【さくらフォレスト事件の余波】機能性表示の根拠めぐる問題、基準の不明確さに波紋
機能性表示食品に再び鉄槌が下された。届出の「根拠」に踏み込む違法判断は、その対象企業だけでなく、多くの企業を巻き込み混乱を招いている。
機能性表示食品、取締り・監視は「広告表示」が問題視されてきた過去
「健康食品の機能性表示を解禁します」。2015年、制度は、故・安倍晋三元総理の号令を受けてスタートした。
「制度は健康長寿社会と成長産業の育成を同時に達成するという世界の未来を先取りしたテーマ」(16年、川口康裕消費者庁次長、当時)、「今後、一層の伸びが期待できる」(19年、加藤勝信自民党総務会長、当時)、「健康寿命の延伸という重要課題に対応するツールとして消費者に期待されている」(20年、衛藤晟一消費者担当相、当時)――。制度は、医薬品と食品の狭間で規制にさらされ続けた「いわゆる健康食品」と明確に区別され、これまで育成が念頭に置かれた。
柔軟な表示を可能にし、許可に要する年数、費用の高さなどトクホの使い勝手の悪さを打破する規制緩和策が“事業者責任”による届出制だった。個別製品ごとの許可ではなく、成分の研究レビューによる表示を可能にしたことも広く中小企業に門戸を開いた。
それから8年、届出数は6300件を数え、市場は5000億円規模に達している。許可品目約1000件、市場規模5610億円(前年比約14%減、20年度)と、03年当時の規模まで縮小したトクホに迫る。しかし、機能性表示食品はその後も規制にさらされ続けている。
初めての違法判断は制度導入からわずか2年目の17年、ダイエットケアをうたう16社の機能性表示食品に対する景品表示法の一斉処分が行われた「葛の花事件」だ。16社は、OEM1社が提供する原料、研究レビューを頼りに表示を行っていたが、問題視されたのは、届出表示からの広告の逸脱だった。
18年には、処方薬と同じ表示と指摘を受け届出撤回が指導された「歩行能力の改善問題」、昨年は、景表法・健康増進法に基づく115社への一斉指導が行われた「認知機能の維持問題」が起きた。ただ、取締り、監視はいずれも「広告表示」が問題にされてきた。
機能性表示食品で「根拠」を巡る問題の過去
この間、「根拠」をめぐるいくつかの問題が、取沙汰されることはあった。
一つは、18年、「甘草由来グラブリジン」を含む機能性表示食品に対する景表法調査。当時、6製品が届出を行っており、うち1社は、「消費者庁の指摘を受け、弁明の機会(命令前の最終段階)にある」と調査の事実を認めている。「弁明の機会」は、消費者庁が予定する措置命令書を事業者に示した上で、2週間の猶予をもって行われる。この手続きが取られた上で命令が下されないことは極めて珍しい。だが、対象成分は、事業者が自ら届出を撤回し、評価をやり直す形で命令を免れたとみられる。
もう一つは、20年、「アフリカマンゴノキ由来エラグ酸」。当時、25製品が公表されていたが、研究論文は被験者が外国人であり、日本人への「外挿性(あてはめ)」の評価、表示する痩身効果の程度などが問題視されたとみられる。これも水面下で撤回を経た再評価・届出など猶予が調整された。
育成と逆行し、断続的に続く取締りを回避するため20年に策定されたのが、「事後チェック指針」だ。景表法による取締りの予見性を確保し、業界団体と連携しつつこれに対処することを目的にした。「アフリカマンゴ―」、「認知機能の維持問題」は、いずれも指針策定後。抑制的な措置と受け取れる。とくに延焼を招く「根拠」の判断は慎重に行われていたとみられる。
こうした中、消費者庁は今年6月、さくらフォレストが販売する機能性表示食品に、景表法処分を下した。「根拠」に踏み込む判断の影響は、同一の研究レビューを行う88件の届出の確認、届出全製品の再検証を求める自体に発展している。88件の回答期限は7月17日。処分のポイントを振り返る。
さくらフォレスト事件、処分のポイントは
さくらフォレスト事件の問題は、届出表示そのものを対象として、「根拠」に踏み込んで不当表示を判断したことだ。消費者庁が景品表示法で「根拠なし」と判断したにもかかわらず、同種の製品を扱う企業は、8割が「根拠あり」と主張している(7月27日時点)。
「ついにやった」。ある業界関係者はそう感想を漏らす。届出表示そのものを対象に「根拠」に踏み込む法執行は、何度か遡上(そじょう)にあがりながら立ち消えになってきたからだ。
「食品で痩せるはあり得ない」。17年、「葛の花由来イソフラボン」を配合する機能性表示食品に対する景表法の執行に際し、大元慎二表示対策課長(当時)はそう言及した。広告で「内臓脂肪を減らす」という機能を超える表示をしていたとして処分。会見で、食品自体の機能を否定する踏み込んだコメントはしたが、あくまで広告の問題で、「根拠」そのものを否定する法適用は避けられた。
「ある意味よいネタをもらったという観点もある。企業、業界としてそれならエビデンス合戦ですね、という対応も検討の余地がある」(業界関係者)。
今回、消費者庁食品表示企画課は、措置命令を踏まえ、同一根拠で届出を行う88件の「確認」を行った。ただ、撤回の申し出がわずか15件だったことも、企業側の納得感が得られていない表れといえるのではないか。
“根拠なし”と判断されれば撤回を迫られる事態に
確認を進めているのは、食表課。食品表示法上の対応は、届出撤回の「指示」、これに従わない場合「命令」になる。
機能性表示食品の定義は、食表法に基づく食品表示基準に「機能性関与成分によって健康の維持・増進に資する特定の保健の目的が期待できる旨を“科学的根拠に基づき”容器包装に表示する」と定められている。
その要件を欠くことを前提に同一根拠の製品の根拠確認を進めている。表示対策課の「根拠がない」という判断に基づけば、これら製品は違法状態で販売されていることになるからだ。
回答を受け、消費者庁は、「根拠あり」と主張する企業に対し、景表法や食表法など法令に基づき対処する方針を明らかにしている。庁として「根拠なし」と判断したことを前提にすれば、食表課の対応は撤回の指示が自然だ。
ただ、現状は要件を「満たす、満たしてないかを判断しているわけではない」と明確な判断を示していない。企業が根拠を適切に説明した場合、問題ないと判断するかには、「そういった対応もあり得る」とする。
さくらフォレストは「あくまで個別案件」?
景表法で「根拠なし」と判断されていることには、「(さくらフォレストが)弁明の機会に根拠が十分にあると説明できなかったため、今回の措置になった。食表法の基準の関係とは分けて考えてもらいたい」と、個別案件である旨を説明。
処分は、企業の説明の巧拙で判断されるものではないが、「措置命令については表対課に聞いて」とする。当初、変更届による対応を認めたものの、その後撤回を要請したものもあるようだ。
基準は不明確。根拠への踏み込みに波紋広がる
表対課は、食表課の通知は承知しているものの、「どういう基準で出しているか、関知していないためわからない」。同一根拠の製品があり、違法状態にあることには、「あくまで措置命令は個別事業者との関係で不実証広告規制により根拠提出を求め、提出根拠がこれに合致していなかったということ。さくらフォレストの表示に適用したもので、他製品に関係するものではない」とする。
今後、他製品への対処には、「従前から調査を行っているかを含め、一切答えられない」。あくまで個別判断というスタンスだ。
広告は各社の創意工夫が反映されるが、根拠は、成分・製品の生命線。根拠に踏み込む判断は、多くの企業を巻き込み波紋を広げている。
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