竹内 謙礼[執筆] 2023/7/25 7:00

「お金さえ払えば、検索結果で1位が取れると言うんです」――。と、ネットショップの経営者から興奮気味の電話がかかってきた。取り扱う商品は美容雑貨。ネットマーケティングを支援するA社から、出店しているモールで1位を取らせてあげます、という主旨の営業電話があったそうだ。今回の記事では実例を深掘りし、本当にそんなにうまい話があるのか、落とし穴はどのようなものか、てん末はどうなったのかを解説する。自社の教訓に役立ててほしい。

まっとうな検索1位はお金で買えない

美容雑貨を取り扱うある企業は、あるモールの検索結果のキーワードで「2位」の位置につけているが、「1位」は大手企業の美容雑貨が長年独占していた。そのせいか、売れ行きも今ひとつ。そんななか、ネットマーケティングを支援するA社から、「そのモールで1位を取らせてあげますよ」という営業電話がかかってきたのである。

A社は、指定のキーワードで1年間、検索結果で1位をキープし続けることを条件に300万円の費用を提示してきた。内訳は150万円がコンサルティング費用で、残り150万円はその企業が販売している美容雑貨を買い取る予算に当てるという。

「なぜ、わざわざ商品を買い取る必要があるんだ?」そう思った人も少なくないはずである。このあたりの事情を理解するためには、もう少しモール内の検索順位のロジックの知識を深める必要がある。

ご存じの通り、モール内の検索順位がどのようなアルゴリズムで確定しているかは、一般の人には公開されていない。キーワードの選定やレビュー数など、基本的な指標も含めて、常に検索順位のルールは細かく変動しており、ランダム性を高めることで、モール内の検索順位は公平性が保たれている。

検索順位1位の例(画像は「楽天市場」内の検索ワード「化粧品」の表示結果を編集部がキャプチャ/2023年7月18日時点)
検索順位1位の例(画像は「楽天市場」内の検索ワード「化粧品」の表示結果を編集部がキャプチャ/2023年7月18日時点)

しかし、最近は多くのモールが「商品の売れ行き」を重視していると言われている。もちろん、この情報も憶測でしかないが、公開されているガイドラインやコンサルタントが行っている施策を検証する限りでいえば、ある一定期間内に、より多くの商品を販売したネットショップのページのほうが、検索結果で上位に表示“されやすい”というのが、ネットショップかいわいで、暗黙の了解になりつつあるアルゴリズムになっているところがある。

支援会社がA社に提示した悪質な手法

そして今回、A社が提示した「150万円で商品を買い取る」というのは、モールのアルゴリズムの裏をかく悪質な手法と言えた。取り扱っている美容雑貨の単価は3000円前後。150万円を支払えば500個を買い取ることができる。

そして、モールでその予算を使って500個の商品を買い続ければ、アルゴリズムは「この商品は売れている」と認識し、場合によっては、粗悪な商品を検索結果で上位に表示させてしまう“間違い”を犯してしまう可能性が出てきてしまうのである。

AIを“勘違い”させて検索順位をアップさせるのは悪質手法というほかない
AIを“勘違い”させて検索順位をアップさせるのは悪質手法というほかない

「しかも、1位が取れなかったら、半分の150万円を返金すると言うんです」。美容雑貨を取り扱う社長の興奮は収まる気配がなかった。150万円は商品の買い取り費用に当てられるので大損するわけではない。上手くいかなかったら150万円も返ってくる。この施策にはほとんどリスクがないと言ってもいい。

さらに、1年間、モール内の検索結果で1位を取り続けてくれるのであれば、月の広告費に換算すると12万5000円と、毎月ネット広告を買うよりも安上がりで済む

発覚すればモール退店のおそれ

しかし、言うまでもなく、これらはリスクの高い悪手といえる。150万円分、500個の商品を一気に買えば、モール側も「商品を自社で買い付けて、意図的に検索結果の上昇を狙っている」と、すぐに勘づくはずである。特に近年は、どこのモールも検索順位の不正操作と、自作自演のレビューには神経をとがらせている。発覚すれば、一発退店になってもおかしくない事案といえる。

モール側に発覚すれば締め出されるおそれが大きく、あまりにもリスクが高い
モール側に発覚すれば締め出されるおそれが大きく、あまりにもリスクが高い

モール側に発覚すれば締め出されるおそれが大きく、あまりにもリスクが高い

この点に関しては、美容雑貨を取り扱う社長も不安に思っていたので、A社の担当者に問いただしたところ「安心して下さい。分散して少しずつ商品を買い足していくので絶対にモール側にはバレません。レビューも少しずつ増やしていきます。当社には発覚しない独自のシステムがあって、既に多くのネットショップでも実証済みです」と言う。

