「なんで俺はもっと早くネット販売しなかったんだ」─ 新鮮な農産物を全国に届ける流通元と農家のきずな
太平洋に面し筑波山を抱え、自然に恵まれた茨城県。暑過ぎず寒過ぎず、さまざまな農作物が収穫できる。しかも、出荷先となる都心へも2時間ほどでアクセス可能ということで、農業従事者にとって好条件がそろった地域だ。
その茨城の豊かな農作物を扱うECサイトが「おいしいねいばらき」。梨や巨峰、とうもろこしなど、その季節ならではの旬の特産品が楽しめる。「おいしいねいばらき」を運営する「未来創造tonbo」、商品の仕入先である地元の農家「マルカファーム」「夢食六(むべろく)ファーム」を取材した。登場する3人は全員生まれも育ちも茨城県。茨城ならではの商品の魅力だけでなく、生産者と流通元の信頼関係についても教えてくれた。
完熟の美味しさを伝えたい。だから朝採り
「おいしいねいばらき」を運営しているのは未来創造tonboの大沼明弘さん。受注処理や顧客対応、農家への対応を行うのが主な仕事だ。「おいしいねいばらき」では大沼さんから各農家に注文情報を送り、農家で採れたてを梱包・発送している。スーパーマーケットに出回る青果は、流通の問題もあって早採りのものが多い。しかし、どうしても完熟の美味しさを伝えたい。そのため、収穫したその日に農家から発送し、鮮度を保ったままお客さまに届く仕組みを作った。
農作物は自然に大きく影響される。出来の良し悪し、収穫量や収穫時期は天候次第。そのため、作物の成長具合を農家から伝えてもらうも大事な仕事だ。大沼さんと生産者はLINEでやりとりをしている。作物ごとにLINEグループを作り、生産者から作物の様子がわかる写真を送ってもうらう。出荷時期が遅れそうな場合は、予約しているお客さまに大沼さんからメールで連絡する。早めに連絡するので、お客さまを待たせて不安にさせることはない。大沼さんならではの気配りだ。
2010年の会社設立当初は自社サイトのみで販売していたが、楽天市場やYahoo!ショッピングに出店してから格段に売上が伸び始め、現在も倍増の勢いで伸びている。サイトに寄せられるレビューも年々増え、収穫時期になるとお客さまから自然と予約注文が入るまでになった。
問題を共有できる生産者と組みたい
良質な農作物を作っていてもクレームは発生する。お客さまからのメールは毎回開くまで緊張する。中には農産物の特性上、避けられないクレームもある。そんな案件には丁寧に説明し、理解してもらえるよう心がけている。
自社に非のあるクレームが届いたら、お客さまから商品の写真を送ってもらい、生産者と共に問題を検討する。大沼さんはクレームが来た時に一緒に対策を考えられる農家とだけ関係を結びたいと考えている。生産者側の熱意は重要だ。やる気のある生産者からやる気のある生産者を紹介してもらうこともある。
クレーム対応だけでなく、お客さまからのレビューも生産者と共有している。シーズンが終わると反省会を開き、その時期に来たレビューをプリントアウトして生産者に渡し、評価が低いものから並べて検討し合う。お客さまの声が届かない市場出荷と違い、厳しいレビューを読んでくじけてしまう生産者もいる。しかし、そういった苦労を乗り越え、顧客を増やしてきた。
ある日、お客さまから「病床に伏せている娘が亡くなる前に、大好きだった梨の汁を飲ませました」という手紙が届いた。大沼さんは翌年の同じ時期、同じ品種の梨を「御仏前に」と送った。もちろん、この話も生産者と共有している。
「梨嫌いの子どもが食べた! 何なんですか? この梨は!」
茨城県のほぼ中央部、かすみがうら市に位置するマルカファームは、「おいしいねいばらき」の仕入農家の1つだ。矢口仁矢さんは100年続く梨園の5代目。梨やブドウを栽培しながら、キャベツやとうもろこしなどの露地野菜の栽培にも取り組んでいる。
