
商品基準を満たした場合、ラベルは翌日~翌々日配送が可能な地域のユーザーに表示する。たとえば出荷元が関東地方にあり、翌日~翌々日配送が本州・四国に可能な場合は、この地域のユーザーにのみラベルは表示され、北海道と九州・沖縄のユーザーには表示されない。
楽天では、出店者との意見交換・説明会「楽天市場タウンミーティング」で出た要望を受け入れる形で、母の日・クリスマスなど特定日に届ける必要がある商品やオーダーメイド商品など、商品の性質上6日以内の配送が難しい商品は「6日以内届け件数比率」の母数から除外して計算するようにしたほか、検索順位決定で不利にならないよう考慮する。
「365日出荷」については年末年始と月1回は休業を認め、土日祝日は通常注文締め切り時間を最短午前9時に設定可能とした。
ネックは土日対応。対応可否は半々
ただ、これでも対応が難しい店舗が多いことは変わらない。店舗Aは「制度へ対応をしない、というよりはできない。周囲の店舗も同じ意見だ。アマゾンのように、FBAを利用することで『プライムマーク』が付けられるならわかりやすいが、さまざまな基準があるので対応が難しい」と難色を示す。
店舗Bは「完全週休2日制を導入しているので商品が出荷できない。来年は2024年問題(編注:トラックドライバーの時間外労働を規制に端を発する物流業界の諸問題)もあるし、現在の運用を変えなければいけないとなるとハードルが高い。売れ筋のみ外部に委託するなど、商品単位でラベルを取得することも考えられるが、今のところ様子見だ」とする。
店舗Cは「事業モデルそのものを変えないと対応できないので、現状はしない方向。(楽天が出店者の物流業務を請け負う)『楽天スーパーロジスティクス(RSL)』も利用しているので365日出荷は可能だが、われわれは土日休みなので出荷指示が出せない。また、その他委託している倉庫は土日出荷に対応していないためだ」と話す。
店舗Dは「全て自社で出荷しているが、実験的に土日出荷を開始した。きついのは事実だが、対応する方向で進めている。どうすれば社員に負担をかけずに実現できるかを模索していきたい。ただ、今のところ売り上げは増えていないので、いまいちモチベーションが上がらない」と苦笑い。
多数のEC企業をクライアントとして抱える、あるコンサルタントは「印象としては対応する会社としない会社が半々というところだが、頭を抱えている店舗が多いのは事実。一部商品はRSLに預けよう、という動きもある」と明かす。
スクロール360では10月、制度への対応を検討するEC企業を対象に、受注処理代行サービスにおいて、土日祝日限定の業務委託ができる「土日祝対応プラン」を開始。ただ、出荷業務に関してはRSLなど、365日出荷が可能な物流センターを探す必要がある。
ラベル付与の効果に疑問の声も
もう一つ、店舗が気しているのは「ラベルが付与された商品はどのくらい検索で優遇されるのか」だ。モール内検索順位は売り上げに直結する。制度に対応しないことでどれだけ検索順位が下がるのか、戦々恐々としているEC企業は少なくないようだ。
対応に前向きな店舗Dは「ラベルが付与され、検索優遇が始まってどれくらい売り上げが変わるかだろう」と話す。一方、店舗Cは「やりたくてもやれない店舗が少なくないなかで、対応できる店舗を優遇するのはいかがなものか、という話は楽天の担当者にした」とする。
店舗が神経質になっているのは、LINEヤフーの「ヤフーショッピング」において「優良配送」(「お届け希望日」を、受注日プラス2日以内としている商品かつ当該出店者の出荷遅延率が一定水準未満である場合のみ出店者が設定できる表示)に対応した商品の検索を露骨に優遇したことが、流通が落ち込んでいる原因の一つと見る向きが多く、楽天が同じ轍(てつ)を踏むことを心配しているためだ。
店舗Dが「配送の品質が上がることと、顧客が求めてる商品が届くことは別の話。最近のヤフーはお得な商品を商品検索で見つけるのが困難だ」と指摘するように、ラベルの付与を検索で重視しすぎると「配送の品質」と「価格も含めた商品の品質」が一致しなくなる恐れがある。
楽天は顧客満足度アップを重視
こうした店舗の声に対し、楽天はどう応えるのか。コマースカンパニーマーケットプレイス事業楽天市場企画部の海老名雅貴ヴァイスジェネラルマネージャーは「タウンミーティングやWebでの説明会を通じ、約2500店舗から意見をもらったわけだが、『土日出荷に対応するのは厳しい』という声が少なくなかったのは事実」と振り返る。それでも365日出荷への対応を求める理由について、海老名ヴァイスジェネラルマネージャーは「ユーザーのニーズがあるから」と明快に答える。
同社によれば、楽天市場におけるユーザーの日付指定の曜日別構成比は、土曜日を除き同水準という。「楽天市場は社会インフラに近い存在だからこそ、多くのユーザーが集まってくる。また、平日休みの人も少なくない。ユーザーのニーズに応えるためには、翌日または翌々日に届けることを前提として、全曜日稼働してもらいたいということだ」(海老名ヴァイスジェネラルマネージャー)。
一方で海老名ヴァイスジェネラルマネージャーは「それなりに店舗のオペレーション負荷が発生する制度なのは事実」と認める。「ただ、ECは“当たり前”がすぐに古くなってしまう世界。現状を維持しているだけでは、数年後には遅れを取ってしまいかねない。仮想モールとしては、たくさんの店舗と一緒にレベルアップしていきたい」と呼びかける。“欲しい時に受け取れる”状況を実現することで、ユーザーの満足度向上を図る狙いだ。
ラベル付与は検索順位の向上?
