多くのECサイトが抱えるサイト内検索の5つの課題とその解決方法
ユーザーがECサイトで商品を探すのに「サイト内検索」は不可欠だが、実は多くのECサイトで複数の課題を抱えている。そして、その課題が放置されたままになっており、売り上げアップのボトルネックになってしまっているのが実状だ。ナビプラス 執行役員の高橋敏郎氏は、事例を交えながらサイト内検索の5つの課題と、効果的な活用のための解決策を提示した。写真◎Lab
サジェスト機能の提供は20%程度、有効活用には程遠いサイト内検索
「サイト内検索エンジン」を有効活用する方法について、「誰もが知ってるあのECサイトの『サイト内検索』を勝手に診断しちゃいます!~機会損失を生んでいるよくある5つの落とし穴~」と題して、ナビプラス執行役員 セールス&マーケティング部 部長の高橋敏郎氏が講演を行った。ナビプラスは決済関連事業を展開するベリトランスの子会社であり、デジタルガレージグループの一員。「サイト内検索エンジン」 「レコメンドエンジン」「レビュー投稿エンジン」などのマーケティングツールをASPによって提供することで、ECサイトの売上拡大と運用効率化を支援している。導入実績数は、累計で600サイトを超えている。
高橋氏は「ほとんどのECサイトでは、サイト内検索エンジンが有効活用されていない」と訴える。例えば、EC売上高上位300サイトをナビプラスが独自に調査したところ、サイト内検索エンジンで文字を入れると、その文字に続く候補が自動的に表示される機能(サジェスト機能)を提供しているECサイトは300サイト中60サイトと全体の20%程度に過ぎなかったという。
結論から言うと、多くのEC事業者はサイト内検索エンジンの導入を真剣に検討した方がよい。理由は単純。売り上げインパクトがある施策にも関わらず、多くのEC事業者でまだ対策が施されていないためだ
EC事業者自身が自社のサイト内検索の利用状況を把握していない
高橋氏は、サイト内検索エンジンの導入や活用に際して、
- 利用実態の把握ができていない
- ユーザーニーズにマッチした検索結果が出せない
- 販売戦略にマッチした結果が出せない
- 検索結果ゼロで機会損失を招いている
- 表示が遅い。更新性が低い、システム負荷が大きい
という、5つの課題を抱えるECサイトが多いとして、それぞれについて具体的な課題例と解決策を解説した。
1. 利用実態の把握ができていない
高橋氏は、大多数のEC事業者はサイト内検索を導入後、そのまま放置していると指摘する。
EC事業者の多くは、自社のサイト内検索はそれなりに使われ、ユーザーも困っていないと思い込んでいる。しかし、それはあくまでも「思い込み」であって、実際にはどんなキーワードが検索されているのか、検索結果がゼロ件のキーワードはあるのか、ゼロ件のキーワードは何であるのか、さらには離脱率やCVRがどれくらいあるのか認識していない
これらの問題に対する解決策が、Google Analyticsなどのアクセス解析ツールの活用であり、まずは自社ECサイトにおけるサイト内検索の利用実態を把握することから行うべきだとしている。
2. ユーザーニーズにマッチした検索結果が出せない
サイト内検索を実装しただけで、チューニングを行っていないこのECサイトの例を見ると、“イヤホン”でキーワード検索すると、検索結果の中にシリコン製ケースのような商品がいくつか入り込んでいる。これはシリコン製ケースの商品説明部分に”イヤホン”という記載がありその言葉を参照して、検索結果として表示するためだ。もちろん、”イヤホン”と検索したユーザーはシリコン製ケースを探しているとは考えにくいため、このケースでいうとユーザーをがっかりさせる検索結果を表示していることになる。
ユーザーニーズにマッチした検索結果を表示させるには、最低限のマッチング精度を整えておくことは大前提である。しかし高橋氏は、「マッチング精度の追及はきりがない」として、ナビゲーションを組み合わせることで、ユーザーが求める商品を表示していくことが重要だと話す。つまり、検索結果が出た後に、さらに色やサイズなどで絞り込んだり、価格順や人気順で並びかえるなどして、お客様が求める商品に誘導するほうが正しいというわけだ。
