越境の壁「決済」「物流」「マーケティング」を乗り越える方法&市場のポテンシャルとは?日本市場に注力するペイパルが解説
「越境ECはコストと人手がかかるから」「語学に自信がないから」……こんな理由を掲げ海外向け販売に二の足を踏んでいた日本の中小企業の意識を、新型コロナウィルス感染症拡大が大きく変えた。ペイパルがECを実施している中小企業向けに行った調査によると、越境ECに取り組んでいる企業のうち、約4割がコロナ禍にスタートしたことが判明。パンデミックが企業の海外進出・販路拡大を後押ししたのだ。
この記事では日本企業の海外進出・越境ECを決済面から支援するペイパルへの取材を通じ、越境ECに関して中小企業が抱える壁を乗り越えるためのポイント、リスクを抑えながら越境ECを始める方法などを解説する。写真◎吉田浩章
コロナ禍で越境EC参入が加速
ペイパルが実施した調査「ペイパル 中小企業によるEコマース活用実態調査(以下、本調査)」によると、日本の中小企業による越境ECへの意欲が高まっていることが判明した。回答企業の約半数(45%)が、すでに越境ECに取り組んでいる、または計画していると回答。すでに越境ECを実施している28%の事業者のうち、約40%がコロナ禍に導入したという。
ただ、越境ECを始めれば“バラ色”の明日が待っているわけではなく、まだ投資段階の企業が多いと言える状況。ペイパルの調査によると、越境ECを行っている企業のビジネス収益の大半は国内ビジネス(日本の顧客)が占めており、海外顧客の平均シェアは18%にとどまっている。
こうした状況もあってか、中小企業の半数以上(55%)は今後1年間の計画で、越境ECのスタートを検討していない。その理由として、次のような課題をあげている。
- 導入コスト、物流コストなどコストの高さ(35%)
- ビジネスの優先順位が低い(35%)
- 人手不足(27%)
ペイパルはこうした課題について、外部のEコマースプラットフォームやグローバルな決済システムの活用を提案している。越境ECに強いプラットフォームは言語、マーケティングともにローカライズされており、低リスク、低コストなどで越境ECをスタートできるためだ。
66%の中小企業「オンライン化が越境EC支援の鍵」と回答
目先の越境EC進出に二の足を踏む企業は多いものの、パンデミックにより越境ECを始める日本企業が増加したという調査結果は、企業動向として注目しておくべきことだろう。
少子高齢化、人口減少など縮小する可能性が高い国内マーケットへの対応、越境ECを支援するデジタルツールの充実化などが背景にある。
本調査によると、中小企業の66%は「オンライン化が越境EC支援の鍵である」と回答しており、直近1年間ではなく、将来的には海外販売を視野に入れている企業は多い。
こうした企業は、越境ECを始めるにはグローバルなプレゼンスを高め、販売チャネルを拡大することが重要であると考えており、次のような項目を準備項目としてあげている。
- オンラインへの移行(66%)
- 外部のEコマースプラットフォームとの提携(25%)
- 独自のグローバル公式Webサイトの開設(18%)
- ソーシャルメディアアカウント・ページの開設(18%)
- グローバルな決済システムの採用(20%)
- グローバルな配送業者との提携(19%)
特に注目されるのは、プラットフォームの活用とグローバル決済システムの導入だ。デジタルツールを活用したサイトの開設、グローバルサービスの活用などで、越境ECをスタートする環境をより容易に整えることが可能になる。グローバルで決済サービスを展開しているペイパルを導入することもその一例だ。
ペイパル東京支店の葛葉未来氏(ディレクター、マーケット デベロップメント)も次のように分析している。
外部企業が提供するプラットフォームのサポートを受けることで、越境ECスタートの障壁が取り除かれるということをもっと多くの企業に知って欲しい。とりわけ、中小企業に対して、彼らの魅力的な商材を1つでも多く世界市場に届けるために、ペイパルは最大限のサポートをしていきたい。(葛葉氏)
ペイパル東京支店の委託を受けたエデルマン・データ・アンド・インテリジェンスが、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが日本の中小企業の越境ECビジネスに与えている影響、その対応、パンデミック後の計画について、独自調査を実施。オンライン販売を行っている日本の中小企業の経営意思決定者310人を対象に、2021年9月から10月にかけてオンラインで実施した。
越境ECは大きなポテンシャル、増える日本のECサイトからの購入
ペイパルの推計によると、2020年から今年にかけて世界中でEC利用者が急増している。2020年のEコマース売上は前年比で約28%も上昇し、「今や、潜在的な顧客の数はかつてないほど増えており、あとは彼らにリーチする方法を見つけるのみ」(葛葉氏)
一部の日本企業が先進的に越境ECへ取り組んでいるのは、デジタル化に伴い、日本の商材を意欲的に購入する海外ユーザーの増加に対応しているからだ。
ただ、越境ECのポテンシャルは高いと見られるものの、課題やハードルを感じている中小企業が多いのも現状である。そもそも、
- どんな市場を攻略すればいいのか?
