通販新聞 2015/12/2 7:30

1時間以内にお届けします」――。アマゾンジャパンが11月19日から、受注から1時間以内に日用品などを配達するスピード配送サービス「プライムナウ」を開始した。同社ではすでに受注日の当日に商品を配送する当日配送サービスを実施中だが、さらに短時間で配送を行うことで顧客利便性を高め、日用品購入ニーズを取り込む狙いだ。ネット販売における即配サービスを巡っては楽天やヨドバシカメラなどが先行して実施し好評のよう。EC最大手のアマゾンの参戦で今後、“EC即配”は新たな局面を迎えそうだ。

都内8区から、2時間便は無料

「プライムナウ」の裏側に潜入。アマゾンが仕掛ける1時間以内の配送の秘密に迫る①
1時間以内に商品を届ける「プライムナウ」

「1時間便オーダー入りました」――。アマゾンジャパンが11月19日から開始した短時間配送サービス「Prime Now(プライムナウ)」の配送拠点となる東京・等々力にある3階建ての倉庫「プライムナウ専用FC」では受注後、1時間以内に届ける「1時間以内配送」の受注を受けるたびに、倉庫内に“ベルの音”とともに冒頭のようなアナウンスが流れ、すぐさま商品出荷の準備に取りかかる。素早く対象商品をピッキング、専用の紙袋に入れ、顧客のもとに向けて車やバイクを走らせる。「確実に1時間以内で届けることが使命。お客様の期待を裏切らないように全力で運びたい」とスタッフは意気込む。

「プライムナウ」の裏側に潜入。アマゾンが仕掛ける1時間以内の配送の秘密に迫る②
東京・等々力に設置した即配専用倉庫

「プライムナウ」は年間3900円を徴収する有料会員「アマゾンプライム会員」向けの即配サービスで、一昨年12月に米ニューヨークのマンハッタンでサービスを開始後、徐々に展開エリアを広げ、現状では米18都市、英3都市、伊1都市の計22都市で展開しており、このたび日本でも都内8区(世田谷・目黒・大田・品川・渋谷・港・杉並・新宿)の一部地域で開始した。

他国でのサービスと同様、日本でも受注から1時間以内に配送する「1時間以内配送」と午前6時から深夜12時まで2時間単位の配送時間を選択して当該時間枠内に配送する「2時間便」を実施する。日本の場合は「深夜帯での注文が多い」という特徴があるため、「1時間以内配送」の配送対応時間を「他国では最も遅い配送時間は深夜12時までだが、日本は初めて深夜1時まで延長した」(Prime Now事業部の永妻玲子事業部長)とし、早朝6時から深夜1時(注文時間は午前6時から午後11時59分まで)まで配送を行なう。送料は1時間以内配送では890円を徴収、2時間便は無料。ともに税込2500円以上の注文が対象となる。

「プライムナウ」の裏側に潜入。アマゾンが仕掛ける1時間以内の配送の秘密に迫る③
即配専用倉庫からバイクなどでスピード配送する

対象商品はアマゾンの直販商品、約1万8000点。なお、マーケットプレイス出品商品は含まれていない。「毎日の生活の中で急に必要となるシーンが出てきそうな商品や日常的に使用する商品など、アマゾンでのこれまでの注文データや世界の『プライムナウ』での売れ筋などを参考」(ジャスパー・チャン社長)にしながら、冷蔵・冷凍品を含む食品や日用品、水・ソフトドリンク・酒類。ギフト商品や本・CD・DVD。家電、ベビー用品、文房具などを専用倉庫に在庫し、即配に対応させた。

「プライムナウ」の裏側に潜入。アマゾンが仕掛ける1時間以内の配送の秘密に迫る④

基本的には通常のアマゾンの通販サイトでも取り扱っているものだが、冷蔵品は「プライムナウ」のみの取り扱いとなる。また冷凍品も一部についてはアマゾンの通販サイトでも取り扱いを開始しているが「いわゆる家庭で日常的に食べるような小サイズの冷凍惣菜の取り扱いは初めて」(永妻事業部長)となる。冷凍・冷凍商品はまずは200SKUから取扱いを開始し、順次、品ぞろえを拡大していくとしている。なお、冷蔵・冷凍品は専用倉庫1階の冷蔵庫および冷凍庫に保管され、配送時には保冷袋に保冷剤を入れて配送する。

