ショップチャンネル、増収増益の要因は? 購入回数・客単価の向上などにつながった「顧客視点の施策」を小川社長が語る
通販専門放送を行うジュピターショップチャンネルの2024年3月期決算は増収増益で着地した。顧客のし好の変化や訴求のマンネリ化などで主力の衣料品の売れ行きが苦戦するなどで3期連続減収となっていたが衣料品の新たな拡販策の成功や化粧品、旅行商品などの売れ行きもよく、当期は4期ぶりに増収に転じ、増益も維持した。小川吉宏社長に現状と今期以降の方向性について聞いた。
増収増益の要因は顧客視点の施策
アパレル・ファッションがけん引
――2024年3月期決算は増収増益だった。要因は。
お客さまが何を求めているのかを2022年度から愚直に追及し始め、お客さま視点でさまざまな施策を打った結果がこの2023年度は届いたと感じている。特にアパレル・ファッションアクセサリーの売れ行きが好調だった。
――顧客との接点、継続化などの観点からもファッションカテゴリーの回復にここ数年腐心してきたわけだが、その顧客視点の施策が奏功したのか。
そうだ。多くの取り組みを行っており、さまざまな取り組みが複合的に奏功していると思う。たとえば昨年1月にファッションに特化したランウェイもある常設スタジオを作って商品の特徴をわかりやすくかつ魅力的に伝えるためのカメラワークにこだわったり、より商品が映えるようセットを改良したりとこの1年でもさらに色々と進化させてきた。
また、番組で洋服を身に着けるモデルも当社のお客さまにとって魅力のあるファッション誌などで活躍されている人を起用したり、モデルのヘアスタイルも以前は商品を目立たせるためにシンプルなものだったが、おしゃれなヘアアレンジをしたモデルが商品を身につけて登場したりなど、これまで当社ではあまりやってこなかったことなどにも取り組んできた。
商品はどんどんと新しく新鮮味のある魅力的なものを紹介していっている。それに合わせて見せ方も変えた。商品の情報はもちろんだが、番組のすべてでお客さまが見ていて楽しいと思えるものを提供したいと考えた。
ブランドの垣根を超えた提案が好評価
――特別編成で1日中ファッションアイテムだけを紹介する「ファッションデー」も変わってきた。
従来まではその日に放送する各番組は独立していたが、2022年度から共通のコンセプトを持ってお客さまに楽しんで頂けるようたとえば時間帯によって50年代、60年代など年代ごとのテイストの商品を紹介したりなど全体の編成を変えていった。2023年度も「日本のモノづくり」を共通コンセプトとした構成にするなどした。
異なるコンセプトという意味では「ファッションデー」に限らず、2023年度からスタートさせた新番組もそうだ。昨年8月から放送を開始してその後、12月、今年3月と定期的に放送している「24h×7Days Style Ind‐ex」というスタイリストの亀恭子さんがコーディネートして商品を提案・紹介する番組だ。
スタイリストがコーディネートを提案する形の番組は以前から「VENUS NAVI(ヴィーナスナビ)」という番組を放映してきたが、ブランドの垣根を超えてファッションの提案する番組は面白くお客さまからの評価も高い。制作するのは大変だが(笑)。こうした施策などで番組の視聴が増え、お客さまの購入回数や客単価が増えてきている。
番組と連動したWeb施策で買いやすさアップ
――Web施策も売上増に寄与している。
当社のWebサイト上で番組に出演するメーカー担当者や社員が当社で販売する商品を使ったコーディネート画像を紹介、提案するコンテンツ「ショップチャンネルピープル」を昨年1月からスタートしてお客さまからは自身の体型や好みに合ったコーディネートを参考にでき、着用イメージの確認やサイズ選びなどに役立てられると好評だったが、昨年6月からは短尺の動画でもコーディネートを紹介できるようにし、静止画では伝えきれない情報が伝えられるようになった。
合わせてWebサイト内に掲載している番組表との連動も始め、番組表の各番組に記載する出演者の名前をクリック・タップすると当該出演者によるコーディネート画像・動画を表示する「ショップチャンネルピープル」のプロフィール詳細ページへ遷移するようにするなど、より使いやすく進化させてきたが、これもファッションアイテムの買いやすさにつながっていると思う。
