41万SKUのスポーツ用品を素早く届ける秘けつは「システム」と「ヒューマンパワー ─サーフィン、スケートボード「MOVE」
東京から北西へ車を走らせて荒川を越えたら、そこはもう埼玉県。道路沿いには一軒家やマンション、大型チェーン店が立ち並び、のんびりとした風景が広がる。「MOVE 戸田本店」は、そんな静かな郊外にある。オープンは2000年。サーフィンやスケートボードといった「横乗り系」のスポーツ用品からスタートし、今では野球、サッカー、登山、ランニング用品までをそろえる総合スポーツ用品店になった。
天井の高い倉庫のような店舗の中には、サーフボードやウェットスーツなどがずらりと並び、週末になると駐車場は満車になる。だが「MOVE」の本領はここを見ただけではわからない。実は、41万SKUもの商品を扱う業界屈指の品ぞろえなのだ。
売上の8割はネット通販。現在の店舗数はYahoo!ショッピングや楽天市場など14店を数える。主力商品であるサーフボードは1日に数百本売れることもある。ところがスタッフは社員数10名とアルバイト8名。一体どうやって出荷業務をこなしているのだろう? 巨大なECサイトのバックヤードを訪ねた。
配送ドライバー時代、配達に来て「ここで働いてみたいな」と思った
ネット通販を支える出荷現場は、戸田本店の2階にある。階段を上がっていくと、スタッフの皆さんがきびきびと動いていた。 出荷作業を担っているのは、受注担当の社員・小久保さんと、バイトリーダー吉成さんをはじめとするアルバイトスタッフが3〜4名ほど。
吉成さんの入社は2年ほど前。今ではバイトリーダーとして接客から検品、梱包、出荷業務までをこなしている。出荷が多い日は全員が連携し、迅速に作業を進めていかなければとても間に合わない。忙しくなればなるほど、リーダーには的確な判断が求められる。
以前は運送会社でドライバーをしていて、この店に配達に来たときに「働いてみたい」と思って面接を受けました。SUP(サップ)などのマリンスポーツやアウトドアが大好きなんです。休みの日に子供と海へ行くのが楽しみで、それが元気の源。そのために働いています(笑)。
梱包を行っているスタッフは皆主婦なので、手際はすごく良いですよ。いつも家族の話なんかをしながら手を動かしています。日々いろんなことが起きるんですけれど、「じゃあどうするの?」となった時は、まずお客さんの立場になって考えます。やっぱりお客さん相手の仕事なので、お客さんのことを思うことが一番かな、と。仕事は楽しいです。出荷が多くても、やり切ったのが目に見えて分かるから気持ちいいですね。(吉成さん)
間違っていると思ったことははっきり言う、それも吉成さんが大事にしていることだ。
相手からどう思われるかとか、気にしないで言っちゃう方です。言わないと伝わらないし、言わないよりは、言って後悔する方がいい。わからないことはすぐに聞くし、現場でわからないことはメーカーに電話して聞きます。ダラダラするのは嫌いなので、何でも白黒はっきりさせて、なるべくその日の内に解決させますね。
間違っていると思ったら、相手が社員さんでもはっきり言います。そして解決したら、後はもうすっきり(笑)。自分がはっきり言えば、相手もはっきり言えるようになると思うんです。(吉成さん)
気持ちの良いチームワークの秘訣は、お互いに言いたいことが言える環境にあるのかもしれない。そんな吉成さんに、仕事をする上で大切にしていることを聞いてみた。
やっぱりお互いに声をかけ合ってコミュニケーションを図ることが大事かな。あとは笑顔。お客さんも元気のないお店になんか来たくないと思うから、大きな声で挨拶をするし、大きな声で応えています。笑顔は普段から心がけていますね。(吉成さん)
一生懸命仕事をしている先輩たちと出会って「こうなりたいな」と思えた
次にお話をうかがったのは受注を担う小久保さん。この方なくして出荷業務は回らない。謙虚で真っ直ぐな一番の若手だ。
小久保さんの1日
9:30 | 出社。受注データをチェックして出荷量を確認する。各売場の担当者が集まり、朝のミーティング |
9:45 | 受注票を印刷し、出荷チームと連携をはかり商品をピックアップ。メーカーに在庫がある商品はメーカーに納期を問い合わせる。お客さんの注文内容が複数の倉庫にばらけている場合は、どこの倉庫に集めるかを判断して、出荷指示をする。送付状を発行して出荷チームに渡し、梱包を依頼する |
10:30 | 1回目の発送分を出荷する |
12:00 | 2回目の発送分を出荷してお昼休憩 |
13:00 | 午後の業務スタート。受注データを処理しつつ、お客さんへ納期を知らせるメールを送る |
14:00 | 3回目の発送分を出荷 |
17:00 | 4回目の発送分を出荷 |
19:00 | 納期の確認がとれていない商品については、お客さんに納期の確認が遅れている旨メールする |
20:00 | 帰社 |
小久保さんはもともと、「MOVE」大宮店へ接客のアルバイトスタッフとして入社した。
接客とランニングが好きだったので「MOVE」でバイトを始めました。そこで一生懸命仕事をしている先輩たちと出会って「こうなりたいな」と思ったんです。それから希望が叶って社員にしていただいたので、バイトや社員という立場に関係なく、みんなの意見を聞いて現場をまとめられるような人になりたいと思います。(小久保さん)
