地域産品EC「くまもと風土」を運営するローカルは12月15日、東京証券取引所が運営するプロ向け株式市場「TOKYO PRO Market」に新規上場した。同日にメディア向け記者説明会を実施し、吉永安宏社長がビジネスモデルや成長戦略について語った。
ローカルは2008年、熊本市で「コムセンス」として設立。ECサイトでの商品販売やふるさと納税の返礼品提供を手がけるDtoC事業、ふるさと納税の運営サポートのBtoG事業を軸に、「食のSPA」モデルで事業を展開している。
設立当初は、みかんなどを扱うECサイトの制作代行からスタート。「熊本の魅力的な農産品を全国に届けたい」という思いから、自社ECサイト「くまもと風土」を立ち上げ、仕入・販売を自社で手がけるEC事業へと転換した。ふるさと納税事業への参入は2017年で、熊本県玉東町・御船町との契約を皮切りに開始。口コミを通じて契約自治体が拡大したという。2021年には、「地方から日本を元気にする」というミッションを明確に打ち出し、社名を「ローカル」へ変更した。
「食のSPA(製造小売)」の特長
成長の源泉であるビジネスモデル「食のSPA(製造小売)」は、アパレル業界のSPAモデルを食品分野に応用したもの。その特長として、①垂直統合型のプロセス②独自の製造・物流インフラ③競争優位性――の3点をあげている。
垂直統合型のプロセス
地域資源を活用した商品企画・開発から、生産者・JAからの直接仕入れ、自社工場での製造、ECやふるさと納税を通じた販売、さらに顧客対応を担うカスタマーサポートまで、すべてを一気通貫で手がける。
独自の製造・物流インフラ
精米工場や食肉加工工場、ミネラルウォーターの自社工場を有するほか、光センサー選果機を備えた青果出荷場も保有。単なる商社やIT企業とは異なる「メーカー機能」を持つ点が競争力の源泉になっている。
競争優位性
中間業者を極力排除することでコスト削減と高品質を両立。自社でプロセスを管理できるため、顧客の声を商品開発に直接反映でき、改善や新商品開発をスピーディーに進めている。
DtoC事業とBtoG事業の内容と成功要因
DtoC事業では「くまもと風土」など5ブランドを展開し、「楽天市場」など計28サイトで地方の農産品・加工品を販売。「【くまもと風土】楽天市場店」は楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(肉・野菜・フルーツジャンル)を8度受賞している。
BtoG事業では、ふるさと納税の運営支援を中心に、現在全国41自治体と契約。単なる事務代行だけではなく、「食のSPA」で培った商品開発・製造・物流ノウハウを生かし、返礼品開発からマーケティングまでをワンストップで支援している。
EC事業の成功要因について吉永社長は、「『食のSPA』モデルを磨き上げてきた点にある」と説明。「ネット販売ではヒット商品が出るとすぐに模倣されるが、ローカルは地場産品を扱い、物流や箱詰めなどの工程まで自社で細かくコントロールしている。たとえば、核家族化が進むなかでみかんを従来の5kg・10kgではなく、1kgや1.5kgといった小分けサイズで提供するなど、顧客ニーズに合わせた柔軟な企画をスピード感を持って実行してきた。これは容易に真似できるものではない」(吉永社長)と言う。
上場の目的と今後の成長戦略
上場の目的について吉永社長は、「社会的信用の向上」「経営管理体制の強化」「知名度の向上」の3点をあげた。また「楽天などのEC店舗運営者の高齢化や事業承継が課題となるなかで、今回の上場が1つの成長や選択肢のきっかけになれば」(同)とコメントした。
今後の成長戦略として、①全国展開の推進②生産性向上とDX③売上チャネルの拡大――を掲げる。九州中心だった製造拠点を全国へ拡大し、47都道府県で特産品の開発・製造を行う体制を構築。選果場や加工現場へのデジタルツール導入、DX推進本部の設置による業務改革も進める。将来的にはリアル店舗や海外展開も視野に入れているという。
DtoC事業とBtoG事業のバランスについて、「ECとふるさと納税の相乗効果を最大化していく」(吉永社長)と説明。「たとえば北海道の小麦を使った商品を開発し、ふるさと納税の返礼品とECの両方で展開する。自社工場で製造した商品を双方で活用できる設計を意識している」(同)と話す。
課題は人材採用や設備投資。「TOKYO PRO Marketへの上場では公募増資は行わないが、将来的には(他の市場への)ステップアップも視野に入れ、計画的な資金調達を検討していく」(吉永社長)とした。
2026年2月期も中間期時点で好調
2025年2月期の売上高は83億200万円、営業利益2700万円、経常利益1500万円、当期純利益1300万円。決算期変更により17か月の変則決算になっている。売上高の内訳は、食のSPA事業が80億7900万円(DtoC事業71億8600万円、BtoG事業8億9300万円)、その他が2億2300万円。販売先別では楽天グループが14億3400万円(17.3%)でトップ、次いで御船町が12億5100万円(15.1%)。
業績の推移について、「2025年2月期は決算期変更により17か月の変則決算だったが、これを12か月に割り戻して比較しても伸びており、2026年2月期の中間期についても売上高は36億円と前年比で増収増益の基調で推移している」(吉永社長)
会見では、ふるさと納税の制度変更(経費ルールの厳格化など)への懸念についても言及し、「基本的にはプラスと捉えている」(吉永社長)との認識を示した。「制度変更により、より公平性が求められるようになった。総務省が求める『地場産品基準』(付加価値の半分以上を地元で生み出すなど)は複雑だが、我々は元々、地域の一次産品(原料)を活用して商品化し、一次産業を活性化させることをポリシーとしてきた。 どこかから仕入れたものを少し加工するだけ、といった手法は採っておらず、本質的な地場産品を作ってきた。細かいコスト開示の手間は増えるが、ノウハウ(味付けのレシピなど)の開示までは不要なので、制度変更にはうまく対応していけると考えている」と話した。
この記事内で使用した動画、写真は、Googleから提供を受けた「Google Pixel 10」(8月28日発売)でネットショップ担当者フォーラム編集部が撮影しました。