松原 沙甫[執筆] 11/11 7:00

Tシャツ専門のECサイト「Tshirt.st」を運営しているTshirt.stの後藤鉄兵代表取締役は、購入をキャンセルしたユーザーに対する再購入を促す新たなマーケティング「キャンセルリカバリー」の実践、バックヤードのシステム化による改善など、EC業界でも先進的な取り組みに着手している。後藤氏に、独自の取り組みによる高い再購入率、業務効率化につながっている理由を聞いた。

株式会社Tshirt.st 代表取締役 後藤鉄兵氏
株式会社Tshirt.st 代表取締役 後藤鉄兵氏
1999年からEC事業に関わり2002年には自社製造アパレルブランドの販売をするなど、日本のEC黎明期から活動を続ける。Shopifyはまだ日本語版も日本法人も存在しない頃から独自のローカライズで運用。現在は年間140万枚30万件のECサイトを運用している。

キャンセル後の購入につながるマーケティングに強み。約7割が再購入するワケとは

年間約140万枚のTシャツを販売。「年中無休のキャンセル対応」「キャンセルリカバリー」に特徴

――Tshirt.stの特長を教えてほしい。

Tshirt.st 後藤氏(以下、後藤氏):「Tshirt.st」は、国内最大規模の業務用Tシャツ専門店24時間365日、キャンセル手続きを自動で受け付けて、ユーザーの買い物体験向上を図っている。キャンセル手続きは、スタッフがすべてを対応するのではなく、システムで自動処理できるようにしている。キャンセルしたユーザーには、クーポンを付けたメールを配信するなどして再購入を後押しするマーケティング「キャンセルリカバリー」を実践している。「Tshirt.st」では“キャンセル落ち”ユーザーの6~7割が再購入につながっている。

EC専業で年商規模は約13億円。売上高は毎年前年比5~10%増で推移している。年間販売枚数は約140万枚で、出荷件数は約30万個。ある程度のマーケットシェアを獲得していると認識している。

ECサイト「Tshirt.st」
ECサイト「Tshirt.st」

従前は一定の割合で発生するキャンセルが運営上の課題となっていたが、自動キャンセル対応を整えたことで、キャンセル処理をするスタッフのコストは導入前と比べて60%減、再注文も大幅にアップした。再注文は、システムの開発当初から6割ほどだった。現在は7割を超えており、成長し続けている

現在、スタッフの数はアルバイトを含めて12人。少数精鋭で運営できている。

――ECを運営する上で重要視していることは。

後藤氏:注文件数や出荷件数が多いお客さまから出荷前の段階でキャンセルの要請があった場合、出荷をきちんと止めること。キャンセルの要求を受け付けていない事業者が多いが、Tshirt.stではそれはしない。事業を円滑に運営していくためには、お客さまが「いらない」と言ったものは出荷前に止めることが大切だと考えている。

「Tshirt.st」で公開している自動キャンセルの流れ
「Tshirt.st」で公開している自動キャンセルの流れ

自分は代表取締役として企画、商品開発、SNSアカウント運用などEC事業全体の統括と、バックヤードの効率化に注力している。

――EC業界での自身の強みや、成果をあげた事柄、実績について教えてほしい。

後藤氏:たとえば、自分でカートをカスタマイズしてバックヤードの改善に努めている。EC事業には、2000年前後の国内黎明期からこれまで24年間携わってきたので、カートもさまざまなタイプを運用してきた。「Tshirt.st」で運用しているカートは、ECプラットフォームShopify(ショッピファイ)が提供する「Shopify Plus」。2018年からは上位プランで運用している。

2023年には、Shopifyが導入企業のなかから、一定の実績を満たした事業者を讃える「Shopify Milestones(マイルストーン)」の「シルバー」を受賞した。「Tshirt.st」の受注規模を実績として評価いただいた。実績は今後さらに伸ばしていきたい。

これまでに積み上げたEC事業運営のノウハウは、外部と共有・公開していきたいし、一部はサービス化していきたいと考えている。その一環として、別会社のリターンズで、「Tshirt.st」で実装している自動キャンセルの仕組みを、他のEC事業者も利用できるようにしたSaaS型サービスを外販している。

バックヤードの改善がもたらす3つのメリット

――EC事業における自身の実績やチャレンジについて教えてほしい。

後藤氏:取り組んでいるのはバックヤードの改善、特に仕入れや補充など在庫に関連する対応のシステム化だ。一般的に、人間でないと判断できない仕事だと思われがち。しかし、ECの長期的な事業運営には、判断をシステム化していくことが重要だと考えている。EC業界全体で見ても課題がある部分だと思う。「Tshirt.st」では仕入れの自動予測などすでに在庫処理のシステム化ができているので、他業態でも使えるようにシステム化し、支援できるサービスの提供を準備している。

――24時間365日のキャンセル受け付けや、在庫処理のシステム化といったバックヤードの改善がもたらすメリットとは。

後藤氏:大きく3つある。まず、現場担当者の負担軽減につながることだ。

2番目に、お客さまに喜んでもらえること。バックヤードは注文が発生した後、お客さまとののやり取りが続く業務。バックヤードの改善はCXの改善にもつながる。結果として、お客さまに喜んでもらえることにもつながっていく。

3番目に、一度注文をキャンセルした顧客のうち6~7割が再購入につながること(「Tshirt.st」の実績値)。24時間365日のキャンセル受け付けは、ECモール、他社のECサイトではまだほとんど実現できていないと思う。

バックヤードの改善を通じて見えてきたECの本質

――海外は日本に比べて返品率が高く、たとえば米国は小売業全体で18%程度、ECでは20%超となっており、キャンセルリカバリーを意識している事業者も多い。一方で、国内は小売業全体で見て3~5%程度、ECでは6~7%程度となっており、キャンセルリカバリーの実例は少ない。Tshirt.stが取り組もうと思った理由を教えてほしい。

後藤氏:「キャンセルリカバリー」をはじめ、バックヤードの改善に取り組むようになったのは、主力商品のTシャツが粗利の少ない商材だから。他社との差別化で、配送料を安くするか受注処理のオペレーションを省力化しないと利益が出にくいため、効率を上げる必要があった

システム化、効率化など各種取り組みによるコスト改善効果
システム化、効率化など各種取り組みによるコスト改善効果

こうした取り組みを進めるなかで、ECの本質だと思える部分が見えてきた。キャンセルしやすい購入体験は顧客ファーストと言えるし、バックヤードのシステム化は今後ますます必要とされる。これからのECがめざすべき領域ではないかと思う。

国内で取り組みを先行しているTshirt.stは、数少ない事例企業になれると思うので、他の事業者にもぜひ注目してほしい。

◇◇◇

この連載では、通販・EC業界の発展に貢献する「人」を顕彰する「ネットショップ担当者アワード」(2024年11月20日に第2回授賞式)受賞者にインタビューを実施しています。本記事でとりあげた後藤氏がどのような賞を受賞するかは授賞式当日に発表します。授賞式にぜひご参加ください! 参加無料・事前登録制にて、あなたのお申し込みをお待ちしています。

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