- 自社ECかそれともマーケットプレイスか?
- 言語対応はどうすればいいのか?
- マーケティングはどうすればいい?
- 物流はどうすればいいか?
- 決済手段は何がいいのか?
- CSはどうするか?
- 継続的に運用するために必要なこととは?
など、どのように越境ECを始めればいいのかわからない、といった企業も少なくない。ペイパルの葛葉氏は、大きな壁として「配送」「マーケティング」「決済」を列挙し、解決すべき方向性を次のように話す。
どのような配送会社と組むのか、どのようなソリューションを活用するのかが重要になる。そして、海外ユーザーが閲覧する・利用するサービスなどへの露出といったマーケティング、海外消費者が利用する決済手段の提供などもカギとなる。カスタマーサポートなど言語の壁もある程度、翻訳ソリューションなどで対応できるようになっている。
つまり、越境ECの大きな壁は、海外ユーザーが慣れ親しんでいる「決済」手段を導入し、FacebookやInstagramといったSNSを活用した「マーケティング」を行いながら、コストと配送スピードなどのバランスが取れた「配送」業者を選定する――といった3つの壁をクリアすることで、越境ECがぐっと身近になるという。
日本企業の越境EC決済に役立つ「ペイパル」とは?
越境ECの大きな壁3点の1つ、「決済」はどのように解決すればいいのか。葛葉氏はこう言う。
モノを買う人の財布に寄り添った決済手段を提供する必要があると思っている。国内を対象に考える場合はどの決済を導入するのかといった消費者の嗜好に合わせたオプションを取り入れることを考えるが、越境ECの場合はとりあえずカード決済さえあれば良いと考えてしまうケースが多い。売り手にとって一番大事なことは、消費者にとってベストな支払い手段を提供すること。
ペイパルは各国の買い手に合わせた支払い方法を紐づけられるようになっている。アメリカならクレジットカード、日本なら銀行口座引き落としなどだ。だからこそ、越境ECの決済なら、ペイパルを導入するだけで世界中の消費者に合った支払い方法が提供できる。
ペイパルが2019年に行った、モバイル端末における決済方法を国別で比較した調査結果を見てみよう。イギリス、オーストラリアなど主要国でもっとも使われている決済手段が「ペイパル」。アメリカ、フランスなどでも2位に入っている。
ペイパルがニールセンに委託して米国の加盟店を対象に実施した調査によると、「ペイパルユーザーがペイパル導入加盟店で買い物をした場合、ペイパルのコンバージョンレートは他の支払い方法と比較して28%高くなっている」(葛葉氏)。この結果からも世界の消費者がペイパルを好んで使っていることがわかる。
ペイパルは、IDに紐づいたクレジットカードや銀行口座などで支払いを行うオンライン決済サービス。
アカウント開設費や初期設定費用に加え、月額利用料※は無料。2021年現在、グローバルで3300万以上の加盟点を含む世界で4億人以上が利用している。200以上の国と地域で、100通貨以上での決済(日本のペイパルアカウントで保有できるのは20通貨以上)に対応している。
※ペイパル+カード(ウェブペイメントプラス)を申し込みの場合、3000円/月がかかる。
ペイパルは顧客のカード情報をECサイトに伝えないため、ECサイトからの情報漏えいを心配するユーザーは安心して買い物することができる。そのため、世界各国のユーザーが主要な決済手段として日々利用している。
ペイパルはすべての取引を365日24時間体制で監視しており、不正、フィッシングメール、なりすましなどによる被害を未然に防ぐセキュリティ対策は万全を期している。
また、クレジットカードの不正利用が発生した際は、一定の条件下で、販売事業者に対してチャージバック補償を行う。そのため、ペイパルを導入することで、不正注文のリスクを減らせることができる。売り手と買い手の保護制度も充実しているので、双方は安心して利用できるポイントだ。
- 売り手保護制度……未承認や未着といったトラブルが発生した場合、適用条件を満たせば売り手を保護する制度
- 買い手保護制度……ペイパルで購入した商品に対して「商品が説明と著しく異なる」「商品が届かない」といった問題やトラブルがあった場合、一定の条件下で補償する制度
海外からの不正アクセスは増加傾向にあるが、ペイパルは世界中の膨大なトランザクションをチェックし、セキュリティを揺るがす可能性のあるさまざまな事象を把握している。安心・安全な取引環境を用意しつつ、何かあった際には、売り手にはチャージバックなどの補償、買い手には商品やサービスに問題があった場合に一定の条件下での補償を行っている。(葛葉氏)
