「Pinterest」はECビジネスに適している? ピンタレストの基礎&経由売上が3倍になった「toolbox」の事例を解説
「『Pinterest(ピンタレスト)』はECビジネスの集客やコンバージョンに活用できるのか?」。答えは「Yes」だろう。Pinterest Japanのグロース・オペレーションズ日本代表の舩越貴之氏は「EC事業者にとって『Pinterest』はまだまだ、先行者利益を獲得できる段階」と言う。「Pinterest」とはどんなサービスなのか? ECビジネスにはどのように活用すればいいのか? 舩越氏による基礎説明、「Pinterest」をECビジネスに積極活用しているTOOLBOXの事例と合わせて、「Pinterest」のEC活用を解説していく。
「Pinterest」とは?どんな機能があるの?
「Pinterest」は暮らしをさらに豊かにするインスピレーションの発見と実現をもたらすことをミッションとし、生活のあらゆるシーンを彩るアイデアを画像や動画で発見、保存・整理できるビジュアル探索ツールです。
「Pinterest」について、多くのEC事業者はSNSの1つとして捉えているが、舩越氏は「ビジュアル探索ツール」と強調。SNSユーザー同士のコミュニケーションでSNSを利用するが、「Pinterest」ユーザーは「他人の暮らしを見るのではなく、自分の暮らしをさらに豊かにするアイデアをビジュアルで発見するために利用している」(舩越氏)
「Pinterest」はWeb上やサービス内 で見つけた動画や画像を保存、整理、そして共有できるサービス。自ら画像をアップするよりも、サービス内で見つけた好きな動画や画像をPin(ピン、保存)して収集、「ボード」(写真や動画をコレクションする機能)に整理して保存するのが主な利用方法となる。
ホームフィードには、ユーザーの閲覧行動を軸に、AI(人工知能)が趣味・嗜好を推測、パーソナライズした画像・動画コンテンツ(=ピン)を表示する。ピンをクリックすると、そのコンテンツの掲載元へリンクして移動できるように設計されている。つまり、ECサイト上の画像や動画がユーザーにピンされればされるほど、目に留まりやすくなる。
「Pinterest」はEC関連の機能強化も進めており、無料ビジネスアカウントに登録した事業者の自社ECサイトで掲載している商品画像などがピンされた際、商品価格や在庫有無などを表示する「プロダクトピン」などの機能を搭載している。
グローバルでのアクティブユーザーは4憶人超
現在、「Pinterest」はグローバルの月間アクティブユーザー数は4億人を突破。そのうち、75%は日本を含む米国以外の利用者という。
2020年は過去最高のエンゲージメント率を達成。グローバルでは2019年比で、画像や動画を探すための検索数が60%増、ピンの保存数は40%増加した。日本国内では2019年比で検索数は2.5倍。「ボード」の作成数は2倍に増えたという。
「Pinterest」の特徴は何なのか? 舩越氏は、「独自の機械学習により、使えば使うほどユーザーの好みを学び、1人ひとりにパーソナライズされたアイデアを提案する仕組みになっている」と言う。
舩越氏が強調したのが、「Pinterest」にはセレンディピティ(serendipity)があるということ。セレンディピティは「偶然な出会い」「偶然な発見」という意味があり、「インスピレーション」「ビジュアル」「主観的」な視点でユーザーは「Pinterest」を使用しているという。
新しいことをやりたい、新しいアイデアを見つけたい、ワクワクするものを探している、といったマインドを持っているが、具体的なモノが思い浮かばない。それを視覚的にわかりやすいビジュアルなどで探索する手段として「Pinterest」は使われている。
事業者の立場から見たとき、購入する商品はまだ決まっていない段階のユーザーにリーチでき、新しい顧客と出会える場として「Pinterest」は役立てていただけるのではないか。(舩越氏)
計画的なユーザーが多い「Pinterest」
舩越氏は「Pinterest」ユーザーの特徴として検索行動についても協調する。その特徴というのが「計画的なユーザーが多い」(舩越氏)ということだ。
たとえば「お正月」「年末年始」に関する「Pinterest」内での検索行動。通常夏頃から検索ボリュームが急増し、11月下旬から1月下旬にかけて検索量はピークを迎える。年末年始に関する検索動向では、一般的なサーチエンジンのピークは12月下旬を迎えるのに対し、「Pinterest」では12月初旬。
「Pinterest」ユーザーは、イベントに対する準備などに対し、早め早めに準備を進め、実行に移すために計画的に行動をするユーザーが多いようだ。
「Pinterest」は「先行者利益を獲得できる市場」の理由
Neustar社の調査によると、他のチャネルとの比較で「Pinterest」経由のコンバージョンは、「インクリメンタルである率(徐々に増加していく率)」(舩越氏)が25%高いという。「Pinterest」とネット通販の相性は高いと説明する舩越氏は、EC企業は「先行者利益を獲得できる市場」と強調する 。
その理由の1つにあげられるのが、日本企業向けに「Pinterest」での広告はまだ展開していない点(米国など一部の国では展開中)。「Pinterest」ユーザー、および「Pinterest」を活用する企業を増やしている状況にあり、マネタイズのステージにはまだ入っていない。舩越氏曰く「ユーザー体験の向上を行っている段階」
