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このくらいのことはネット通販の広告で言ってもいいだろう」「この程度の嘘ならバレないだろう」――。ネット通販の業界であやふやになりがちな認識が、改めて違法であると証明された。2月9日、不正競争防止法に関する裁判で、東京地方裁判所は原告である北の達人コーポレーション(本社・札幌市北区)の主張を認め、被告のはぐくみプラス(本社・福岡市中央区)に対し損害賠償金1835万7803円の支払いを命じた。

筆者は以前から、Eコマース業界に関わる人は正しい法律の知識と情報を持つべきだと考えていた。裁判の経緯や判決について詳細な話を聞きたいと思い、北の達人コーポレーションの木下勝寿社長に取材を申し込んだところ、2月26日にClubhouseで公開取材をさせてもらう機会をいただいた。

当日は100名以上の聴講者が参加、非常に勉強になる時間を過ごさせてもらった。少しでも多くのEC事業者に、不正競争防止法について理解してほしいという思いもあり、インタビューの内容をこの場で発表させていただく。インタビューをそのままに文字を起こしてしまうとわかりにくい表現があるため、会話のやり取りに若干のアレンジを加えている。ご了承いただきたい。

なお、Clubhouse上で公開取材を行う際、木下社長には事前に記事化の承諾を得て、ルーム作成にあたり聴講者には『ネットショップ担当者フォーラム』で記事にすることを事前にお伝えしている。

どんな行為が「不正競争」にあたるのか

  • 他社の有名なロゴマヤマーク等を不正に使用する
  • 他人の商品の形態を模倣した商品を提供する
  • 窃取 、詐欺、脅迫その他不正な手段により営業秘密等を取得する
  • 原産地、品質、用途、数量等について誤認させる表示を行う
  • 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布する ……など

「不正競争防止法」は、事業者間の公正な競争を確保することで、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律(不正競争防止法第1条)。表示規則などはその性質上、事業者を保護するとともに、消費者をも保護する側面もある。

これまでの経緯

2018年2月7日、北の達人コーポレーションは、はぐくみプラスを被告として、品質誤認表示・信用毀損行為の差止め、品質誤認表示の抹消、虚偽の事実を記載した文書の回収、13億7944万円の損害賠償のうち一部である1億円の支払いなどを求め、東京地方裁判所に訴訟を提起した。
2021年2月9日、東京地方裁判所は北の達人コーポレーションの訴えを認め、はぐくみプラス社に対し損害賠償金として1,835万7,803円の支払いを命じた。

始まりは1つの模倣品

──まずは訴訟の経緯を教えて下さい。

木下勝寿氏(以下、木下): 当社では健康食品や化粧品などのオリジナル商品を取り扱っています。その中の看板商品の1つが「カイテキオリゴ」という商品です。今回、訴えた「はぐくみプラス」という会社は、その看板商品の競合商品を売っていました。商品名は「はぐくみオリゴ」という名称でしたが、配送の外装箱のデザインから、ページ上の開発秘話のストーリーまで、そっくりなものを作ってきました。

パッケージ写真:北の達人コーポレーションの「カイテキオリゴ」と、はぐくみプラスの「はぐくみオリゴ」
北の達人コーポレーションの「カイテキオリゴ」(左)と、現在発売されているはぐくみプラスの「はぐくみオリゴ」(右) Amazonの商品ページより編集部でキャプチャ

──それはひどいですね。

木下: 実物を見た時、うちの商品の大ファンじゃないかと思ったぐらいです(笑)。本当にそっくりでした。でも、問題はそれよりももっと重要なところにありました。

──それは何でしょうか?

