Digital Commerce 360[転載元] 2023/1/12 8:00

過去10年間で最も成功したいくつかのオンライン通販企業は、ここ数年の間に株式を公開したものの、株価は2022年、大きな打撃を受けました。売上高は伸びているにもかかわらず、利益が伸びない企業に対して、投資家は警戒心を強めているようです。この傾向が、すでに上場している企業だけでなく、スタートアップのオンライン通販事業者にも影響を及ぼしています。

記事のポイント
  • この1年、オンライン通販企業の株価は、株式市場全体の下落を上回る勢いで急落
  • 投資家は、売上高の伸びだけではなく、利益を追求
  • スタートアップのオンライン通販事業者にとって、上場している同業他社の業績が悪いと、ベンチャーキャピタルが新たなECビジネスに投資する可能性が低くなるという影響がある

私(『Digital Commerce 360』編集長)は、大企業をめざすオンライン小売事業者の将来の財務面は、楽観視できないと感じています。そして、そう感じているのは、私1人ではないようです。

コロナ禍後、消費が正常に戻るにつれ、オンラインのみで事業を展開する小売事業者は厳しい逆風にさらされていると見るアナリストもいます。消費者は実店舗に戻り、オンライン小売の成長は鈍化。資本の価値はさらに上がり、Amazonの影響で無料かつ迅速な配送を提供しなければいけないというプレッシャーも後退していません。

安定的に利益を伸ばしているオンライン小売事業者はたくさんあります。その多くは比較的狭いニッチな分野にこだわり、新規顧客獲得に多くの費用をかけず、ロイヤルカスタマーからリピート収入を得るというスタイルです。

急成長して株式を公開したオンライン通販専業企業は、安定的に利益を稼ぐのに苦労しており、投資家達は見通しが明るくないと考えています。

この傾向は、スタートアップのオンライン通販事業者だけでなく、すでに上場している企業にも影響を与えています。ベンチャーキャピタルは多くの場合、投資先のIPOによって大きなキャピタルゲインを得ることを期待していますが、上場したオンライン通販事業者が不振に陥れば、同業他社のIPOの見通しも悪くなり、投資家は同じような会社に出資するのをためらうようになるでしょう。

オンライン通販事業者の株価がコロナ禍のピークから急落

オンライン通販事業で資金調達をめざす起業家にとって残念なことは、過去10年間に株式公開した大手オンライン通販事業4社の2022年における株式市場でのパフォーマンスが、芳しくなかったことです。

その4社とは、ペット用品関連のEC企業「Chewy」、パーソナルスタイリングサービスの「Stitch Fix」、高級ブランド品のリセールを手がける「The RealReal」、家具や家庭用品などを販売するEC企業「Wayfair」です。これらの企業はいずれも、インターネット上でのリーチを革新的な方法で活用し、成功を収めてきたことが大きな特徴です。

ペット用品関連のEC企業「Chewy」
ペット用品関連のEC企業「Chewy」

「Chewy」はペット用品、「Wayfair」は家具などの商品を効果的にオンラインで販売できることを証明。「Stitch Fix」は、消費者が地元のブティックに期待するようなパーソナライズされたファッションアドバイスを提供し、それをオンラインで実現しました。「The RealReal」は、ローカルな委託販売店を大規模なオンラインビジネスに変貌させました。

パーソナルスタイリングサービスの「Stitch Fix」
パーソナルスタイリングサービスの「Stitch Fix」

4社のうち3社はコロナ禍でオンラインショッピングが急増し、業績は好調でした。例外は「The RealReal」。健康への懸念から消費者が古着の購入に慎重になったため、業績を落としています。

高級ブランド品のリセールを手がける「The RealReal」
高級ブランド品のリセールを手がける「The RealReal」

コロナ禍のロックダウン中に「Chewy」「Stitch Fix」「Wayfair」は成長し、2021年初頭の株価は、コロナ禍前の水準をはるかに上回りました。しかし、2022年に入ると一転。大手オンライン小売企業4社の株価は、2021年のピークの13%以下になっています