「プライムナウ」は通常のアマゾンでの注文方法とは異なり、専用アプリで注文を受ける。利用希望者はアプリをインストール後、配送先の郵便番号を入力。その郵便番号で対象エリアか否かを判断し、対象エリアの場合のみサインインできる仕組み。目的の商品を注文し、「1時間以内」など配送時間を設定。なお、基本的には顧客宅の玄関口までの配送となるが、注文画面で文書による細かな指定ができ、玄関先や敷地内などへの「置き配」にも対応する。配送状況もGPS機能でリアルタイムにアプリ上の地図で確認できる。また、「配送員に連絡」というボタンをタップすることで配送中の配送員との電話連絡も可能で「ちょっと玄関で待ってて」など細かい対応も行う。なお、1時間以内に配送できなかった場合は送料を返金。また、顧客の不在など何らかの事情で商品を渡せなかった場合はキャンセルとなり、同じく送料や商品代金を返金する

スタート時点では都内8区のみの対応となるが、12月にはルートなどを調整し、倉庫のある等々力に近い川崎市など神奈川県の一部まで対象エリアを拡大していく。その後は「計画はあるが公表できない。ただ、なるべく早期に」(チャン社長)「プライムナウ」の専用拠点を増やして対象地域を全国の都市圏などに拡大していく考え。同社ではすでに受注日当日に配送を行う当日配送を行っているが、「プライムナウ」の実施で当日配送をさらに上回るスピード配送により、今後の伸びシロを期待して各社が参入、競争が激化しているネットスーパーを含む日用品ECという巨大市場の取り込みを図りたい狙いもあるようだ

東京・等々力に設置した即配専用倉庫内

ネット販売最大手のアマゾンの実施で注目されるECにおけるスピード配送。現状はどうなっているのか。すでに先行する楽天やヨドバシカメラでは一定の成果を挙げているようだ。

楽天では8月から、注文から最短20分で商品を届ける短時間配送サービス「楽びん!」を手掛けている。スマートフォン専用サービスで、楽天市場の一部商品のほか、飲料や食料品、日用品などを注文から平均1時間で配送。対象となる地域は東京都渋谷区・目黒区・世田谷区・港区の一部で、24時間注文を受け付けている。

商品はコンビニエンスストアやドラッグストアで扱っているような、ソフトドリンクや酒類、レトルト・インスタント食品や菓子類、おつまみ、洗剤やトイレットペーパーなど。自社で仕入れて販売する。商品を搭載し保冷機能を備えた配送車を、対象となるエリア内に巡回させ、注文が入ってから顧客宅に配送車が向かう仕組み。

サービス開始後の状況について、物流事業経営企画部の品川竜介部長は「順調に伸びている」と話す。特に目立つのは、リピーターが2割強を占めている点。デイリー使いで購入する人が増えているということだ。楽天カフェで扱うスイーツを筆頭に、水や酒類、インスタント食品などが売れているという。利用層は男性会社員がトップで、次が女性会社員。世代は30代が多い。当初は「アーリーアダプター」の男性の利用が多かったが、現在は男女比が55:45となっている。富裕層の利用も目立っている。

「取り扱い商材拡大のほか、来年には対応エリアを拡大していきたい」と語る品川部長。今後期待されるのは、出店者への短時間配送サービス提供だ。アマゾンのサービスと違い、楽天市場の商品も扱っており、ランキング上位のスイーツなどが買える。楽天市場事業営業統括の矢澤俊介執行役員は「楽びん!と楽天市場の店舗向けサービスを合体させるのが将来の理想図」と語る

ヨドバシカメラの通販サイト「ヨドバシ・ドット・コム」では、注文から約6時間で商品を配送する「エクスプレスメール便」を、今年2月から都内で試験的に開始した。在庫を保管するための物流拠点を設け、注文があってから配送する。追加料金が発生しないのが大きな特徴だ。

現在、通販サイトでは約400万点の商品を扱っているが、エクスプレスメール便に対応するのは、このうち約65万点。川崎市の物流拠点に在庫する商品が購入できる。

現在、サービスを展開するのは都内の一部だが、年内にも都内全域に拡大する模様だ。

アマゾンジャパンの開始やすでに実施中の各社の成果により、今後、他の通販実施企業での導入が進むかもしれないスピード配送。効果性やコスト面なども含めて、今後の行方が注目されそうだ。

アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長に聞く「アマゾンのスピード配送、狙いと今後は」

「プライムナウ」の裏側に潜入。アマゾンが仕掛ける1時間以内の配送の秘密に迫る⑦
ジャスパー・チャン社長は写真右

日本でも開始したスピード配送「プライムナウ」の狙いや今後について同社のジャスパー・チャン社長および「プライムナウ」を統括する永妻玲子Prime Now事業部事業部長に聞いた。(11月19日開催の記者発表会での本紙記者を含む報道陣との一問一答から要約・抜粋)

Q:1時間以内配送の配送料は890円と楽天の即配サービス「楽びん!」の770円(顧客宅までの配送の場合)よりも高い印象だが、価格設定の根拠は。

チャン「当社の様々な試算では、適切な料金ではないかと考えている」

Q:「プライムナウ」で対象としている1.8万点の品ぞろえはどう決めたのか。

チャンこれまで当社が日本で15年間に渡って行ってきた商売での注文データ。また、欧米各都市で行っている『プライムナウ』の売れ筋を参考にしながら決めた。今後は日本での『プライムナウ』実際の注文データを見ながら随時、品ぞろえを調整していく」

Q:対象商品にマーケットプレイスの出品商品を加える可能性は。

チャン「現時点ではない。今のところ、欧米でも直販商品のみが対象だ」

Q:「プライムナウ」の配送センターを等々力に置いた理由は。

チャン「プライム会員の分布と住宅地から都心までカバーできることなどの条件が合致したためだ」

Q:1時間以内配送の配送対応時間を日本だけ「深夜1時まで」としたようだが、理由は。

永妻「1時間以内配送の配送対応時間は各都市によって様々だ。例えば、ニューヨークは早朝6時から24時。地域によっては朝8時から22時までということもある。各地域のこれまでのデータからの判断となる。日本においてもこれまでの15年間、日本のお客様がどういう時間帯で注文されているかなどのデータを見て、深夜帯が多いこともあり、24~25時という深夜枠でも対応を行うことにした」

Q:「プライムナウ」対象エリア外に在住の「プライム会員」は利用できないのか。

永妻「対象エリアに来て頂ければ利用できる。例えば自宅はエリア外であっても、職場がエリア内であれば、職場には届けられる」

Q:例えば、「プライム会員」が対象エリア内に来れば、路上でも受け取れる?

永妻「はい。エリア内であれば、場所と目印などを注文時に指定して頂ければ可能だ」

Q:「プライムナウ」で顧客が商品を受け取れなかった場合の対応は。

永妻「ケースバイケースだ。冷蔵・冷凍品や『置き配』の指定がない商品は、当然、放置できないので持ち帰ることになる。その際は『お客様ご不在により配達できませんでした』とお客様のメールで連絡をした上で、キャンセル扱いとする。1時間以内配送については配送料と商品代金を、2時間便は商品代金を決済を頂いたクレジットカードに返金する」

Q:「プライムナウ」の配送は。

チャン「パートナー企業と連携して行っていく」

Q:倉庫の規模は。

永妻「広さはアマゾンの千葉・市川FCの約1/60だ」

チャン「従業員数などは公表していない」

Q:1日の想定注文数は。

チャン「公表していない」

Q:クリスマスシーズンなどの繁忙期などには対応できるのか。

永妻「これまでの経験からクリスマス商戦がどういうものかは理解している。当然、それに見合うだけのフルフィルメント体制は整えており、お客様のご期待にお答えできるよう対応できると思う」

Q:「プライムナウ」の対象エリアの拡大のメドは。

チャン「12月からは現在の拠点での配送ルートを調整して、神奈川県の一部も対象にする。今後は拠点を増やしながら対象エリアを拡大していく。米国で一昨年12月にスタートしてからわずか11カ月で23都市まで対象エリアを拡大してきた。日本でも同様になるべく早期に全国の都市でやっていきたい

Q:米国のように徒歩や自転車で配送することはあるのか。

永妻「当該地域で最も適切な手段を考えている。徒歩がベストなら徒歩を、自転車がベストなら自転車を選ぶ。今回の拠点ではバイクと軽トラックが最適と判断したが地域によってはあり得る」

「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
アマゾンジャパン、スピード配送「プライムナウ」開始 1時間以内に配達
(2015/11/26)

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