こうしたカード情報非保持の仕組みによる安心感や安全性、売り手・買い手の保護制度などが、EC事業者から信頼される決済手段になっている。
越境ECの3つの壁をクリアする代理購入サイト&ペイパルのアプローチ
近年、ペイパルはEC実施事業者への決済ソリューションの直接提供のほか、海外消費者と日本のEC事業者の間に入って購入をサポートするサイトを通じた越境EC支援にも力を入れている。葛葉氏は「代理購入」サービスについて次のように話す。
代理購入サービスは、越境ECを始めたいという事業者が簡単に第一歩を踏み出すことができるサービス。ペイパル単体では決済面のサポートしかできないが、代理購入サービスの提供会社と連携することで日本企業の越境ECを包括的に支援することができる。(葛葉氏)
EC事業主と代理購入サービスとの提携方法には大きく分けて2つの種類がある。
1つ目は代理購入サービス提供会社が運営するマーケットプレイスを通じて海外の消費者に対して販売を行うもの。もう1つは、事業主が自社ECサイトに代理購入サービス企業が提供するタグの設置を行うことで、海外専用カートを開設して海外消費者からの購入を可能にするもの。
いずれも代理購入サービス提供元がEC事業主との間に立ち、商品の購入と配送、海外ユーザーとのやり取りをするため、日本の事業者は負担が少なく海外への販売を行うことができる。サービスの利用料はユーザーの購入額に上乗せされる額で徴収されており、事業者側が負担する費用は掲載料やタグ利用料など最小限である場合が多い。
前者の該当マーケットプレイスと連携した場合、EC事業者は世界中の国と地域のユーザーに対して商品を販売できるようになる上に、必要な配送やサポート業務は日本国内の販売とかわりなく対応できる。海外ユーザーがマーケットプレイス上で注文を行うと、代理購入サービスが販売サイト元で同様の取引を行うことで全体の取引が成り立つ。
自社ECサイト上にタグ設置を行い、海外専用カートを開設できるサービス形態を導入した場合は、海外の消費者がサービスを導入しているECサイトに訪問すると、サイト上に多国語対応の海外専用カートが表示される。ユーザーは商品選定後、海外専用カートで注文へ進み決済することが可能。この場合でもユーザーと代理購入サービス間で発生した取引と同じ取引が代理購入サービスと事業者の間で発生し成立する。
いずれも海外ユーザーと代理購入サービス事業者との決済取引は海外では主流のペイパルなどを用意している。
事業者は代理購入サービスを利用することで、日本の消費者に販売する延長で海外の消費者に門戸を開くことができる。言語対応や決済、カスタマーサポート、配送などのペインポイントに対し、ECサイト運営者は個別に対応することなく、簡単に海外へ商品を販売できる。BuyeeやBuyee Connect(BEENOSグループ会社運営)、WorldShopping BIZ(ジグザグ社運営)、FROM JAPAN(FROM JAPAN社運営)やZenPlus(ゼンマーケット社運営)などの代表的な運営会社があり、ペイパルは今後これらの代理購入サービスの提供会社とさらに密に提携し、日本企業の海外進出をサポートしていく。(葛葉氏)
日本市場に力を入れているペイパル、なぜ?
2021年4月、組織面で大きな変革があった。新たに設けた日本事業統括責任者に、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京オフィスでシニアパートナーなどを務めたピーター・ケネバン氏が就任。「ペイパルは日本を成長戦略のマーケットの1つに位置付けた」(葛葉氏)と言う。
そして、ペイパルは日本市場でプレゼンスを高めるために大きな一手を打った。
あと払い(BNPL)サービス「ペイディ」を提供する株式会社Paidyの全株式取得に関する発表だ。買収価格は3000億円(約27億米ドル)にのぼる。
Paidy買収後も、「ペイディ」ブランドは現在のビジネスを継続。ペイパルとPaidyは互いの専門知識、リソースを活用し、国内決済市場で商品機能やサービスを拡充し存在感をさらに高めていくという。
ペイパルが13市場で行った調査で、海外から商品を買うならどの国から買いたいかという質問に対して日本は平均で3位だった。海外では日本の商品は人気がある。だからこそ、日本の商品を海外で待っている消費者へ届ける、日本を海外にプロモートする。越境ECを支援し、日本経済の発展につなげていくことをペイパルは大きなテーマに掲げている。(葛葉氏)