柏木 恵子 2014/12/15 6:00

キタムラ執行役員の逸見光次郎氏がECの世界に飛び込んだきっかけは、書店に勤めていた時の経験だという。「手数料や送料がかかっても、送ってもらった方が確実」という地方からの電話を受け、本来は定価販売のはずの書籍が、住んでいる場所によって入手しづらかったり交通費などコストが余計にかかったりするのはおかしいという問題意識を持った。その後、ネットスーパーやアマゾンでの経験を積んだ。現在、キタムラでどのようにオムニチャネルに取り組んでいるのかを講演した。 写真◎Lab

株式会社キタムラ 執行役員 EC事業部長 逸見 光次郎 氏
株式会社キタムラ
執行役員 EC事業部長
逸見 光次郎 氏

キタムラのECは「店舗支援業務を第一とするもの」

キタムラの事業の主軸は、全国約900店舗の「カメラのキタムラ」が行っているカメラ・用品販売、スマホ販売、写真プリント製造・販売と、全国約400店舗の写真館「スタジオマリオ」での撮影と写真販売だ。また、Apple製品の正規サービスプロバイダとしての業務も行っている。国内3か所にラボと呼ばれる生産工場と、2か所に物流センターを擁し、合計で約9,000人の従業員が勤務している。EC事業に求められているのは、これらの事業資産をさらに活性化させることだ。

キタムラEC事業部が発足したのは2012年。2004年からスタートしたEC専業子会社ピクチャリングオンラインとキタムラの各EC事業を統合してできた。その後、いくつかあった個別のECサイトを翌2013年8月に1つに統合している。組織的にはEC事業部があるが、バイヤーや販促、システムなどすべてが本部の対応部門と連携しており、ECは店舗を支援するというスタンスである。

キタムラのEC体制図
キタムラのEC体制図

宅配も店舗受け取りも「EC関与売上」として最大化

キタムラのECには、注文する場所と受け取る場所という観点で、流れが3つある。

  1. 家で注文→宅配受け取り……一般的なECで、ネットからの注文をEC基幹システムで受け、メーカーに発注。入荷したら発送し、メールで連絡するという流れ。EC事業部の売上になる
  2. 家で注文→店で受け取り……ユーザーが店を指定して受け取るもので、キタムラではこれを重視している。ネットでの注文を受け取り店のPOSレジに連携し、店やEC倉庫、近隣店に在庫があればそれを発送、なければメーカー発注する。品物が入荷したら連絡して来店してもらうという流れだ。受け取り店の売上になる
  3. 店頭タブレットで注文→店で受け取り……納期や商品マスタをEC事業部が管理している「店頭ECタブレット」が各店舗に置いてあり、店頭在庫のない商品をそのタブレットから注文できるようになっている。店頭タブレットからPOSレジに連携し、EC倉庫や近隣店舗、なければメーカー発注して、入荷したら連絡して来店してもらう流れになる。受け取り店の売上になる

キタムラのEC事業では、1.の「宅配売上」、2.との「店受取受注」、それらを足した3.「EC関与売上」という3つの指標がある。店頭で購入商品の使い方を教えるサービスが好評で、売上額は宅配売上よりも店受取受注の方が断然多い

もうひとつ特殊な流れとして、中古品の買い取りと販売がある。中古カメラの買い取りを行っている店舗が400ほどあり、買い取った店はそれをネットで公開する。ユーザーはネットから受け取り店を指定して買える。この時、中古カメラを買い取りネットに登録した店と、受け取り店になった店で、利益配分する。多くを受け取るのは買い取り店で、受け取り店に指定された店はたまたまラッキーだったわけだから取り分は少ないが、きちんと接客し、リピート顧客に取り込む。

EC事業部の売上となるのは宅配売上だけだが、EC事業部の目的はEC関与売上(宅配と店での受け取りを足したもの)を最大化することだ。だから、宅配での収益を上げることはもちろん必要だが、店舗受け取りを拡大することを重視している。経営陣と本部メンバーにはそれらが見える形で毎週報告し、ECが店舗の売上に貢献していることが見えるようにしている。これにより、「それだけ店の売上に貢献しているなら、ECは会社のインフラだ」と受け止められるようになっている。

ECは店の便利な道具。最大限に活用して売上アップをはかる

現在、キタムラでは以下のようなオムニチャネルの取り組みを行っている。

①お店がネットで集客

店舗ブログや店舗メルマガで商品やサービスについての情報を発信し、リピート化を図る。本部発信ではなく各店舗からの発信。書き方やSEO対策について店舗に指導している。

