自社ECサイト1万社超が使う「Amazon Pay」とは? 決済の特長、事例、音声対応までを徹底解説
Amazonが提供するID決済サービス「Amazon Pay」の運用が、日本での提供開始(2015年5月)から5年が経過した。出前館のデリバリーサイト、劇団四季のチケット予約サイトなど大手から中小企業のECサイトなど、5年で1万を超える独自ドメインの自社ECサイトが「Amazon Pay」を導入している。なぜ、「Amazon Pay」は多くの自社ECサイトに支持されているのか? 「Amazon Pay」で期待される効果、導入によって得られた成果などから、多くの自社ECサイトが「Amazon Pay」を導入する理由を探っていく。
「Amazon Pay」の導入で、消費者は普段使うAmazonアカウントで決済可能
「Amazon Pay」とは、Amazonアカウントに登録された配送先住所やお支払い情報を使うことで、Amazon以外のECサイトで簡単にログイン・決済ができるID決済サービス。
独自ドメインのECサイトでは、クレジットカード情報を入力することに不安を感じる消費者が多く、特に新規顧客はそのハードルが高いと言われている。また、スマートフォンではクレジットカード番号の入力ミスなどにより、離脱してしまうケースも少なくない。
しかし、「Amazon Pay」が導入されたECサイトでは、Amazonアカウントを利用すれば、購入時に配送先・クレジットカード情報の入力をすることなく、決済を行うことが可能。買い物カゴに商品を入れてから、最短2クリックで決済することが可能になるため、消費者の「独自ドメインのECサイトでの情報入力の不安」「情報入力のめんどくささ」「入力ミス」などの解消が期待できる。また、Amazonブランドに対する信頼感、マーケットプレイス保証プログラム(「Amazon Pay」での商品の購入において、消費者を保護するためにAmazonが提供している保証)による安心感も、買いやすいECサイトの実現に一役買っているだろう。
日本で「Amazon Pay」の提供が開始されたのは2015年5月。それから5年で、導入企業は1万社を超えた。ジャンルを問わずにさまざまなECサイトが「Amazon Pay」を決済手段として導入している。
「Amazon Pay」導入3つのメリットと事例
新規顧客の獲得
「Amazon Pay」のグローバルパートナープログラム(公式認定制度)の「Premier Solution Partners」であるフューチャーショップ(ECプラットフォーム「futureshop」の開発・販売)、アイピーロジック(「EC-CUBE」を中心としたECサイトの構築など)の調査によると、ゲスト購入者における「Amazon Pay」決済の割合は40~50%を占める。また、決済後に自社ECサイトの会員となったゲスト購入者の割合に関して、「Amazon Pay」は60~80%に達し、他の決済手段の平均20~25%を大きく上回る。
こうした結果を踏まえ、Amazon Pay 事業本部 本部長 井野川拓也氏は次のように話す。
マーケティングコストとして、新規のお客さま1人あたりの獲得コストは1000円から、高額商品であれば1万円超が必要になると考えられるが、「Amazon Pay」を使えば決済コストのみで新しいお客さまを獲得することが期待できる。「Amazon Pay」は単なる決済手段ではなく、マーケティングツールだと考えていただきたい。
阪急阪神百貨店、新規会員が増加
エイチ・ツー・オーリテイリング傘下の阪急阪神百貨店は、「Amazon Pay」の導入により、新規会員の獲得ならびに主な商圏である関西圏以外の顧客増加を実現したうえ、実店舗を利用する消費者の利便性向上なども図ることができたという。
「Amazon Pay」を使った消費者の情報は、個人情報の取り扱いに関する同意など一定の条件を満たせば自社ECサイトの顧客情報として活用できるのも特長の1つ。つまり、「Amazon Pay」を利用して会員登録や決済をした会員情報および購入情報を、一定の条件の下、自社ECサイトで管理できるというわけだ。