矢口さんと「おいしいねいばらき」の出会いは出荷組合。「インターネットでの販売を手助けしたい」という呼びかけに、もともとインターネット好きの矢口さんが反応した。梨は雹(ひょう)害で価値が下がることが多い。苦労して市場に出しても儲けは少なかった。矢口さんは梨の栽培を辞めようと考えていた。そんな時に大沼弘美さんから「見た目が少々悪くても味が良いからもったいない」とネットでの販売をすすめられた。
見た目の悪い梨は店頭では見向きもされない。しかし、ネット販売なら「傷があっても美味しい梨だ」とお客さまに伝えられる。「農作物ですから個体差もあります。個性を楽しんでください」と、デメリットをメリットとして伝えられる。
「おいしいねいばらき」で販売してみると、注文が続々と入るようになった。当初は30ケースほどを予想していたが、予想を遥かに上回る300ケースの売り上げとなった。翌年はそれを上回る売り上げで、伝票のやり取りが大変になるほどになった。出荷時期は限られるが、試行錯誤を繰り返して数を伸ばしていった。
あるお客さまから「うちの子どもはこれまで梨を食べなかったのに、マルカファームの梨はあっという間に食べた。なんなんですか?この梨は!」というレビューをいただいたんです。それを読んだ時に、「なんで俺はもっと早くインターネット通販をやらなかったんだ」と思いました。農業は厳しい分野ですが、こうしたお客さまに支えられて、「やっていける」と思えようになりました。(矢口さん)
お客さまからのレビューを読むのは仕事をやっていて良かったと思える瞬間。「農業は美味しいものを作れば作るほど難しくなる。お客さまの反応をダイレクトに感じることができてうれしいけど、怖い部分も大きくなる。そういう思いを共有できるパートナーはなかなかいない」と、「おいしいねいばらき」さんとの関係性を語った。
矢口さんは「おいしいねいばらき」の顧客対応は特別だという。「僕自身、ネット通販をよく利用するんですけれど、パッパと売ればいいという対応が多い。でも、大沼さんはそうじゃない。生産者もお客さまも想いがあるのを理解している」。
鮮度を保つために、とうもろこしを縦に詰める
夏が始まったばかりの7月中旬。この季節に旬を迎えるのは「生で食べられるとうもろこし」。市場に出回る一般的なとうもろこしは、茹でる、焼く、蒸すなど、火を通して食べるのが一般的だが、マルカファームのとうもろこしは生で食べられる。
取材日はとうもろこしの収穫日。日が昇る前の深夜2時、矢口さん宅に集合し、トラクターでとうもろこし畑へ向かった。畑の一角にはとうもろこしが生い茂る。
フサフサとした葉に包まれた果実を、矢口さんたち3人が鎌で次々とで刈り取っていく。熟していないものや虫が入ってしまったものはその場で取り除く。3時間程で作業終了。とうもろこしがぎっしりと積み込まれたコンテナは、トラクターで矢口さん宅前に運ばれていく。
そのまま発送準備。重さごとにダンボールに詰めていく。この時、とうもろこしは横ではなく縦に詰める。これは大沼さんとの話し合いの中から生まれた鮮度を保つためのアイデアだ。そのために箱も特注した。
発送は収穫日当日。ヤマト運輸がエリア限定で提供している「関東当日便」を使えば、関東一円なら収穫日当日に届けることもできる。まさに採れたてをお客さまに届けられるのだ。
自分で考えて仕事をするのは楽しくて、朝が待ち遠しいんですよ。とうもろこしが「今日採って!」と語りかけてくるんです。「やるぞ!」という気持ちになります。(矢口さん)
「これからはもっとお客さまに近づけるような、体験型の取り組みも入れていきたい」と意気込みも聞かせてくれた。
茨城の風土が生み出すさつま芋の甘味
「夢食六(むべろく)ファーム」は、熟成させた焼芋丸干し芋「夢こまち」が人気の製造元だ。もう1つの人気商品「冷やし焼きいも」は、茨城おみやげ大賞2016最高金賞を受賞した。