木下: 「はぐくみオリゴ」は「オリゴ糖純度100%」を宣伝文句としていたのですが、今の科学技術では100%純度のオリゴ糖を製造することは不可能なんです。

──つまり、嘘の表記をして売っていたってことですね。

木下: その通りです。だけど、私も「どうせ素人が勘違いして売っているのだろう」と、当時は目くじら立てず、そのまま放置することにしました。

──勘違いや誤解は誰にでもありますからね。

木下: しかし、あるアフィリエイトのイベントで、はぐくみプラスの社員がアフィリエイターに対して「北の達人のカイテキオリゴは純度100%じゃない。はぐくみオリゴの方が商品として優れている」と、自社の商品を宣伝していることが発覚したんです。

嘘の情報で自分たちの商品のほうが優れていると売り込むのは、さすがに見過ごせないと思い、弁護士を通じて正式に抗議しました。すると、はぐくみプラスから弁護士名義で謝罪の連絡が来ました。

──謝ってきたんですね。

木下: ところが、謝罪をしたのにも関わらず、その後もはぐくみプラスは自社商品を「オリゴ糖純度100%」をアピールして売り続けたのです。

1回目だけなら知らなかったで済まされますけど、謝罪した上で2回目以降も純度100%の謳い文句で売り続けましたからね。これは悪質だと判断し、訴訟という形で対応せざるを得なくなりました。

表示をする際に留意すべきこと

  • 誤解を招くような表示をしない
    虚偽の表示をしないことはもちろん。取引先や一般消費者が誤認するような表示がないか、注意が必要
  • 困ったら経済産業省や専門家に相談
    例えば「A県で生産された原料をB県で加工、さらにC県でも加工して完成した商品の場合、どこが原産地になるか?」「衣料品にデザインとして国旗を描いた場合、その国が原産地だと誤認されるおそれはないと言えるか?」など、疑問に思うことがあるときには、「経済産業省知財産政策室」に問い合わせるか、弁護士などの専門家へ相談を。

そして法廷へ

──裁判では何を訴えたんですか?

木下: 事実にはないことを表記した「品質誤認表示と信用棄損行為の差し止め請求」と、「損害賠償請求」の2点で訴えました。

当社で「はぐくみオリゴ」のオリゴ糖の成分を調べたところ、53.29%しかありませんでした。それを「オリゴ糖純度100%」と表示をした行為に対して、東京地方裁判所は品質誤認表示に該当するという認定を出しました。加えて、はぐくみプラスに損害賠償金として1835万7803円の支払いを命じました

──札幌近郊で新築一戸建てが買える金額ですね。

木下: 買えませんよ(笑)。もうちょっとしますよ。

──すみません、話を元に戻します。もう1つの品質誤認表示と信用毀損行為の「差し止め」はどうなりましたか?

木下: はぐくみプラス側が裁判中に「オリゴ糖純度100%」の表記を少しずつホームページ等の表記から削っていきました。これは本気でマズいと思ったんでしょうね。そのおかげで、「差し止め」に関しては判決の中には含まれないことになりました。

──裁判はどんな流れで進んでいったんですか?

木下: 最初は裁判所から訴状を相手に送るところから始まりました。ですが、はぐくみプラスの社長が訴状を受け取ってくれなかったんです。

──えっ、会社に送ったんですよね? 社長が訴状を受け取らないってありえるんですか?

木下: 社員の方が受け取ってもいいんですけどね(笑)。でも、何回送っても訴状を受け取ってくれないんです。自宅に送ったら、今度は古い住所だということで戻ってきて。結局、新しい転居先をこちらで調べて再送付したところ、ようやく受け取ってくれました。

──対応としては最悪なパターンですね。

木下: 心証は良くないですよ。この時点で相手はまともに話し合う姿勢がないと思いました。本当に自分達が正しいと思うのであれば、正々堂々と裁判は受けるべきだと思いますし。

──はぐくみプラス側は、どんな言い分を主張してきたんですか?

木下: 提出してきた資料は稚拙なものが多かったですね。例えば「そもそもオリゴ糖という定義自体が明確ではないので、オリゴ糖が100%ではないという証明ができない」という話とか。何を言っているのかわからない話に終始していました。

100パーセントではないという証明はできません。

──それって「カレーの定義が明確ではないから、カレーが辛いとは証明できない」って話に似ていますね(笑)。揚げ足取りというか、論点がずれているというか。少なくとも誠意のある主張ではないですね。

