通販新聞[転載元] 9:00

サントリーウエルネスは、高齢者施設の利用者の「推し活」をサポートする取り組みを始めた。昨年(編注:2023年。通販新聞の記事配信時点である2024年12月の表記で掲載)から利用者、施設職員の取り組みを表彰するアワードも開催。参加施設は4年で8倍の230施設、利用者は同10倍の延べ1万人に増えた。

社会貢献として高齢者の「推し活」を支援

Jリーグと協働。高齢者がサポーターとなり「支える存在」へ

2020年末に始めた「Be supporters!」(Beサポ!)は、高齢者施設や介護施設の利用者がスポーツ選手を応援するのをサポートする。職員や家族など周囲に支えられる場面が多い入居者が、サポーターになることで「支える存在」になることを目的にしたプロジェクト。Jリーグと共同で進めている。

高齢者施設から物語を募り、表彰

昨年(編注:2023年)から、高齢者施設の取り組みを募り、表彰する「人生100年時代の物語大賞」を始めた。今年(編注:2024年)は、全国の施設から30の物語が応募された。大賞を含め、5つの物語を表彰した。

大賞を受賞したのは、認知症を患いながら、大好きな推しの選手に会うため、故郷の鹿児島に旅をした83歳の松本照子さんの物語。鹿児島に移籍した選手に会いに行くことが毎日の希望になり、施設や家族、サポーターの支援で実現した。高齢者総合福祉施設オリンピア兵庫が表彰を受けた。

サントリーウエルネス主催の「人生100年時代の物語大賞」で、2024年に大賞の物語を受賞した松本照子さん
サントリーウエルネス主催の「人生100年時代の物語大賞」で、2024年に大賞の物語を受賞した松本照子さん

授賞式に参加した沖中直人社長は、「地球に人類が表れて100年生きるようになったのは、ついこの間。多くは60年前後で亡くなり、あと40年どう生きればよいかわからない。そうした大きな社会課題、人類の課題に少しでも貢献したい。『Beサポ!』をナレッジ、アイデアを共有する機会にしたい」と話した。

「推し活」が高齢者の幸福度アップにつながる

取り組みでは「腕が不自由な高齢者が応援では腕をあげて手を叩く」「杖を忘れて選手に駆け寄る」など変化が表れているという。

サントリーが京都大学、大阪公立大学と共同で行った利用者らを対象にした「Beサポ!」による応援と幸福度の関係性を探る研究では、利用者の3割超で推し活の程度に連動して生きがいが強くなる傾向がみられた。周囲のサポートや自らの存在、役割が認められることで、施設の利用者、職員らとの交流が深まり、幸福度が高まることもわかった。

高齢化が進むなか、認知症や孤独死などの問題が取りざたされている。2025年には、医療や介護などの問題が顕在化するとされる。

「Beサポ!」で幸福寿命の延伸をめざす

健康関連市場では、長く、身体の健康を示す「健康寿命」が注目されていた。最近では、「幸福寿命」という価値観が注目されている。病気や身体の不自由があっても幸せを感じて生きられる時間のことだ。

企業が主催し、知名度を得たアワードは多くないが、サントリーでは、通販で200万人の定期顧客と関係性を築く。「Beサポ!」を通じて、健康寿命から幸福寿命に着目して、その普及を進める

「Beサポ!」に力を注ぐ沖中社長の思い

2020年末に始めた「Beサポ!」は、高齢者施設や介護施設の利用者がスポーツ選手を応援するのをサポートする。職員や家族など周囲に支えられる場面が多い入居者が、サポーターになることで「支える存在」になることを目的にした「Beサポ!」は2020年1月、サントリーウエルネスの2代目社長に就任した沖中直人氏の強い思い入れで始まった。沖中社長に、取り組みの背景を聞いた。

サントリーウエルネスの沖中直人氏
サントリーウエルネスの沖中直人氏

収益を社会に“還元”

――これまで積極的な社会貢献事業は行っていなかった。

事業拡大から、社会的役割を果たす段階に入った。サントリーは、鳥井信治郎が1899年に鳥井商店を始めた創業来、「利益三分主義」という価値観を大切にしている。事業で得た収益は、社会に還元するとの思いでやっている。

――高齢者施設の利用者や職員、家族への影響を研究している。知見の活用、普及に向けた取り組みは。

報道、メディアを通じてこうした取り組み手法があるということが広がっていくと思う。「Beサポ!」は、活動費は出しているが、メディアコストはかけていない。コンテンツの魅力で世の中に広める

――商品販売など事業拡大が目的ではないとしているが、企業ブランドの浸透など取り組みの影響は。

考えていない。企業も「法人」と書く。売るということではなく、社会の役割を果たそうとしている。狙えば透けて見える。

サプリを売るだけでなく、さまざまなコンテンツを提供

――事業でも顧客との関係を深め、継続的に支援するには製品・サービス領域もサプリメントにとどまらない。

可能性はある。すでに定期顧客向けに「Comado(コマド)」というアプリを提供している。オンラインフィットネスの月間ユーザーは100万人を超え、利用者数は国内で最も多い。落語など、さまざまなコンテンツも楽しまれ、好評を得ている。

「ロコモア」の顧客を対象に、ノルディックウォークというイベントも開催し、1万人以上が参加した。サプリだけを提供する会社と思っていない

――グループのサントリーHDは1月、「スポーツ事業部」を事業部門に位置づけた。今回の取り組みとの関連は。

直接の関連はない。HDのコーポレートブランドチームが全国各地域でさまざまな活動をしているが、各事業所で知られていない場合もあり、横の連携がない。今後、連携を深めていく。

――サントリーウエルネスは1月、新たに「ITプロダクト推進部」を立ち上げた。目的は。

アプリなどサントリーウエルネスが持つ知見をグループ全体に広げていく。

※沖中社長は、1月1日付で、サントリーウエルネスで代表権を持たない取締役になる。また、サントリー食品インターナショナルの専務執行役員に就任する。
(編注:上の注記は2024年12月23日の「通販新聞」記事配信時点です。2025年1月1日、沖中直人氏は上記の通りの人事異動となりました)
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