井田奈穂(いだなほ) 2022/5/9 7:00

国内で中古トラックをオンライン販売する企業は200社ほど。競合ひしめく中、基礎的なサイト改善によってEC経由の販売台数を伸ばし、2021年末に過去最高益を達成した企業が、アジアンウエイ株式会社だ。

ROIは298%も向上し、中古トラックの売上は施策前の前年同月比約3倍に。途中、コロナ禍でGoogleアップデートの遅延もあり、関係者一同「成果が出るまで、本当にドキドキでした…!」と語る施策を、振り返ってもらった。

(左から)「トラック流通センター」を運営するアジアンウエイの木下検聖常務、田中晶子社長、施策に伴走したFaber Companyの竹村数輝、川合孝治

コンサルに改善指示をもらっても「実施しきれない」悩み

「中古トラックを売っているのに、『中古トラック』というキーワードで検索上位に表示されないんです」。アジアンウエイ株式会社の木下検聖氏から、Faber Companyのマーケティングディレクター・川合孝治がそんな相談を受けたのは、2020年11月のことだった。

アジアンウエイが運営するECサイト「トラック流通センター」は、中古トラック専門のECサイトで、競合他社は約200社にものぼる。その中でも同社は、17年の実績と販売台数の多さ、充実したトラック関連のコンテンツ(コラム)もありながら、なぜか「中古トラック」のキーワードで常に検索2ページ目にいた。これではユーザーの目に止まりづらい。

実は月々コンサルフィーをお支払いして他社のWebコンサルをつけていた時期もありました。レポートではたくさんの改善指示をもらうんですよ。でもWeb専任担当はいないので、制作会社にもスムーズに改修を依頼できず…。結局、もらった施策をやりきれず契約期間が終わってしまいました(木下氏)

大手人材業界の営業から転職。粗利を1年で1.5倍にすることを目標に施策を始めたものの、体制づくりに悩んでいたという木下検聖氏
スタート時の悩み
  • 施策の優先順位をつける知見がない
  • 社内に実装をディレクションできる人手がない
  • サイト制作は外注。効果が見込める施策にしか制作フィーを払いたくない

手を動かすところまでやる「実装代行型コンサル」を提案

相談を受けた川合は、SEOディレクターの竹村数輝とサイト全体を分析し、施策を練った。

やるべきことが見えてきましたが、木下様とお話して、実装になかなか手が回らないのが最大の課題だと感じました。そこで、ディレクターの竹村が制作会社さんとの間に入り、直接ディレクションまで行う実装代行型のコンサルを提案したのです(川合)

「いくら良い提案でも実装ができなければ成果に結びつかない。ディレクター不足が問題なら、実装代行で解決できる」と語る川合孝治

木下氏は過去、Faber Companyのミエルカを使った経験があった。また、同社取締役・鈴木謙一による「海外SEO情報ブログ」を読んだ経験からも、「それだけノウハウがある会社だからこそ、的確なコンサルティングが期待できるのでは」と期待を込めて、同社に相談したという。

実装まで伴走してもらえる提案でした。これなら「レポートをもらって終わり」から脱却できるはず、と依頼することに決めました(木下氏)

だが最初に提案された施策は、木下氏にとって意外な内容だった。

施策1: 自社サイトへの優良なリンクを呼びこむ

サイトの調査をした竹村は、まず「被リンク状況が競合に比べて弱い」と指摘した。

被リンクの質や量、指名検索(ブランド認知)から見ても、競合より劣っている項目が多く見受けられました。そこでまず、優良な企業・団体のサイトに自社サイトへのリンクを貼ってもらえるよう依頼することを提案しました。具体的には、中古車関連のまとめサイトやニュースメディア、古物商関連やトラック関連の協会なども含めた関係先です。これは木下様ご自身ですぐに取り組んでくださいました(竹村)

サイト分析と改善施策の立案を担った竹村数輝

木下氏は「外部リンクといえばブラックハットSEOのようなイメージがあり、最初は戸惑った」と明かす。しかし竹村から「ユーザーにとって有益な情報を、興味を持ちそうな方が見ているサイトに紹介していただくことは、ユーザーにとってのメリットにつながる」との説明を受け、意識が変わったという。ただ、相手が協力してくれるかは未知数だった。

