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ヤマトホールディングスは、夕方から夜間にかけての配達を専門に行うドライバーを2019年度までに1万人雇用する。現在配達業務を行っているセールスドライバーなどの労働環境改善に向けた取り組みで、宅急便は18年度まで取扱量を抑制するが、19年度以降は新たな配達専門のドライバーのネットワーク構築などにより成長が続くネット販売市場へ対応するため集配のキャパシティ拡大へ転換する。デリバリー事業を担うヤマト運輸が10月1日に宅急便の基本運賃を値上げし、同時に大口約1000との値上げ交渉も8割以上で進展していることを受けて、働き方改革やデリバリー事業の構造改革に本格的に取り組んでいく。

ヤマトGの最優先課題は「働き方改革」

同社は9月28日、創業100周年を迎える19年に向け、その先の100年の成長も見据えたグループの中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」を発表した。長期ビジョンとして地域社会や国内外の企業を支援するため物流だけでなく、物流から得られる情報なども一体化して新たな付加価値を提供できる体制を「2025年のありたい姿」と設定した上で、中期経営計画の内容を策定している。

同計画では、「働き方改革」を最優先課題としている。グループ全体で「働きやすさ」や「働きがい」のある企業を目指すために3つの重点策を打ち出した。

まず「新たな働き方の実現」では多様な人材から選ばれる企業となるため、フルタイマーの超勤時間を50%削減するなどの総労働時間の抜本的改善、労働時間・休日・給与体系を選択できる制度の構築などに取り組む。そして「『個の力』の最大化」として、社員教育体系の構築や社員の声を経営に活かす仕組みの確立を図り、また「徹底的なオペレーションの効率化」をオープン型宅配ロッカー「PUDOステーション」やAI・ロボット技術の活用により実現していく。

複合型配達ネットワーク構築へ

配送運賃にコスト変動を加味する 「法人顧客プライシングシステム」など、ヤマトの宅急便改革まとめ
新たな「複合型ラストワンマイルネットワーク」の構築

働き方改革を進める上での一環として「デリバリー事業の構造改革」に着手する。宅急便の運賃値上げにより18年度までは荷物量をコントロールし抑制するが、19年度以降は集配キャパシティを拡大する。ネット販売市場拡大に対応できるようにし、人材とネットワークへの投資を積極的に行っていくという。

その一環として新たに「複合型ラストワンマイルネットワーク」を構築する。宅急便のセールスドライバー(SD)は顧客と接点を持ち集荷、配達、営業の全てを担っているが、このSDの多機能型とは異なる業務を担うドライバーネットワークづくりを進める。増加するネット販売荷物への対応に向け専門的なドライバーを採用していく

ネット販売商品の受け取りが多いと見られ、ニーズも多い夕方から夜間にかけての配達を専門とするドライバーを7時間勤務の契約社員などとして雇用。SDと配達特化型ドライバーとの2交代制での宅急便業務体制を構築する。

配達特化型ドライバーは、ネコポスといったポスト投函型荷物の配送、宅配ロッカーやコンビニ店頭での受け取り荷物の届けなども担う。同ドライバーによる荷物の届けは、年明けにも取り組み始めて、19年度には1万人まで増やしていく考えだ。

ドライバー不足などもあり、配達特化型ドライバーの採用も難しい状況にあると見られるが、既に1万人弱のドライバーに外部委託として配達業務を展開しているという。また内部でも短時間契約のドライバー1万2000人を擁している。この母数があるため全くのゼロからのネットワーク構築ではないとしている。

合わせて不在率の低減に向け受取先との双方向のコミュニケーションを取るようにし、生産性を引き上げる仕組みづくりにも取り組む。

またデリバリー事業の構造改革では、コンビニ店頭や宅配ロッカー「PUDOステーション」、宅急便センター(営業所)での受け取りも促進。17年度には全体の10%の荷物をこれらの拠点で受け取られるよう目指す。

さらに宅急便の幹線ネットワークの構造改革も実施。大型ターミナル「ゲートウェイ」は10月中に関西で開所するが、既に稼働している厚木、中部を加えた主要3都市間での多頻度輸送が可能な体制ととなり、IT技術を活用した業務効率化なども進めてグループネットワークの全体最適化を図っていくという。

「法人顧客プライシングシステム」導入で、運賃決定にコスト変動を加味へ

配送運賃にコスト変動を加味する 「法人顧客プライシングシステム」など、ヤマトの宅急便改革まとめ 「法人顧客プライシングシステム」などの導入で利益率を改善
ヤマトHDが掲げる成長イメージ。「法人顧客プライシングシステム」の導入は赤枠(画像は編集部が追加)

デリバリー事業の構造改革では、「法人顧客プライシングシステム」の導入により法人との契約プロセス見直しの定着化も進めていく。4月に基本運賃値上げを表明した際、大口顧客1000社との運賃値上げ交渉に着手していることを明かしていたが、その後、デリバリー事業の見直しを表明した際に予告していたのが「法人顧客プライシングシステム」。

同システムにより、これまで出荷量に応じて決定していた個々の法人との運賃決定のプロセスを変更する。荷物のボリュームだけでなく、出荷タイミング、配達先、サイズ、集荷方法、届け先の不在率など当該法人の扱う荷物の特性を加味する。さらに燃料費や時給単価などの外部環境変化によるコスト変動も組み込み運賃を決定する。

