松原 沙甫[執筆] 8/5 7:00

業界トップクラスの有識者が選考委員を務める「ネットショップ担当者アワード」をご存じだろうか。EC業界で活躍する「人」にフォーカスし、企業や団体などで活躍する個人の功績や取り組みを表彰するアワードで、選考委員長を務める中島郁氏は、さまざまな大手事業会社でEC事業に携わり、現在はEC事業者向けコンサルティング業に従事している。インタビューではそんな中島氏に、昨今のEC市況で感じている課題や、EC事業に従事する担当者へのメッセージを聞いた。

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EC業界の課題は慢性的な人材不足

――EC業界での経歴などを教えてほしい。

中島郁氏(以下、中島氏):EC業務に携わるようになったきっかけは、1995年に入社したソフトウエア会社でショッピングシステムの販売を始めたこと。その後、トイザらスの日本法人に入社、マーケティングに携わった後、ECに従事。EC事業を2000年に立ち上げ、2002年にトイザらス日本法人を離れるまでに年商数十億円の規模にまで成長した。それが縁で、EC立ち上げでジュピターショップチャンネルに入社。2003年にECを立ち上げ、その後7年間で年商200億円台にまで成長させた。

【選考委員長】ネクトラス株式会社 代表取締役 中島 郁 氏
【選考委員長】ネクトラス株式会社 代表取締役 中島 郁 氏
新規事業立ち上げ、急成長事業マネジメントのプロフェッショナル。ベンチャー、外資、老舗にて、事業立上げ、急成長ビジネスの責任者を歴任。関与分野は、小売、EC、インターネット、メディア、アウトソーシングを含むサービス業等。
トイザらスではマーケティング部門立上げ、EC専業法人設立。ジュピターショップチャンネル執行役員(EC、テレビ編成及びマーケティング)本部長を経て、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋担当副社長兼日本法人社長。三越伊勢丹では役員兼Web事業部長として、EC・情報メディアなどの構築、オムニチャンネル導入を担当。米国Babson College MBA。
おそらく大規模EC・オムニチャネル3社で事業責任者に携わった国内唯一の経験者。ベンチャーから大企業までのコンサルティング、アドバイス、顧問、業務支援に携わっている。

中島氏:その後、GSI Commerceという外資のEC支援事業のAPAC責任者になった。「ラルフローレン」「トイザらス」などグローバルブランドの支援を手がけていたが、ebayに買収され、日本撤退となったため、ネクトラスを設立した。三越伊勢丹はネクトラスのクライアント。それが縁で、2013年4月に三越伊勢丹の役員に就任。EC事業部を設立、三越と伊勢丹のサイトを統合し、サイト上に旗艦3店を演出できるような品ぞろえと店作りをめざし戦略の大転換を行った。同時にオムニチャネルの推進も手がけた。合わせて4年半の関与後、現在もネクトラスの代表としてさまざまな小売/EC事業者の戦略サポート、新規事業支援をしている。

――ECのクライアントから相談を受けるなかで、最近印象的だったもの、あるいは課題の傾向はあるか。

中島氏EC業界ではずっと、人手が足りない状況が続いている。いまだに、圧倒的に多いのは「EC経験者が社内にいない、少ない」という悩みだ。そして、人の流動性が低く、人材市場にも候補者が少ないため「適切な人材を外部から採用できない」状態。結論、自社で育成するしかないということだ。そのため、私のセミナーやコラムもその話題が多い。

――中島氏が注目しているトピックスは。

中島氏近年のネットスーパーへの参入が、かつてのアパレル業界に類似していることだ。現在のスーパーマーケットでの議論は、2004~2005年ぐらいのアパレル業界と似たような状況。当時のアパレル業界はECを始めるに際して、「本当にうまくいくのか」「黒字にできるのか」と参入を躊躇(ちゅうちょ)していた。つまり、「ECをやる、やらない」の議論に時間をかけすぎていた印象がある。