外出機会増加に合わせてファッションを強化
――コロナ禍が収束したこともファッションの好調要因か。
お客さまの外出機会の増加はかなり貢献している。外出する際に新しい洋服や鞄がほしいなど買い物需要が旺盛になってきたときに、その気持ちに応えられるようさまざまな商品とその魅力をしっかりと伝えられる番組をお届けできるようファッションカテゴリーの番組を前年よりも増やした。
当社でさまざまなバランスを考えて番組を構成しているため、(全体の占める割合は)数%程度のアップとなるが、それでもこの割合で構成比が増えるのはあまりないことだ。
顧客ファーストの施策が業績につながる
――単価を考えるとファッションよりも優先すべきカテゴリーもあると思う。
ファッションに関して(他のカテゴリー以上に)お客さまの関心が高い。先ほど申し上げた通り、我々はお客さま目線を重視している。
いかにショップチャンネルを楽しんで頂けるか。2023年度は増収増益になったが、それを追い求めてきたわけでない。それが業績にもつながってくることだとは思うが、あくまでもお客さまが求めているもの、楽しいものを提供したいと考えて結果的にそうなったと考えている。
顧客の裾野拡大に手ごたえ
番組出演者とのコミュニケーションが化粧品購入を後押し
――2024年3月期はファッション関連品が好調だったとのことだが他の商材についてはどうか。
化粧品や旅行の売れ行きも好調だった。アパレルでも言えるが、昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行し外出機会が増加したことは大きいのではないか。特に化粧品はその恩恵を強く受けた。
また、2022年度から番組の画面上にQRコードを表示し、お客さまがスマートフォンで読み取るとメッセージを送れ、番組画面にそのメッセージを表示する取り組みを行っているが化粧品は特にリピーターも多いため、特にこの取り組みとの相性が非常によい。メッセージを通じて出演者とのコミュニケーションでき、それによって購買につながっていると思う。
旅行ニーズも堅調に推移
旅行についてもコロナの収束で需要が高まって、阪急交通社と組んで旅行ツアーを企画して販売している国内および海外ツアーやクルーズも好調だった。
海外旅行は台湾やベトナム、国内旅行は北海道、沖縄、四国などへのツアーだ。クルーズは2022年から販売を開始していたもののコロナ禍に伴う検疫上の理由で予定していたクルーズが催行できなかったが、昨年から販売を再開して、旅客船「MSCベリッシマ」を部分チャーターして日本各地や韓国を巡るクルーズツアーを3月に販売(催行は同8月)し、売れ行きもよかった。
また、当社としては初の全船チャーターのクルーズツアーとなる旅客船「ダイヤモンド・プリンセス」で同じく日本各地や韓国を巡る10日間のクルーズツアーも5月に販売した。
催行は今年5月のため、売り上げは今期分となるがこちらも定員いっぱいとなるなど好評だ。たとえば国内旅行では阪急交通社としっかりと話し合い、当社のお客さまにあわせてツアーのスケジュールを少しゆったりめにして、旅先でゆっくりとリラックス頂けるような内容にしているがこれがお客さまのニーズにマッチし、受け入れられているのではないか。
購入回数・単価がアップ
当社はこの2年間は特に何よりも“お客さま理解”を重視して売り上げ面よりも優先してお客さまのニーズに沿ったもの、お客さまが欲しいものを考え、商品を入れ替え、新たな商品を投入して、番組もより楽しんで頂けるものへ変えてきた。
これによって購入回数が増え、お客さま単価も上がり、アパレル、コスメ、旅行はもちろん、他のジャンルについても底上げしたのではないか。
グーグルの「P‐MAX」広告出稿が新規獲得に寄与
――新規顧客獲得の状況は。新聞やテレビなどマス媒体への出稿を抑え、インターネット広告により注力している印象だが成果は。
昨年4月から各広告媒体へ個人情報(購入者の電話番号・メールアドレス)の連携を開始し、昨年8月からグーグルの「P‐MAX」(=1つのキャンペーンでグーグル広告の広告枠すべてに広告を配信できるメニュー)を活用した広告出稿で新規顧客獲得数が大きく改善した。
