STORY of BACKYARD 08

熊本県北部に位置する山鹿市。阿蘇外輪山の奥地から湧き出した水が市内を東西に横切る菊池川にそそぎ込み、辺りの水田を満たす。菊池川流域で米作りが始まったのは、今からおよそ2000年前といわれている。はるか昔に始まった米作りが、豊作を祈るさまざまな祭りや風習、灌漑(かんがい)技術、美しい田園風景、豊かな食文化などを生み出し、この地に恵みをもたらしてきた。

今回訪れた米屋は、菊池川の北部に広がる田んぼと山すその合間にあった。有限会社農産ベストパートナー 代表の渕上勝瑠(ふちがみ・すぐる)さんは、生まれも育ちもこの辺り。どこまでも広がる田園風景は、子どもの頃から少しも変わっていないという。

2013年に始まった「こめたつ」の挑戦

有限会社農産ベストパートナーの皆さん
有限会社農産ベストパートナーの皆さん。一番左が代表の渕上勝瑠さん

渕上さんが今の仕事に携わるようになったのは2008年のこと。父が創業した会社の経営に加わり、それまで行っていた穀物の加工業に加え、お米の卸販売を始めた。最初は県内の優良な産地にある米農家を1軒1軒訪ね、仕入先を探すところからスタートし、今では農薬の使用を最小限に抑えた良質なお米を、九州各地から仕入れている。

楽天市場に「お米の達人 米蔵人」通称「こめたつ」を開店したのは2013年。「新鮮な熊本のお米を食べてほしい」という一心で、受注から精米、梱包といった出荷までの一連の作業を半日〜1日半で行ってきた。今では楽天市場 白米ランキングの上位にランクインする人気店だ。

「こめたつ」社内風景

こめたつでは新米が入荷するたびに試食会を行っている。取材にうかがった日も、スタッフの皆さんが手に手におにぎりを持って感想を言い合っていた。おにぎりを1つ分けていただくと確かにおいしい! ほど良い粘りと甘みがあり、いくらでも食べてしまいそうだ。熊本のお米のことがもっと知りたくなり、バックヤードを支える人たちにお話を聞いた。

おいしいお米を食べると幸せになれます

こめたつではお米本来の風味や甘み、栄養を生かせるように、胚芽を少し残して精米している。金芽と呼ばれる胚芽の基底部にはビタミンB1やビタミンE、食物繊維が多く含まれ、味も良いのだという。

敷地内にある工場で、その精米作業を担っているのが工場長の山部健輔さんだ。お米は品種や水分量によって精米の仕上がりが変わってくるため、毎回精米方法を変え、ベストなポイントに近づけていく。

お米は精米した日から酸化が始まり、徐々に味が落ちていくので、出荷日の前日か当日に精米して、すぐに出荷しています。こういうことができるのがネット販売の強みですよね。レビューで「こんなにおいしいお米は食べたことがない」とか「熊本のお米もおいしいじゃないか」などと書かれていると、やっぱり嬉しいです(山部さん)

農産ベストパートナー 山部健輔さん
農産ベストパートナー 山部健輔さん

山部さんと渕上さんは小学校以来の同級生。精米部門がスタートした時に渕上さんから声をかけられ、工場を任されることになった。最初の頃は誰も精米方法を知らず、手探りで研究する日々が続いた。現在行っている精米方法は10年かけて体得した。

出社時間は朝の8時。パートさんたちが出勤してくる前に工場内の掃除と機械のメンテナンスを済ませ、8時半には作業を始められるようにする。受注チームからその日の出荷メニューを受け取ったらひたすら精米。毎日、首尾よく連携しなければこなせない量の注文が入る。だからこそ、山部さんが大切にしているのがコミュニケーションだ。

農産ベストパートナー 山部健輔さん

いい雰囲気を作りたいので、みんなとざっくばらんな会話をするように心がけています。もちろん真面目な話もしますけれど、何気ない世間話を交えながら、笑い合いながら作業しています。(山部さん)

時には契約農家の方に、精米する立場からお米の乾燥度合いなどについて要望を伝えることもある。なにしろ毎日お米に触れ、厳密にチェックしているのがこの方なのだ。山部さんは、ゆくゆくは仕入れにも携わり、よりおいしいお米を扱っていきたいと語る。そこまでお米に情熱的になれるのは何故なのだろう? 少し不思議に思ってたずねると、こう答えてくれた。

疲れて家族のもとに帰って、ご飯がおいしかったら嬉しいですよね。おいしいお米を食べると、幸せになれます。(山部さん)