スーパーマーケットにとって、アパレルよりもECに挑戦するハードルは高いとは思われるが、より「ネットスーパーに参入して本当にうまくいくのか」のディスカッションに終始している事業者が多いように感じる。当時のアパレル事業者がECに取り組むときの状況にすごく似ている――というのが、ネットスーパーの2023~2024年足元までの実感だ。

――アパレルECがその後成長したように、ネットスーパーの展望は期待できそうか。

中島氏:米国の事例を見るとうまくいっているため、日本でもある程度うまくいく可能性もある。ただ、日米では商習慣が違う部分があること、ネットスーパーは自社配送で運用しないと黒字になりにくいという問題がある。

「置き配」のように一定の場所に商品を置くような形で配送を効率化、「○○円以上購入で送料無料」という購入単価の足切りと年会費の組合せ、自社配送化――という工夫を講じて、いかに採算を合わせるかということが重要になる。

このほか、米国ではカーブサイトピックアップ(車での受け取り)や店頭での商品引き渡しサービスの需要が高いが、日本では現状、実施している事業者やブランドが少ない。

ECの“本気度”が足りていない事業者に警鐘

――EC事業者が人材に関して直面している課題をもう少し詳細に聞かせてほしい。

中島氏:もともと小売事業者は、商品と顧客以外の部分は外注というか、もはや「丸投げ」をしているところが多い。ECも店舗ビジネスの広告やインフラの流れや「人材が足りない」という理由から、たとえば、EC事業の年商が10億円以上の企業でも、運営を運用代行会社に丸投げしているケースが多い。それでは、社内に十分なノウハウもたまらないし、社内育成もできにくく、めざす規模の成長も期待できない。

中島氏は、外注先に運営を丸投げしてしまい自社のECや顧客属性の理解が十分でない事業者に警鐘を鳴らしている
中島氏は、中島氏は、外注先に運営を丸投げしてしまい自社のECや顧客属性の理解が十分でない事業者に警鐘を鳴らしている

中島氏:また、「ECに本気だ」「ECは自社の主幹事業だ」と言いながら、実際の主幹事業(?)の実店舗関連から転出させるような人事異動ができない会社が多い。ネットに詳しい人間に商品や販売のノウハウを身に着けさせるより、事実上の主幹事業(?)で商品や顧客を知っている人にECに関する知識を身に着けさせるほうが早いし、戦力化しやすいというのはいつも私が言っていることだが、そもそも「担当者がいない」「絶対的に人が足りない」という状況では、育成のしようもない。

解説した「外注業者に丸投げ」「人事異動が適切にできていない」の2つが特に事業者の“本気度”が足りていないと感じることだ。こういう状態の事業者に限って、ECがうまくいかないのは、漠然と「『ECがわかる人』がいないからだ」と言っている。

さらに、特に大手によくあるのが、せっかく人員をEC関連のポジションに獲得し、ある程度育成、戦力化できたという段階で、たとえば3年に一度のジョブローテーションで他部署へ異動させてしまうことだ。それでは、ECビジネスとしてレベルを上げていきにくいし、急成長を維持しにくい。会社全体としては、ECやデジタルがわかる人材が増え、社内のいたるところにいることになるのでプラスにはなるのだが……。

もし、自社の商品と顧客属性がきちんと理解できていて、補充した人材には「EC事業の運用に関わるノウハウを身につけさせれば良い」というのであれば、社内の人材をEC部署に異動させた方が良い。ところが、実際にはそうはなっていない。商品や顧客への理解が深くなく、その体制ができ上がっていないことが問題だと感じている。

――今後のトピックスとして注目していることや、課題は。

中島氏:根深い課題は人材不足に尽きる。それ以外では、アフターコロナのいま「EC事業が伸び悩んでいる」と悩む担当者が多いことが気になっている。コロナ禍のEC需要で成長を前取りしてきた部分と、店舗回帰が進んでいることから、ある程度当然の状況。「ECの成長が鈍化して安定期に入った」という見方をする人もいるが、ちょっと長い目で見れば、EC全体としては、まだまだ成長基調にあるのに、成熟ビジネスでの前年対比文化で物事をはかってばかりで本質が見えていないことだ。また、上位の一部の会社を除くと、本気度が足りていないので、経営層がちょっとしたネガティブな要素に反応してしまう。