ここまで断言されてしまうと、売り上げが低迷している社長であれば、この危険なサービスに手を出してしまう気持ちもわからないわけではない。

検索順位アップの「禁じ手」≒犯罪行為

しかし、繰り返し述べるが、A社が提示したこの手法は、完全な「禁じ手」である。モールに限らず、Googleを始めとしたネット上のサービスにおいて、意図的に「検索結果を操作する」という行為は、ネットの世界ではモラルに反する行為になってしまう。

「検索対策という言葉があるぐらいだから、禁じ手は言い過ぎだろ」。読者にそう思われるかもしれないが、検索対策はあくまで検索エンジンやモール側が定めたルールに則って行う施策であって、アルゴリズムの裏をかいて、利益を独占するような行為は、昔から厳しく罰せられるのが常である。

各モールの対応策は「原則禁止」「休店、退店措置」

たとえば、Googleで「がん 治療薬」のキーワードで、意図的に検索結果の1位が取れてしまうようになれば、命に関わる情報を検索エンジン側が間違って流布することになってしまい、利用者の信頼性を著しく損なうことになる。このような不正行為をさせないためにも、検索エンジン側は、アルゴリズムの裏をかくような行為に対しては検索順位を下げたり、検索エンジンにインデックスさせないようにしたり、厳しいペナルティを与えている。

この点に関しては、モールでも同じことが言える。質の悪い商品が容易に検索結果で1位を取れてしまうようになれば、消費者の信頼を一気に失うことになる。「このモールではろくな商品が売られていない」とユーザーに思われてしまい、モールだけではなく、出店しているネットショップの信頼失墜にもつながりかねない。そのため、モールの検索順位を不正にコントロールする行為は、リアルな世界の法律に当てはめれば、明らかな犯罪行為になってしまうのである。

日本を代表する各モールにも、悪質な検索対策行為への対応策について見解を聞いてみた。

楽天

検索順位の意図的な変更を狙うような行為は、ユーザーが適切な情報を受け取ることを阻害する行為と位置づけ、出店店舗向けガイドラインにおいて禁止しています。このような行為に関してはモニタリングを行い、違反があった際はその内容に応じて、厳正な措置を講じています。

Yahoo!ショッピング

開示されているロジックに該当する項目を自ら、または第三者に依頼して水増しする行為や、商品名やキーワードを多数羅列するなどの行為は禁止しています。365日、24時間パトロールの実施や、第三者からの申告で取り締まっています。違反があった場合、商品削除や場合によっては休店、退店措置も踏まえて対応しています。

Amazon

お客さまと販売事業者さまを保護するため、Amazonでは販売事業者さまに遵守いただくポリシーを定めております。ポリシー違反が確認された場合は、速やかに適切な対応をいたします。

これらの公式見解からもわかる通り、意図的に第三者が商品を購入し、レビューを書いて検索順位を上げる行為は、重大な禁止行為であることは明らかなのである。

今回、A社が提案した、少しずつ商品を買い取り、少しずつレビューを増やしていく手法も、アルゴリズムの裏をかくやり方としては正解かもしれないが、専門家から見れば、かなり稚拙な手法だと言わざるをえない。

たとえば、少しずつ商品を買い足していったとしても、モバイルで商品が極端に買われすぎていたり、アプリではまったく商品が買われていなかったりすれば、すぐに不自然な動きを察知するビッグデータぐらいは、大手IT企業であれば持ち合わせていると思われる。

不正行為に損害賠償2億円の例も

また、モール内では常に店舗同士が熾烈(しれつ)な競争を展開しているため、不自然に検索結果で1位を取ってしまうと、すぐに「このネットショップの検索順位の上がり方はおかしい」と、競合店からモールに通報されてしまう可能性は高いといえる。

仮に今回のケースのように、禁じ手を使うA社の存在が発覚すれば、芋づる式でA社に営業をかけた企業が支援したほかのネットショップも判明してしまうため、大量退店の事案に発展する可能性も十分に考えられる。

2015年に楽天が不正なレビューの書き込みを支援した会社に対して、2億円の損害賠償を起こした事例もある。常識をわきまえたネットショップの支援会社であれば、「検索結果で1位にしますよ」というリスクの高い施策は絶対に提案しない。