阪急阪神百貨店では、「Amazon Pay」を利用した新規顧客はそのままECサイトの会員になり、「Amazon Pay」の導入前後で比べると15%ほど会員が増えた。阪急阪神百貨店は関西に7店舗、福岡に1店舗、都内2店舗、そして神奈川に1店舗を展開。実店舗の利用者は関西圏が多いのだが、「Amazon Pay」の導入によって関西圏以外の消費者の利用が増えた。
コンバージョン率の改善
Baymard Institute(ベイマード・インスティテュート)の調査によると、PCやモバイルのECサイトにおいて、商品をカートに入れた消費者の約70%は購入に至らないという。
調査結果では、消費者の55%が配送料、消費税、または手数料などの高さを理由にカゴ落ちすることが判明。そのほかの理由としては、「サイトがアカウント作成を要求した」(34%)、「チェックアウトプロセスが長すぎる/複雑すぎる」が26%と続いている(詳細はこちらを参照)。
アイピーロジックによる「Amazon Pay」導入前後の比較調査では、購入フローに入ってから購入完了までの割合は導入前で65%であった。それが、「Amazon Pay」導入後で93%までに達し、28ポイントもコンバージョン率が改善した(導入した20社、導入前後6か月のデータの中央値で比較)。
購入フローに入った後、「Amazon Pay」はクリックだけで簡単に決済できるので、途中で購入を止めるというお客さまが大きく減ったのだろう。(井野川氏)
JINSではコンバージョン率が前年比で30%改善
メガネのECを手がけるJINSでは、「Amazon Pay」の導入後、コンバージョン率が前年比で30%改善。限定モデル販売では「Amazon Pay」の利用率が4割を超えたという。
不正取引対策
Amazonでは、クレジットカードでの決済に関し独自の不正検出ルール、グローバルで使用されている不正検知システムなどによってセキュリティ対策を実施している。
また、消費者が「Amazon Pay」で商品を購入すると、一部の商材を除き、Amazonマーケットプレイス保証※の対象になり、消費者とEC事業者に「安心」「安全」を提供している。
※Amazonにおいて販売事業者の出品商品を安心して購入してもらうために、購入商品のコンディションや配送を保証するもので、万一の場合、配送料を含めた購入総額のうち、最高30万円までAmazonが保証する制度のこと。「Amazon Pay」を利用した購入においても、同等の保証対象となる
コメ兵、不正取引に関する確認作業が軽減
ブランドバックなどのリユース品の販売を手がけるコメ兵では、「Amazon Pay」の導入で不正取引に関する確認作業が軽減されたという。
また、「Amazon Pay」での購入がAmazonマーケットプレイス保証の対象になることで、実質的にチャージバックのリスクをゼロに近づけることができたとしている。
決済だけではない、接客&サブスク&音声注文など「Amazon Pay」の多様な機能
Web接客型Amazon Pay
「Amazon Pay」が提供するのは、決済フローを簡単にする決済機能だけではない。その1つが、「Web接客型Amazon Pay」と呼ばれる新規訪問客のスムーズな購入を積極的にサポートする機能。
ECサイトの購入方法選択画面などにおいて、「Amazon Pay」の利用を促すメッセージをポップアップウインドウやチャット形式で表示。会員登録を行わずに決済できる「Amazon Pay」の利用をユーザーに提案し、入力フォーム画面からの離脱を大きく軽減させるという仕組みだ。
この機能を活用するには、ゲスト購入用入力フォームに「Web接客型Amazon Pay」を実装すればよい。顧客が支払い方法で「Amazon Pay」を選択しなかった場合でも、入力フォームからの離脱や、入力ミスなどを自動的に察知して、Web接客のポップアップを用いて「Amazon Pay」での購入を提案することができる。
また、チャット形式のWeb接客ツールを導入しているECサイトは、チャット内で「Amazon Pay」の利用を案内することも可能だ。