3. 販売戦略にマッチした結果が出せない
EC事業者としては、利益率の高い商品や、在庫が多くある商品などを売りたいと考え、それに沿った販売戦略を立てる必要がある。しかし、検索結果が販売戦略を踏まえずに表示されているECサイトが多いという。
販売戦略を踏まえた結果を表示させるには、キーワードの相関性のみならず、利益率や在庫数、販売経過日数、仕入元など、販売戦略に沿った検索結果のコントロールを行わなければならないと高橋氏は説明する。
4. 検索結果ゼロで機会損失を招いている
検索結果がゼロとなってしまう原因には、ひらがなとカタカナ、大文字と小文字の違いなどの表記揺れや、ユーザーの打ち間違い、商品の呼び方の違いなどが挙げられる。
当社のサイト内検索エンジンを導入する前のECサイトの統計を見てみると、全検索件数のうち、検索結果ゼロとなった件数は20~40%にも達する。検索をするユーザーは購買意欲の高いユーザーが多ので、ゼロ件と表示することで大きな機会損失が起こっている
この解決策として高橋氏は、キーワードの候補を表示して打ち間違いを減らすサジェスト機能や表記揺れを吸収する辞書機能、類義語登録機能の活用を挙げる。
5. 表示が遅い。更新性が低い、システム負荷が大きい
検索結果の表示速度の低下とともに売り上げは減少し、離脱率も高まる。また、サイトの更新性が低いと在庫切れアイテムの放置につながり、ユーザーのニーズに答えられなくなるとしている。これらの課題について高橋氏は、サイト内検索エンジンを外部化することで対応可能だという。
ECのパッケージに付属しているサイト内検索を使うのではなく、外部のサイト内検索エンジンを利用することで処理スピードが劇的に向上する。また、自社でエンジンを構築するとアクセスのピークに合わせた設計が必要となるが、外部化によって運用コストも抑制できるようになる
サイト内検索の課題を解決することで売り上げが27%向上
では、上記の5つの課題を解決させると、どのような効果があるのか。同社が実際にサイト内検索を導入した事例を紹介した。そのECサイトでは、ナビプラスのサイト内検索を導入し、
- 検索ボックスの設置位置やデザインを変更し視認性を向上
- サジェスト機能を導入し、ゼロ件ヒットを参照したうえで同義語登録を実施
- グローバルナビゲーションからの絞り込みUIを左カラムに移し、ファセットカウントを利用して、検索結果が何件になるかを明示するインターフェースを用意
- 検索結果を「キーワードの相関性」をスコア化した順位をベースに、アイテムの閲覧数が多い順にソートして表示
- 検索結果表示スピードの平均を2.5秒から0.4秒に改善
させた。その結果、サイト内検索の利用率は31.6%から35.3%に向上、離脱率は27%から24%に改善、コンバージョン率は1.39%から1.86%になった。各プロセスの改善は数%程度だが、最終的な売り上げは27%向上させることができたという。
このような劇的な効果をもたらすサイト内検索エンジンだが、市場には多くの提供者があり、どの会社の製品を選べばいいのかわかりにくい。高橋氏はサイト内検索システムを選ぶポイントとして、3点を挙げた
- ECサイト向けに特化した機能をもっているかどうか
- 最適化のための運用機能とサポート体制
- 安定運用を支えるパフォーマンス
最後に高橋氏は、「コストをかけずに売り上げを向上させるためにこれから大切になるのは、サイトへの流入後のサイトの販売力である『ユーザースループット』を最適化することである。つまりバケツに入れる水を増やすのではなく、バケツの穴を塞ぐことが重要。サイト内検索エンジンをはじめレコメンドエンジンなどを賢く活用して、サイト上のコンテンツとナビゲーションを最適化していくことで売り上げアップにつなげてほしい」と訴えた。