予約抽選倍率は最大52倍。ANAとオンワードのルームシューズ、ヒットの秘訣とは
「SDGs」「アップサイクル」というワードが消費行動に影響を与えつつある。地球環境や資源ロスに配慮した商品・サービスに好感を持つ消費者は広がっており、近年はこうした観点を商品開発に生かす企業も増えている。
アップサイクル製品の共同事業を実施してきた全日本空輸(ANA)とオンワード商事。52倍に達した商品の予約抽選販売、新規顧客の獲得などの成果があった取り組みなどについて、オンワード商事の原野大樹氏(ソリューションデザイングループ インサイトセールス第2Div.)、ANAビジネスソリューションの照沼有紀子氏(シェアードサービス事業本部)に話を聞いた。
予約抽選販売の最大倍率は52倍、アップサイクル商品「ANA 特製ルームシューズ」とは
協業のきっかけは、ANAグループがサステナビリティへの取り組み「ANAアップサイクルプロジェクト」の第1弾としてオンワード商事とルームシューズを開発したこと。ルームシューズは、旅客機の客室のシートカバーをルームシューズの生地に再利用した。
オンワード商事は廃棄問題のポジティブな解決をめざす「オンワード商事Re-make-upプロジェクト」を行っており、ANAグループの持続可能な社会の実現をめざす「ANA Future Promise」に共感、協業がスタートした。なお、ルームシューズはANAグループの自社ECサイト「ANA UP-CYCLE PROJECT SHOP」で販売している。
価格は一組6930円(税込)。別途、送料1500円(同)がかかる。ルームシューズとしては高価格帯。だが、商品のコンセプト、売り出し方が価格以上の価値を顧客にもたらしているようだ。
初回製作分の予約抽選販売は2022年11月に実施。初回製作分は50セットで、予約抽選はその52倍申し込みがあったという。
反響を受け、商品の製作数を増やして第2回販売、第3回販売を実施してきた。70セット製作した第2回販売分の予約抽選は倍率20倍。200セット製作した第3回販売分の予約抽選は倍率7倍となった。
予約期間を2023年2月9日~14日とした第4回販売も実施。第4回の製作は230セットで、予約抽選の倍率は約4倍となっている。
ルームシューズのプロモーションは、「ANA UP-CYCLE PROJECT SHOP」会員向けのメルマガ配信、Facebook、TwitterといったSNSで訴求したという。
「ANA 特製ルームシューズ」は、1つひとつが手作り。ECサイトの商品ページでは、商品の画像だけでなく、製作の過程も見えるようにしています。(照沼氏)
新規顧客獲得にも一役! ハンディキャップある人も「飛行機に乗る感覚を味わえる」
購入者は男性が多く、購入者全体の7割近くを占めるという。年代は40~50代が中心だが、10代や70代からの引き合いもあり、幅広い年代が購入している。嬉しい誤算もあった。「既存のANAファンだけではなく、新規顧客獲得にもつながった」。(照沼氏)
地球環境に配慮した製品作りに共感する人、心身にハンディキャップをもち飛行機に乗ることができない人からも「飛行機に乗る感覚を味わいたい」と引き合いがありました。飛行機ユーザー以外からも反響があったことは嬉しい誤算でした。
ヒットの秘訣(ひけつ)は、飛行機が好きな方やANAをご利用してくださっている方から多くお申し込みをいただいたことは言うまでもありませんが、このほか、「地域創生に貢献したい」という思いで購入される方もいるようです。「ANA 特製ルームシューズ」の製作を担っているのは、スリッパ生産量で日本一の工場。山形県の株式会社後藤で、職人が手作りしています。販売に当たってはこうした製作ストーリーも押し出しています。
航空ファンからの引き合いも多い。「出張のときによく利用した機体のルームシューズを履きたい」「飛行機好きの家族や知人にプレゼントしたい」「上司への退職祝いに」といった購入理由があがっている。
照沼氏によると、予約抽選販売の申し込みフォームに、注文した理由や思いを記述する顧客も多い。「申し込みフォームがファンと関わる機会になっています」(照沼氏)
「飛行機のシートカバーのルームシューズを履ける」という話題性だけではなく、商品の製作過程などの裏側を伝えたことで、飛行機ファン以外のニーズも開拓できた秘訣(ひけつ)と言えそうだ。
オンワード商事とANAグループは、今後も環境配慮に根ざした取り組みを継続していく予定だ。両社の協業はもちろんこと、ほかの企業との連携も視野にいれていく。