山部さんのモチベーションの核には、シンプルな幸せがあった。

「こめたつ」社内風景

自然と付き合う農家のとびきり自由な生き方

熊本のお米はおいしい。そうと知れば作られる現場が見たくなる。そこで、こめたつの人気商品の1つ「ミルキークイーン」を育てる森本一仁さんを訪ねることにした。

山鹿市から東へ車を走らせること約1時間。阿蘇外輪山を越えると急に地形が変わり、小高い丘の隆起が目立ち始める。どこか別の星へ来たようだ。ひたすら山を下り平地へ着くと、山々に囲まれた静かな水田地帯が広がっていた。

この辺り一帯は火山体の中心部にできた窪地、阿蘇カルデラ。東西18キロ、南北25キロという面積は、世界でも有数の広さだ。ここでは平らな地形を利用し、農業や畜産が行われている。火山灰でできた土壌と山からの湧き水、寒暖差のある気候がおいしい農産物を育くむのだという。標高が高いことで農薬の量を抑えられるというのも驚くべき事実だ。

森本さんの家は田んぼの真ん中にあった。現在は周囲の田んぼでコシヒカリやミルキークイーンなどを育てている。渕上さんとは2011年からの付き合い。渕上さんが仕入先を探して阿蘇を回っていた頃に出会った。信頼を築くまでにはそれなりに時間が必要だったが、今では折にふれ盃を交わす仲でもある。

お米屋さんと生産者って、本当はそんなに深く付き合う必要はないんですよ。僕が彼とお付き合いしているのは、渕上君という人が信頼できることと、納得のいく価格で取引してくれるから。渕上君が自分たちの利益だけではなく、生産者の生活のことも考えて価格を決めているということがわかった時に、この男は信頼できると思いました。

彼のところではお米の価格を高くすることで儲けるのではなく、生産費を抑える企業努力で利益を上げている。だから、作る人からも消費者からも信頼されるんじゃないかな。(森本さん)

生産者の森本一仁さん
生産者の森本一仁さん

もともとミルキークイーンは、熊本ではほとんど作付けのないお米だった。そこへ渕上さんから「阿蘇でミルキークイーンを作ってみませんか?」と提案があり、生産することになった。当初は県内で苗が手に入らず、森本さんのネットワークを生かして仙台から苗を仕入れ、やっと栽培に着手できたという。深い信頼関係がなければ、とてもできなかったことだろう。森本さんに、これまでに大変だったことを尋ねてみた。

やっぱり、台風や地震の被害を受けた時は辛かったですよね。ただ農家は、自然と付き合っていかないといかん。自然から仕打ちを受けることもあるけれど、恩恵もたくさんある。そこは僕らの手の届かない領域だから、自然を恨む必要はないし、「今年がダメだったら来年がある」と頑張っていくしかないと思うんです。

農家の人には、その辺も楽しんでほしい。人のせいにも天候のせいにもせず、すべて自分で受け入れ、愚痴も言わない。そうやって自己責任で働けるところが農業のいいところだと思っています。

それで最終的に消費者の方に「おいしいね」と言ってもらえたら良いなと思うけれど、僕は結果も100%を求めない。その人の好みに合ったお米が見つかったら、その人は幸せだと思うけどね。

かといって、毎年そればっかり食べる必要もないと思うんだ。消費者の人には、いろんなお米を食べる楽しみがあると思うよ。「この前食べたコシヒカリがおいしかったから今度は違う産地のコシヒカリを食べてみようかな」とかね。僕はそうやって、何でも難しく考えないんだな。こだわりがないのが僕のこだわりだから。(森本さん)

森本さんはそう語るとあっけらかんと笑った。森本さんが作るミルキークイーンは毎年数量限定で販売され、5か月ほどで完売してしまうという。100%の結果は求めないと言うけれど、最終的にはお客さんに喜ばれ、ご本人も人生を楽しんでいる。なんと潔く気持ちのいい生き方なんだろう。

稲穂

お客さんを幸せにできるようなお米屋になりたい

こめたつのトップページには「ひのひかり」「森のくまさん」「あきげしき」といった熊本のお米の名が並ぶ。北国のお米に親しんでいる人にはほとんど馴染みのない名前かもしれない。ところがこめたつのオープン以来、熊本のお米は少しずつシェアを伸ばし、2017年には楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤーの「米・雑穀ジャンル賞」を獲得した。

