【変革する決済の2026年予測】エージェントコマースの台頭、ステーブルコインの進展、消えゆく手動入力によるゲストチェックアウトなど

Visaが2026年の決済分野に関する予測を公表。AIエージェントが「買い物代行」するエージェンティックコマースの本格化、ステーブルコインがグローバル決済インフラとして躍進 カード番号の手動入力の激減などをあげている。

鳥栖 剛[執筆]

1月6日 8:30

Visaが公表した2026年の決済分野に関する予測によると、生成AIやブロックチェーン、モバイル端末の普及など、テクノロジーの進化を背景に、決済サービス業界は他業界以上のスピードで変革が進むという。

Visaのグループプレジデントであるオリバー・ジェンキン氏が、6つのトレンドを予測した。

  • AIエージェントが「買い物代行」するエージェンティックコマースの本格化
  • 不正の高度化に懸念
  • ステーブルコインがグローバル決済インフラとして躍進
  • カード番号の手動入力の激減
  • 「現金の終焉」はまだ先だが、カード・デジタル決済が過半に
  • 「市場のアーキタイプ」視点でトレンドを読み解く

① AIエージェントが「買い物代行」するエージェンティックコマースの本格化

対面コマースからEC、モバイルコマースへと進化してきた購買行動は、今後「エージェンティックコマース」へとシフトしていくとVisaは予測する。消費者や企業の代わりに、AIエージェントが取引するという世界がやってくる――。ジェンキン氏は、ChatGPTアプリに「購入を代行」というボタンが現れる未来を例示。そのボタンを押してエージェントを設定すると、次のような処理が行われるイメージという。

  • 決済の有効化
    • よく使うクレジットカードを読み込み、認証後にトークン化してセキュアに保管。エージェントがユーザーに代わって安全に決済できるようにする。
  • 個人の嗜好に合わせたカスタマイズ
    • 安全なデータトークンを通じて、購買履歴や好みを共有。エージェントは「この人ならどれを選ぶか」を推測しながら商品を選択する。
  • 支出の管理
    • 「旅行と外食は許可、医療費は不可」「100ドル未満は自動承認、それ以上は要確認」といった条件を設定し、その範囲でエージェントが自動購入する。

こうした仕組みにより、エージェントはユーザー専属の「パーソナルショッパー」として機能すると見ている。単にお気に入りのECサイトを閲覧するだけでなく、ユーザーの嗜好を理解したうえで意思決定を支援するLLM(大規模言語モデル)になるという。

大手ブランドがAIを活用したショッピング体験の高度化に取り組むなか、2026年には完全なエージェンティックコマースへの移行が加速するとVisaは予測する。Visa自身も、エコシステムパートナーと連携し、こうした進化を支えるインフラやツールの提供を進めている。

不正の高度化に懸念

AIコマースの進展と同時に、犯罪者もAIを悪用するリスクが高まる。ジェンキン氏は、ディープフェイクやエージェント詐欺、合成IDなど、AIを活用した「アイデンティティ攻撃」の高度化を懸念する。

従来の詐欺はトランザクション単位で発生し、攻撃者が一度に盗めるのは1件の取引に限られていた。だがAI技術の進歩により、攻撃者は高度ななりすましを駆使して、消費者の「アイデンティティ全体」を盗み取ることが可能になりつつある。一度アイデンティティが奪われると、その情報を使ったすべての取引が攻撃者のものになり、大規模な被害につながる。

2026年には、こうしたAIを利用したアイデンティティ攻撃がさらに高度化し、件数も大幅に増加するとVisaは予測する。これに対抗するには、銀行、加盟店、フィンテック企業、政府などが単独で取り組むのではなく、決済サービス業界全体で共通の機能や技術を開発し、リスクを共同で管理する必要があると指摘。Visaはこの戦いで中心的な役割を担うとしている。

ステーブルコインがグローバル決済インフラとして躍進

法定通貨で担保された暗号資産であるステーブルコインは、これまで投機的な資産と見なされることも多かったが、今後は「信頼できるグローバル決済インフラ」へと変貌(へんぼう)していくとVisaは見ている。

特に、新興市場やクロスボーダー決済の領域で、既存の国際決済エコシステムを補完する役割が期待される。米国でのステーブルコインのルールを初めて本格的に定めた連邦法・GENIUS法をはじめ、各国で規制の枠組みが整備されつつあることから、2026年にはステーブルコインの利用が飛躍的に拡大する可能性があるという。

