NHNグループが狙うゲームとECビジネスの相乗効果とは。旧SAVAWAY買収の理由
オンラインゲームサービス「ハンゲーム」などゲーム事業を手がけるNHN PlayArtがEC支援の旧SAVAWAY(当時、現在はテコラス)を買収してから1年強が経過した。2015年1月にはNHN PlayArt傘下企業で旧SAVAWAYとITインフラ事業を展開する旧データホテルが経営統合。「テコラス」のEC支援事業として2月から、従来の受注・在庫・商品一元管理システムを大幅リニューアルした「TEMPOSTAR(テンポスター)」の提供を始めた。NHNグループがECの分野に参入したのはなぜか。今後の構想は。NHN PlatyArt・代表取締役社長でテコラス取締役を務める稲積憲氏、テコラスの中井健司専務執行役員に話を聞いてみた。
ゲーム事業とEC支援のビジネスで相乗効果を生み出す
――NHNPlayArtが旧SAVAWAYを買収し、EC分野に参入した理由を教えてください。
稲積憲氏(以下稲積) 旧NHN Japanが会社分割し、ゲーム事業を別会社化したのは2013年。NHN PlayArtのゲーム事業は13年間の運営で、ゲームのプラットフォームとして成長を続けてきました。ただ、近年はスマートフォンへのデバイスシフトなどがあり、デベロッパーという立場でもゲーム事業を強化していましたが、スマートフォン市場全体で見た場合のヒットの確率が狭まっているのが実情です。
より安定的に成長できる事業作りを手掛けることを考え、第一弾としてスマートコミックサービスのcomico事業を開始し、次にEC支援に関した新事業を手がけたいと考えていたところ、旧SAVAWAYとご縁があったわけです。
ゲーム会社とECって関連性がないって思いませんか? でも、ウェブやインフラのエンジニアを必要としていることなど共通点が多いんです。NHN PlayArtはデータ分析、マーケティングなどコンシューマー向けを得意としています。旧SAVAWAYはBtoB向けビジネスですが、その先には消費者が商品を購入します。NHN PlayArtのコンシューマー向けのノウハウと、旧SAVAWAYのサービスは相乗効果を生み出せると思ったんです。
――NHNグループのトップの目に、EC市場はどのように映っていましたか。
稲積 ネット業界の中でも大きな領域として「ゲーム」「広告」「EC」があると思います。特に、ECは今後もさらに大きくなる成長産業。そのなかで、旧SAVAWAYは多くのショップ様を支えてきました。NHNグループとして、ゲームの技術力などで旧SAVAWAYをバックアップできると考えました。
――旧SAVAWAYがNHNグループに入り、テコラスになって生まれた強みは何ですか?
中井健司氏(以下中井) それは、グループ内の技術力や、データホテルのインフラ運用力などをすべてグループ内でまかなえるようになったことです。EC市場の拡大に伴ってトラフィックが増え、開発の技術力、運用力、セキュリティの強化などが急務になっています。だからといって、対応できずに、ECサイトの運営をストップさせてしまうわけにはいかないんです。
SAVAWAY時代の開発スタッフは、保守&セキュリティ&開発など1人3役~4役をこなさなければならなりませんでした。今は、スタッフが自分の業務に集中して取り組むことができる環境になりました。
そして2015年2月、テコラスとして、従来の「サバスタ」をリニューアルし、「TEMPOSTAR(テンポスター)」をクラウド型で提供できるようになったことは、表に見えるシナジーとして最初のところでしょう。
――グループ入りは外部環境の変化もあったのですか。
中井 ええ。たとえば楽天市場では、2014年の流通総額が2兆円を超えました。いろんなイベントを組み合わせることでトラフィックを増やし、全体の底上げを図っている。私たちECのインフラサービスを提供している企業は、トラフィックのピークに合わせてサービスを対応しなければなりません。対応できなかったらショップ様の機会損失につながってしまうわけですから。
こうしたモールの動向、自社サイトも合わせて、私たちサービス提供側も、随時サービスを変更していかなければなりません。たとえば、マーケティングツールをモール側の仕組みにあわせていったり……。モール側の仕様変更のスピードも速くなっていますから。