EC事業は本来、もっと伸びるはずなのに、ECへの本気度が十分でなく、リソースの配分を戦略的に考えていない企業が少なくない。ECは店舗と同じ小売業だし、これまで実店舗で実現しにくかった顧客体験を向上させることができる重要な取り組みになる。小売事業者にとっては“本業”そのものだ。その思いに至っていない担当者には、自覚してほしい。

中島氏はEC事業の“本気度”を上げてほしいと話す
中島氏はEC事業の“本気度”を上げてほしいと話す

EC担当者へのメッセージは“自信を持って”

――EC事業で成長中の担当者に一言。

中島氏:EC事業に真剣に取り組んでいる担当者には、「あなたがやっていることは間違っていない。正しい」と伝えて背中を押したい。複数のECの立ち上げに携わった一部の人以外は、自分がやっていることが正しいかどうかわからなくて、とても不安になっていると思う。他社のEC事業の成功事例も普段は見えにくいかもしれないが、EC支援事業者などの意見を聞きながら、自分で手を動かしながら努力してきた担当者の知識や施策はほぼほぼ「正解」と言えるので、自信を持ってやってほしい。

担当者1人ひとりにスポットライトを当てる「アワード」に参加を!

――「ネットショップ担当者アワード」について一言。

中島氏:EC事業で「今までと違う新しい取り組みを行った」「急成長させた」「これは珍しい取り組みと言われた」など、どんなことでもいいので、新しい取り組みを実施し、少しでも成果を上げた担当者などは応募してもらいたい。所属している会社の中で、今までとは違うことに取り組んでみて少しでも結果を出した、今までとは違うことに自分で考えて取り組んで、少しでも成果があがれば、それはアワードで表彰する候補になる

2024年11月に開催した「第1回ネットショップ担当者アワード」でMVPを受賞したマッシュスタイルラボの今井氏(左)と中島氏
2024年11月に開催した「第1回ネットショップ担当者アワード」でMVPを受賞したマッシュスタイルラボの今井氏(左)と中島氏

中島氏:所属長の成果を称えるのではなく、EC担当者1人ひとりの頑張りを評価するのが「ネットショップ担当者アワード」だ。自己推薦だけでなく、「この人をぜひ評価してほしい」という他者推薦も受け付ける。社内での推薦も可能。この機会にぜひ応募してほしい。

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中島氏がjoinしている、「ネットショップ担当者フォーラム」4名の選考委員はこちら! 大西氏、逸見氏、石川氏のインタビュー記事も続々配信していきます。お楽しみに!

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【選考委員長】中島 郁 氏/ネクトラス株式会社 代表取締役【選考委員長】中島 郁 氏/ネクトラス株式会社 代表取締役

【選考委員】大西 理 氏/スマイルエックス合同会社 代表【選考委員】大西 理 氏/スマイルエックス合同会社 代表

【選考委員】石川 森生 氏/ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー管掌、オルビス株式会社CDO(Chief Digital Officer)、トレンダーズ株式会社 社外取締役、株式会社RESORT代表取締役CEO 他【選考委員】石川 森生 氏/ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー管掌、オルビス株式会社CDO(Chief Digital Officer)、トレンダーズ株式会社 社外取締役、株式会社RESORT代表取締役CEO 他

【選考委員】逸見 光次郎 氏/株式会社CaTラボ 代表、オムニチャネルコンサルタント、日本オムニチャネル協会 理事【選考委員】逸見 光次郎 氏/株式会社CaTラボ 代表、オムニチャネルコンサルタント、日本オムニチャネル協会 理事

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