成長が見込まれる分野として、次のようなユースケースをあげている。

  • 不安定な現地通貨を補完し、安定した米ドル建ての価値保存手段として機能(例:アルゼンチンなど)
  • B2B・B2C・P2P送金などのクロスボーダー決済で、既存ソリューションをより効率化
  • Visaのインフラを活用し、法定通貨と暗号資産の世界をシームレスに行き来できる環境の整備(Visaは現在、40以上の国・地域で、130を超えるステーブルコイン連携カードプログラムを提供)
  • Visaネットワーク上で、米ドルやユーロ建てのステーブルコインによる決済を他通貨と同様に処理

ステーブルコイン市場は、2030年までに最大4兆ドル規模に達する可能性があるとの見方もある。ジェンキン氏は「やや強気な予測」としつつも、2026年が本格的な飛躍の年になることは間違いないとしている。

カード番号の手動入力の激減

カード番号などを手入力する「ゲストチェックアウト」は、2026年には「モデムと同じく過去の遺物」になるとVisaは予測する。

近年カード情報はより簡単な方法で扱えるようになってきた。「Apple Pay」のようなデジタルウォレット、「Shopify」などのECプラットフォームに組み込まれた「購入ボタン」によって、ワンクリック決済が一般化しつつある。

手動入力のゲストチェックアウトを利用したVisaのEC取引は、2019年には約半数を占めていたが、2025年には16%まで減少。VisaのEC販売店上位25社に限ると、すでに1ケタ台前半まで落ち込んでいるという。

こうした変化を支えている要因の1つが、世界で160億件を超えるVisaトークンの存在。多くの市場で手動入力によるゲストチェックアウトは近い将来、完全に姿を消すと見込まれている。

「現金の終焉」はまだ先だが、カード・デジタル決済が過半に

「現金はなくなるのか」という問いに対し、ジェンキン氏は「いいえ」と明言する。世界には約11兆ドル相当の紙幣が流通しており、現金決済がすぐに消えることはないと言う。

一方で、現金の使われ方は確実に変化している。2026年は、世界の消費者決済の半分がカード情報を使って行われる初めての年になるとVisaは予測する。ここまで到達するのに時間はかかったものの、大きな節目だと位置づけている。

この変化を後押ししているのが、カードやモバイル端末によるタッチ決済などのイノベーションだ。これまで現金が主流だった少額決済も、スマートフォンやカードをタッチするだけで支払えるようになり、「現金の最後の安全地帯」が失われつつあると指摘する。

Visaは、WeChat Pay(中国)、M-Pesa(ケニア)、Mercado Pago(ラテンアメリカ)など、世界各地のフィンテックやデジタルアプリと提携。各地域のイノベーションと、Visaが持つセキュリティ、不正・リスク管理、紛争解決、ブランド、信頼、グローバルネットワークを組み合わせることで、デジタルコマースの安全で包括的な成長をめざしている。

「市場のアーキタイプ」視点でトレンドを読み解く

世界200以上の市場で事業を展開するVisaは、決済市場の多様性とダイナミズムを「市場のアーキタイプ(市場タイプの原型となるパターン)」という独自の視点で整理している。発展段階、インフラ、消費者行動、イノベーション、規制といった要素に基づき、類似した成長モデルを持つ国々をグループ化するアプローチだ。このアプローチを通して見ると、地理的には離れていても、決済行動やリスク、機会が似通った「双子市場」が見えてくるという。

たとえば、オーストラリアは、デジタル化が進み現金利用が少ない点で、北欧・英国・カナダと近い。インドは、国家レベルのリアルタイム決済ネットワークへの依存度が高い点で、ブラジルやナイジェリアと類似している。日本、ドイツ、サウジアラビア、メキシコは、地理的には離れているものの、「デジタル決済の成長余地が大きい成熟市場」という共通点を持つ。

こうしたアーキタイプの視点により、ノイズの中から明確なトレンドを見出し、より精度の高い予測が可能になるとVisaは説明する。2026年には、このアプローチを通じて新たなインサイトが生まれ、世界中でのイノベーションと成長がさらに促進されると見込んでいる。


ジェンキン氏は、これらのトレンドや予測は「氷山の一角」に過ぎないとしつつ、B2B資金移動のデジタル化、デジタルウォレットの進化、モバイル端末を通じたマイクロマーチャントの拡大、富裕層向けの新たな価値提案、各国での新しいデジタル決済手段の普及など、2026年も決済分野は非常にダイナミックで重要な1年になると結んでいる。

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