「MakeShop」「サブスクストア」「EC FORCE」「KARTE」「CART RECOVERY」「AiDeal(旧ZenClerk)」「SPROCKET」「qualva」といった、ECプラットフォームやWeb接客ツールが「Web接客型Amazon Pay」に対応している。
「Otameshi」はWeb接客型決済でコンバージョン率が改善
オークファングループのSynaBizが運営する社会貢献型ECサイト「Otameshi(オタメシ)」は、「Amazon Pay」以外での方法で買い物カゴへ進み、そこで7秒以上経過すると、「フォームの入力にお困りの方へ」と題して「Amazon Pay」を使った買い物方法の案内をポップアップで表示するようにしている。
当初はお客さまに“しつこい”という印象を与えてしまうかなと思ったが、表示される秒数や決済への誘導が考えられている設計になっていた。正直、最初は効果に関して半信半疑だったが、結果的にコンバージョン率の改善につながっている。ご購入いただける割合が増え、もちろん売上増加にもつながっている。(Otameshi)
この「Web接客型Amazon Pay」の場合においても、消費者はAmazonアカウントでログインすることができ、住所やクレジットカード情報の入力が不要になるため、EC事業者は離脱(カゴ落ち)の軽減が可能になり、コンバージョン率の改善が期待できるという。
サブスクリプションにも対応する「Auto Pay」機能
さらに、「Amazon Pay」には、近年注目が集まるサブスクリプションビジネスの決済に対応するための機能「Auto Pay」がある。
ECサイトに導入することで、購入者は初回の支払い手続き時に「以降の支払いをAmazon Payで行う」と設定することが可能になる。2回目以降は都度ECサイト上で支払いの手続きをすることなく継続して商品やサービスを注文できるようになるものだ。
「Amazon Pay」の「Auto Pay」機能を使えば、定期購入やサブスクリプションサービスを提供するEC事業者は、「自由に金額やタイミングを設定し、請求することが可能」「顧客へのサービス提供内容に応じて、決済の頻度や金額などのカスタマイズが可能」など、ビジネスモデルに対応した決済方法を購入者に提供することができる。
クレジットカードの有効期限切れや種類などを変更する場合、お客さまは利用しているECサイトで新しいクレジットカード情報を改めて登録しなければならない。なかには、その登録を忘れてしまうケースがあり、それが販売機会の損失につながってしまう。「Amazon Pay」では日頃、お客さまがAmazonで買い物をする際に登録しているカード情報が使われる。最新のカード情報に更新されているケースが多いと考えられるため、EC事業者の販売機会の損失を軽減するといった効果が期待できる。つまり、LTV(顧客生涯価値)の向上にもつなげることも期待できる。
また、Amazon Payでは、「Auto Pay」を使って、買い物カゴを経由しない1クリック購入、インスタントバイも実現できる。(井野川氏)
バルクオム、定期購入客の増加で月商は3倍以上に
男性向けスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」の企画・販売を手がけるバルクオムは、メンズ向け化粧品のサブスクリプションECで急成長している企業。
「Amazon Pay」導入後、ランディングページ(LP)のコンバージョン率は50%ほど改善した。定期購入顧客数も増え続け、月商規模は3倍以上に拡大。「Amazon Pay」を使った購入の約95%はスマートフォン経由となっている。
バルクオムは「Auto Pay」機能の活用で定期購入顧客が増加しており、LTV向上につなげている。
テレビショッピング活用
「Amazon Pay」はテレビショッピングにも活用が広がっている。テレビショッピングの放映中、画面内に商品申し込み方法としてQRコードを表示してECサイトでの購入を案内、Amazonアカウントがあれば「Amazon Pay」を使い簡単に決済できる――。こんな取り組みを行ったのがテレビ通販ブランド「ダイレクトテレショップ」を展開するテレビショッピング研究所。