小沼広太さんの前職は塾の先生。教え子の高校生たちが地元の良さをアピールできないことに疑問に持つようになり、そこから茨城の魅力を県外に伝えたくなったという。「茨城はPRが下手。すごくもどかしい。メロンが有名なのにアピールが足りないのはなぜなんだろう。さつま芋だって鉾田市は日本一の生産地なのに」。
甘みが豊富な干し芋は、焼芋にしてから干し上げる製法で特許を取っている。人気の秘訣は茨城独自の熟成方法。成長途中の芋は畑の温度が低いと凍ってしまい、中身が黒くなって苦くなる。暖かい地方はそれが起きないが、茨城は昼夜の寒暖差が大きいので凍ってしまう。
そこで、掘り出した芋は「キュアリング倉庫」という特殊な熟成倉庫に入れる。湿度100%、気温35度で温めてから温度を下げて熟成させると、芋の周りにコルクのような壁ができ、デンプンが糖に変わる糖化減少が起こる。それによって独特なうま味が生まれる。昔から茨城に伝わる製法だそうだ。
「茨城の芋がダントツにうまい」
夢食六ファームを立ち上げたのは小沼さんの父。JAの直売所で店長を15年程勤め、組織に収まらない働き方で農家のために動いていた。JAでは芋を選別する部署に所属し、全国の芋を食べ歩いた。鳴門金時など有名なブランド芋も多数ある中、小沼さんの父は「茨城の芋がダントツにうまい」と感じたそうだ。夢食六ファームを始めたのは、干し芋を製造するオーナーから本格的に販売したいということで、芋のプロである小沼さんの父に声が掛かったことがきっかけ。
その後、茨城県鉾田市に直売所「夢食六ファームほくほく」を開店し、独自に仕入れた地元の特産品を販売するようになった。消費者に喜んでもらうには価格は安い方が良い。しかし安過ぎれば生産者を苦しめる。だから、良いものにはできるだけ高い値段を付けている。そのため農家も喜んで良い作物を出してくれる。まさに信頼あっての関係性だ。「夢食六ファームほくほく」は3年目を迎えて地元に定着し、売上も上昇中だ。
干し芋を加工しながら直売所を経営する小沼さんと、大沼さんが知り合ったのは、「利用していたダスキンの営業担当が大沼さんと生活協同組合の同僚だった」という、ちょっと不思議な縁だ。当時通販をやっていなかった小沼さんが、大沼さんを紹介してもらった。
「おいしいねいばらき」で流通を始めた頃は、まだ県外に干し芋の美味しさが伝わっていなかった。まずは試食をしてもらいたいが、通販では試食ができない。そこで、大沼さんから「お試しパッケージ」の提案があった。小沼さんにはないアイデアだった。
お試しパッケージには「お1人様1回限り」「レビュー必須」などの制限を加えていたが、それでも毎日売れ続けた。最初は売れるとは思っていなかったため、品不足になってしまった。好調な売れ行きを受け、ギフトセットなどの商品にも生まれ、現在は「おいしいねいばらき」を代表する人気商品に成長した。
「茨城県は魅力が多すぎてなかなかアピールができていない。都会に近く経済的にも苦労していないので、特産物を強調しなくてもやっていけてしまうんですよ」と語る小沼さん。茨城の魅力を熟知しているからこそ、もどかしい部分が見えてしまう。それは「おいしいねいばらき」の想いとも通じている。
大沼さんには「生活協同組合で働いている時に、茨城の美味しいものでご飯を食べさせてもらった。茨城にはこんなに美味しいものがあるのに知られていない。茨城の味を全国に知ってもらいたい」という想いがあって、それは私の根底と合致しているんですよ。(小沼さん)
こうした地元への熱い想いが集まっているからこそ、「おいしいねいばらき」は常に活気にあふれているのだろう。
この記事はB.Y(CROSSBACKYARD.COM)の協力のもと、「STORY of BACKYARD」に掲載された記事をネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。オリジナル記事では動画をふんだんに使ったコンテンツをお楽しみいただけます。オリジナル記事へは下記のリンクをご利用ください。