仕組みにしっかりと合わせることも必要ですが、ショップ様が考えていることよりも1歩先を行くサービスを提供する責務もあります。ショップ様がやりたいことを実現できるようにするためには、先端の仕組みを作っていかなければならない。それを実現するには1社だけでは難しかったのです。
ゲーム事業をネットショップの集客装置に活用する可能性も
―― 一歩先を行くというところでは、今後は“海外”が重要なポイントになりそうですが。
稲積 NHNPlayArtの親会社であるNHN Entertainmentはここ1年で、米国、中国、韓国などのEC支援会社を買収したりしています。NHNグループでは各国のECと連携し、仕入れや、商品販売といった支援サービスをテコラスのクライアントに提供することも考えている。海外向けではシステム以上の付加価値を提供できるようになるはずです。
中井 確かに、日本のEC事業者は海外を見ています。この先3年でどんどんEC市場を取り巻く環境は変わっていきます。カートは自動変換がいいのか、翻訳サービスを提供できるようにした方がいいのか……。親会社のNHN Entertainmentは海外の流通にも詳しいので、連携できるように取り組んでいきたいです。
稲積 ネットのゲームに集中してきた私たちから見て、ECは成長余地が大きい。スマートコミックサービス「comico」は900万ダウンロード(2015年3月時点)を超えましたが、ショッピング分野も消費者が大きく動いています。ここ1年~2年はさらにダイナミックに動いていく市場でしょう。
ヤフーショッピングの無料化など、ネットショップの選択肢が増えてきています。私たちは一元管理のシステムのほか、ショップ様が成長していくために、将来的にはクロスボーダーのほか、別のソリューション展開も考えています。複合的にいろんなサービスを提供し、EC企業を支援していきたい。
NHNグループではコミックのようなメディアもあるので、スマホでの集客ツールとしてメディアをEC企業に活用してもらうことができるかもしれない。コンシューマー向けの施策でもいろんな方法がある。資金をショップの集客強化などにも投じていきたい。
――従来の受注・在庫・商品一元管理システムを大幅リニューアルした「TEMPOSTAR(テンポスター)」が2月にリリースしました。
稲積 特徴は、受注・在庫・商品など、それぞれ独立した機能を1つにパッケージ化したことです。クラウド型で提供し、わかりやすいUI(ユーザインタフェース)になりました。大規模EC企業から、これからECを始めるといった店舗も利用できるツールです。
規模が大きくなるとカスタマイズ需要が多くなります。基幹システムとの連携など、業務に合わせるための開発需要です。基幹系システムとの自動連携、CRM連携などの大規模なカスタマイズにも対応することなどは可能です。「テンポスター」はカスタマイズしながらアップデートも更新できるので、規模の大きい通販・EC事業者も利用しやすいツールになっています。
中井 「テンポスター」は市場の半歩先を行くというところにパワーをかけています。NHNグループ入りしテコラスとして生まれ変わったことでトラフィックやインフラを支える部分などが強固になったので、サービスの広がり方を期待してほしい。
稲積 使い勝手をよくするためのサポートにも力を入れています。電話対応は20人規模で提供し、わからないこと、不満に思っていることなども取り入れ、改善できるような体制を作っています。
テコラスはEC支援の最良なプラットフォーマーになることをめざしている。ショップ様が要望するEC支援のサービスを開発・提供していくことが私たちの役割です。グループ全体で、クロスボーダーECを実現できる環境、他社にはない付加価値を提供していきますので、ご期待下さい。
中井 「テンポスター」はリリースされたばかりですが、クライアントとなるEC企業様にしっかりサービスを届けられるようにしていくことに注力していきます。「店舗と消費者をつなげるサービス」ということを念頭にいれ、グローバル環境などにも対応していきたいです。