楽天は「楽天市場」で架空の注文をし、好意的なレビュー投稿をする行為を繰り返したとして、当該のシステム会社に損害賠償2億円を求める訴えを起こした
楽天は「楽天市場」で架空の注文をし、好意的なレビュー投稿をする行為を繰り返したとして、当該のシステム会社に損害賠償2億円を求める訴えを起こした

そう考えれば、このような愚策を平気で提案してくる時点で、A社がまともな会社でないことは明らかだと言える。

モニターが無自覚に不正の片棒を担ぐ

この取材を進めていくうちに、知人のコンサルタントから有力な情報が入った。

A社と似たようなサービスを提供している会社は、私も聞いたことがありますよ。その会社は大学生や主婦など数百人抱え込んでいて、その人たちに『商品モニターのお仕事』と称して、モールの商品を購入させて、レビューを書かせる仕事をやらせているんです。商品をタダでもらえて、感想を書くだけでお金がもらえるわけですから、自分たちが悪いことをしている自覚はまったくないと思いますよ。

ネットビジネスがわからない一般人であれば、自分たちが、「不正」の片棒を担いでいることに気付かなくて当然である。しかし、これらの気軽に始められる商品モニターの仕事が、場合によっては消費行動を阻害するものであり、悪質なサービスに荷担していることは、紛れもない事実といえる。

売れない商品をあたかも売れている商品に見せることは、「サクラ」や「ヤラセ」に近い行為であり、ステルスマーケティングと類似しているところは大いにある。もちろん、これらの手法はグレーゾーンのため、不正か否かの判別が非常に難しく、直接、法を犯す行為ではないため、罪に問うことは困難といえる。

しかし、このような「ちょっとしたお小遣い稼ぎ」が、実は真っ当な仕事ではないという現実を、より多くの人たちに認知してもらう啓発活動は、業界団体とモール側が協力して行わなければいけない、緊急課題といえそうである。

悪質サービス提供会社の共通点

ちなみに、悪質なネットサービスを提供する会社は、下記の4つの共通点があげられる。

  • 有名企業と似たようなカタカナ表記の会社名が多く、類似の会社名が多数検索にヒットするため、探しているホームページにたどりつくことが難しい
  • 会社の所在地が都内の一等地のバーチャルオフィスのケースが多い。会社概要には入居している立派なビルの写真を掲載しているため、大企業だと誤解してしまう
  • ホームページに社長や従業員の顔写真が一切掲載されていない。経営者の名前をSNSで検索してもヒットしない
  • 電話では「検索結果で1位にします」と言っておきながら、足がつかないようにするために、そのサービスに関しての文言が営業資料には一切書かれていない
共通点から悪質な支援会社を見抜くことができる
共通点から悪質な支援会社を見抜くことができる

冒頭で紹介した美容雑貨のネットショップの経営者は、最終的には私の説得に応じてくれて、A社の提案を断ってくれた。

しかし、その社長はどうしても検索1位を取りたいという思いが捨てきれず、出店しているモールのガイドラインに沿った正当なやり方で検索対策を懸命に行い、半年かけて念願だった検索結果の1位を奪取することに成功した。結果はどうなったのか?

売り上げはまったく伸びませんでした。

その社長は「危うく300万円をドブに捨てるところでした」と笑いながら私のインタビューを締めくくった。

検索1位は商品力やクオリティが伴ってこそ

検索結果で1位を取れたとしても、ページのクオリティが低ければ売れることはないし、商品力がなければ、やはり売れ続けることは難しい。この美容雑貨も、有名企業が検索結果で1位を取れているから相乗効果で売れているわけであって、無名の会社が検索で1位を取れたとしても、知名度と信頼性で、消費者の心を動かすまでには至らなかったことが、売り上げにつながらなかった要因として考えられる。

検索結果で1位を取れば売れるというのは事実かもしれないが、それはあくまで結果論でしかない。商品や商品ページが良いから、検索結果で1位が取れているという現実を、ネットショップの運営者は忘れてはいけない

アフターコロナで巣ごもり消費が収束し、多くのネットショップが苦戦を強いられている。そのなかで、「検索結果で1位にしますよ」という悪魔のささやきを耳にすれば、藁をもすがる思いで、このようなサービスに手を出してしまうネットショップ運営者の気持ちは痛いほどわかる。

しかし、これらの行為はEコマース業界においては立派な「犯罪行為」であり、サービスを提供する会社も、反社会的な企業に近い存在であるという認識を、私たちネットショップ運営者は強く持つ必要がある。

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