松原 沙甫[執筆] 11/12 7:00

コーヒーのサブスクリプションECを手がけるPOST COFFEEの下村祐太朗CCO(Chief Creative Officer)は、データドリブンにより顧客の好みに合わせたコーヒーの提案、チャートによる味わいや香りの可視化など、先進的な取り組みによって優れた顧客体験を実現している。下村氏に、サブスクで顧客に愛されるECサイト、サービス設計の工夫点を聞いた。

POST COFFEE株式会社 CCO 下村 祐太朗 氏
POST COFFEE株式会社 CCO 下村 祐太朗 氏
デザイン会社 HERETIC, inc.の取締役、デザイナー、アートディレクターを経て、2018年に国内最大級のコーヒー通販PostCoffee®を創業。Webデザインからグラフィック、UI/UX 、ムービーなどあらゆるクリエイティブを駆使し、PostCoffee®の世界観を構築する。過去には渋谷でMAKERS COFFEEというコーヒースタンドを立ち上げ、バリスタとして立っていた経験もある。

解約率が半分以下に改善。好みに基づく高精度の商品提案とは

スペシャリティコーヒーのサブスクを展開

――ECサイト「PostCoffee」の特長を教えてほしい。

POST COFFEE 下村氏(以下、下村氏):「PostCoffee」は、30万通りの世界中のコーヒーの組み合わせから顧客専用のコーヒーボックスをカスタマイズし、ポストに届けるサブスクリプションサービス、単品購入の大きく2通りに分かれる。

サブスクリプションサービスで展開するプラン
サブスクリプションサービスで展開するプラン
「PostCoffee」では単品購入もできる
「PostCoffee」では単品購入もできる

取り扱うコーヒーは「スペシャルティコーヒー」。コーヒーのなかでも品種、生産地などが特定可能で風味や個性が際立ち、高品質なコーヒーを指す。

サブスク会員は毎回異なるコーヒーを受け取り、新たなコーヒーの発見を楽しむことが
できるなど、「PostCoffee」は顧客の体験価値を高めることに重点を置いている。意識しているのは、お客さまが毎日使いたくなるようなECサイト作り。味わいたいコーヒーのカスタマイズ性の高さ、サイトのユーザーインターフェース(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UX)にもこだわり、ロイヤルティ醸成を図っている。

「焙煎度」「味わい」などユーザーはさまざまな嗜好から好みのコーヒーを絞り込める
「焙煎度」「味わい」などユーザーはさまざまな嗜好から好みのコーヒーを絞り込める

――管掌する業務は。

下村氏:EC事業の運営、顧客対応、SNSアカウント運用、企画、商品開発まで、ECに関連する業務を広く管掌している。商品開発やデザインでは、お客さまによるレビューを参考に、ユーザー目線を心がけつつも、ニーズの掘り起しを常に考えている。

顧客の好みに合わせた提案で顧客体験価値アップ

下村氏顧客の購入履歴や好みに基づくデータドリブンにより、ユーザーは自身の嗜好を把握できる。新たなコーヒーを提案することも可能だ。顧客の嗜好に合わせたコーヒーを提供することで、最大限の顧客体験を創出している。

POST COFFEEが考える顧客体験価値の想像
POST COFFEEが考える顧客体験価値の想像

年間売上高は、サービスのローンチ当初と比べると約10倍に成長前年比20%増で推移している。ECの売上シェアはサブスクが約70%を占めており、サブスクを利用しているお客さまが単品購入も利用しているケースが多い。EC化率は約90%だ。

継続率アップにつながる施策が成功

――利用者からの反響はどうか。

下村氏:2018年の開設当初と比べて、サブスクリプションの解約率が大幅に下がった当初の解約率は7~8%くらいだったが、現在は半分以下の3%に改善している。

当初はお試し購入の人が多いことや、購入した商品が自分の求めていた味わいとは異なり、満足しなかったという理由が解約につながっていた。顧客の好みに基づく提案の精度を高めていったことが、解約率の改善に寄与してきたと思う。