木下: おそらくオリゴ糖の製造をOEMで外部に出していると思うので、成分や製造の知識をほとんど持ち合わせていなかったんだと思います。でも、裁判は結審まで主張を続けられる権利があるので、結局、相手の稚拙な言い分に最後まで付き合うしかありませんでした。

──判決が出るまでの道のりは大変だったんですね。

木下: 最終的には、当社で分析をした「はぐくみオリゴのオリゴ糖の純度は53.29%」という主張が認められて、ようやく判決に至りました。

偽装表示を発見した場合の対処法

当事者間で解決を図る
他社の偽装表示によって営業上の利益を侵害されている場合、営業上の利益を侵害される恐れがある場合には、偽装表示の行為者に対し、警告状を送り、侵害行為を止めるよう交渉する。

裁判所以外の期間を利用して解決を図る
第三者に調停人となってもらい、当事者間の合意によって紛争を解決するのが「調停」。第三者に仲裁人となってもらい、仲裁人の判断によって紛争を解決する「仲裁」などの手続きを利用して、偽装表示をやめてもらったり、損害を賠償してもらう。調停や仲裁は、弁護士会の紛争解決センターなどが実施している。

裁判所の手続きを利用して解決を図る
他社の偽装表示によって営業上の利益を侵害されている場合、営業上の利益を侵害される恐れがある場合には、その差し止めや損害賠償を求めて、裁判所に訴えを提起する。

捜査機関に刑事事件の追及を求める
不正の目的で誤認惹起行為を行った者などには刑事罰が科せられる。偽装表示を発見した場合、警察や検察庁に対して刑事責任の追及を求めることができる。

なぜ訴訟に踏み切ったのか

──木下社長の話を聞いて、改めて裁判はお金も手間もかかると思いました。しかし、それがわかりながらも、なぜ訴訟に踏み切ったんでしょうか。

木下: 私も争い事は好きではないんです。競合よりもお客さまのほうを見て、全力で仕事をしたほうがプラスになりますから。でも、はぐくみプラスがオリゴ糖の純度が50%程度しかない自社商品を、純度100%と謳って販売し続けることは、巡り巡って、当社ではなく、お客さまが被害者になるのではないかと思うようになったんです。

──市場そのものが消費者から信頼されなくなったら、それこそ真面目に商売をやっている会社の商品も売れなくなりますからね。

木下: ディズニーは著作権が厳しいことで有名です。しかし、それは自分たちの権利を独り占めにしたくて厳しくしているのではなく、お客さまのことを粗悪品から守るために厳しくしているんです。この裁判があるまでは、私もディズニーの著作権に対して、「厳しいな」と思っていました。でも、実際に自分がお客さまを守る立場になって、権利を守ることがお客さまを守ることにつながるんだということがわかりました

──自社の利益だけを考えたら、裁判を起こすことは割が合わないですからね。

木下: 今回の裁判を機に、当社では「競合模倣対策室」を設置することにしました。社内弁護士2人体制で模倣品や虚偽の広告などの監視を行っています。市場を開拓した先駆者として、今後もお客さまを粗悪な商品から守る活動は続けて行こうと思います。

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竹内 謙礼

有限会社いろは 代表取締役

竹内 謙礼(たけうち・けんれい)

1970年生まれ。大学卒業後、出版社に勤めた後に観光牧場に転職。企画広報担当を経て2004年に経営コンサルタントとして独立。楽天市場、ビッダーズ等で多くのネットビジネスの受賞履歴あり。また、千葉文学賞等の小説、エッセイでも数々の受賞暦を持つ。

大企業、中小企業のコンサルティングはもちろん、サイドビジネスや起業に対しての販促、営業、人材教育のアドバイスを行い、特に実店舗のキャッチコピー制作とネットビジネスへのコンサルティングには定評がある。また、低価格の会員制コンサルティング「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、180社近いコンサルティング指導を日々行っている。

販促、企画、会計、投資の書籍執筆の他、新聞や雑誌等でも連載を持っており、ラジオのパーソナリティとしても活躍。商工会議所や企業での講演、企業での人材教育等、経営コンサルタントとして精力的に活動している。NPO法人ドロップシッピング・コモンズ理事長。著書多数(詳しくはこちら

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