米の名産地が数あるなか、どうやって人気を集めてきたのだろう? 「こめたつ」店長であり代表の奥様、そして一児の母でもある渕上芳巳さんにお話をうかがった。

熊本のお米は粒がしっかりしていてコクと甘みがあるものが多いです。熊本のお米を知らない方には「とにかく一度食べてみて!」と思いますね。

ただ、お米には人それぞれ好みがありますので、どのお米が良いのかお客さんから質問されたら、はじめに普段どんなお米を食べいるかお聞きします。その上で、その方が求める食味に合いそうなお米をご提案しています。(渕上さん)

農産ベストパートナー 渕上芳巳さん
農産ベストパートナー 渕上芳巳さん

こめたつの運営方法やページのデザインなどは、夫婦で相談を重ね、アップデートを続けてきた。

何もわからない状態から始めて、少しずつノウハウをつかんでいきました。2人で「ああでもない、こうでもない」と言い合い、喧嘩をしながらページを作っています(笑)。でも、そのおかげでページのクオリティが上がってきたのかもしれません。(渕上さん)

受注業務は、芳巳さんともう1人のスタッフが担っている。特に気を配っているのはスピードと丁寧さ。お客さんの要望に素早く応え、小さなことでも1つひとつ丁寧にこなすようにしている。

お客さんからのお問い合わせには、なるべく半日以内にお答えしています。「明日のお米がないからすぐ届けてほしい」という要望や、急なキャンセルにもできる限りご対応しています。始めた頃と比べると注文数が増えたので、イレギュラーなお問い合わせに対応するのは大変ですが、お客さんの安心や信頼につながるのであれば、頑張ってお応えしていきたいと思っています。(渕上さん)

パッケージや梱包にもこだわっている。米袋はリニューアルにリニューアルを重ね、現在は茶色いクラフト地に白1色でイラスト。普段あまりお米を食べない若い方や、子どもたちにも受け入れてもらえたらと思い、可愛いらしいデザインに変えた。

「こめたつ」社内風景

お米は届いた袋のまま常温で保存しておくと虫がわいてしまうことがあるんです。こめたつでは密閉容器に移して低温で保存することをお勧めしているのですが、夏場などはどうしても虫がわいたというクレームを受けることがありました。

そこで、「脱気包装」という包装方法を取り入れたところ、クレームの数が激減しました。酸素を抜き、脱酸素剤を入れて包装することによって、虫の発生や酸化を防げるんです。脱気包装はオプション料金をいただいているのですが、保存期間も伸びますし、この包装があるからうちで買うと言ってくださるお客さんもいます。(渕上さん)

こうしたさまざまな工夫やきめ細やかな対応が喜ばれ、また「熊本のお米のおいしさを伝えたい」という並々ならぬ熱意が伝わり、お客さんからの支持につながっていったのだろう。

お米は日本の主食ですよね。農家さんも町のお米屋さんも減りつつありますが、お米の消費量が減ってしまっては困ります。子どもたちにも、もっとお米を食べてほしい。もちろん野菜も大事ですけど、お米さえあれば大きく元気に育ってくれる。「お米を通して皆さんの健康を支えています」というくらいの気持ちはあります。

お米屋としてのプライドというんですかね。うちのお米を食べて「元気になったよ」と言っていただけたら嬉しいです。お客さんを幸せにできるようなお米屋になれたらいいなと思っています。(渕上さん)

「こめたつ」社内風景

自分たちが毎日食べているお米の良さを発信し、そのお米がどこかの誰かを幸せにする。なんてシンプルなことなんだろう。社屋の向こうに稲穂が青々と揺れているのが見えた。穂の中にはもう甘いお米が実り、もうすぐ始まる稲刈りを待つばかりだ。秋になると近隣の農家さんが軽トラで何度も往復し、お米を運んで来るという。またしばらくは忙しくなりそうだ。

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この記事はB.Y(CROSSBACKYARD.COM)の協力のもと、「STORY of BACKYARD」に掲載された記事をネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。オリジナル記事では動画をふんだんに使ったコンテンツをお楽しみいただけます。オリジナル記事へは下記のリンクをご利用ください。

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B.Y

B.Yは、普段表に出ないEコマースのバックヤード(受注、出荷、顧客対応)担当者を取材した“日本初”バックヤードに特化したWEBメディア。 バックヤードの人々が実践する「運用業務の創意工夫」「仕事への向き合い方」をSTORY、「バックヤード運用ノウハウ」をTOPIC、として発信している。本来Eコマースがもつ可能性を拡げ、バックヤードの人がいきいきと働けるキッカケを提供することでEC業界全体を支援している。

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