家具や家庭用品などを販売するEC企業「Wayfair」
家具や家庭用品などを販売するEC企業「Wayfair」

コロナ禍の恩恵を受けたテクノロジー企業にとって、2022年の株式市場は悪い1年となりました。幅広い市場を対象とした指数であるS&P500は、2022年12月下旬に2021年のピークの75.2%、ハイテク企業の多いNASDAQは64.3%に。Amazonでさえ、2021年の最高値の44.4%まで株価が下落しましたが、上記4社の下落幅はもっと大きく、2021年の最高値の平均12.6%にまで落ち込んでいます。

S&P500、NASDAQ、Amazon、オンライン通販4社(Chewy、Stitch Fix、The RealReal、Wayfair)の株価のピーク(2021年)と比較した2022年12月下旬時点の株価水準(出典:『Digital Commerce 360』の「2021年のピーク時と比較したChewy、Stitch Fix、The RealReal、Wayfairの平均株価」)

資本コストの上昇がオンライン通販に影響

コロナ禍で急騰した企業の株価が、株式市場の下落局面で大きく急落するのはしかたのないことでしょう。このような株価の急落は、上場して数年が経過した大手オンライン小売企業が、まだ利益を上げていないことに対する投資家達の懸念も反映しているのです。それは、年度末に現金を支出する必要のない経費も含めて算出した純利益ベースでは、利益が計上されていないからです。

インフラをスピーディーに構築し、新規顧客を獲得するために多額の資金を調達するスタートアップ企業は、減価償却やストックオプションの付与など、現金支出を伴わない項目の影響を除外することが多いのが特徴です。

しかし、それらは現実には支出です。投資した設備も将来的には交換しなければならないので、減価償却費が発生します。会社の株価が上がればストックオプションが行使され、その株式を発行した会社の価値は希薄化していきます。

経済が好調なとき、投資家達は売上高の伸びに注目し、いずれ利益が出ると考える傾向があります。しかし、経済の見通しが暗くなると、その状況は変わってきます。

消費財などのM&Aに力を入れる中堅投資銀行Mirus Capital Advisorsのパートナーであるスチュワート・ローズ氏は、ビジネスの環境が大きく変わってきていると指摘。数十年にわたって小売企業のM&Aに携わってきたローズ氏は、こう言います。

投資家達は、投資により慎重になっています。過去数十年、成長が収益につながると考えていましたが、今の投資家達は収益性を求めているのです。

オンライン販売で利益を上げるのが難しい要因の1つはAmazonとの競争です。「数千万人のプライム会員への無料高速配送に対抗しようとする販売事業者は利益を上げにくい」とローズ氏は指摘します。

Amazonが提供するサービスは、収益性の高いクラウドコンピューティング事業である「Amazon Web Services」が主な資金源。無料または低コストの配送を提供しようとするライバルの利益率は侵食されていくのです。

Amazonはほぼ独力で現在のオンライン小売環境を構築し、収益性の高い消費者直販型のビジネスモデルを事実上破壊してしまいました。低価格、無料配送、2日または1日以内配送サービスは、すべて彼らの資金調達能力または他の事業の利益によって賄われています。彼らは何百もの中小企業のビジネスを破壊したのです。(ローズ氏)

金利コストの上昇によりオンライン小売業の成長が制限される

プライベート・エクイティ会社 MidOcean Partners のエリック・ロス氏(消費者部門マネージング・ディレクター)はこう言います。

Amazonとの競争以外にも、投資家達が多くのオンライン小売事業者が今後数年間で急成長するのは難しいと考える要因がいくつかあります

上場している一部の大手オンライン通販事業者は、コロナ禍時に低金利と急増するオンライン需要の組み合わせを利用して、新規顧客の獲得や技術・物流基盤の構築のための資金を、低コストで借り入れたそうです。しかし、金利が大幅に上昇した現在、資金調達のコストがかなり高くなっているとロス氏は言います。

さらに、限られた商品しか取り扱っていないオンライン小売事業者やDtoCブランドにとっても成長するのが難しい環境になっています

靴やパンツやシャツを、どれくらいのバリエーションで作れるでしょう。企業のなかには、新しいアイデアを使い果たしたところもあるのです。(ロス氏)

オンライン通販事業者が競争に勝つには?