②お店でネット送客して店舗リピート化

店舗で写真プリントのアプリを勧める。ユーザーにとってはアプリであればいつでも注文でき、待たずに受け取れる。また、1枚当たりの価格も安いといったメリットがある。店舗側にとっては店頭の接客が仕上がりの確認だけになるというメリットがある。店頭ではアプリのインストール方法やプリント発注の方法をレクチャーし、ネット会員への登録も促す。これにより、利幅の大きいプリント事業のリピーターを増やす。

③ネットで集客、店舗へも送客

新製品やセールをメルマガで告知し、「ネット注文ならお得」「店舗でも同じ価格で受け取れる」などの利点を訴求する。また、新機種と前機種との違いや使い方など、店頭で説明する内容を動画にしてYouTubeで公開しているのも評判が良い。

④店頭タブレットを活用した販促

店頭タブレットでは、カメラのページで同時にアクセサリを勧める、新製品のページに中古品下取りをアピールするといった取り組みを行っている。カメラの新機種を購入する人はそれ以前の機種を持っていることが多いため、価格面で購入を迷っていたら持っているカメラを下取りできることをアピールする。下取り価格はネットで公開されている。

キタムラにおける店頭タブレットの活用
キタムラにおける店頭タブレットの活用

価格競争から、専門店ならではのサービス競争へ

その他、ネットからの年賀状注文、中でもスマホやタブレットからの注文が増えている。11月から12月は七五三や年賀状など、キタムラでの繁忙期に当たる。しかし、ネットで予約や注文などを受けておくことで、ユーザーを待たせることなく、店側も余裕を持って接客できる。スマホをキーにした顧客接点作りには今後も注力していく。

また、ECサイトの新しい取り組みとして、商品詳細ページの「買い物カゴに入れる」ボタンの下に「電話で相談・注文」ボタンを付けた。キタムラのコールセンターは店長経験者が多く、カメラについてのディープな相談を受けることができる。相談の過程で注文を受けることも増え、かなり効果的だった。

キタムラでは、価格競争ではなく専門店ならではのサービス競争をするために、ECを店舗の便利な道具として使っている。キタムラ単体の売上全体のうち、EC関与売上(宅配+店受取)の割合は3分の1で、これはかなり大きな数字だ。経営陣からも重視され、ECは会社全体を成長させる大事なプラットフォームと認識されている。そのため、EC事業部の宅配収益だけで戦略を決めなくてよくなり、経営の自由度が上がっていく。

さらに、メーカーと店舗をつなぐ物流の役割として、サプライチェーン・マネジメントによる適正な在庫と、正確な納期が小売の一番の武器と考えている。そのために、EC物流、店舗物流、店舗間物流を意識した効率的なロジスティクスの構築を重視している。

EC戦略を立案するときの考え方

まず商品・サービスを考えてお客さまをイメージする。それから、それを運用するためのインフラの構築を行う。ここでは、誰がどう運用するかまでを考える。ここが不十分だと、お客さまを失望させることにつながりかねないので、しっかり設計する。そして、そこまでできて初めて販促・集客の立案を行う。この3つが逸見氏のEC戦略立案の軸だ。

また、EC戦略を社内に浸透させ、スムーズに運営するためのポイントについては、

  1. 「日本語」(専門用語を使わない)と「社内語」(キタムラの場合は高知弁! 笑 + 社内用語)で説明する
  2. 「御利益」(ごりやく:経営指標からみた売上とコスト、現場の業務軽減など)を明確にする
  3. ECのシステムは8割できていれば良しとする

の3つを挙げた。ECのシステムについては、「1年かけて設計して2年から5年使い続ける」といったイメージを持つことが多いかもしれないが、それでは現実的ではない。世の中の流れに対応しなければならないので、常に8割程度の完成度で、常に更新し続けるくらいが良い

ポイントは、フロントは常にユーザーの利便性を考えて改善し、基幹系はインターフェース以外ほとんどいじらない。その中間のミドル部分を定期改修し、開発の負荷・コストを下げながらもサービス改善し続けていくこと。

日本ではますますオムニチャネルが進んで、ECと実店舗は融合し、お客さまが使いやすいサービスになっていく。お客さまがどう利用するかを考えた顧客接点を作り、ネットでもリアルでも、スマホでもPCでもサービスが変わらないというのがオムニチャネルの本質。これができたところが成功していくと考えている。

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