試しに各サイトに依頼文書を送ってみたら、意外にもすぐ「紹介させていただきます」「載せました」というご返信をいただいたのです。竹村さんたちの提案に対して信頼性が一層高まりました(木下氏)

自社サイトへのリンク依頼時の文例

施策2: ユーザーニーズに合わせてパンくず構造を最適化

次に竹村が提案した施策は、「パンくず構造の最適化」だった。検索エンジンがクロールする際、サイト構造を理解しやすい状態にしておくことは欠かせないポイントだからだ。そこで竹村は、木下氏から「ユーザーがどのように中古トラックを選ぶのか」をヒアリングした。

中古トラックを選ぶ際のユーザー行動
  • トラックのバリエーションは、運転席部分及び骨組み・荷台に載せる箱の形状・長さ・メーカーの掛け合わせで数千通りもある
    → ユーザーは自分の運搬する商品に合ったトラックを形状や条件から探し出さねばならない(Web検索に不慣れなトラックドライバーも多く、困難を伴う)
  • ニーズにぴったりの商品があれば、遠方からでも買う
  • 高額商品なので何度もサイトを訪れ、比較検討する

そして「現在のパンくずに含まれる地域名はいらないのでは」と、取り除くよう提案した。この提案に、木下氏はユーザーニーズの上からも納得したという。

言われてみれば中古トラックの場合、「地元で買いたい」というニーズはほぼ優先されません。引っ越し屋さん、花屋さん、冷凍品の運送屋さんなど、職種や乗せる商品ごとに必要なトラックの種類や形状は変わります。

新車ならカスタマイズして組み合わせますが、現在は半導体の部品不足などもあって、新車の納品が数年待ち。中古を買おうとすると、業務に合わせてパーツを付け替えると採算が合わないので、「たまたま合っているトラックを無数の候補から探し出して買う」ユーザーが多いのです。ほしい情報にたどり着きづらい中で、優先度の低い「地域名」はかえって邪魔なのだと納得しました(木下氏)

逆にパンくずに追加したのは、「モデル名」だ。

たとえばダンプの中型が欲しいユーザーが、「ダンプ」ページに行くと大中小全部含めた一覧が出てくるので、探すのが大変です。ユーザーの利便性を考え、サイズや車種がわかるモデル名をパンくずに追加しました(竹村)

パンくず構造最適化の施策前と施策後の例

施策3: 質と量をアピールできるようファーストビュー改善

また、ファーストビューも変えた。

施策前はおもちゃのトラックの画像を使っていたのですが、質と量をしっかり想起できるようなリアルなトラックの画像に変えました。また表示できるトラックの台数を一気に増やし、「販売台数」をしっかりアピール。閲覧履歴も残せるようにし、車両詳細の下に過去見たトラックを一覧で配置しました(木下氏)

竹村はこの提案について「商品点数と比較検討のしやすさが重要な要素だった」と語る。

数分で購入を即決できる低額商品とは違い、トラックは必要とされる種類が無数にあり、長期間比較検討することの多い高額商品です。豊富な販売点数とバリエーションをアピールし、迷っている人が戻ってきても前回の商品情報がすぐ見られる位置にあれば、新しい商品とも比較しやすいと考えました(竹村)

ファーストビュー改善前と改善後

その後も改善を続け、現在のトップページではさらに、相談窓口や保証の充実、スタッフ紹介をなど、企業として信頼を得られるようなコンテンツを掲載し、ブランディングにも注力している。

コロナ禍の影響で、想定外のコアアップデートの遅延

以上3点の施策を、2020年12月末~2021年1月末までに集中して行った。竹村や川合は木下氏に「ここまでの施策をしたなら、近いうちに『中古トラック』のキーワードでの検索順位が上がり、6位ぐらいには到達できるだろう」と見込みを伝えていた。

しかし、直近の大きな変化だと予想されていた検索エンジンのアップデートがコロナ禍の影響で遅延したのだ。

遅くとも4〜5月頃にはアップデートされると予想されていたのに、6月頭までずれ込み、続けて7月にもアップデートが発生しました。2段階でのアップデートという例年にない動きでしたね(竹村)

木下氏は「社内には『半年待って』と伝えていた施策だったので、ものすごくヒヤヒヤしていました。『まだ?』とも聞かれていましたし。それだけに6月に9位、7月に6位に上がって安定した時、本当にホッとしましたね」と、当時の思いを語る。