また、ECサイトの入口に来てくれたユーザーのマインドセットも大切。「試しに買う」というよりは、「サブスクでコーヒーを始める」というマインドでユーザーに来てもらえるような導線作りにも力を入れた。

――顧客の購入履歴や好みに基づく商品提案とは。

下村氏:顧客の購入履歴や好みに基づき、そのデータを顧客ごとの「マイページ」に反映。「マイページ」には、好みの味わいが可視化できるようにコーヒージャーニーが記録されている。コーヒーの好みは12のカテゴリのなかから嗜好を把握することが可能だ。

コーヒー日記のように楽しめる「マイページ」
コーヒー日記のように楽しめる「マイページ」

サイト作りにも工夫を施している。コーヒーへの理解が深まるようなコンテンツを発信しており、コーヒーへの知識を深めたり、サイトに掲出している「コーヒー診断」によって好みに合いそうなコーヒーを提案したりしている。

――これまでの取り組みを振り返って、自身が注力してきた点を教えてほしい。

下村氏:「PostCoffee」の魅力や特長として推し進めてきたのは、データドリブンなマーケティング、1人ひとりの嗜好に合わせたコーヒーの提案を可能にしている点。「スペシャリティコーヒーのおいしさを広める」という大きな目標に根差している。近年は注文が一気に入ることも増えてきており、「皆が求めているモノを作れている」という満足感がある。

「スペシャルティコーヒー」という言葉はまだあまり知られていない。そこで「サブスクリプション型のコーヒーを利用する」という入口にして継続購入を狙い、手元のコーヒーが足りなくなれば単品購入も利用してもらう――という導線を作っている。今後は、よりスペシャリティコーヒーに関する認知を広げられるようにしていきたい。

――食品のなかでも特に「香り」「味わい」が重視されるコーヒーにおいて、それらが表現しにくいEC販路に挑戦した理由は。

下村氏「欲しいコーヒーがすぐに届く」という体験の提供を追求するためだ。EC販路は、その手段の1つだと考えている。ロースターから買うと、商品が手元に届くまで時間がかかることも多い。香りや味わいについては、たとえば商品詳細ページでは「酸味」「アロマ(香り)」などを可視化し、Webでは伝わりにくい味わいや香りを伝えている

商品詳細ページの一例
商品詳細ページの一例

リアル、オンラインの両軸で認知拡大に意欲

――オフラインの展開や、顧客との今後のタッチポイント創出の計画を教えてほしい。

下村氏グローバルで31社のコーヒーショップがパートナーとなっており、「PostCoffee」のコーヒーを卸売りしている。また、カフェ業態も手がけており、そこではさまざまなロースターのコーヒーが飲めるようになっている。今後は店舗展開を広げていきたい。これからはリアルの場での認知を広げるような施策を実施したいと考えている。

2024年10月は、一般社団法人日本スペシャルティコーヒー協会が東京ビッグサイトで開催したコーヒー業界最大級の展示会「SCAJ2024」にブースを出店した。いずれは当社が主催して、コーヒーにまつわるイベントを開催したい。いろいろなロースターが集まるコーヒーフェスのようなものが実施できたらと構想している。

「SCAJ2024」にブースを出店した「PostCoffee」
「SCAJ2024」にブースを出店した「PostCoffee」

オンラインでは、「楽天市場」「Amazon.co.jp」といったECモールにも出店している。ECモールも含めた顧客とのタッチポイントを創出していきたい。サブスクリプションサービスは、海外のお客さまからも引き合いがあるので、サイトの海外対応も視野に入れている。

――今後の目標値は。

下村氏:スペシャリティコーヒーの市場規模は248億円とされている。「PostCoffee」でも市場シェアをさらに広げて、現在の売上高から10倍の成長を目標にしていきたい。

◇◇◇

この連載では、通販・EC業界の発展に貢献する「人」を顕彰する「ネットショップ担当者アワード」(2024年11月20日に第2回授賞式)受賞者にインタビューを実施しています。本記事でとりあげた下村氏がどのような賞を受賞するかは授賞式当日に発表します。授賞式にぜひご参加ください! 参加無料・事前登録制にて、あなたのお申し込みをお待ちしています。

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