これまでより、お客さまにリーチできる確率が格段に上がったためだ。新規顧客開拓ではこれは非常に貢献した。
顧客の視聴方法の変化に対応
――新たな顧客層の開拓のために35~54歳まででテレビをあまり見ないであろう層にタッチポイントを作っていくための施策などを立案・実施する「3554認知&新規獲得推進準備室」を昨年4月に新設したがグーグル広告はその一環か。
別だ。グーグル広告での狙いはすでにテレビを見ている、ショップチャンネルを知っている人など今のお客さまの周りにいる人に向けて展開しているものだ。「3554」はこれまで接点のない人へアプローチして接触していこうという中長期的な取り組みだ。
我々は前身として3年前に「コレイヨ」という動画コマースサービスを立ち上げてトライアンドエラーを繰り返しながら進めてきた。当初、我々が考えていたシナリオとは異なるようなさまざまな気付きを得て、ある程度の成功パターンをつかみつつあり、お客さまも順調に増えてきた。平均年齢も30代と既存顧客よりも若く、これまでのお客さまと重なっておらず、一定の成果が出てきた。
この取り組みを強化しようと新設したのが「3554」だ。昨年1年間、色々なビジネスモデルの検証を行っていた。今期からシステム構築を始めており、早ければ今期末、遅くとも来期には「コレイヨ」の進化系と言える新しいオウンドメディアを立ち上げる。若い世代の取り込みはもちろんだが、お客さまの視聴方法への変化に対応していくためにこの取り組みは重要だ。
家でテレビではなく、通勤中にスマホなど隙間時間に視聴する人も増えた。今後はよりシフトしていくだろう。早急に対応できる取り組みを進めねばならない。
――認知アップのアプローチでは東京・二子玉川で2月に売れ筋商品などを展示したポップアップストアを期間限定で開設した。
これは会社全体の認知度を上げたいという狙いからで「3454」とは別の動きだ。期間中、かなりの来店があり、(認知アップの)効果はあった。続けないと意味がないと思うので今年も継続して出店していく。毎回ターゲットや目的を設定してやっていく。「3454」の取り組みとしてもやるかもしれない。
顧客との双方向性が高い番組作り
――番組について伺いたい。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、24時間生放送をやめ、昨秋まで深夜は再放送番組を放送してきたが昨年10月から24時間生放送を再開した。狙いは。
コロナ前には24時間生放送を行ってきたわけだが、その時と比べて“双方向”への価値が高まっていると感じていた。
生放送ならではのリアルタイムでのお客さまの反応などを踏まえた番組内の演出はもちろん、一部の番組で実施中の番組画面にQRコードを表示してお客さまが読み取ることで番組の画面にリアルタイムでメッセージを表示でき、出演者などとコミュニケーションをとったり他のお客さまとつながることができる取り組みなども活発に利用され、好評だ。
お客さまのライフスタイルは多様化しており、深夜帯でもテレビを視聴されている方も多く、再放送ではニーズを満たせないのではないかと考えた。お客さまからも実際に「深夜も生放送をやってほしい」という声はずっと頂いており、その声は増えてきていた。そういったことなどを踏まえて社内でさまざま検討を重ねた。
効率面で言えば、深夜帯はそのまま録画番組を放映していた方がよいのかもしれないが、特にこの2年間は売上拡大よりもお客さまが楽しいと思うことを最優先に取り組んできた。売り上げを追及するとおかしくなる。それよりもお客さま優先の施策を行うことの方が結果として売り上げにもつながってくる。
結局、お客さまが求めていることを愚直にやっていこうということで24時間生放送を再開することにした。再開後は予想以上に好評で先のQRコードからのメッセージの数も深夜帯が非常に多い。現場は大変だが、社員みなやってよかったと思っていると思う。
深夜帯の番組を強化
――24時間生放送再開を機に新たな番組もスタートした。
