日本勢も爆買いの恩恵受けた「独身の日」。8社の成果と浮かび上がった課題とは
中国の一大商戦に当たる11月11日の「独身の日」は、日本の通販企業にとって想像以上のインパクトがあったようだ。アリババグループが手がける中国向け仮想モールなどでは当日限定の大型セール企画を実施。1日の総売上高は前年比約6割増となる1兆7000億円以上を記録したという。出店する多くの企業から驚きの声が上がるなど、改めて中国向け通販市場のスケールメリットを知らしめる結果となった。日本の通販実施企業各社の当日の成果を振り返ってみる。
海外向けにアニメやゲームのキャラクターグッズなどをネット販売しているトーキョーオタクモードは今年5月に出店したアリババグループの「Tモール・グローバル」での売り上げが好調だった。同社によると、当日は通常の1日の売り上げの50倍となり「1日で前月(10月)の売り上げを上回る結果」(同社)だったようだ。
中でも売れ行きが良かったのが福袋で、当初用意していた100個はセールが始まって「数秒で完売」(同)したため、改めて別の福袋を作り販売したが、それらもすべて完売したという。同社では「実際の反響を見ながらカスタマイズしたことが完売につながった」とみている。他にも「おむつ寿司」という商品は事前審査を経てTモール・グローバルのカテゴリー別のトップページに表示される商品に選ばれたことで、売れ行きも良かったようだ。
アリババジャパンからは事前に「売れないことよりも、売り切れないように在庫を積むことを考えてほしい」と指摘されていた。そして独身の日だけ使えるクーポンの事前発行数も1万件を超えていた。こうした点から一定の売れ行きが予測できたため、当日は倉庫を24時間体制とし通常の3倍の人員で挑んだ結果、トラブルなく対応できたという。
好調な売れ行きの背景には独身の日をにらんだ工夫もあった。同社が掲載する商品画像は白バックに商品単体を物撮りで紹介することが多かったが、新たにモデルを使って原宿でロケ撮りを行うなど、独身の日に合わせて日本をイメージした商品画像を使用。また、セールの最中にもアリババジャパンとミーティングを行って新規のキャンペーンを実施した。アリババジャパン側も即座にバナーを作成するなど協力体制ができていたことも影響したようだ。
独身の日の売り上げのうち9割程度が新規顧客。同社では、海賊版が多く流通している中国で正規品の品質や梱包のクオリティを体感してもらうことで今後の販売増につながると期待している。中国には正規品を扱う店舗が少ないため、今後も商品数を増やし、売り上げを伸ばしていく方針だ。
これまでは中国で人気の日本商材というと、化粧品や消費財などのイメージが強かったが、“おもちゃ”や“ぬいぐるみ”など新しいジャンルの商材が売れたことで、アリババジャパン側でも今後に期待を寄せているという。
アスクルが運営する日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」における独身の日の売り上げは目玉商品が早々に売り切れたことで集客に影響し「期待値には届かなかった」(同社)という。アスクルではTモール・グローバルに9月からテスト的に「ロハコ」を出店。「LOHACO海外旗艦店」として、売れ筋の化粧品やヘアケア商品、生理用品など40品目に絞って展開していたが、独身の日を前に取扱商品数を300点まで拡充して11月11日から本格展開に踏み切ったばかりだった。
「はじめての独身の日だったので、正直、どこまで売上高が上がるかわからない中、社内的に売上高の期待値は持っていたが、その期待値に対しては届かなかった」(同)とする。「LOHACO海外旗艦店」ではトップ画面で日本メーカーの正規品、信頼のおける商品を扱う日本由来のショップであることを最大訴求したことなどが奏功してか、セール開始から最初の1時間で売れ筋商品が売り切れ。資生堂のヘアケア商品「フィーノ」に至っては開始10分で完売するなど「手応えを感じた」(同)が、「目玉商品が早々に売り切れたことにより集客が思ったほど伸びず、その後の売上増につなげられなかった」(同)という。
ただ、アスクルでは独身の日のセールや中国でのネット販売に手ごたえを感じているよう。独身の日のセールについては初めての経験で後手に回ったこともあったが今回の経験が「今後の学びとなった」(同)とする。また、中国でのネット販売については「9月のテストから準備に十分な時間があったとはいえないものの、事業の将来性については大きな可能性を有していると考える。日本のメーカーの中国市場に対する期待の大きさも実感しており、中国のお客様と日本メーカーを直接繋ぐECとして本格展開を進めていく」(同)としている。
ケンコーコムの独身の日の売り上げは、1日でほぼ3カ月分を超えた。ただ、昨年と比べると売り上げはやや減少。同社では「去年より日本企業の参入が増え、価格競争等が激化しているため、無理に売り上げを取りにいかなかった」としている。
特に売れ行きが良かったのは紙おむつ、シャンプー、ナプキン、生酵素など。独身の日に向けては予約販売への参加、サイト内中心の広告、メーカータイアップなどの販促を行った。クーポンについては、店舗内クーポンやアリババが提供するクーポン、特定商品にのみ使用可能なクーポンを配布。さらには、高額購入者や複数購入者へのプレゼントなども行っていた。
下着販売を行う白鳩のTモール・グローバルにおける独身の日の売上高は昨年の数倍規模となった。当日に先駆けて10月13日から予約販売を開始し、タイツ2足を組み合わせたセット商品が完売。当日の新規客数は受注ペースで約20%となり、平常時の数%と比べて高くなっている。
売れ筋商品は「Fukuske」のタイツ2足セットで、価格は85元に設定。「Fukuske」ブランドの認知度が高いほか送料込みの価格設定などが奏功し、用意した数万セットが予約販売で完売した。