そのため、EC企業にとり「Pinterest」上で多くのユーザーへ広告なしでアプローチできる余地が大きい。こうしたことを踏まえ、舩越氏は「先行者利益を獲得できる。オーガニックでファンを獲得してほしい」と話す。
ただ、参加企業にとっても「Pinterest」活用は手探りの状態。そこで、舩越氏は「販売戦略の立案」に役立つポイントを5点、「中の人」の立場で列挙した。
視覚的にアピールすること
(ECサイトなどの)商品画像などを魅力的、関連性が想起できるデザインにすることで、(ピンされた画像が)購入検討前の段階にあるユーザーに対して、面白そう、これ可愛いといった形でアピールすることができる。
オリジナルであること
既存顧客、新規顧客の目を引くには、ユニークさや違いといったスパイスを提供し、画像などを見せることがキーになる。たとえば、商品がメーカー品だったとしても、見せ方次第で「Pinterest」ユーザーへの訴求が大きく変わってくる。
関連性があること
場面や状況、日常の生活、ライフイベントを考慮することによって、エンゲージメントを最大化することができる。
行動できるようにする
ピンが有効なものであればあるほど、ユーザーはそのピンを保存して、それを基に行動に移そうとする。EC実施企業であれば、商品価格などがわかる「プロダクトピン」を使い、たくさんの画像を「プロダクトピン」の対象にする。そうすると、そのピンを見たユーザーが保存し、後からのアクションに移しやすくなる。また、行動を想起できる画像を用意することで、ピンが拡散されやすくなり、多くのユーザーとのエンゲージメントを深めることができるようになる。
ポジティブであること
ある調査によると、成人の10人に6人がポジティブな環境で見たブランドを信頼し、最終的に購入に至るという結果が出ている。ポジティブな環境で目にしたモノは、ビジネス面でプラスに転じる。「Pinterest」はユーザーからポジティブな場として認識されているので、ブランドイメージの促進、コンバージョンに役立つ場となっている。
「Pinterest」のピンからEC売上が3倍の事例「toolbox」
ここからは、「Pinterest」のEC活用について見ていく。内装建材・DIYパーツなどをBtoC、BtoBで販売しているECサイト「toolbox」(運営はTOOLBOX)では、2019年春先からPinterestの「プロダクトピン」を積極的に作成。潜在顧客へリーチし、SNS関連からの流入のうち「Pinterest」が占める割合は8割に、「Pinterest」経由の売り上げは1年で3倍となっている。
「toolbox」がビジネスアカウントを取得したのが2016年8月。自社のコンテンツを「Pinterest」で発信していった。不定期でピンを作成、少しずつ「Pinterest」経由の流入が増えていった。
2020年12月現在、「toolbox」のアカウントのフォロワー数は3万超。月間閲覧者数は103万を超える。「Pinterest」上で作成してきたピンは1万以上、そしてコレクションする「ボード」は30以上。販売している製品の施工事例の写真などを中心にピンを増やし、潜在顧客であるオーディエンスを増やしていった。
商品ページへの誘導につながる「プロダクトピン」を積極活用した2019年4月。作成するピンの点数を大幅に増やしたことで、アプローチできるオーディエンスが増加。そのピンからECサイトへの流入、そして商品購入が伸びていったのだ。
施工事例のコンテンツを増やすことで、顧客単価が大幅に上がった。このような「Pinterest」のEC活用に関して、TOOLBOXのPRマネージャー・梅川紗季氏は、次のように重要なポイントを話す。
重要なのはたくさんのコンテンツをピンしていくこと。運用しながらその重要性を感じた。SNSは投稿の際、文章を考えるのが大きな手間になる。「Pinterest」はECサイトから画像をピンしているだけなので手間がかからない。写真をピンするだけ。運用の手間が省けるのが大きなポイントになる。
梅川氏は「Pinterest」経由の売り上げのほか、「Pinterest」ユーザーに「toolbox」というECサイトの存在を認知してもらうための方法として役立っていると言う。「『プロダクト』ピンを通じて、商品の価格などが閲覧されることで、ショップの存在を知ってもらえる。この効果は大きいと感じている」(梅川氏)
「toolbox」では、「プロダクトピン」のほか、「動画ピン」を活用している。「プロダクトピン」は価格のほか、在庫の有無も表示。「ECサイトを運営している企業にとってはこの機能が最も適している」(梅川氏)
「動画ピン」はまだまだ少ないが、「動きのある動画はImpressionが高い傾向にある」(梅川氏)と言う。多くの購買につながってはいないようだが、「ショップの存在」「アカウントの存在」を知ってもらう手段として役立っているとしている。
「プロダクトピン」をスタート後、ECサイトのコンバージョン率は35%増、ユーザー数は20%増、客単価は80%増えた。「労力をかけずに結果が出ている」(梅川氏)
「Pinterest」の運用に関するヒント
投稿したコンテンツは埋もれないのか?