戸田店に配属されて間もなく、受注を担当することになった。最初はパソコンが苦手だったが 、「だんだんわかるようになってきて、今では楽しいと思えるようになった」と明るい表情で語る。そんな小久保さんが最もやりがいを感じるのはお客さんとやりとりをしている時だ。
お客さまの顔は見えないんですけれど、備考欄に希望が書いてあったりするんですよ。例えば「すごく急いでいます」と書いてあったら、在庫があればすぐに電話をして「本日発送致します」とお伝えします。
逆に欠品していた商品を誤って受注してしまった時は、お詫びの電話をしてお叱りを受けることもあります。でも、欠品でお怒りになっていたお客さまに「色違いの商品はいかがでしょうか?」と提案して、納得していただけた時は、すごく嬉しかったですね。こちらがご迷惑をおかけしたのに「ありがとう」と言っていただけたんです。そういう喜びがあるから続けられているんだと思います。(小久保さん)
元接客スタッフだけあって、メールや電話の対応にもホスピタリティが生きている。吉成さんをはじめとする出荷チームとの連携も大きな励みになっている。
日々いろんな問題が起こるので、いつも周りのスタッフに「これ、どうかな?」ってアドバイスを求めています。私1人の意見だと偏ってしまうし、年上の方の意見は貴重だと思うので。 吉成や他のスタッフが「こうした方が良いよ」とアドバイスしてくれるのでありがたいですね。
決まったルールに従うというより、1人ひとりが自分の意見をもち、自分で考えて動いている感じです。上も下も関係なく話し合って、良い意見はどんどん取り入れて実際にやってみて「どうだった?」と言って、また皆で話し合います。チームのメンバーは1人も欠けてほしくない、大切な仲間ですね。人数は少ないんですが、その分連携もとれているし、これからも皆で頑張っていきたいと思います。(小久保さん)
アナログな部分を極力生かしつつ、無駄な部分を省く
最後にお話をうかがったのは社内のインフラを支える柴原さん。この会社の創生期を知る重鎮だ。代表の小関伸利さんとは、古い付き合いだという。
代表の小関とは以前在籍していた会社の同僚だったんですよ。小関はサーフィン用品のバイヤーで、私はシステムエンジニアをしていました。その会社から小関が独立して「MOVE」を設立しました。小関は当時ウインドサーフィンをしていて、もともと好きで始めた商売なんですね。社員もサーフィンやスケボーが好きなスタッフばかりです。頭で考えるより、先に体を動かしてしまうタイプの人間が揃っていますよ。(柴原さん)
最初はYahoo!オークションから始めてショッピングモールに出店。初心者をターゲットにしたサーフィン用品の手頃なセットを売り始めると、これがヒットし、売上がどんどん伸びていった。
サーフィンというのは元々コアなスポーツですから、それを世の中に広めていくためにどうしてもネットの販路が必要だったんです。ちょうど世の中がネット社会に移行し始めた時期にネット通販を始めて、売上は右肩上がりに伸びていきました。僕が入社したのは、ちょうどその頃です。「忙しくなってきたから関わってくれないか」と誘われて。(柴原さん)
規模が大きくなると売上は伸びていったが、それに伴い歪みも出てきた。在庫割れや発送遅れなどが発生するようになってしまったのだ。そこで柴原さんはすべての商品のJANコードを登録し、システム上で在庫管理ができるようにした。
僕、無駄が嫌いなんですね。でも、この会社はヒューマンパワーで成り立っている会社なので、基本はアナログなんですよ。そのアナログな部分を極力生かしつつ、無駄を省くというのが僕の信念です。(柴原さん)
次にぶつかったのが、複数の拠点で抱えている在庫を管理しきれないという問題だった。現在は「MOVE」戸田店、筑波にある物流センター、支店、メーカーの4拠点に在庫が保管されていが、以前は複数の拠点で抱えている在庫をアナログで管理していた。さらに、野球のグローブやサーフボードなどは戸田本店に集め、スタッフの手で加工を行い、加工後に出荷しなければならない。
そういったイレギュラーな注文をこなすためには、新たな在庫管理システムを導入し、人間が判断しながら出荷作業を進めていく必要があった。
以前は受注を受けてから各倉庫に電話やFAXをして「この商品ある?」と聞いたりしていました。当然のことながら業務が追いつかなくりますよね。当時の担当者は本当に泣きながら仕事をしていましたよ。そこで、まず現状をヒアリングして、「ここまではシステムで管理してここからは人間がやればいい」というところを整理して新しいシステムを入れました。(柴原さん)
以来、発注データは基幹システムを通じて自動的に各倉庫に振り分けられ 、受注担当者がそれを見て出荷指示を出すというフローが完成した。出荷のスピードはぐっと早くなり、ネットのレビューにも「MOVEは納品が早い」「翌日配達の指定をしていなかったのに次の日に届いた」と書き込まれるようになった。
うちはフットワークは軽いと思います。ヒューマンパワーでやっているからこそ、時代の流れに柔軟でいられるのかもしれません。そこは、今後どんなに伸びても変わらない部分だと思います。格好悪い会社なんだと思うんですよ、多分。(柴原さん)
この記事はB.Y(CROSSBACKYARD.COM)の協力のもと、「STORY of BACKYARD」に掲載された記事をネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。オリジナル記事では動画をふんだんに使ったコンテンツをお楽しみいただけます。オリジナル記事へは下記のリンクをご利用ください。