同社では在庫を多く保有していたタイツを中心に訴求して集客。タイツのセット商品と一緒にスポーツ用アンダーウェアやブラジャーを購入するケースもみられ、順調に売り上げを伸ばした。また、セール後のリピート購入の獲得に向けて丁寧な梱包で顧客満足度の向上を狙ったほか、専用のカラーチラシも同梱して商品認知度のアップも図った。
アイスタイルは、1日の売上高が数カ月分の売り上げに匹敵する約1億4000万円(速報値)に上った。この日に備え、中国市場で展開する7000SKUのうち、10%の商品在庫を厚くしており、「概ね計画通り」(同社)と評価する。
売れ筋は、アイシャドウやアイライン、マスカラなど目元のメーク商品。中国人は薄い顔立ちから目元の印象を強くする商品が人気という。日本人と肌質も近く「@cosme(アットコスメ)」の口コミで評価の高い商品も売れた。また、99元(日本円で約1900円)以下の商品は関税がかからないことから、これら商品を中心にラインアップ。セール品は年間を通じて最も安い価格を設定したほか、送料無料や、まとめ買いと連動した割引施策を実施した。
2年ほど前から日本のアットコスメの人気商品をランキング形式で伝える20分番組を放映(現在は休止)。認知は高く、複数のSNSのフォロワー数は100万人弱に達している。これらSNSでセールを告知した。
アパレル部門でユニクロが首位
大手小売り企業のネット販売も好調だった。2009年から「Tモール(天猫商城)」に出店しているファーストリテイリングでは、当日のセールにおいて前年比約2倍の6億元以上(115億円以上)という過去最高の売り上げを達成。出店企業の全業態の中で4位にランクインし(1位は中国ソフトウェアメーカーの小米)、アパレル部門では2年連続となるトップを獲得している。
当日はユニクロの秋冬商品のほぼすべてについてセールを行っており、平均で約50%の割り引きを実施。特に「ヒートテック」や「ウルトラライトダウン」(=画像)、「フリース」といった実店舗でも定番の商品が好調に推移したという。同社では12年から同モールの独身の日のセール企画に参加しており、今回の成果については「セールのノウハウが蓄積されてきたので人気商品の在庫の確保や配送計画といった事前の準備をスムーズに行えたことが大きい」(同社)と分析している。
カー用品を販売しているオートバックスセブンではTモール・グローバルの店舗での当日の注文件数が100件程度で、そのほとんどが1万円前後の車用空気清浄器だった。「普段の日は注文自体が1件あるかないか程度の状況だったので、急にこれだけ来たことで非常に驚いている」(同社)と説明。
昨年はTモール・グローバルに出店して数日程度で独身の日を迎えるなど備えが十分ではなかったことから、今年は4割引きのセールを実施するなど対応を図っていたという。
楽天特設サイトは参加店舗10倍
楽天では、11月10日から24日にかけて、楽天市場に出店する店舗専用の楽天市場「Rakuten Global Market(楽天グローバルマーケット)」に特設サイトを開設。中国、香港(マカオは除く)配送向けの送料3000円引き(1万5000円以上の購入)、中国、香港を除いた国への配送料は1000円引き(同)とした。さらに、中国での独身の日にあわせて、期間中日替わりで数量限定の11元の目玉商品を用意している。
展開言語は英語・簡体字・繁体字・韓国語となる。同サイトでは昨年から独身の日キャンペーンを展開。昨年は売り上げなどが予想を大きく上回る伸びだったこともあり、今年の参加店舗は昨年の10倍に増えている。また、今年は日本商品の質の高さをより訴求できるように、福袋やランキングページの作成など、戦略的に販売方法を策定しているという。
【成功の裏に見えた課題】 物流費、「大きな負担に」
「さまざまな制限があり、コストもかかる。来年は未定」──。独身の日商戦で大きな売り上げを達成したにも関わらず、ある通販企業の担当者はこう話す。その背景にあるのはTモールの厳格なルール規定と、ルールを遵守するためのコスト負担が大きいためだ。
前述した担当者によると、「Tモールのルールでは顧客に商品を届ける期間が決まっており、守られない場合には出店者にペナルティが課せられる。在庫を確保すれば大きく訴求してもらえるものの、発送伝票の印字ができる期間が決まっており物流が集中する。ルールで定められた期限までに商品を届けるには、オペレーションがかなり煩雑になり、コストもかかる」という。
同社では倉庫にあらかじめ在庫を確保して、予約受注を受け付けた段階で商品を梱包して中国に発送。販売日まで中国の倉庫で保管し、販売日になると商品の配達ができるように体制を整えていた。
問題が発生したのは、日本から中国への商品発送だ。物量がピークになると、海外発送を委託する業者から荷物量に制限がかかったという。「日本から発送を委託していた海外発送業者に、一部の出荷に対応してもらえなかった」と説明する。
急きょ、他の配送業者を見つけて配送を依頼した。「通販事業者としてはTモールのルールを遵守し期日までに配送したい。ただ、それを守ろうとすれば、配送業者とは対等に価格交渉ができなくなってしまう」とジレンマを抱える。
Tモールの独身の日の売り上げは好調だった一方で、予約販売のキャンセルや商品到着後のクレームなどが発生するのはこれから。予約販売は商品価格の一部を前金として徴収しており、キャンセル発生時の収益リスクは低くなるものの、中国から日本への輸送費が新たなコストとして発生する。「物流費の課題が大きい。これらを負担してもなおメリットがあるか検討したい」とした。
「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
中国「独身の日」商戦、日本勢はおおむね好調(2015/11/19)
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