鳥栖 剛[執筆] 7:30

帝国データバンクは4月17日、トランプ政権による相互関税の適用が2025年度の日本経済に与える影響についてTDBマクロ経済予測モデルを用いて試算した結果を発表した。

トランプ米大統領は日本に相互関税として24%を課すと発表したものの、その後90日間はベースライン関税10%のみの適用に変更された。TDBの試算によると、91日後に関税率が24%となった場合、2025年度の日本の実質GDP成長率は従来予測より0.5ポイント低下すると予測した。 日本全体の企業の経常利益は減少に転じ、倒産件数は3.3%(約340件)増加すると見込んでいる。なお関税率10%が維持される場合、実質GDP成長率は0.3ポイント低下、倒産件数は約250件増加するとした。

TDBは、米国による相互関税の適用が2025年度の日本経済に与える影響についてTDBマクロ経済予測モデルを用いて試算。相互関税の影響による日本経済の見通しを、3つのシナリオに分けてTDBマクロ経済予測モデルで求めた。

帝国データバンクは4月17日、トランプ政権による相互関税の適用が2025年度の日本経済に与える影響についてTDBマクロ経済予測モデルを用いて試算した結果を発表
①90日間相互関税10%、91日目から24%②相互関税10%が継続③相互関税24%が継続するケース――の3つのシナリオで予測

シナリオ1:90日間相互関税10%、91日目から24%

2025年度の実質GDP成長率は、相互関税の発動により従来予測から0.5ポイント低下し、前年度比+0.7%になると予測。輸出の伸び率は、従来予測の前年度比2.7%増から同1.0%増へと、1.7ポイント低下すると見込む。

2024年に日本の対米輸出額21兆2948億円のうち構成比34.1%を占めた自動車・同部分品への影響が大きいと指摘する。なお、4月3日から個別品目関税として25%の追加関税がかけられている。日本の主要輸出品であり、裾野が広い自動車関連への高水準な関税は、輸出全体を押し下げる最大の要因になると見ている。

輸出の伸び率低下により、企業の設備投資は下押しされる。民間企業設備投資の伸び率は、従来予測の同1.8%増から同1.4%増へと0.4ポイント低下すると見通した。世界経済の先行き悪化の懸念、米国経済における不透明感の高まりを受け、企業は設備投資判断を慎重にせざるを得なくなると指摘。関税を避けるために米国内での生産拡大を進める企業も増え、日本国内での設備投資を抑制する要因の1つとなりそうだとしている。

輸出や設備投資に対する影響は企業の利益に直結することから、民間法人企業所得(会計上の経常利益に相当)は、従来予測の同1.8%増から同0.1%減へと1.9ポイント低下すると予測。民間法人企業所得はコロナ禍の2020年度を底に増加基調にあったが、トランプ関税の発動によって5年ぶりに減少へと転じる可能性があると指摘した。

こうした状況は、労働者の所得にとってマイナス材料となり、個人消費を下押しする要因になり得る。民間最終消費支出は同1.0%増から同0.7%増へと0.3ポイント低下する見込み。GDPの5割超を占める個人消費が伸び悩むことにより、日本の経済状況はさらに厳しさを増していくと分析した。

倒産件数は2024年度に1万70件と11年ぶりに1万件超となったが、このような状況のなかで2025年度には1万574件(前年度比+5.0%)と従来予測より339件増加すると見込んでいる。失業率は2.6%と0.1ポイント上昇すると予測した。

シナリオ2:相互関税10%が継続

2025年度の実質GDP成長率は、相互関税10%が課せられることにより従来予測から0.3ポイント低下し、前年度比+0.9%になると予測。2025年度のうち9か月にわたって相互関税が24%適用のケースより低くなるため、成長率はシナリオ1より0.2ポイント分、落ち込み幅が緩和すると見られる。

輸出の伸び率は同1.4%増となり、従来予測より1.3ポイント低下すると見込まれる。関税24%適用のケースと比較すると伸び率は0.4ポイント上回る。民間企業設備投資の伸び率は同1.6%増と、従来予測より0.2ポイント低下する見通し。

関税24%適用のケースとの比較では、伸び率は0.2ポイント上回る。民間法人企業所得は同0.1%増となり、プラスを維持できる見通し。関税24%適用のケースではトランプ関税の発動で減少へ転じる可能性があるが、相互関税10%が継続する場合は5年連続で増加すると見込まれる。

民間最終消費支出は同0.8%増へと従来予測より0.2ポイント低下すると予測。関税24%適用のケースと比べると、減少率が0.1ポイント縮小するとみられる。倒産件数は1万489件(前年同比+4.2%)と従来予測より254件増加すると見込まれる。そして、失業率は2.6%と0.1ポイント上昇すると予測される。

シナリオ3:相互関税24%が継続するケース

2025年度の実質GDP成長率は、相互関税24%が続くことで従来予測から0.5ポイント低下し、前年度比+0.7%になると予測。輸出の伸び率は同0.8%増、従来予測より1.9ポイント低下すると見込む。民間企業設備投資の伸び率は同1.4%増と、従来予測より0.4ポイント低下する見通し。民間法人企業所得は同0.2%減となり、従来予測より2.0ポイント低下すると見られる。

さらに、民間最終消費支出は同0.7%増と従来予測より0.3ポイント低下すると予測した。倒産件数は1万687件(前年同比+6.1%)と従来予測より452件増加すると見込まれる。そして、失業率は2.6%と0.1ポイント上昇すると予測される。

シナリオ3は、当初の相互関税24%が実行されていた場合の予測。実際はその後、数日の間にさまざまな政策修正が行われたことから、少しずつその影響は和らいでいる。

「1年後には対策整い状況好転」の声も

TDBでは「関税をめぐる現在の状況は、日本の実質GDP成長率の下押し、企業の倒産件数の上振れが予測されるなど、経済に与える影響は広範囲に及ぶと考えられる」(TDB)と総括している。

特に中小企業にとっては、「直接的に海外取り引きを行っている企業だけでなく、国内を中心とした場合においても、裾野の広い自動車関連をはじめさまざまな経路を通じて影響を受けることになる。企業からも先行きを懸念する意見が数多く聞かれている」(同)とした。

一方で、「1年後にはトランプ政権による関税対策が各方面で整い、状況は好転するものと考える」といった今後の対応により状況が落ち着くと見込む声もある。「政府が相互関税の影響を緩和する経済対策を効果的に実行することに加えて、それぞれの企業が市場の動向を注視しながらできる範囲で対策を練っていくことが重要」(TDB)とまとめている。

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