オンライン小売業に未来がないわけではないとロス氏やローズ氏などの専門家は言います。オンライン小売事業者は常に革新的で、消費者の関心を引くような新商品を発表し続けなければならないとロス氏は指摘。常にライバルを凌駕してきたブランドの一例としてNikeをあげていますが、Nikeのような研究開発リソースを持つオンライン小売事業者は少ないのが実情です。

また、店舗を開くことも成長するための方法の1つであるとロス氏は説明します。Forrester Research社のアナリストも同意見で、オンラインがスタートのDtoCブランドは「実店舗を開く」「店舗型小売店に卸す」しか生き残る道はないというのがロス氏の考えです。

ファッションD2Cブランド「Bonobos」のようなネット発のブランドは、在庫リスクをあまり負わないショールーム店舗を展開。消費者は店舗で服を見て試着し、選んだ服は倉庫から自宅まで配送するといったモデルで、成長してきたとロス氏は指摘しています。

消費者は店頭で実際に商品を見て、掘り出し物を見つけることができますが、商品自体は倉庫から出荷しているため、多くの在庫を抱える必要のないモデルです。店頭では、自分のサイズや欲しい機能を探すことができますし、実際に今でも多くの人が店頭で商品をチェックすることを望んでいるのです。

オンライン小売事業者が成功するもう1つの道は、コロナ禍に獲得した顧客に対してより多くの販売を行うことでしょう。しかし、オンライン小売事業者で、それに成功している企業はまだ少ないようです。「少なくとも、市場は彼らを評価していません」(ロス氏)

また、ローズ氏はオンライン小売事業者は赤字部分を切り捨て、小さなビジネスを展開すべきだと主張します。

全体的にビジネスが赤字でも、儲かっている部分があります。苦境に立たされているオンライン小売事業者は、利益の出ている部分を見つけ、それ以外の部分を切り捨てた方が良いでしょう。そうすれば、より小さく、より健全なビジネスができるはずです。(ローズ氏)

中堅オンラインショップは専門性とサービスで勝負

長く小売市場で存続しているオンライン小売事業者の多くの共通点は、収益性の高いニッチな分野に特化し、そのなかで成長しようとしてきたことです。

中堅オンライン小売事業者の多くは、ユニークな商品とその分野における真の専門知識を提供することで生き残っています。たとえば、教育用遊具を扱う「Fat Brain Toys」、南米のアパレル輸入業者「Peruvian Connection」、裁縫用品小売の「Lion Brand Yarn」などが良い事例と言えます。

また、優れたサービスを毎年提供し、販売価格が最安値でなくとも、リピート購入を続ける顧客を獲得している企業もあります。

その代表的な例が、未公開企業のCrutchfield社で、1974年にカーステレオのカタログ販売から始まり、現在はあらゆる家電商品を扱っています。

家電商品を扱う「Crutchfield」
家電商品を扱う「Crutchfield」

私の友人であるブライアンは、Crutchfield社の本社&実店舗を運営しているバージニア州シャーロッツビルに住んでいます。その彼の最近の経験を聞くと、顧客生涯価値(LTV)を伸ばすビジネスを手がけていることがわかりました。

新しいテレビとそれに合うサウンドシステムを探していたブライアン。最初に立ち寄ったCrutchfieldの店舗において、知識豊富な店員からさまざまな商品を見せてもらい、質問に対応してもらいました。2件目に足を運んだのはBest Buy。しかし、テレビ売り場にて接客をする店員はいなかったため、すぐに店を出ました。

その後、コストコのECサイト「Costco.com」でCrutchfieldよりも安い値段のテレビを発見、加えて互換性のあるサウンドシステムが50%オフで販売されていることを知りました。そこで、Crutchfieldに戻り、以前に対応した担当者にその旨を伝えると、テレビの価格はCostcoとほぼ同額まで下がりました。そこで、Costcoの音響機器の値段を伝えたところ、その店員は「ブライアンさん、Costcoで買ってください」と言ってきたのです。

ブライアンは心配になり、ステレオ機器を他の店で購入しても、テレビとサウンドシステムの両方をCrutchfieldに取り付けてもらえるだろうか?と店員に聞きました。店員は「はい、問題ありません」と答え、150ドルですべてを取り付けてくれたのでした。

ブライアンは新しいテレビのセットアップに感激。Crutchfieldの顧客になると同時に、Crutchfieldは彼が電子機器を探すときに最初に立ち寄る場所になりました。

こうしたケースは一例です。ただ、このようなサービスを提供することで、小売事業者は金利や株式市場の変動に関係なく、消費者の信頼を獲得し、ビジネスを継続することができるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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