これまで再放送番組を放映していた深夜帯について特に双方向性を強めようと他の時間帯のように1時間枠ごとにさまざまな商品を紹介していく番組だけでなく、今後の1週間で紹介する商品のなかから特に推奨品を一足早く紹介、販売する「深夜のライブセレクション」(※昨年10月6日から開始。毎週金曜日の午前3時から放映)、たとえばコンサートなどへ持っていく好きなアイドルなどの名前入りの手作りうちわなどを入れることができるバッグなど特定のジャンルに特化したこだわりの商品を専属バイヤーらがそれぞれ紹介する「深夜に発見トレジャーハント!」(※今年1月22日から開始。不定期放映)などの深夜ならではのエンターテインメント性が高く、双方向のニーズを満たせる新番組をスタートさせた。
これら新番組は売れ行きも悪くないことに加えて、深夜帯で新しい取り組みを行っていることで明らかにお客さまの熱量などがあがって1日トータルでみると売上アップに少なからず、つながっていると思う。
――双方向性という意味では物販をせず、キャスト(番組進行役)が放送中に顧客から寄せられた質問や意見などにラジオDJのように回答する番組「Oh!Cha15(お茶行こう)」を一昨年から始めている。
2022年12月から毎週月~金の午後3時から10分枠で継続して放送中だ。物販番組ではないため、当然、売り上げは発生しない。始める時には賛否両論あったが、結果としてはお客さまにすっかり定着し、楽しみにされている方も多い。限られた放送枠を使うことは売上面で言えば非効率だろうが、全体の盛り上がりやファン作りにも貢献するなどプラスとなっている部分は大きいのではないか。
名産品の紹介で地域振興にも貢献
――番組での新たな取り組みと言えば、前期から特定の地域の名産品などを現地からの生中継で紹介する特別編成番組「日本を見つけよう。」を久々に再開した。今後も継続してやっていくのか。
コロナ禍もあり休止していたが、昨年10月5日に香川県高松市から中継して香川県の県産品を紹介する「日本を見つけよう~香川~」を放送した。「日本を見つけよう。」の放映は実に4年ぶりだ。日本のさまざまな地域にさまざまな優れた商品がある。今後もお客さまにそうした商品を紹介しながら地域振興にも貢献していきたい。今年も行う予定で休止前のように年1回ペースで今後もやっていく。
よいものを時間をかけて説明
なお、各地の産品を紹介する番組は「日本を見つけよう。」だけでなく、地域の方々にスタジオに来て頂き、百貨店の物産展のように各地域の商品を紹介頂く番組も放送しており、人気番組となっている。これらも含めて地域の優れた商品をその地域ならではの情報を盛り込みながら紹介していきたい。
当社の番組の強みは「安いから買って」ではなく、よいものを時間かけて説明していくスタイルだ。そういった意味でこうした番組は大事にしていきたい。
さらなるデジタル化にまい進
――今期(2025年3月)の方向性や業績の見通しは。
今期も“お客さま視点”を引き続き徹底して、鮮度の高い商品、楽しい番組つくりにまい進する。また、デジタル化をより進化させていきたい。
お客さまのデバイスシフトが進んでいる。何か商品を探しているときにテレビだけでなく、スマートフォン、場合によっては実店舗などで出会える機会を増やしていき、お客さまの横にずっといられるような存在であり続けたい。
具体的にはこれまで主にやってきたテレビの視聴者向けに対しての補助的な施策だけでなく、テレビでなく主にインターネット、スマートフォンで当社の通販を楽しんで頂けている方向けの施策、家でテレビを視聴するのではなく隙間時間に楽しめるような短尺動画などでの商品紹介などをすでに開始しているがそうした施策などをさらに強化していきたい。
EC限定商品の拡充にも力を入れていく。テレビでは在庫量などの問題で販売できないものやそもそもテレビ向きでない商品もある。優れた鮮度ある商品をしっかりとECでもテレビでもお客さま視点でご紹介していきたい。
今期の業績も前年を上回りたい。今のところは非常に好調で第1四半期(4~6月)は前年を上回るペースで推移している。
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