「Pinterest」では2400億以上のピンされた画像が掲載されている。ビジネスとして活用する企業にとって気になるのが、「埋もれてしまうのではないか」という点。
これに対して、「パーソナル」な「探索」を重要視している「Pinterest」では独自のアルゴリズムからユーザーの興味・関心に適したコンテンツを表示する。そのため、「1年前にピンした画像はホームフィードの上部に表示されるといったことも頻繁にある。古い、新しい関係なく、コンテンツが表示されていく」(梅川氏)
「埋もれない」を把握している「toolbox」では2020年11月までに1万5000以上ものコンテンツをピンしている。
SNSと何が違うのか?
「Pinterest」は多くのSNSのようなタイムライン型のプラットフォームではない。「機械学習でユーザーの興味・関心に適したコンテンツを配信するプラットフォーム。機能が大きく異なる」(舩越氏)。
ユーザーのマインドセットも異なる。SNSは承認欲求、フォロワーへの告知などで投稿機能が使われるが、「Pinterest」は「何かのアイデア」などアクションへ移したいコンテンツとの出会いを求めてピンをするユーザーが多いという。目的に応じた使い方が必要だとしている。
梅川氏によると、「toolbox」のユーザーは、家作りの商品購入フェースの前からアイデアを探している、インテリア好きがアカウントをフォローし、コンテンツを閲覧しているという。
利用目的はブランディングか? それとも購買につなげた方がいいのか?
舩越氏は「『Pinterest』ユーザーはコンテンツを見るだけではなく、最終的なアクションをするためのアイデア求めている。ブランディング目的だけで『Pinterest』を利用するのはもったいない」と言う。ECサイトを持っているのであれば、商品購入に結びつけるためのURL設置は行うべきだとする。
事業者の立場から梅川氏が説明する。「ブランディング、購買のどちらも適していると感じている。『toolbox』では『ピン』と『ボード』の使い方を変えている。私個人で感じているのは、ユーザーは『ピン』をして初めてショップのアカウントに触れ、そこから『ボード』の存在を知って、『ボード』を閲覧していく――。この段階でやっとブランドを感じるようになると考えている。『toolbox』では素敵な写真以外もピンをし、アプローチできる範囲を拡大。『ボード』はしっかりと作り込むという取り組みをしている」
「Pinterest」のEC活用は何から始めればいいのか?
まず、「Pinterest」でビジネスアカウントを取得、自社ECサイトで掲載している商品画像や動画をピンした際、商品価格や在庫有無などを表示する「プロダクトピン」機能などに対応したい。
そして、自社のビジネスアカウントで商品や動画をピンしていく。まずはここから始めていきたい。梅川氏は「『toolbox』も最初はとにかくピンすることから始めた。とても簡単で、どうしていいかわからなかった。とにかくピンすることが重要。そこから結果を見ながら運用していくことがいいと思う」
商品の入れ替えサイクルが早い商品の場合は?
仕入れ商材や季節商材などを扱う企業の場合、商品の入れ替えサイクルが多発する。こうした事業者の場合でも「Pinterest」は有効に活用できるのか?
舩越氏は、「ブランド全体やECビジネス全体のマーケティングチャネルとして活用できる」と説明。「流動的な場合でも『プロダクトピン』を使うと在庫状況を『在庫あり』『在庫なし』でピンに反映できる。また、ユーザーはインスピレーションを求めて利用しているため、『このお店をもっと見てみたい』『こういう雰囲気の商品が知りたい』と思ってもらえるようなブランディングのためのピン作成をオススメする」(舩越氏)といった活用方法があると言う。