「毎日順位を見るぐらい気になっていた」という川合は、「ビッグワードの検索順位が上がったら、売上も上がると思っていたので『さあ、ここからだ』と気が引き締まりました」と振り返る。

トップページの「中古トラック」での検索順位と売上推移

前年同月比の売上3倍、ROI298%向上。過去最高益に

売上は実際に上がったのだろうか。木下氏は明るい表情でこう答えた。

施策を始めて約1年後の12月、売上は前年同月比3倍以上(323.2%)に達し、過去最高益を達成しました。「中古トラック」以外のキーワードにも変動があり、計測している主要36キーワードは軒並み検索1ページ内にランクイン。 それぞれ上がったタイミングは違いますが、売れ筋の「中古トレーラー」「2トントラック」は検索順位が特に上がりました。「4トントラック」は2022年に入って以降、ほぼ1位をキープしています。自然検索経由の問い合わせは約1.7倍、閲覧履歴ページへのアクセス数も施策実装後、2.21倍に増えていました(木下氏)

主要キーワードの検査順位が上昇した

アジアンウエイの田中晶子社長は「中古トラック業界は季節要因やコロナ禍であまり影響が出なかった業界です。昨年同様でもおかしくなかった中、サイト改善だけでここまで売上向上できたことに驚きました」と語る。

田中社長は特に費用対効果が目に見える形で改善した点を評価する。

サイトそのものの改善で集客効果が上がると、リスティング広告のような費用がかかり続ける施策を減らすことができるようになります。2020年12月と2021年12月を比較したところ、ROIは298%も向上(獲得粗利ベース)していました(田中社長)

「サイトからの問い合わせからのフォローの素早さ、手厚さがうちの強み」と語る田中晶子社長

サイト改善はPDCAを回し続けることが重要。次の施策は?

木下氏は今回の施策を振り返り、感慨深げに「小手先のテクニックは通じないと実感した」と語る。

サイト改善は効果が出るまでに時間がかかりますが、その分長期的に利益を生み出してくれます。リスティング広告などに力を入れるよりも、圧倒的にコスパが高いと感じました。SEO施策は地道にコツコツですが、やり方さえ間違わなければ効果が持続します。費用と比例する広告に比べて企業規模が問われにくいため、中小企業こそやるべきではないでしょうか(木下氏)

一方で、サイト改善に取り組む上で、気をつけなければいけないこともあるという。

弊社も含めて多くの企業が間違えたやり方を続けていると思います。間違えないために大事なことは、「最新の情報を取得していること」「多くの事例・ノウハウが蓄積されていること」。その意味で、どこよりも早く情報をキャッチアップして、ブログやTwitterで発信していることや、広く評価されているツールを運営している点から、FaberCompanyに依頼した選択は正解でした。

競合ECサイトも頑張っている中、ユーザーにとっての有益性をとことん追究する歩みを止めたら、一気に抜かれます。竹村さんと川合さんには、我々をサボらせないコンサルを今後も期待しています(木下氏)

サイト改善に取り組んだメリット
サイト改善に取り組んだメリット
  • ROIが 298%改善した
    → 広告を出し続けるより、圧倒的にコスパが良い
  • 企業規模が問われにくい
    → 中小企業こそやるべき!
  • やり方さえ間違わなければ効果が持続する
    → 間違った方法を避けるには、最新情報を常に把握し、多くの事例・ノウハウをもとに行うべし

最後に、今後の施策の構想をそれぞれに聞いた。

会社概要、サポート・保証の充実、お客様の声などの改善を提案しています。BtoBだと特に、どういったサービスなのかユーザーにわかりづらいですよね。また、高額商品は写真と価格だけ見て決めることはまずありません。やはり会社への信頼度を高める施策を充実させるべきだと思います(竹村)

ちょうどアクセスが伸びてきた段階です。CVを増やしていく施策にはヒートマップ分析でユーザー行動を見て、改善を続けることを提案しています(川合)

木下氏は「今後、営業の人員を増やし、ECサイトからの問い合わせを電話で受けるコンシェルジュサービスを充実させる予定」だという。2年目以降のアジアンウエイのさらなる躍進を楽しみに待ちたい。

 

オリジナル記事はこちら:1年で売上3倍! 過去最高益を叩き出した中古トラックECサイトの改善施策とは?(2022/04/21)

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