着物の楽しさをネットで世界中に届けたい。伝統を守り革新を続ける「きもの京小町」の挑戦
「着物に興味があるけど買い方がわからない。ネットで気軽に購入できたら……」。そんな願いに応えるのが京都発祥のECサイト「きもの京小町」だ。「Enjoy!! KIMONO」をスローガンに2012年にオープンしたこのサイトは、看板商品の「着物デビューセット」をはじめ、初心者にわかりやすい独自の商品が支持されている。サイトを支える“着物愛”に迫る。
国内・海外のファンに着物を楽しんでもらうために
きもの京小町がオフィスを構えるのは、京都でも呉服業者が多く集まる室町エリア。古くからこの地で呉服卸業を営んいた同社は、京都呉服界の中でいち早くネット通販に参入した。ネットショップの運営は社内のインターネット事業部が行っている。メンバーは社員4人にパート6人。みな“着物愛”にあふれたメンバーだ。事業部をまとめる齋藤亜耶さんに話を聞いた。
齋藤さんが入社したのは11年前。最初は商品の撮影や出品や受注処理などを担当していたが、前任のWeb担当が辞めることになり、知識も経験もないのにインターネット事業部に配属、Web担当になった。業務に必要なスキルは独学で身に付けてきた。
齋藤さんの一日
9:00 | 出社。お問い合わせメール見る お問い合わせに返信 |
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10:00 | サイト上でセールなどイベントを更新する バナーやページデザインをFireworksとDreamweaverで行う 商品ページを作り込む |
12:30 | 昼食 |
午後〜 | セールの売上をチェック 売上の施策を立てる 発送メール処理 梱包作業 |
着物って、難しそうなイメージがあって、一歩入ってもらうのが大変なんです。そこで“お洋服と何ら変わらないものですよ”というイメージを持ってもらうために、社長が考案したのが「Enjoy!! KIMONO」というスローガンでした。(齋藤さん)
課題は伝統を守りつつ敷居を下げること。国内の顧客は東京、九州が多く、地元京都は5位くらい。年代は30代が多い。3月の卒業式、4月のお花見など、着物が必要になるイベントではキャンペーンを行うようにしている。一番の繁忙期は浴衣が必要とされる夏のちょっと前の6月と7月。
海外の顧客も多い。海外のモールへの出店も、世界中の人に着物を楽しんでもらいたいという思いから。
現在は海外Amazon、eBay、PriceMinisterに出店しています。以前は楽天インドネシア、楽天アメリカにも出店していました。海外出店では多言語の問い合わせへの返信や、配送事情の違いが問題になります。24時間以内に問い合わせに返答しないとお店の評価が落ちてしまうし、ちょっとした住所の不備で届かなかったり、常識のくい違いがあったり、思ってもみないトラブルがあるんですよね。(齋藤さん)
きもの京小町では、インターネット事業部でフランス語対応スタッフを雇用し、不測の事態にも対応できるよう体制を築いている。嬉しいのは海外の人に着物文化が受け入れられること。
ヒジャブを巻いたインドネシアの方が、着物を着ている写真を送ってくれたりするんです。フランスの方はファッションに敏感なので、価格が高いものも買ってくれたり……。海外の見本市に出店する時にも、現地にいるファンの方が手伝ってくださるのが嬉しいです。(齋藤さん)
高額商品が多いだけに、気を使うのは「梱包」 だ。
海外向けだと梱包資材で送料が高くなってしまうので、梱包には工夫を凝らしています。箱はつぶれてしまうのでビニールの方が良い。板を入れたり軽いものでクッションをかませたり……ノウハウもたまってきました。(齋藤さん)
初心者に寄り添う丁寧なコンテンツ作り
きもの京小町が他店と一線を画しているのは企画力。「最初に何を買えばいいのかわからない」という初心者のための「着物デビュー20点セット」や、メンズのためのセットなども人気だ。着用イメージをふんだんに掲載した特集ページや、動画での着こなし解説など、自社で精力的にオリジナルコンテンツを制作している。
実際に着ているところを見ていただかないと着物の良さがわからないので、正統派のモデルさんに着ていただいたイメージを中心にコンテンツを作成しています。コンテンツで心がけているのが“敷居は下げても品は下げない”ということ。最近は肩を出して着る浴衣やミニスカタイプの浴衣などもありますが、スタンダードな魅力を伝えることに注力しています。(齋藤さん)
解説動画においても、初心者は手順が1つでも違うと戸惑ってしまう。そこで、着付け小物セットがリニューアルされるごとに、新しい動画を作成している。初心者に寄り添ったコンテンツ作りが求められているのだ。
お問い合わせでも、「1人で着られますか?」と心配されている方が多いんです。動画だけではわかりにくい場合は、写真を入りのマニュアルも作ります。(齋藤さん)
きもの京小町の企画力は、オンライン上だけではなく、リアルでのイベントにも発揮されている。
「着物でどこに出かければいいのかわからない」というお声をいただくことが多いので、店舗でお茶会をしたり、着物で祗園祭や時代祭を見に行ったりといった体験的なイベントを企画しています。イベントによって、着物や浴衣を着る場を提供していきたい。物を売るだけがきもの京小町の仕事ではないんです。