「ラベル付与商品の検索優遇」についてはどうか。海老名ヴァイスジェネラルマネージャーは「どういった形で検索順位の要素に含めるかはまだ決まっていないし、そもそもロジックは公開できない」としつつも、「『競合のやり方がうまく行っていない』といった店舗の声は承知している。もちろん、制度を導入したことで流通が減っては意味がないわけで、激しい優遇はせず、恐らく徐々に変わっていくのではないか」と語る。
ただ、制度に対応した店舗にとっては、ラベル取得のメリットを求めたくなるのは当然だろう。そのため、バランスをどう取るかが重要になってくる。「たとえば翌日配達サービス『あす楽』対応商品は、売れているので検索順位上位に来る。結局のところ購買の意思決定をするのは消費者なので、検索で大きな優遇をしなくても、長い目で見ると徐々に順位が上がってくるのではないか。それは『配送関連の情報がわかりやすい』『早く届く』といった消費者のニーズに応えられる商品だからだ」(海老名ヴァイスジェネラルマネージャー)。
とはいえ、一定数の商品がラベルを取得できなければ、こうした自然な流れを作り出すことも難しくなる。仮想モールとしての配送体制を、最大のライバルであるアマゾンに近づけようとする今回の取り組み。海老名ヴァイスジェネラルマネージャーは「創意工夫して頑張っている店舗が、よりフィーチャーされる売り場でありたい」と語るが、制度への対応に難色を示すEC企業も少なくないなかで、「365日出荷」のメリットをどれだけ店舗に理解してもらえるかも重要になってきそうだ。
「配送品質向上制度」導入の意図
配送品質向上制度の趣旨や導入意図などを海老名雅貴ヴァイスジェネラルマネージャーに聞いた。
――楽天市場では近年、配送関連のサービスを強化している。
「共通の送料込みライン」や、「最短お届け可能日の表示」といった仕組みを取り入れることで、送料や配送日時をユーザーにわかりやすくするとともに、「ユーザーが欲しいときに希望する形で受け取れる」ことを実現したいと考えている。当社の調べでは、注文翌々日以内の配送で、多くの人が「早い」と感じ、7日後の配送になると「遅すぎて買わない」が大きく増加した。そのため、一定の配送スピードは必要だ。
一方で、急いでいないユーザーもいる。配送日の指定で「日付指定なし」を選んだユーザーにポイントを付与する「急がない便」の実証実験では、ポイント付与した場合の「日付指定なし」選択率は、付与しない場合の3.5倍だった。大型セールの際は、受注の波と出荷の波が一致することが店舗の大きな負担となるので、出荷の波をずらすことで店舗のオペレーションを平準化できればと考えている。
――配送品質制度に対する店舗の声は。
タウンミーティングなどでの店舗の意見を取り入れる形で、月1回の休業日を設けたり、年末年始を除外したりしたわけだが、それでも「土日出荷は難しい」「なぜ365日出荷しなければいけないの」という声は多かった。それは、ユーザーのニーズがあるから。ユーザーにはそれぞれの生活があって、土日休んでる人だけではなく、平日に受け取る人もたくさんいる。楽天市場は社会インフラに近い存在になっており、土日休む社会インフラというのは考えにくい。ユーザーの利便性を考えると、ニーズに応えなければいけないと考えている。「注文翌々日以内の配送」を望むユーザーが多いことを考えると、土日も出荷しないとニーズに対応できない。
――「土日は休業日なので対応できない」というEC企業も少なくない。
土日出荷の扱いに関しては、社内でもかなり議論があった。ただ、ユーザーにわかりやすくすることが、結果的には頑張っている店舗が報われることにつながるのではないかと思う。工夫をして土日出荷を実現している店舗はすでにたくさんある。楽天市場はそういった店舗がフィーチャーされる場であるべきだし、頑張る店舗の集合体だからこそ、ユーザーを引きつける場であり続けられるのではないか。
現状維持では頑張っている店舗が報われないし、ひいてはユーザーにとっての魅力も低下してしまう。創意工夫を引き出す制度設計であるべき、というのが基本。
もちろんラベルが全てではないし、商品の魅力のみで勝負している店舗もある。ただ、商品のコモディティー化が進む中なか、配送のわかりやすさや品質は、店舗間の競争や仮想モール間の競争においては、重要な要素ではないか。
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