これにより将来の環境変化にも柔軟に対応できる適正な運賃を設定できるようにするという。既に試行を始めているが、年度内に本格的に始動させる考え。

運賃を1年ごとの契約更改で決定する企業には同システムにより年1回の運賃改定を要請する模様。また、契約内容によっては1年の間に複数回の改定を要請するような取引先もあるとしている。

同システムによる契約プロセスの見直しの着手に先立ち、法人契約先約1万社のうち大口の1000社との値上げ交渉は「当初の見通しに近い状況で進展し、8割以上と交渉が進んでいる」(山内社長)という。優先的に交渉を進めた法人との交渉が一段落するが、残り9000社のうち適正料金を収受できていないと判断した法人との運賃交渉にも引き続き着手していく。

現状、適正な料金を収受できている取引先に対しても、同システムによる運賃決定を行っていく。

一方、宅急便の総量コントロールは17年度に前年度比約8000万個削減すると表明していたが、7月の第1四半期決算発表時には半数の約4000万個と削減幅を下方修正した。中期経営計画発表時には新たに見通す削減数については集計中として明かさなかったが、10月中に行う中間決算発表時に公表する。

【求められる物流の効率化】ヤマトの改革で荷主側も

配送運賃にコスト変動を加味する 「法人顧客プライシングシステム」など、ヤマトの宅急便改革まとめ ヤマトホールディングスの山内社長
ヤマトホールディングスの山内社長(写真左)

ヤマト運輸が宅急便の一般向け料金である基本運賃の引き上げ幅の15%より高い水準の値上げを要請する方針を打ち出していた大口顧客1000社との交渉は「8割以上の企業で進んでいる」と山内社長は9月28日の中期経営計画発表会見の場で語った。個々の事案については言及を控えたが、一部でアマゾンとの合意見通しが報道されており、最大クライアントとの交渉終結へのメドが立ったことは新たな中期経営計画の策定内容へも反映しているものと見られる。

宅急便の取扱個数は15年度に17億3126万個だったのが翌16年度に18億6756万個と7.9%増加した。13年度(14億8753万個)からの5年間では約25%も増えた。この急増がドライバーの負担を重くすることになり、ヤマトグループが労働環境の改善「働き方改革」へと動き出すことになった。

急速に拡大するネット販売市場が宅急便の増大の要因でもある。山内社長は会見で「消費構造の多様化によりeコマースが個人利用はもちろん、ビジネス間でも普及し、この流れは加速し進展していくと見ている」と語り、ネット販売市場の拡大への対応を進める上でも、今回のデリバリー事業の構造改革に取り組む必要性を訴えている。

そして山口社長は「今回の値上げで通販事業者、通販顧客、物流事業者のいずれもがそのコストを負担し、それが循環してより利便性の高いビジネス」へと昇華するとの見解を示した。

ただ「デリバリー事業の構造改革では、運賃値上げで18年度まではコントロールさせてもらい、19年度以降は集配キャパを拡大し、eコマースの増加へ対応できるようにする」(山内社長)と、17年度、18年度は宅急便の取扱量を抑えていく方針を打ち出している。

配送運賃にコスト変動を加味する 「法人顧客プライシングシステム」など、ヤマトの宅急便改革まとめ 宅急便の取扱個数
宅急便の取扱個数

現在進行形で成長し続けているネット販売市場だが、ヤマト運輸からこの2年間に荷物量の抑制を求められることへの対応に苦慮する通販企業は多いだろう。これまでヤマト運輸にすべて委託していたものを丸ごと他社へ変更するところもあるだろうし、一部を他社へ回すようなことを検討するようなところもあるに違いない。

だが大手宅配便3社がいずれも基本運賃値上げに動き出し、同時に大口取引先との運賃契約の改定にも踏み出している状況にある。ある物流関連事業者は「ヤマト運輸の値上げで、他の宅配便会社へ変更しようと見積りを要請しても、なかなか出してくれないようなケースがある」と話す。

宅配便最大手ヤマト運輸のクライアントを引き込める機会とは他の宅配便会社は捉えていないようだ。ドライバー不足やコスト上昇など、どの宅配便会社とも状況はそれほど大きく違わないだろうし、それだからこそヤマト運輸に続き値上げへと動き出したわけでもあり、利益の取れない荷物を単純に受けようとは考えないということなのだろう。

そうした中、自社便や宅配便大手以外の輸送事業者などでネット販売の荷物の配送する動きも活発化し始めている。宅配を担う多様な事業者が出てくることは間違いなく、これまでと異なる通販商品の配送手段の登場を期待することはできるだろう。

ただし、大手宅配便以外の輸送事業者などは首都圏といった一部エリアに限定したサービス展開を行うところが大半で、全国ネットワークでなく、すべての荷物に対応できるわけではないし、それが可能となるには時間を要することになるだろう。

いずれにしてもネット販売企業も成長基調を維持する上で物流部門の効率化への取り組みを一層強化する必要がありそうだ。

またヤマト運輸が導入する「法人顧客プライシングシステム」は、従来の荷物ボリュームによって決めていた運賃決定方法と大きく異なる一定量の荷物を出せば割り引きが続くというものではなくなる。契約更新時に変動し、そうした際のコスト吸収への対応も求められる

山内社長は会見の質疑応答で通販企業などへの要望を聞かれると「“送料無料”という表現は適切ではないのでは」と疑問を呈した上で、「サービスを受けるにはコストがかかり、そのコストを適正に支払っていただくことが一巡することで、より良いサービスになるもの」と応じた。サービスに見合ったコストをサービスを享受する側が負担し、そのサービスを維持できるようになることを要望した。

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