テレ東アトミックゴルフはなぜ安い? 2社のシナジーがもたらすEC最適化
テレビ東京ホールディングスの通販子会社、テレビ東京ダイレクト(TXD)は10月31日、ゴルフ関連用品のネット販売サイト「アトミックゴルフ」を運営するリアルマックスの株式の過半数を取得、子会社化した。テレビ東京グループがEC専業社を買収するのは初めてでいわば異例の買収となる。TXDでは「テレビショッピングの一本足打法ではそろそろ限界」とし、EC専業社との連携は今後の成長を描く上で必須だったとする。狙いや今後の展開とは――。
テレビショッピングだけでは事業成長に不足。テレビとECを合わせて展開へ
(事業を成長させ続けるためには)テレビショッピングだけでなく、ECをやっていかなければ。テレビとECを合わせて展開していくことでゴルフ業界の中である程度のステータスを築けていける。(それを強みに)一緒になってゴルフ事業を成長させていきたい――。(TXD社長 遠藤孝一氏)
10月31日付でリアルマックスの創業者で同社社長の青松勇介氏から同社株式102株を取得(取得価格は非公表)、所有割合を51%としたTXD。同社を率いる遠藤孝一社長は11月1日に開催した記者会見でその狙いと期待についてこう語った。
TXDにとってゴルフ用品は“事業けん引の大きな柱”
TXDが子会社化したリアルマックスはゴルフ用品のネット販売サイト「アトミックゴルフ」を運営するEC専業社で2003年に開設した自社サイトのほか、楽天市場やヤフーショッピング、アマゾン、auPAYマーケットなどの仮想モールにも出店。各モールから度々、表彰される有力店で、ゴルフ用品EC事業者としては知られた存在だ。
業績も順調に成長を続けており、前々期(21年9月期)の売上高は前年比2.8%増の31億3200万円、営業利益は同60.6%増の9800万円を計上。前期(22年9月期)の売上高も前年実績を上回る33億円程度で着地したようだ。
同社は確かに優良EC専業社であろうが、なぜテレビ通販を軸としているTXDが同社を子会社化するに至ったのか。それはTXDにとってゴルフ用品が同社の事業をけん引する大きな柱となっており、かつさらに伸びしろがあるとみる有望分野であり、そのためには既存のテレビ以外の販路が必要だと判断したためとする。
TXDではマルマンと組んで開発し、2016年からテレビ通販で販売を始めたゴルフクラブ「DANGAN7」がヒット。
地上波のほか、BS、CS局に放送枠を確保して同商品を紹介する通販連動型ゴルフ番組やインフォマーシャルなどを積極的に放送する拡販策に加えてコロナ禍によるゴルフ人気も奏功し、「DANGAN7」のシリーズ商品を軸としたゴルフ関連商品だけですでに年間10億円の売り上げを上げており、ここ数年の好調な同社の通販売上高をけん引する大きな収益の柱の1つとなっている。
販売力があるパートナーとしてリアルマックスに白羽の矢
コロナ禍を機に増えたゴルフ人口などを背景にゴルフ市場は今後も拡大し、関連用品の物販の需要も増していくとみて、さらにゴルフ用品通販を強化していきたいTXDだが、そのためには既存のテレビ通販ではなく、ECという新たな販路を活かした展開と「DANGAN7」のようなヒット商品を生み出し続けることが必要。そうした戦略を実現するにはECを主戦場とし、一定の会員と相応の販売力があるパートナーとのタッグが必須だった。
そのため、TXDでは1月からM&A仲介業者を通じて、ゴルフ用品EC事業者に資本業務提携を打診。
その中で「アトミックゴルフ」を運営するリアルマックスへとつながり、同社にとっても、これまで右肩上がりで業績を伸ばしてきたものの、EC専業のほか、有店舗ゴルフ用品小売業のECシフトの流れを受けて激化する市場環境や年商30億円に達してからの伸び悩みなどを鑑みてTXDの打診に応じることを決断したという。
話を頂いてから悩んだが、我々はこれまで中小事業者として訴求方法や物流サービスなど最大限の工夫を行っていたが、差別化策はコモデティ化してきている。そうした中で訴求力の高いテレビという媒体の力は非常に魅力を感じた。(リアルマックス社長 青松勇介氏)
通販カタログをEC顧客に送付、ゴルフ中継からの視聴者誘導策も
資本提携が成立したことから両社は連携して事業拡大を進めていく考えだ。具体的な施策としては直近では11月1日から「アトミックゴルフ」のサイト名を「テレ東アトミックゴルフ」に改称し、同サイトでの買い物の際の決済時に充当できるポイントや割引クーポンを付与するキャンペーンを開始。
また、TXDの通販連動型ゴルフ番組「ゴルフ! 天下たい平」によるゴルフコンペに抽選で招待する企画も実施する。これらにより、「テレ東アトミックゴルフ」の既存顧客にテレビ東京グループの仲間入りをしたことを告知し、今後の連携策をスムーズに進めるための下地作りを進める。
また、現在、TXDがゴルフ用品購入者ら7万人超を対象に定期的に発刊しているゴルフクラブを中心としたゴルフ関連用品を掲載する通販カタログ「DANGANマガジン」を「テレ東アトミックゴルフ」の既存客約12万人にも送付する取り組みも始める。
さらに今後の施策としてテレビの力を活用したマーケティング施策の展開も検討する。具体的にはテレビ東京が放送するゴルフ番組などを活用して「テレ東アトミックゴルフ」への視聴者の誘導を図るもの。
たとえばゴルフ大会の中継番組などの合間にワンポイントレッスンのコーナーを放送し、その中で「テレ東アトミックゴルフ」で新規会員登録した人にポイントを進呈することをPRするような取り組みなどを想定しているようだ。