テレビショッピングの放映中、「Amazon Pay」で購入できる旨を記載した案内とQRコードを表示し、視聴者にQRコードスキャンを促す仕組み。QRコードをスキャンすると「ダイレクトテレショップ」のECサイト内に用意されたランディングページに移動する。
テレビショッピングの放映中、コールセンターの席数を電話件数が上回った場合、超過した入電は自動応答によって対応するケースが多い。つまり。自動応答によって販売ロスが発生するケースが考えられる。
コールセンターへの負担を減らすと同時に、販売機会のロスを軽減する方法として、「Amazon Pay」はテレビショッピングでの活用も支援できるようになっている。(井野川氏)
音声ショッピングにも対応する「Amazon Pay」
「Amazon Pay」は音声でのショッピングにも対応している。Amazonのクラウドベースの音声サービス「Amazon Alexa」を使って音声で買い物ができるように、Amazon Pay対応Alexaスキルを開発することで音声ショッピングも可能になるのだ。
たとえば、宅配ポータルサイト「出前館」。Amazon EchoシリーズのAlexa搭載デバイスに「アレクサ、出前館をひらいて」と話しかけると、出前館の「Alexaスキル」が実行され、音声で出前の注文を行うことが可能だ。(なお、音声ショッピングにあたっては、事前に該当するAlexaスキルを有効にする必要がある)
Amazon Pay対応Alexaスキルは、中小の自社ECサイト運営企業でも、比較的手軽に、十分な開発知識がなくとも開発・提供できる環境が整えられている。
中小企業でも音声ショッピングに対応可能
それが、アイピーロジックが提供している、EC-CUBE向けAlexaカスタムスキルプラグインだ。オープンソースのECパッケージ「EC-CUBE」を利用してECサイトを運営するEC事業者であれば、このプラグインを活用することで、「Amazon Pay」に対応したAlexaスキルを、“手軽に”“開発知識なしに”“無料”で開発することができる。
配送状況を「Alexa」経由で通知
また、自社ECサイトでの商品購入後に音声で配送状況を通知できる「Alexa配送通知機能」が2019年に始まった。これは、「Amazon Pay」を使って自社ECサイトで商品を購入すると、商品の配送状況を「Alexa」が音声で通知するというもの。
スマートスピーカー「Amazon Echoシリーズ」を始めとしたAlexa搭載デバイスを通じ、Amazonの顧客に音声を使った配送状況を通知する仕組みだ。
テクノロジーの進化、消費者生活の多様化で、場所、時間、さまざまな状況に応じて多様な商品購入方法が選べるようになった。それに合わせて、商品の配送状況も多様な方法で通知を受けたいという消費者が増えている。音声による配送通知はこうした消費者のニーズに対応する機能として期待される。
こうした「Amazon Pay」の特長、導入事例、新しい機能を説明した上で、井野川氏は最後に、次のように語った。
今後は、単なるパソコン、スマートフォンでのお買い物だけでなく、Alexaのような音声サービスが導入されたさまざまなIoT家電、車などが増えていき、いろいろなチャネルやさまざまなデバイスの垣根を越えた、より良いお客さまのショッピング、生活体験が求められる。Amazonはこうしたことに対応したより良いショッピング、生活体験を提供していきたい。
「Amazon Pay」では6月1日から、「Amazon Pay」での決済にAmazonギフト券を利用できる取り組みを始めた。ECサイトにおいてクレジットカードのご利用を控えたいという消費者は、あらかじめコンビニなどでAmazonギフト券を購入しておくことで、「Amazon Pay」が利用可能なECサイトでの買い物を楽しめるようになったのだ。
「Amazon Pay」を導入しているECサイトにとって、今までAmazonアカウントにクレジットカードを登録していなかった消費者にも、最短2クリックで決済可能な「Amazon Pay」の簡単・便利な購入体験を提供できるようになる。新規の消費者による買い物機会の増加も期待できるようになった。