EC売上高が過去最高を達成したパルグループ。ユーザーの利便性向上を実現する、AIを活用した「パーソナライズ」化の取り組みとは?【前編】

生活雑貨「3COINS(スリーコインズ)」やアパレル・服飾雑貨の企画・販売を手がけるパルグループホールディングス(パルグループ)の業績が好調だ。連結売上高は4期連続で過去最高を更新、2025年2月期は2078億2500万円に達した。EC売上高も3期連続で過去最高となり、2025年2月期は531億9900万円に。成長を牽引したのが、AIを駆使した「ECサイト・アプリのパーソナライズ化」や総フォロワー数が2200万人にのぼる「社内インフルエンサー制度」だ。取締役専務執行役員の堀田 覚氏に取材し、前後編にわたりパルグループの成長戦略を探る。
SNSで出会い、店頭でアプリ取得。アプリ会員数は約900万
設立52年目を迎えたパルグループは、アパレルや服飾雑貨、生活雑貨まで63のブランドを展開する(2025年8月時点)。コーポレートメッセージとして「PASSIONとLOVE」を掲げ、社員の思いを起点に多くのブランドを生み出してきた。それが他社にない尖った魅力となり、成長につながったという。
全ブランドのうち、圧倒的な売り上げを誇るのが「スリーコインズ」だ。大型店舗の「3COINS+plus」も含め、国内344店舗を展開する。アパレルでは、国内41店舗を展開する「DISCOAT(ディスコート)」や57店舗を展開する「CIAOPANIC TYPY(チャオパニックティピー)」が成長をけん引。これらのブランドは「郊外大型」と呼ばれ、「ららぽーと」や「イオンモール」などの大型ショッピングモール内に店舗を構えることで幅広い層をターゲットにする。

(画像提供:パルグループ)

(画像提供:パルグループ)
それら以外のブランドは、「都心型」として都心のショッピングモール内など人流が多い場所に小規模で出店。主に20~30代の若年層をターゲットとする。郊外型が全体の売り上げをけん引するのに対し、都心型は利益を追求することでグループの拡大をめざしている。
そんなパルグループでは、2015年頃からアルバイトを含む販売スタッフが、SNSの個人アカウントで情報を発信する「社内インフルエンサー施策」を開始。今ではSNSが新規顧客との最大の接点となっており、SNSを通じてECサイトや店舗に顧客を呼び込む流れができているという。
まず、スタッフ個人のSNSを入口として、ブランドの認知を広げます。そして、その後の重要戦略と位置づけているのが、公式アプリ「パルクローゼット」のダウンロードです。同アプリは全63ブランドのECサイトを束ねていて、ポイントは全店共通で使用できます。そこで、「ポイント付与」をフックにECの購入後、あるいは店舗での購入時にダウンロードを促していて、これがリピート購入やブランド間の買い回りに効果を発揮します。現在、ダウンロード数は900万近くにのぼります。(堀田氏)

アプリダウンロード数にWeb会員を加えると、会員数は約1200万人に達する。会員は95%が女性で、年代は30代がボリュームゾーンだが、20~50代以上までと幅広い。「パルクローゼット」のECサイトとアプリは、ほぼ共通のUI・UX。詳しくは後述するが、いずれもパーソナライズ化されているという特長がある。
連結売上高に占めるEC売上高の割合は25.6%(2025年2月期時点)で、アパレルに限定すると40%近くに達する。EC売上高に占める自社ECの構成比率も高く、自社ECが42.1%、「ZOZO TOWN」が48.1%(いずれも2025年2月期時点)となる。
1人ひとりのトップ画面をSNSのように「パーソナライズ化」
パルグループが公式アプリの本格運用を開始したのは2018年6月。それまでEC会員基盤はあったが、店舗で購入した顧客の情報は活用できていなかった。そこで、アプリ運用を機に店舗での購入客も交えたオムニチャネルの会員基盤構築を開始したという。
近年、アプリの施策で注力しているのが「パーソナライズ化」だ。メニューバーや上部に位置する「特集」は共通としているが、そこから下に続く画面は、すべてパーソナライズされている。

現代は、SNSのタイムラインやECサイトのレコメンドなど、あらゆるものがパーソナライズされているので、ECサイトも「おすすめ順」に表示したほうが見やすいはずです。技術が発達しているからというより、お客さまの利便性を考慮して、パーソナライズしています。「パルクローゼット」のECサイト・アプリも、SNSのタイムラインのように下にスクロールできるように長めにデザインしていて、ほしい情報に出会いやすくなることを期待しています。(堀田氏)
実際にアプリを開いてみると、過去に見たアイテムにデザインが似ている商品や筆者の身長(153センチ)に近い社内インフルエンサーが、「おすすめ」として上部に表示されていた。これらは、「検索・閲覧・購入履歴」や年齢などの「登録情報」に基づいてAIが導き出している。コンテンツは社内インフルエンサーによるブログやコーディネート紹介も多く、自身の体型や見た目のイメージに近い人を探しやすくなっている。
こうした表示情報の選定だけでなく、カテゴリーごとに付けられた「タイトル」もAIが生成しているそうだ。「1枚でさらっと着られるシンプルトップス」「洗練されたテーラードジャケット」「旬な着こなしが楽しめるセットアップ」など、特長を表す端的なタイトルが並ぶ。