そうしたイベントの際に、ネットのお客様とお店で顔を合わせるのも嬉しいこと。イベントだけでなく、きもの京小町の着物を通して、ユーザー同士の交流も生まれているそうだ。
東京で展示会をすると、お客様がお菓子持参で来てくださって、お客様同士で5時間ぐらいおしゃべりされているんです。みなさんうちで買った着物で来て下さるんですが、お客様同士で「それ可愛いですね」みたいに褒め合っていている姿を見るのはすごく嬉しいです。(齋藤さん)
いま企画しているのは、「着物で食べ放題のバイキングに行く」というイベント。きもの京小町の創意あふれるイベントによって、着物の道に一歩踏み出す人が増えてほしい。
お買い物の時にはお客様にウキウキしてもらいたい
もう1人お話を聞いたのは亀山雅代さん。亀山さんは元プログラマー。Uターンで京都に戻り、「着物に関わる仕事がしたい」という思いできもの京小町に入社した。着物が好きになったきっかけは、家族が時代劇好きだったこと。時代劇に出て来る女性の着物の色合いが綺麗だなと思っていた。
亀山さんはAmazon店を担当している。Amazonの特徴は売れるものが決まっていないこと。高価な反物も売れるし、小物などすぐに欲しい消耗品なども需要が高い。着物をネット上で販売する上で気を使うのは「色」。
着物で重要なのは何と言っても色です。商品画像は補正して、本物となるべく色が近くなるように気を付けています。誰もがわかるような色の名前を書くことも重要です。反物で高価なものは、事前に送ってお客様に見てもらうこともあります。人によっては顔が暗く見えるような色もあるので、後悔なく買い物をしていただきたいんです。(亀山さん)
また、文化の違いによっても受け取られ方も変わってくる。
着物セットは便利なんですが、こちらが在庫の中でいろいろと考えてコーディネートして送っているので、お客様から「違うものが良かった」と言われることも当然あります。嫌いな色は避けて、クールにするのか可愛くするのか、お客様の好みに合わせてお送りしても、どうしても「イメージと違う」ということはあります。関東・関西でも感覚が違います。(亀山さん)
お客様の感性と合わなかった場合は、対応できる範囲でコーディネートをし直して交換を行っている。実際に商品を見てもらうことができないネットショップで着物を売るには、事前・事後のきめ細やかな対応が重要だ。そのほかに、亀山さんがいつも心がけているのは、「お買い物の時にはお客様にウキウキしてもらいたい」ということ。
お買い物ってすごく楽しいことですよね。その気持ちをネット上でもお客様に味わっていただきたいと思っているんです。私は着物が好きという気持ちで転職したのですが、知識はまだまだ。初心者の方の気持ちがわかるというか、同じ気持ちで着物に向かっています。(亀山さん)
お問合わせの中で着物のTPOに関する質問は特に多い。
お客様からは、「お茶の席や、入学式などにこの着物はふさわしいものですか?」というような具体的な質問をよくいただきます。季節や格式によってもふさわしい着物は違ってくるので、自分で判断できないケースは、会長や業者さんなど、呉服のプロの知識をお借りします。
オフィスのある室町通りは呉服関係の業者が集まっているので、着物のベテランの方々に教えていただきやすい環境にあるのが幸いです。仕入れに行くのも歩きか自転車だし、メーカーによって着付けが得意なところもあれば、着物が得意なところもあって、それぞれのプロの意見を拝聴しています。(亀山さん)
通常なら店舗でサイズを図るオーダーの着物も、きもの京小町ではネットで受け付けて仕立てている。その場合にはよりシビアなサイズ確認をお客様にお願いしなければならない。
着物は実はサイズがシビアなものなんです。サイズが合っていないと格好良く見えないんですね。サイズを5種類から選べるセミオーダーからフルオーダーまで対応していますが、オーダーの際にお客様がお困りになるのは「サイズをどうやって測ればいいのか」ということ。
ご自分の着物を送っていただいて同じサイズで作ることもできますが、それがない場合は「裄(ゆき)丈」の測り方を細かくお伝えします。一人ひとりサイズは全然違うものだし、洋服とも違うサイズ感なので、丁寧に説明するようにしています。
最後に、亀山さんが初心者におすすめすの着物について教えてもらった。
最初はやっぱり入りやすい浴衣から始めるのがおすすめですが、浴衣を入り口としてお客様には着物にステップアップしてほしいと思っているんです。初心者なら綿の着物が良いですよ。綿だと生地が滑らずツルツルしていないので、慣れていない人でも着付けが楽です。浴衣だと夏しか着られませんが、着物ならお花見も紅葉狩りにも行けますよね。(亀山さん)
眼を輝かせて話す亀山さんを見ていると、着物文化に踏み出してみたい気持ちになってくる。こうした担当者の情熱が、京都の歴史ある着物文化を支えていくのだろう。
この記事はB.Y(CROSSBACKYARD.COM)の協力のもと、「STORY of BACKYARD」に掲載された記事をネットショップ担当者フォーラム用に再編集したものです。オリジナル記事では動画をふんだんに使ったコンテンツをお楽しみいただけます。オリジナル記事へは下記のリンクをご利用ください。