ゴルフ中継の視聴者というゴルフへの興味・関心の高い、いわば潜在顧客に対してアプローチできるという点では有効な施策と言えそうだ。
独自商品の開発にも意欲
また、今回の資本提携の大きな目的の1つでもあるメーカーと組んだオリジナルゴルフギアの開発も進める。
TXDでは先の「DANGAN7」の各シリーズを共同開発しているマルマンをはじめ、複数のメーカーと商品開発に取り組んでいるが、12万人の顧客を持ち、年商30億円を超えるゴルフ用品ECサイトと連携し、これまでよりも大幅に販売力が高まり、また、「テレビ通販+EC」という競合のゴルフ用品販売事業者には容易には真似のできない販売施策を行えることを強みにさらにさまざまな有力メーカーと交渉し、訴求力の高い独自商品の開発に取り組んでいきたい考え。
このほか、「単にモノを売るだけではなく顧客のLTVをあげていく取り組みもやってみたい」(TXDの遠藤社長)とし、同社がクラブツーリズムと組んで行っているテレビ番組で独自企画の旅行商品を紹介・販売する旅行事業を生かしてたとえば、レッスンプロと行くゴルフツアーを企画・販売したり、ゴルフのレッスンイベントの実施なども将来的には展開していきたいという。
有力EC専業社とタッグを組んだことで強みであるテレビ通販とのシナジーおよび販路拡大し、ゴルフ用品販売事業者として競合とは異なる確固たる地位を確立し、通販事業の強力な成長エンジンとして機能させていきたい意向のTXD。今後、どのような展開を図るのか、注目される。
【一問一答】ゴルフ用品の通販売上は倍増を計画
資本業務提携を締結したテレビ東京ダイレクトとリアルマックス。遠藤、青松両社長に狙いや今後について聞いた。(11月1日開催の記者会見での発言や通販新聞の記者を含む報道陣との一問一答から一部を要約・抜粋)
――提携の狙いは。
遠藤「テレビショッピングの一本足打法ではそろそろ限界だ。何とか打開しなければいけない。そのため、テレビショッピングだけでなく、ECを(本格的に)やっていかなければならない。ただ、ECを本格化するにあたってはさまざまな商品を取り扱う百貨店型では品ぞろえも含め難しい。ある特定の分野で勝負をしたいと。そのためには当該分野で優良顧客を持つEC事業者と組んで展開したいと考えた。
ゴルフ用品を選んだ理由はゴルフ用品に造詣が深く、業界にも顔が利く当社のメンバーの力もあり、すでにゴルフ用品の通販が当初の想定以上に大きく育っており、さらに伸ばしていきたいと考えたことや当社グループの強みであるテレビとの相性がゴルフは非常に良かったことがポイントだった。
番組と連動した展開も可能になる。実際にテレビ東京のスポーツ局も今回の提携にあわせて、(ゴルフ番組との連動施策など)どういうことができるかを考えてくれている。そういうグループの協力が得やすい点からもゴルフでと考えた。
そこで今年1月にM&A仲介会社のストライクにゴルフ用品のEC事業者で当社と組んでくれるところがないかと相談し、そこからリアルマックスの青松社長に打診をさせてもらい、ようやく実現した」
遠藤「テレビとECが合わさればゴルフ業界の中で、確固たるステータスが築けるのではないか。当社では色々なメーカーと(商品開発などで)お付き合いさせて頂いているが、さらにさまざまなメーカーへも提案を強化して魅力ある商品を作り、テレビとECとを合わせて販売していきたい」
――リアルマックスの子会社化にあたって株式取得割合を51%にした理由は。
遠藤「将来的に100%を取得することは考えているが、互いがまだ初めてということもあって(51%取得にとどめ)まずはそこから始めることにした。青松社長と我々で合意した上で今後については決めていきたい」
――両社でのシナジーはどのあたりに出てくるか。
遠藤「両社の顧客に対してCRMを強化していく。まずは『アトミックゴルフ』の会員に当社のゴルフ用品通販カタログを配布してアプローチしたい。
モノを販売する以外でも例えばレッスンプロと行くゴルフツアーやレッスンイベントを企画したりなどし、LTVを上げていくことも考えられる。
バックヤードの効率化も考えていきたい。当社では注文を受けてからお客さまの手元に商品を届けるまで時間が少しかかる。一方、リアルマックスでは受注後、即日発送し、翌日には届けられる物流体制を構築している。そうした物流を活用することでバックヤードを効率化できるし、配送コストに関してもスケールメリットで抑えられるのではないかと思っている」
青松「当社は年間361日とほぼ毎日、(出店する)仮想モールの場合は午後2時まで、自社サイトの場合は午後3時までの注文分を関東・中部・関西近辺であれば翌日までにお届するスピード配送を行っている。こうした配送サービスはテレビ通販と非常にシナジーが出てくると思う」
――ゴルフ用品の売り上げの目標は。
青松「当社の売上高は9月末の直近決算で33億円となっているが今後、5年で倍の70億円をめざしている」
遠藤「当社のゴルフ用品売上高は現状、年間で10億円くらいの規模だ。これを倍増させていきたい。顧客のLTVを上げていく施策によって両社の売り上げが上がっていくのではないか」
――EC事業会社の買収は今後もあるか。
遠藤「具体的にどこというのはないが考えたい。やはり、テレビショッピングの一本足ではなかなか会社の成長は望めない。ECも含めてどういうビジネスをめざしていくかが重要だ。
今後、リアルマックスと一緒に新たなECをやっていくという手段もある。いずれにせよ、EC事業を伸ばしていきたいという意識は強くある」
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