AI関連の施策は、複数の外部企業と協業して実施しています。たとえば、ECサイト・アプリ内のタイトル生成は同分野を得意とする企業と一緒に開発していて、アパレルに関連するキーワードを大量に集めて、閲覧履歴などのパーソナライズされた情報と組み合わせてタイトルを生成しています。(堀田氏)
「骨格・パーソナルカラー」のAI診断と「顔合成」で自分好みを見つけやすく
パーソナライズ化を追求するにあたり、AIを活用した診断ツールも積極的に活用している。2023年9月には「AI骨格診断」を、2024年10月には「AIパーソナルカラー診断」をECサイト・アプリに導入した。

骨格は「ストレート」「ウェーブ」「ナチュラル」の3つに分けられ、それぞれに体型の特長や似合う洋服のデザインが異なる。パーソナルカラーは、肌や髪、瞳、唇の色などの外見的特長を踏まえて調和する色を指し、「春夏秋冬」の4つに分類される。それに加えて、肌トーンを「イエベ(イエローベース)」、または「ブルベ(ブルーベース)」に分ける分類方法も一般的で、「イエベ春」や「ブルベ夏」などと診断される。
近年、アパレルや美容業界では骨格やパーソナルカラーをもとに自分に似合う商品を判別する習慣が浸透しており、どちらのツールも安定して使われているという。

まずは自身のタイプを把握し、検索などに役立てていただくのが狙いです。一度診断すると、その情報がECサイト・アプリ内に保存されるので、よりパーソナライズしやすくなるメリットもあります。ECサイトでは「骨格ストレートにおすすめ」や「イエベ春に似合う」といったキャッチコピーを多数使っており、多くの社内インフルエンサーも自身のタイプを表示しています。(堀田氏)
2024年4月に導入した「顔合成AI機能」も多く利用されている(2025年8月時点ではWebのみで展開)。これは、アパレル商品の着用イメージ写真を利用者の顔写真に置き換えられるもので、Web上で手軽に着用イメージを確認できる。一度に複数のイメージを確認することも可能だ。

本機能は、購入ハードルを下げる目的で導入しました。現在、販売中の約6割のアパレル商品で使用できます。1度使うと顔写真が保存されるため、リピート利用が目立ちますね。精度は100%とまではいかず、髪型の表現が最も難しいのですが、改善を進めているところです。(堀田氏)
グループ間の買い回りを生む「大型キャンペーン」の実施も
こうしたECサイトのパーソナライズ化と同時に、パルグループとしてのブランディングやファン作り、グループシナジーを生む目的での施策も取り入れているという。
大型施策としては、「パルクロウィーク」と題したグループ共通のイベントがあります。毎年、春秋を目処に期間限定クーポンの配布やタイムセール、新作アイテムの先行販売などをECと店舗で実施しています。全ブランド共通で開催することで買い回りも増えますし、グループとしての「顔」を形作ることにもつながっています。1つのブランドのリピート購入を増やしてLTVを向上させるのも重要ですが、せっかく多様なブランドがあるので、グループ全体をより長く利用いただくほうがメリットが大きいと考えています。(堀田氏)
パルグループでは毎年約200万人ずつ会員が増えており、「パルクロウィーク」などの実施により、アパレルブランド間での買い回りが劇的に増加しているそうだ。

(画像提供:パルグループ)
今後の展望を聞くと、「EC化をとにかく進めるのではなく、店舗拡大もめざしている」と堀田氏。
「スリーコインズ」や「ディスコート」などのターゲットが広いメガブランドは、郊外に大型店舗を増やしていきます。一方で、都心型のブランドは、ターゲットの人流が見込める立地を見極めることを重視しています。当社はアパレルのEC化率が約40%と高く、今後50%を超えることもあるかもしれません。ただ、世の中全体の動きとしては、コロナ禍が明けてEC化が落ち着き始めているなと。ECだけでは、お客さまの不安や不満を解消しきれないからだと思います。そうした理由からEC化だけをいたずらに推し進めるのではなく、店舗とECを使い分けやすい環境を提供したいと考えています。(堀田氏)

(画像提供:パルグループ)
アプリにおいては、AIをはじめとしたテクノロジーを積極活用して、さらなるパーソナライズ化を進めていく方針だ。リアル店舗での接客には及ばずとも、アプリ内に「自分専属のスタッフがいる」ような状態をめざすという。